アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチン レポート その6

no51  ジョシがアルゼンチンのサッカーに認められた瞬間でした。

(とある雑誌に載るはずだったボツ原稿。)

[プロのピッチ。]
 
 少年団を辞めてもサッカースクールは続
けていました。そして、私達が息子の進路
に悩んでいた頃にJリーグ公式戦の前座で
サッカースクールの対抗試合がありました。
 ベルマーレはクラブハウスのスクールと街
中のスクールがあり、前評判では人数が多
いクラブハウスのスクールが有利とのことで
した。
 街中のスクールだった息子は先発出場し
ましたが、試合はやはりクラブハウスチー
ムに押されていました。ところが前半の中ご
ろ、ずっと前線でフリーになっていた息子に
ロングパスが届き、ドリブルで突進。飛び出
したGKの頭上をループで抜いて先制点を
挙げたのです。その後もゴールに迫るシー
ンを何度も演出し、スタンドの観客からも
「またあの子だよ」との声が聞こえてきまし
た。
 このプレイで勢いづいた街中チームは連
続でゴールを重ね、前評判を覆して大勢の
観客がいるスタンドの前で圧勝したのです。
 確かに上達している。私が実感したのは
この時です。特に妻はヘタクソな息子の姿
を見るのが嫌で、長年試合にも練習にも帯
同していませんでした。その息子が活躍す
るなんて夢にも思わず、その日はずっと言
葉を失っていました。
 前座の試合が終わって戻ってきた息子は
満面の笑みです。「アルゼンチンに行こう
よ。僕プロになりたい」。前座とはいえ観衆
の前でプレイし、プロの疑似体験をして興
奮していました。この一言が自分の運命を
決めてしまうとは本人も考えていなかったで
しょう。しかし、私達には現実味のある言葉
に聞こえたのです。</ SPAN>
 アルゼンチンでの畜産業を目論む私は普
段からそれとなく家族にアルゼンチンの話
をしていました。特に息子にはサッカーの話
を。そして、プロになるのならアルゼンチン
にサッカー留学をさせるなどと途方もない話
も。
 息子には中学受験させて、進学と同時に
都心に転居するとことは何年も前から決め
ていたのですが、この時期に進路相談をし
たフットサルのコーチにブラジル留学をほ
のめかされて、「どうせ行くならアルゼンチ
ンだよね。いっそ家族で行っちゃおうか?」
などと何となくその気になっていました。
 意外にも一番真剣に捉えていたのは妻
で、言い出しっぺの私の方が「本気にしてる
の?」となだめていたくらいです。妻は本気
でした。というより私が本気でいつかアルゼ
ンチンに移住するつもりだったので、妻は
「どうせいつか行くのなら今でもいいじゃな
いか」という気持ちだったようです。
 夫婦二人でどうにも踏ん切りがつかなか
った時、結局決め手になったのは息子のプ
レイでした。ただ実力がついたからではな
く、ヘタクソで練習嫌いだった頃からの上達
の過程を見続けていたからです。
 
 [ウェーブリフティング。] 
 
 アルゼンチンに行くのは私の夢なので、
私には願ってもない転機になりました。しか
し、サッカーのためだけに日本から飛び出
していく息子の先行きは不安でなりません。
少し上達したからといって今の力で通用す
るはずがありません。行けば環境に慣れて
何とかなるのかもしれませんが、何にせよ
ハードルが高すぎます。 
 息子のプレイを観察して家での練習メニ
ューを考え、その成果をまたミニゲームで
試す。このサイクルで上達を続けたわけで
すが、アルゼンチンに挑戦するとなると、私
の引き出しだけで通用するわけがありませ
ん。もしそれが出来るとしたら、日本はとっく
にW杯が取れているでしょうに。
 アルゼンチンでプロになるということは、
そのままWクラスの選手を育てることに等し
いわけで、親父がサッカーの練習に付き合
えばどうにかなるものではありません。それ
よりも、何か手を打たなければ早々に挫折
してしまいそうです。
 武器を持たさなくては・・・。そんな思いで
サッカー関連書籍を手当たり次第に買い求
めました。何でもいいからヒントが欲しかっ
たのです。たった一つのフェイントでもい
い。モノに出来るものはないか、強烈な武
器はないかと探していました。
 フェイントはDVDの映像を見せながら動作
解析して一通り試しました。どれもやってみ
れば出来るもので、要は使いどころが肝心
なのです。一つを選んで切り札にできるとい
うわけではありません。それよりもずっと前
から注目していたのはナンバの二軸動作
で、ドリブルやキックの練習に取り入れてい
たものの、息子には本当のナンバの動きが
できません。生理的な反射を利用するナン
バは足が速く動きすぎて、なかなかサッカー
と結び付けられないでいました。
 書店通いを続けてもサッパリアイデアが
浮かばず煮詰まっていました。渡航期日が
迫っても相変わらず切り札が見つかりませ
ん。その頃、「リフティング&ジンガバイブ
ル」が書店に並びました。リフティングは今
なら「やれ」と言えば500回は楽にできます。
ジンガは逆に技術論だけで説明できるわけ
ではないでしょう。、その二つをセットにして
語っている点が胡散臭くて、はじめて見か
けた時は手に取ることもしませんでした。
 二回目に別の本屋で見かけた時、「この
本売れてるのかな?」と妙に気になりまし
た。よく見るとDVD付きだと気付き、リフティ
ングのDVDって何なんだと興味が湧き、今
度は中身を見てみました。この本の二ペー
ジ目は真っ赤です。「あなたのリフティング
は間違っていませんか?」と書いてありまし
た。
 リズムで小刻みに続けるリフティングは
「ペンギンリフティング」と名づけられ、この
リフティングが実戦的でないことは納得しま
した。しかし、「ロボットリフティング」と名付
けられているリフティングはまさに私が息子
にやらせていたボールの中心を捉えるリフ
ティングです。間接のクッションが効かない
ので膝や腰を痛めると書いてあります。
 不意に後ろから頭をガツンと殴られた思
いです。私が信念を持って取り組ませたリ
フティングは間違いで、オスグッド病の原因
もそのせいだったのです。
 全身をウェーブさせてリフティングすれば
柔らかいボールタッチになると書いてありま
す。そしてその応用がジンガであり、その根
幹がウェーブ理論だとも。この本には私の
知らない領域が示してあると悟り、購入して
息子と一緒にDVDを観てみました。
 驚きました。リフティング王土屋健二氏の
テクニックは「これを真似するのは無理だ」
と思って引いてしまいましたが、ボールを使
わずにジンガの横ウェーブの真似をする
と、この動きこそがナンバの完成形だと実
感できたのです。肩を起点に全身を波打た
せると足の動きにタメが生まれ、柔らかくボ
ールを触れました。これこそが柔らかいボ
ールタッチ、ボールと友達になることでし
た。
 
 [一番下手な選手。]
 
 早速ワンバウンドリフティングから始めま
したが、既にリフティングの回数に興味がな
い息子はあまり熱心にやろうとしませんでし
た。
 その後間もなくアルゼンチンに発ち、練習
はホテルでピンポン球とビーチボール、そ
れとフットバッグだけでしたが、新居が決ま
ってからはトレーニングを再開しました。
 アルゼンチンの首都ブエノスアイレスには
子供が外で自由に遊べる場所がなく、練習
場所は家の中だけです。もう壁当てやドリブ
ルしたりできません。練習のメインはウェー
ブリフティングとジンガだけになりました。
 サッカーボールでは階下に響いてしまうの
で、ワンバウンドリフティングのためにゴム
鞠を買いました。鞠は軽いので難易度が高
く、加えて単調な練習なのでなかなか身が
入りません。息子のワンバウンドリフティン
グはなかなか上達しませんでした。この動
きが出来なければジンガに入れないので、
「ワンバウンドを一分続けられるようになる
までチームには入れない」と宣言して尻を
叩きました。
 新しい学校では毎日サッカーをしていまし
たが、日系人学校の生徒はあまり上手くな
いので物足りなかったようです。このままで
はアルゼンチンに来た意味がないと本人も
感じはじめ、ようやく練習に本腰を入れ、一
ヶ月ほどでワンバウンドでの課題を終えて
ウェーブリフティングに取り掛かりました。
 ワンバウンドを卒業したので約束どおりチ
ームを探し、辿り着いたのは昨年のC.A.F.I.
リーグ(ブエノスアイレス最大の少年サッカ
ーリーグ)のチャンピオンチーム・コベルでし
た。このチームをチャンピオンだと知って選
んだのではなく、所属選手達の動きがかつ
てのクラブチームと重なったからです。何箇
所か見学して回ったのですが、結局自宅か
ら一番近いチームでした。
 練習に参加すると息子は全く通用しませ
んでした。また一番下手な選手に逆戻りで
す。覚悟していた事ですが親子共にへこみ
ました。ドリブルは全て止められ、シュート
は入らないどころかほとんどブロックされて
しまいます。フリーになった時以外は何も出
来ません。ドリブルが苦手だった時にオフ・
ザ・ボールの動きを教え込んだのが唯一の
救いだったようです。
 この先どうなることやら。アルゼンチンで
プロを目指すのは途方もないことだと痛感
しました。
 
 [南米でも通用する日本の理論。]
  
 最初の一ヶ月は本当に圧倒されました
が、その後はだんだんゲームスピードとチ
ームメイトの動きに慣れてシュートだけは打
つようになりました。個人突破は全く通用し
ないのですが、前線で待っているうちにパス
が出るタイミングを掴みはじめたたのが大
きかったようです。
 しばらくしてオフシーズンに入るとコーチと
接する時間が増え、そこで何故通用しない
のかについて、驚くべき事実を知りました。
 今まで一緒に練習していたのは半分以上
が二歳上の選手達だったのです。息子と同
級生なのは二人だけでした。全く通用しな
いのも無理なかったのです。息子の身体が
大きかった事もあるのですが、アルゼンチ
ンのサッカーに慣れさせるためにワザと仕
組まれたのでした。同級生の二人は年上相
手に互角に張り合っていますが、同じように
年上相手でもゴールしている息子にもコー
チは目をかけてくれていました。
 失いかけた自信を少しだけ取り戻した息
子は、その日以来積極的なプレイをするよ
うになりました。気の持ちようで変わるもの
なのです。一方、家での練習はウェーブリフ
ティングと合わせてジンガステップにも取り
組みはじめ、そのジンガステップをマスター
した頃に、今度は息子の方がコーチを驚か
せました。
 コベルに加入してから二ヶ月経った頃の
事です。その年最後の練習日は最上級生
達の壮行試合で、10歳から14歳までを混ぜ
た紅白戦になりました。息子のチームでは
12歳の息子が一番年上でキャプテンです。
対戦相手は14歳のロミオ君が率いるチー
ム。ロミオ君は最上級生のエースで、ナチ
ュラルにウェーブするトップレベルのテクニ
シャンです。彼はこの日の紅白戦をもって
チームを去ります。
 この試合ではロミオ君と息子がお互いを
マークし、息子はその時はじめてジンガステ
ップを繰り出しました。そして、なんとロミオ
君と互角に渡り合ったのです。ロミオ君は
次々とゴールを重ねますが、息子もロミオ
君を抜いてゴールを重ねています。アルゼ
ンチンの子供達はあまりパスをしないので
すが、この時ばかりは息子にボールが集ま
りました。
 守っているのが下級生ということもあり、
二人合わせて20点以上入る点の取り合い
になりました。この活躍の要因はジンガステ
ップだけではなく、ウェーブの習得によって
トラップもドリブルもタッチが柔らかくなり、
思い通りにボールコントロールしながら相手
の出方に対応できるようになったからです。
ボールが集まり、ゲームの中で何度もトライ
&エラーを繰り返せたことで一気に覚醒し
たのでしょう。全てはウェーブ理論によって
成されたことでした。
 試合は、周りを使うロミオ君に対して独力
のゴールばかりの息子は一歩及ばず負け
てしまいました。もともと勝敗は度外視の紅
白戦なので、勝ったロミオ君をはじめ子供
達は皆息子の善戦を湛えました。そしてコ
ーチが私に歩み寄り、「来年選手登録しよう
と思っている。ブエノスアイレスにはずっと
居るのか?」と話してくれました。
 アルゼンチンのサッカーに認められた瞬
間でした。
no52 今や世界で戦えるサッカーの技術理論は日本にもあるのです。
 [リフティング王との繋がり。] 
 
 初めての真夏の正月を迎えて秋になり、も
うじき開幕するリーグ戦に向けてチームの練
習は熱を帯びてきました。
 一見すると毎日家の中で鞠を転がしている
だけの息子の技術は進歩を続けています。
ボールコントロールに余裕が生まれ、時には
考えなくても勝手に身体が動くというのです。
 以前はフリーでボールを受けた時だけシュ
ートできていましたが、この頃はフィールドの
どこであれ前を向いたらほとんどゴールして
います。
 特にリフティングには相当自信があるよう
で、何かというとボールを浮かして抜くように
なりました。
 アルゼンチンではリフティングはプレイに
直接関係のないものだと考えられており、ど
れだけリフティングが上手くても「それで?」
という感じなのですが、息子のウェーブリフテ
ィングは違います。実際ボールを落とさずに
何人もの頭上を抜いているので、チームでも
息子のリフティングは一目置かれはじめまし
た。
 手強い上級生が抜けたミニゲームでは常
にトップスコアラーになり、来るリーグ戦を心
待ちにしていました。
 この時期に息子の上達ぶりを報告しようと
リフティング王にメールを送たのです。リフテ
ィング王は大変喜んでくださり、アルゼンチ
ンでの活躍ぶりを報告するためにネットで私
のレポートが毎週公開される運びとなり、現
在に至ります。
 
 [思い上がり。]
 
 コーチに認められて参戦が叶ったリーグで
すが、新たな試練はチーム内のポジション
争いから始まりました。日本にいた時と同じ
ベンチ要員です。ただし、日本にいた頃と違
うのは、試合に出れば点を取る自信がある
ことです。
 ここで息子の少し天狗になったようです。
いままで常に周りとの実力差を埋めようと、
ある種のコンプレックスを抱いてサッカーを
してきたのが、ここに来て初めて自信を持っ
てプレイするようになり、さらに自分の力を過
信しはじめていたのです。曰く「1人2人なら
抜ける。3人抜けるようになりたい」。
 この思い上がりはてきめん試合でのパフォ
ーマンスを落としました。わざと中央でキープ
して相手が集まるのを待っているのですから
思うようにプレイできないのは当然です。
 これを繰り返したせいで、せっかく味方に
信頼されてボールが集まり始めたのが全て
台無しになり、集中が高まった時だけ生まれ
た自然に身体が動く感覚もなくなってしまい
ました。
 敵に囲まれてもパスしないでボールを失う
のでいつまでもベンチスタート。チームも開
幕以来三連敗していました。
 何故そんなにワガママなプレイをするの
か。問い詰めてみると、やはり「いつでも自
然に身体が動くプレイを出せるようになりた
いから」と言うのです。それはひたむきにプ
レイすればこそ起こる現象で、アテにしてい
たら絶対に出るわけがありません。
 ゴールにことだけを、そのための最短距離
でプレイするように諭すと、そこからはゴー
ルを重ねながら徐々に交代出場のタイミン
グが早くなり、前期リーグの半ばにはチーム
のトップスコアラーとしてゴールランキングに
も名を連ねるようになったのです。、
 
 
 [本気モードのアルゼンチン]
 
 
 ウェーブの体得によって天狗になり、その
後ゴールにこだわることで調子を取り戻した
息子の挑戦は、この頃から新たな壁にぶつ
かりました。
 アルゼンチンのサッカーはDFが激しいの
が特徴です。その事は織り込み済みだった
のですが、同じ相手と試合を繰り返すリーグ
戦では相手に覚えられてしまい、相手チー
ムの一番大きい選手のマンマークを常に受
けるようになったのです。
 アルゼンチンのDFは間合いを詰めるのが
早く、すぐに身体を寄せて競りかけます。抜
かれそうになってもファール覚悟で足かけや
体当たりをして必ず止めるのです。
 チームの練習ではそこまでしないのです
が、一旦試合となると「敵は敵」と割り切って
ボールを奪うよりもプレイさせない事を優先
してきます。
 
 日本では見たこともない激しいサッカー。
それに、チームの練習では経験できない本
気モード。強いチームほど激しく、息子はトラ
ップすらさせてもらえません。 
 パスが来る前から勝負が始まっているの
で、如何にウェーブを駆使しようともボール
が来る前では対応できません。これがW杯を
獲る国のサッカースタイル、世界レベルの実
力者を培う源なのす。
 このDFに打ち勝てなければアルゼンチン
でも通用する本物のサッカー選手にはなれ
ません。
 
 
 [日本で見守ってくれる人。]
 
 ここに至っては練習を工夫してどうにかな
るものではありません。親子共に悩みました
が、今や頼りになる存在が見守っていてくれ
たのです。
 それはウェーブ理論を提唱するリフティン
グ王と、その活動を支える人達でした。
 そもそもこの舞台に立って本気モードのア
ルゼンチンサッカーと向かい合えるのは、ウ
ェーブ会得へと導いてくれたリフティング王
の「リフティング&ジンガバイブル」のおかげ
です。
 父である私を頼りに成長してきた息子は、
私を飛び越えてリフティング王を頼るように
なりました。
 メールで手の使い方などを相談すると、リ
フティング王土屋健二氏の実兄であり、ウェ
ーブ理論のパイオニアともいえる人物・土屋
雅仁(マッシー旺史)氏が、息子を弟子として
迎え入れて協力してくれると申し出てくれまし
た。
 直接逢ったことはないのですが、今や息子
のサッカーの全てを支えているのはウェーブ
理論です。毎週ネットで公開しているレポー
トを通してとても身近に感じていたので、迷
わず弟子にしていただきました。
 問題の接触プレイへの対応は、メールで
のやり取りを繰り返して相手にDFさせない方
法を導き出しました。DFは球際でないと接触
して来ないので、その前に攻撃側から接触し
て相手との間合いを広げるというものです。
 ファールにならないタイミングや当たり方は
難しいのですが、この技術によってアルゼン
チン特有のボディーコンタクトを打ち破り、し
つこいタイトマークがルーズマークへと変わ
っていきました。
 
 [短所を長所へ。]
 
 前期リーグと後期リーグを合わせて同じチ
ームと四度づつ対戦したのですが、この技
術のおかげで後期リーグではどの試合でも
ゴールできるようになりました。
 先発出場は最後まで叶わなかったのです
が、今まで以上にコーチの信頼を得て出場
時間が大幅に増え、後期リーグの得点ラン
クは2位です。クラブも前期と後期を合わせ
て総合優勝し、チャンピオンの座を守りまし
た。
 この活躍が認められ、コーチの推薦を得て
プロの一部リーグのアルヘンティノスJrsのト
レーニングキャンプに参加する事になりまし
た。
 キャンプ中の出来栄え次第で正式に下部
組織の選手になれるのです。このチームは
マラドーナやリケルメもキャリアをスタートさ
せたチームで、若手の育成には高い実績が
あるのだそうです。
 アルゼンチンに渡って一年。日本ではヘタ
レだった息子は思いのほか順風満帆ともい
えるサッカー人生をスタートしました。
 今後はプロを目指す者同士のより厳しい
戦いになっていきますが、今は渡航前に抱
いていた不安な気持ちはありません。アル
ゼンチンサッカーと渡り合える技術を師匠か
ら伝授されているからです。
 マッシー旺史氏が提唱する世界の技術を
理論化したマッシー理論という技術大系が
存在し、メールを通して段階的に習得できる
ように指導いただいています。
 今や世界で戦えるサッカーの技術理論は
日本にもあるのです。センスや才能という言
葉で片付けず、その理論を習得していく事で
戦っていくのがこれからの息子のサッカーで
す。 
 誰でもそうなのかもしれませんが、サッカー
を始めた頃の息子には長所がありませんで
した。逆に短所は山ほどありました。それは
当たり前なのです、基本ができていなかった
のです。
 まずは基本をしっかりと身につけ、その修
練の中で長所を築いていくことが長所を伸
ばす事なのだと、今はそう思います。
 長所は初めからあるものではないのです。
短所をもきっかけに長所をつくるのです。
 今後も続く息子の奮闘記では、その事を訴
えていきたいと思います。
 
 
no53 マラドーナも所属したアルヘンティノスJrs.のセレクションにジョシ君挑戦。
 2007,4,1

[アルヘンティノスJrs.のセレクション。]
 
 息子・ジョシは先週アルヘンティノスJrs.の
トレーニングキャンプに参加しました。コベ
ルからの参加者は3人、ジョシ、サル君、ク
リスチャン君です。まずブエノスアイレス市
内にあるホームスタジアムに銘々が出向
き、そこから200名ほどが大型バス5台に乗
り込んで高速道路で一時間ほどのトレーニ
ンググラウンドへ。
 いつも息子に同行する私は今回行けませ
んでした。バスは子供達で満杯、タクシーで
行くとなると往復一万円近くかかるうえに、
帰りのタクシーがほとんど拾えないだろうと
脅かされたのです。
 グラウンドは周りに何にもない、平原とい
うか郊外というか微妙な場所にあったとい
います。5〜6面あったという芝のグラウンド
は一見毛足が長くて綺麗なのですが、実は
土がカチカチで凸凹だらけ。芝じゃない草も
多くて所々禿げていて、日本のプロチーム
が使っているグラウンドに比べると整備は
不十分だったそうです。
 現地に着くと名前を呼ばれてゼッケンが
配られ、初日はコベルのチームメイト、サル
君、クリスチャン君と同じチームになったそ
うです。どのチームでも同じチームの連中で
組ませていたようで、初めは2〜3人が必ず
くっついていたのですが、さすがラテンとい
った感じで11人で集まるとすぐに名前を呼
び合っていたとのことです。
 この時のポジションは、事前に提出したエ
ントリーシートに書いた複数の希望ポジショ
ンに必ず当てはまるように組まれていまし
た。これはコベルのコーチにも確認したの
ですが、希望ポジションは良く考えて出さな
いと、それ以外のポジションでは試されない
のだそうです。ジョシはコーチの助言もあっ
てCF、WG(SH)、OH と書きました。サル君
はCF、OH、DH。クリスチャン君はDH、CB、
SBと書いたそうです。
 希望ポジションの優先順位は記載順で、
この順位もとても重要です。「試合に出てい
れば自分のどのプレイに強味があるのか
は自分でわかっているはずだ」とコーチは
いいます。だから、自分が売り込みたいプ
レイでポジションを決めないと結局損するの
は自分でしかなく、自分がどんな選手なの
か把握できていなければいけない。そこか
らもうセレクションは始まっているともいえる
のだそうです。
 「将来性のある選手を集めてからコンバ
ートするのが日本のやり方みたいですよ」と
コーチに言うと、「将来性なんて身長ぐらい
しかわからないじゃないか。わからないんだ
から現時点の実力の方が大切だろ。才能
がないのに上手いヤツっているのか?、上
手いことと才能があることとどう違うっていう
んだ?」とまくし立てられてしまいました。
 才能は人に見出してもらうのではなく自分
を信じる事だと。それは当たり前だし、他人
の評価で自分の夢や進路を決めていくのは
おかしな考え方だと、改めて考えさせられま
した。
 
 
 [セレクションのレベル。]
 
 
 セレクションはフルグラウンドの20分(ぐら
い)のミニゲームを延々2時間、2試合やっ
ては1試合休憩という感じで繰り返したのだ
そうです。初日に組んだ他のコベルの2人
はそれぞれ第一希望と第二希望のポジショ
ンに交互についていました。ジョシもほとん
どCFで、一回だけSHをやりました。サル君
のパスがピッタリでとてもやりやすく、ジョシ
は毎試合2〜3点取って全部勝ったのだそ
うです。
 本人の感想としては「去年C.A.F.I.リーグで
対戦したヤツもいたけれど、全体的にDFは
大きいヤツが多い。大きいといっても自分
よりと大きいヤツは全体でも3人ぐらい、同
じくらいのヤツもそれぐらいで、ほとんどは
160から165cmくらいかな。クリスャンはDF
にしては少し小さいかった。プレイは良かっ
たけどね。C.A.F. I.リーグと同じような肉弾
戦だけど、フィールドが広いからトラップで1
人抜くと次が来ない。モタモタしないでスピ
ードを出せば1人づつ相手に出来るからや
りやすい。オフサイドは微妙なのは全部流
されたし、相手も気にしないでマンマークし
てた。それに、ゴールが大きくてシュートを
打つのが楽しかった」。
 「OFはDFより少し小さくて155〜160cmちょ
っとくらい。みんなそこそこ上手いけど、C.A,
F.I.リーグの時とあまり変わらないよ。そりゃ
そうなんだけどね。フェデリコみたいな感じ
のヤツが多くて、ボールがある所に寄って
来るからフィールドを大きく使えない。その
点モーノ(サル君)は球離れが速くてやりや
すいんだけど、モーノはシュートが少ない。
テクニックはやっぱりモーノが一番で、向か
い合っての一対一なら絶対何とかしてたけ
どスピードがなくて抜いた相手に追いつか
れていた。フィールドが広いのはモーノには
向いてないかもしれない。たぶんモーノが一
番小さかった」。
 なんだか余程楽しいらしくて毎日ウキウキ
しながら出かけて行っては帰って来ると寝る
まで自慢話ばかり。特にマッシー理論の抜
き方がはまりまくっているようで、相手が突
っ込んで来た時に逃げないで相手の来た方
向にかわすと全部抜けてしまうとのこと。こ
のあたりはこのオフにセレクションに向けて
大人とばかり練習していたので、大人と比
べて判断で劣る同年代だと手玉に取れてい
るようです。
 二日目以降はコベルの2人と組むことは
なかったのですが、チームのメンバーは必
ず半分づつ入れ替えていくので、前日の活
躍のままパスが集まって来るのだそうです。
特に前日の対戦でやり込んだ相手が同じチ
ームだと、積極的にロングボールを入れて
きたりセットプレイで戻ると「お前は上がって
ろ」と言ってくれたりするのだそうです。た
だ、「アルゼンチンの奴らはキック力がある
けど精度が悪い。マルセルがいたらもっと
ゴールできた」と、まだまだ欲があるようで
す。
 
 
 [コベルの仲間は。]
 
 
 帰りはいつもサル君クリスチャン君と一緒
なのですが、初日は3人ともテンションが高
かったらしく「やっぱコベルは最強だね。俺
達みんな受かるかもね」とサル君が言って
いたのだそうです。その後三日目あたりか
らサル君は少し音無しくなったといいます(ク
リスチャン君はいつも音無しい)。ジョシの見
立てでは、やはりC.A.F.I.リーグの時よりも体
格差が大きく、どのポジションでもゴール前
まで迫れなくてアシストばかりしているとのこ
とです。皆が自分を売り込もうと必死にドリ
ブルで切り込んでシュートを狙っているの
に、サル君はボールこそ奪われないものの
シュートが打てず、消極的に見えるといいま
す。
 クリスチャン君は「相変わらずオーバーラ
ップも一対一のDFもは上手いけど」と前置
きして、「ボランチは希望者が多くてSBばか
り。その最終ラインでは小さい方で、相手は
いつもクリスチャンの所から崩そうとしてい
る。人数をかけらると寄せ集めだからフォロ
ーが遅くて、実際クリスチャンの所でよく崩
されてマイナス評価になっていると思う」。た
だ、「オレはサイドでクリスチャンと一対一を
やるよりも、デカイCBFに体当たりしてフリ
ーになるほうがいいんだけどね。それやっ
てるのはオレだけだね」との事でした。セレ
クションの話をすると必ず語尾に自慢話を
加えたがる。
 月曜日から始まったセレクションは金曜日
が最終日。結果はその日に言い渡されまし
た。
 ジョシは合格です。セレクションの全日程
で一番ゴールを決めたのはジョシだったそ
うです。合格者は全部で20人ほど。サル
君、クリスチャン君は落選してしまいまし
た。
 合格者の顔ぶれは、やはり大きいかスピ
ードのある選手が多かったようです。テクニ
ック的には「モーノより上手いヤツはいなか
ったけど、テクニックだけじゃ通用していな
かった。大きいDFに体格で勝てるヤツはい
ないけど、同じ抑えられるならフリーの時は
スピードがある方がいいみたい。それと、合
格者にはトラップがちゃんとしているヤツが
多かった気がする。ドリブルはみんなある
程度できていたから、それ以外だとトラップ
だね。オレも縄跳びやったり毎日横歩きし
て半身でトラップできるようにしておいて良
かったかもね。マッシーの走り方で内股の
小股でいつも動いていたから、パスがちゃ
んと来ればトラップで1人抜いてたしね」。ま
た自慢話。
 ということで、ジョシは合格してしまいまし
た。喜ばしい事ですが、私もコーチも悩まし
い結果になってしまいました。ジョシは金曜
の夜、セレクションから戻ると「どうする?」
と、心配そうに尋ねてきました。
 
 
 [入団辞退。]
 
 
 ジョシはアルヘンティノスJrs.には入れま
せん。この事は、トレーニングキャンプ直前
にエントリーシートを書く段階でわかってい
ました。
 学校名の記入欄があったのです。ジョシ
は年末に一学年遅れで卒業し、私達はチー
ム所属の学校に入れるつもりでいました。
もしセレクションに受からなければ今のバイ
リンガルスクールの中等部に進めばすむ事
なので、卒業前の進路相談も具体的には
未定のままで済ませていました。
 ただし、今の学校の中等分は全日制で、
午前中で授業が終わる公立校のようにサッ
カーと両立できないことを告げられ、チーム
選びは慎重にやるように念を押されていま
した。
 ジョシは卒験で赤点をとって追試になって
いたため、エントリーシートの学校名を書く
段で「3月中では卒業証明が取れないが、
セレクションに受かった時に間に合わなくて
も大丈夫でしょうか?」とコーチに尋ねたと
ころ、「そんな物クラブには必要ないよ」と言
われました。この瞬間に「おかしい」と気付
き、「クラブに入ったらクラブのスポーツ専
門校に入れるんでしょう?」と探りを入れる
と、「アルヘンティノスJrs.はただのスポーツ
クラブだから学校は関係ないよ」と言われた
のです。
 「だって、学校があるクラブを探してくれっ
て言ったじゃないですか!」。
 「え!、そういう意味だったの?。サッカー
スクールって意味だと思っていた。君達は
外国人だから、どのクラブにもユースシステ
ムがあるって知らないんだと思ったんだ
よ」。 
 「それじゃあセレクションに受かったらどう
なるんですか?」。
 「今の学校から通えばいいじゃない。練習
は午後からなんだから」。
 「ジョシは正式なビザを持っていないから
私立校じゃないと入れないんですよ。私立
は全日制じゃないですか。学校からもサッカ
ーとは両立できないって釘を刺されていま
すよ。クラブは学校を紹介してくれないんで
すか?」。
 「今はどのクラブでも未就学児は受け入
れないよ。サッカーがダメな時にクラブは責
任取れないからね。でも、クラブに入ったら
研修ビザを取れるかもしれない。外国人は
みんなそうやっているんだ。問い合わせして
みるから何日か待ってよ。セレクションは受
けておこう」。
 ジョシがセレクションに通っている最中も
ずっと学校の問題でもめていましたが、結
局は「クラブに入るのは就学が条件で、クラ
ブに入ってからビザを取って就学するのだ
と順番がアベコベで取り合えないそうだ。ビ
ザは一日で取れるわけじゃないから、結局
未就学児を受け入れてしまう事になるという
ことらしい。ブエノスアイレスでスポーツ校を
持っているのはリーベルとべレスだけだ。ど
ちらかを受けるというのなら全面的に協力
するけどどうする?」。
 
 
[名より実を取る。]
 
 
 「セレクションはいつあるんですか?」。
 「次のシーズンは7月頃だよ。その間は今
の学校に通えるよね?」。
 「学校は今のまま通えますが、私立はカリ
キュラムも多いしレベルも公立より難しいの
で今のジョシは本当にサッカーと両立できま
せん。リーベルのレベルの高さはわかりま
すが、べレスはどうなんですか?。今はボ
カ、リーベルに次ぐ三番目のチームですよ
ね。、ジョシの実力で入れそうですか?」。
 「ジョシは高さと速さと強さを兼ね備えてい
る。実力的には申し分ないよ。アルヘンティ
ノスJrs.なら合格間違いないだろうし、べレ
スでも通用すると思う。プロになるヤツって
いうのはそういうものさ、トップリーグのセレ
クションに受かるならどこでも受かるよ。た
だし、リーベルは南米No.1クラブの一つで
ナショナルレベルの外国人も入ってくる。現
実的にはべレスだろうね。ここからも近いし
ね」。
 「わかりました。べレスを狙いましょう。あ
と三ヵ月でもう一段上の力をつけさせます。
ところで、コーチは絶対合格するって言って
くれてますけれど、セレクションに受かった
らどうします?」。
 「悪いが俺にも立場があるからその時は
こちらで考えてみるよ。連絡は俺から入れ
る。たぶん日本に帰ることになったとかね。
でも、一度はセレクションを受けておくのも
いい経験になると思うよ」。
 ということで、コーチの見立てどおりに本
当にセレクションに受かり、そして辞退する
運びとなってしまいました。残念です。もっと
早くわかっていたらべレスを受けさせていた
のに。学校の進路相談でも「アルヘンティノ
スJrs.に入る」って言ってたんだから、その
クラブに併設校がないのは誰も気付かなか
ったのだろうか?。いったい何のための進
路相談なのか。
 でもたったの三ヶ月です。この準備期間を
大いに活用して絶対合格できる力を培うと、
親子で誓い合いました。
 当のジョシですが、セレクションを受ける
前から事情を知っていたので、それほど大
きなショックを受けてはいません。それに、
同年代のトップクラスの実力がわかり、この
三ヶ月をどう有効に過ごすかが見えてきた
といいます。
 曰く「今あの連中とやってもそれほど練習
にならない気がする。だって大人の方が強
いし。今大人のレベルに慣れてきたところ
だから、このままならクラブに入らなくても上
達できると思う。大人に勝てるようになって
からクラブに入る方がいいと思わない?。
セルジオ越後ってそうだったんでしょ?。や
り残しがあるからクラブは後回しでもいい
よ」。
 どのクラブに入るかよりも実力を優先しよ
うというのです。そう、実力さえあればどこで
もやっていけるのですから。たった三ヶ月、
少しだけ我慢してもらいます。
 
 
 [去る者。]
 
 
 コベルにも激震が。セレクションに落ちた
サル君とクリスチャン君は揃ってコベルを辞
めるというのです。新天地を求めるのかもし
れないという噂もあるのですが、金曜の帰り
にサル君がジョシに呟いていた言葉は「プ
ロになれないんじゃ本気でサッカーには打
ち込めないな」と言っていたそうです。
 自分は受かったし、たぶん入れないのも
わかっていたので、落ちてションボリしてい
る2人にジョシは何も言えませんでした。
 その後の練習日では、ジョシはみんなの
前で「今年はジョシを柱にする」と指名され
ました。途端に練習に来なくなったサル君と
クリスチャン君の事は何も言われません。
この時期は辞める子が多く、去った者につ
いては何年所属していたこのことでも聞か
なければ何も教えてもらえません。こうやっ
てレポートのために事の真偽を確かめよう
としている私がとても無粋な気がします。
 新メンバーは昨年U-12で前後期共に完
全優勝した一コ下の連中が加わります。そ
の中には同じく前後期で得点王になったニ
ャット君も含まれています。昨年からずっと
一緒に練習しているので力関係はとうに決
着がついているのですが、彼も攻撃の中心
に指名されました。
 残留するフェデリコ君は今年も控えという
ことですね。。天才児ホアン君は、とにかく
オフに顔を出さないのでアテにできません
(去年も辞めたかと思っていたし、練習して
いないので序盤は動きが悪い)。今年もチー
ムリーダーとなるマルセル君はオフに内臓
疾患の手術を受けたのですが、順調に回
復して今は元気です。ロドリコ君も残留です
が、ジョシ曰く「体格的にはセレクションを受
けていたDFと変わりない。でも、アイツはそ
れが変な自信になって動きが甘い」とのこと
です。彼は昨年控えですが、今年は下級生
よりも活躍するのでしょうか?。
 これで名実共にコベルのエースになった
ジョシ。前期リーグの得点王を手土産にア
ルゼンチンNo.3のべレスに殴り込みをかけ
られるのでしょうか?。
 今シーズン最初の練習試合は3月31日、
相手は昨年の後期リーグ1位のアルティゲ
ンセです。次回より毎週レポートを更新しま
す。
 
 追伸:「ジュニアサッカーを応援しよう! 
Vol.4春号」(カンゼン出版)をもうご覧になり
ましたか?。「四股踏み」(p104)の紹介ペ
ージでコメントを寄せているのは私です。
 私はまだ読んでいないので、どなたか是
非感想を寄せてください。
 それと、近々発売される別冊号でも私の
記事が載ります。  
no54 ジョシがキャプテン
  2007,4,8

[新チーム始動。]
 
 今年も新しいシーズンが始まります。物心
ついた頃から何年もリーグ戦に参戦してい
る連中は、オフはオフと完全に割り切ってリ
ーグ戦が始まる直前まで姿を現さないので
すが、クラブは練習日を増やしたり親善試
合を組んだりと、着々とスケジュールを組ん
でいきます。何といってもリーグ戦の成績は
全年齢ごとに結成したチームの総合ポイン
トで競うので、クラブのステイタスそのものな
のです。
 相手チームは親善試合でもリーグ戦の顔
ぶれと変わらない戦力で挑んでくるのに、コ
ベルの場合はサボリばかり。レギュラーなの
にリーグ戦でも来ないヤツがいるくらいです
から、開幕前の練習試合なら尚更ですね。
このあたりが、家族ぐるみで長年付き合うス
ポーツクラブと、所詮子供の習い事に近い
立場でしかないサッカースクールとの違いと
いったところでしょうか。スポーツクラブなら
オフでも人の出入りは変わらないのですか
ら。
 昨年のこの時期、息子・ジョシは初めての
対外試合を経験しました。チームの主力選
手が揃わないなかで先発し、大型選手だか
らと相手DFに狙われ、トラップのたびにアメ
フトばりのタックルを喰らって何度もコートに
這いつくばったのでした。
 吹っ飛ばされるたびに腹を押さえたり足を
押さえたり、うずくまって立てなかった去年の
ジョシ。この一年でどこまで成長できたの
か。もちろん今は不安はありません。どれく
らい相手を凌駕してくれるのかと、期待する
気持ちばかりです。アルゼンチンの水がこ
れほどジョシに合っているとは。日本では試
合に出れなくてベンチで日向ぼっこしてた事
を思うと信じられないくらいです。
 試合の相手はアルティゲンセ。昨年のU-
13/14の後期リーグでコベルはこの相手に
連敗し、勝ち点1差で優勝させてしまったチ
ームです。年間成績も勝ち点が並んで同時
優勝。クラブ全体ではコベルが1位でアルテ
ィゲンセが4位ということで、他の年齢だとそ
れほどの強敵というわけではありませんが、
アルゼンチンの4位(一昨年は総合3位)で
すから強豪クラブである事は変わりありませ
ん。 
 そのアルティゲンセ。今年の顔ぶれはとい
うと、やっぱり去年は見かけなかった連中で
す。昨年のリーグ戦の最中は予測でしかな
かったのですが、一年間ジョシ達が対戦して
きた連中はほとんどが一学年上だったとい
う事がハッキリしました。それでも大きな選
手が多いのですが、昨年と比べると線が細
いというか、これがジョシと同級生なのだと
思うと 嬉しくなっちゃいます。
 そのジョシは、アルティゲンセが連れてき
た審判がジョシを見るなり「アレ、お前今年
も出るの?」と驚いていたました。ハビエル
オーナーコーチは「コイツは93年生まれだか
らもう一年使えるんだよ」と、まるで勝ち誇る
かのように得意そうに話しました。この分だ
と、昨年は本当に一学年上の連中を相手に
コベルU-13/1 4チームは優勝したようです。
これなら今年は敵無しですね。
 
 
 [面倒見過ぎ。]
 
 試合に当たってキャプテンを決める際に、
全員一致でジョシが指名されました。ジョシ
がサッカーの試合でキャプテンなんて、生ま
れて始めてのことだと思います。
 それが気負いとなり、アルティゲンセ戦の
前半は空回りしてしまいました。
 メンバーは主力が揃わず、去年からのチ
ームメイト・大人の弾丸シュートをも止めるマ
ルセル君がGKとなって、フィールダーに頼
れる人材がいませんでした。
 スタメンのDFはロドリゴ君。彼は体格があ
るのにプレイは慢心が見て取れ、持ち味を
活かせないでいます。
 もう一人のDFは一学年下から持ち上がっ
たジュリアン君。彼はナチュラルなウェーブ
を体得しているのですが、一昨年のコベル
のエースだったお兄ちゃんの相手ばかりし
ていたせいかディフェンシブなポジションを
やっています。そのお兄ちゃんが背が伸び
ずに一旦は歩んだプロへの道を断念したよ
うに、弟のジュリアン君も小柄です。
 アタッカーのジョシの相棒はジュリアン君と
同級のポラコ君。昨年は一学年下で攻撃の
中心の一人でしたが、小柄でスピードも無
く、テクニシャンとはいえ一学年上が相手だ
と頼りない感じです。
 控えは一人だけ。同じく一学年下のディエ
ゴ君。彼はロドリゴ君と何度も交代して試合
に出ましたが、やはり小柄で控えめな感じだ
けど実はプレイは目立ちたがり。
 試合は、何とマルセル君が守ってもいきな
り前半で3失点。ジョシのパスはパスが出る
前にボールを取られる有様で、相手の大型
選手をジョシが突き飛ばしてフリーになって
も全くボールが出てきません。
 序盤はジョシがパスを待っていたのです
が、フリーになっても全くボールに触れず、
徐々にポジションを下げていきました。これ
がいけなかった。ジョシが下がると他の選手
が上がるので、パスを出しても結局攻撃が
繋がらず、ろくにシュートも打てずに潰され
てしまうのです。
 ジョシが下がると皆が代わる代わるオーバ
ーラップし、本来前線でフィニッシュに専念
するはずのジョシだけが守る形になってしま
いました。
 ジョシはキャプテンにった責任感からか、
年下の選手ばかりのなかで面倒を見過ぎて
います。守るのがジョシだけなら人数をかけ
られると贖うことができず、これが3失点に
つながりました。
 皆が自分のポジションを捨てて上がりっぱ
なしになっているのもいけないのですが、そ
れを誘発したのはジョシが下がり過ぎたた
めです。もう敗戦濃厚の中で迎えたハーフタ
イムで、私はジョシに声をかけずにいられま
せんでした。
 「面倒見すぎるな。お前が下がるからみん
な上がるんだ。お前が攻めないと点が取れ
ないんだから、攻められても我慢して前に残
れ。お前一人が守るよりも三人で守った方
がいいんだから、攻撃は一人でやるつもり
でやれ。このままじゃ負けるぞ」。
 ジョシは頷いています。普段は言い訳や口
応えばかりする子なんですけれど。
 
 
[ゴールラッシュ。] 

 後半のジョシは変わりました。下がらず相
手のマンマークを突き飛ばし続けます。相手
はジョシよりも少し小さいのですが、コベル
の面々に比べれば大きな選手ばかりです。
昨年もそうだったようにジョシよりも大きい選
手は滅多にいないので、相手は必ずタイトマ
ークを仕掛けてきます。 
 ジョシから仕掛けるフィジカルコンタクトは
二段構えです。チームでのミニゲームでは、
相手が友達だったり年下だったりするので
手を伸ばして突き飛ばしています。大人に
混ぜてもらう時も、あまり嫌がられると混ぜ
てもらえなくなるので手で押します。大人の
場合はジョシごときにタイトマークを仕掛けて
こないのであまり押す機会が無いのです
が。 
 対外試合で相手のマークがハードだと手
では突き飛ばせなくなります。そういう時は、
ラグビーやアメフトばりのタックルを仕掛け
ます。姿勢を屈めて相手のヘソの高さへ肩
から当たるのです。一応衝撃を和らげるた
めに手を添えていますが、自分から当たら
ないと相手にやられるので、ボールが出る
前に思いっきりぶっ飛ばすのです。 
 先週のセレクションでは多用したというタッ
クルは、この試合では出しませんでした。手
で突き飛ばすだけで簡単にフリーになれて
います。相手のコーチは何度も選手を交代
させて背の高い選手をジョシのマークに当て
てきましたが、誰一人としてジョシのマーク
は出来ません。昨年このチームはジョシのタ
ックルを研究してルーズマークに切り替えて
きましたが、ジョシは自分のマーカーが離れ
るとそのままついて行って手で押し続けま
す。 
 こうやって後半開始直後からマーカーが諦
めるほどに突き飛ばし続け、得点が生まれ
ました。 
 左サイドでのスローイン。ジョシが突き飛
ばし続けるのでマークが外れ、そこでジョシ
は密集を避けて持ち場の左サイドから右サ
イドへ移動。狙いはロングスローをダイレク
トで合わせたかったのですが、スローインは
中央のポラコ君へ。そのポラコ君が右に走
り込みながらジョシに縦パス。ゴール前右側
でゴールに背を向けて左で受けるとそのま
ま左足でターンシュート。ボールは跳び込ん
できたGKを掠めてゴールに吸い込まれまし
た。 
 2点目はジョシが左サイドをマーカー(7番)
を引き連れて縦に進出。中央へラストパスを
出すとポラコ君はトラップをミスしてもつれな
がら右サイドに動いていきました。ジョシが
ボールも無いのに横にいるマーカーを押し
やって中央に移動すると、必死にキープを
続けたポラコ君からアシストパスが入り、倒
れこみながらシュート。マーカーは押されて
ふてくされていたためにゴール前に戻るの
が遅れてしまいました。 
 3点目は、ロドリゴ君がエンドライン付近か
ら誰もいない右サイドにロングキック。誰も
が出ると思ったこのボールを左で構えてい
たジョシが追いかけ(ロドリゴ君は左のジョシ
に出すつもりだった)、ライン際でボールを止
めると振り向いてGKの脇にシュート。GKも
出ると思っていたため、いきなり飛んで来た
ボールに対応できず、ゴールマウスとの間
の僅かな隙間をボールがすり抜けたようで
す。私も出たと思ったのでここは撮影してい
ませんでした。 
 これで同点。最後はポラコ君がスローイン
で受けたボールをロドリゴ君に戻し、ロドリゴ
君は逆サイドのゴールめがけてシュート。こ
のロングシュートが決まって逆転に成功しま
した。後半は相手にワンゴールも許さず4得
点して試合を引っ繰り返しました。 
 ジョシはハットトリック。本当はこれぐらいで
きて当然だと思っていたのですが、負け試
合を引っ繰り返したのでちょっとドラマチック
でした。 



 [本気じゃなきゃダメだ。]
 
 試合後のジョシの言葉です。「やっぱり本
気でやらないとダメだね。前半はセレクショ
ンの時の手応えもあったからそれなりでやっ
ちゃった。考えてみるとセレクションは味方
も上手かったんだよね。本気でガンガンいく
と疲れからさ」。
 このガキはすぐに思い上がって手を抜く事
ばっかり考えるんです。
 相手が必死に守る試合は、自分も本気で
やって初めて力の差が出るのです。前半に
追い詰められたおかげで頭を冷やせたから
良かったものの、メンバーが揃って楽勝して
いたら当分目が覚めなかったことでしょう。
 毎度、このシーズン前の練習試合は厳しさ
を思い知らされます。ジョシには実りのある
試合でした。
 とにかく、去年手を焼いた連中は今年はい
ません。今年は昨年以上の活躍をしてくれ
ると思います。
no55 ジョシのDF
 2007,4,22

[ミニサッカーのコートの広さ。]

 先週はイースターのために何もない週でし
た。なので今回のレポートは4月14日に行
なった試合の模様です。対戦相手は再びア
ルティゲンセ。練習試合なのにホーム&ア
ウェイの形になって、先方の本拠地に乗り
込みました。
 アルティゲンセのホームコートはカーペット
張りの屋内コートですが、バレーボール程
の広さしかなくて狭いんです。ボールが飛ば
ない低反発球なのにGKのパントキックがそ
のまま相手ゴールに届く広さしかないので、
このコートに慣れているアルティゲンセの連
中はハーフラインを過ぎるとどんどんシュー
トを狙ってきます。 
 ルール上ハーフラインを越えずに放たれ
たシュートは無効なので、大人がプレイする
とハーフライン付近までが普通のシュートレ
ンジですが、如何に狭くても子供のキック力
ではスピードも精度もなく、ただ蹴ってくるだ
けでは入りません。
 コベルと比べるとシュートが多くて積極的
に見えるのですが、プレイに崩しの要素が
少なくて雑でもあります。守備も攻撃側にス
ペースがないので身体を寄せ易く、ファース
トチョイスは潰すかシュートブロックするかと
いう感じです。ある意味とてもアルゼンチン
らしい荒々しいサッカーが自然に身につくの
かもしれません。 
 普段国際ルールに近い広さのコートで練
習しているコベルの面々はハーフラインか
ら何本かパスを繋ごうとするのですが、この
スタイルは狭いコートでのプレイには向いて
いません。ですがボールを持ってから何か
しら仕掛けるテクニックや、フィジカルコンタ
クトだけに頼らない守備力を養うには多少
スペースがないと必然性がなくなってしまう
ので、やはりミニサッカーとはいえあまり狭く
ない方が良いと思います。
 日本ではバスケットコートやテニスコートで
の流用で普及し始めているフットサルです
が、公式コートは40m程あり、テニス(23
m)やバスケット(28m)よりもだいぶ広いん
です。アルゼンチンにおける標準的な狭い
コートはバレーボール用(20m)の広さしか
なく、こうなるとほとんど別の競技になってし
まいます。 
 この狭いコートでの別の競技に慣れてい
る相手は中盤で崩そうとしないのでなかな
かボールが奪えないのです。スペースが無
いのでトラップミスは命取り、そうなるとパス
は最小限で、基本はシュートコースが無くて
も脚を振り切るだけの時間的余裕があれば
打ってきます。ワンタッチが取れればボール
アウトでも攻め続けられますし、リバウンド
を至近距離から押し込む事もできるわけで
す。
 肝要なのは如何に自陣側にボールを置か
ないかという事です。奪われるとすぐにシュ
ートが飛んで来る距離なのです。
 ゲームコントロールやテクニックとは無縁
のサッカー。私は好きではありませんが、そ
れが世界でも名高い荒々しくゴールに貪欲
なサッカーの土壌となり、、さらにはこの厳し
いゲームの中でも相手を翻弄するテクニシ
ャンをも生み出すのであれば、日本の育成
世代でも恒常的に取り入れてみるべきかも
しれません。
 見ていても楽しくはありませんが、守りも
攻めも日本サッカーに欠けている物がここ
にはあります。

 [キャプテンなのにベンチ。]

 普通は試合前に審判がキャプテンを確認
するのですが、今回は連続して同じ相手と
試合うので「前回と同じね」とアッサリ決めら
れました。息子・ジョシはまたキャプテンで
す。
 だけど、そのキャプテンはキックオフの時
にコートに立っていないのです。この試合は
フェデリコ君が現れ、チームの中心に指名
されていたはずのジョシを差し置いてスタメ
ンになってしまいました。
 実は私もこの間はじめて知らされたので
すが、前期リーグにおいてU-13/14チーム
は年上のU-14の選手は二人までしか試合
に出られないのだそうです。後期リーグでは
予備リーグにU-13の単独チームが設けら
れるのでこの規制が取り除かれます。
 昨年後期リーグが始まると周りのチーム
がみんなレベルアップしたのはこのための
ようです。コベルには昨年のU-14の選手が
GKのガブリエル君だけだったので、前期も
後期もメンバーを変えようがなかったという
事で私は知らなかったんですね。
 今年は攻撃の柱はジョシと言われました
が、守備の柱はマルセル君でほぼ決まり。
一学年下には彼ほどDF力がある選手はい
ないし、GKの腕前は大人顔負けで、特に
GKでなら今まで対戦した誰にも勝るとも劣
る事はないでしょう。彼の存在によって昨年
活躍した一学年下の主力DF陣はそろって
チームを離れ、同じく正GKも辞めてしまいま
した。一応サブのGKにはマリアノ君という小
柄な少年がいるので、相手との力関係によ
ってはGKだったりDFだったりするのでしょう
が、マルセル君はフル稼働間違いないでし
ょう。ジョシは結局残るもう一つの椅子をフ
ェデリコ君と争う形になり、この試合ではオ
ーナーコーチのハビエル氏が「この間は勝
ったから今日は色々試す。負けるかもしれ
ないけど勝てよ」とのコンセプトどおりに、ま
ずはフェデリコ君が試されてジョシはベンチ
になってしまいました。
 ジョシは前回3点差をハットトリックでして
試合を引っ繰り返したものだから、試合前
からアルティゲンセの面々に目で追われて
いたのですが。
 先発はアタッカーが フェデリコ君、ニャット
君。ボランテがギド君とポラコ君。GKがマル
セル君。
 これも色々試すとの言葉どおりなのか、今
回集まった7人のなかで守備力が期待でき
るのはマルセル君だけ。そのマルセル君を
GKで起用したのでフィールダーの守備はス
カスカです。
 
 [ジョシの真似。]
 
 コベルはパスが繋げずにゴール前に行け
ません。これはアルティゲンセがバンバン蹴
ってくるので、コベルがボールを奪えるのが
ボールアウトの時だけだからです。戦術とし
ては有効ですが、これではサッカーになりま
せん。逆にコベルはサッカーらしくパスワー
クで形をつくろうとするのですが、コートが狭
いので相手が陣形を整えているリスタートか
らではスペースをつくれないのです。
 そして昨年もこのチームだけは相手を研
究して対策を立ててきたのですが、今回も
やっています。試合が始まったらすぐに気
付きました。ジョシの真似をして突き飛ばし
てきています。
 だからジョシを目で追っていたのでしょう。
それだけジョシの動きが脅威だったという事
ですから私からすると嬉しい事でもあります
が、何分突き飛ばし方の鍛錬が不十分なの
でアチラがやっていることには脅威を感じま
せん。しかし、全員が突き飛ばしてくると結
構利くみたいです。突き飛ばしが功を奏して
アルティゲンセは連続2ゴールを挙げまし
た。
 1点目はアルティゲンセのGKがスローイン
でハーフまで投げ込み、小兵コベルの面々
を突き飛ばしながら当てたヘディングがゴー
ル前に落ち、GK・マルセル君が処理しようと
したところを先に触られてゴール。2点目は
コベルが自陣ゴール前で得たスローインを
逆サイドに流したところを身体をぶつけられ
て奪われ、不意を突かれてゴール。何だか
うまくやっています。
 この後CKからフェデリコ君がノーマークで
シュートして2-1。
 しかし、今度はアルティゲンセのCKで、シ
ョートコーナーから逆サイドまで振られてま
た失点。これで3-1。
 コベルは失点直後のキックオフで左サイド
に流れたフェデリコ君にパス2本でボールを
渡し、トラップ時に一人かわすとそのままサ
イドを一人旅で悠々進んで右足のアウトサ
イドでシュート。このボールが逆サイドのネッ
トに包まれて3-2。
 ここでフェデリコ君と交代でジョシ投入。し
かし、ジョシにはマークが集中。そのうえ不
甲斐ないボランテ陣を助けるように命じられ
て繋ぎ役となり、当然繋いでもうまくいかな
いので結局見せ場なくハーフタイムとなりま
した。
 それにしても、アルティゲンセはジョシだけ
はマークして来ます。コートが狭いので普通
なら特にマンマークの必要がないようで、フ
ェデリコ君が2点ともマークを受けずにゴー
ルを挙げたたように、基本はゾーンマークを
するようです。
 この分析は当たりで、その後の試合展開
に大きく影響しました。
 後半は再びジョシが引っ込み、年上選手
はフェデリコ君とマルセル君。GKがマリアノ
君となり、マルセル君はボランテです。
 
 [守備の柱。]
 
 後半もしっくり来ない試合展開です。それ
でもアルティゲンセはまた連続ゴール。
 相変わらずバンバン蹴ってシュートが外れ
て終わるアルティゲンセの攻撃。マリアノ君
がリスタートのボールを手にとって近くにい
るボランテのギド君に投げました。しかしダ
イレクトで繋ごうとしたパスが目の前でカット
され、続けざまに手で押されてアッサリ右サ
イドを破られてゴール上隅にシュート。背が
低いGK・マリアノ君は手が届かずゴール。
これで4-2。
 続けてコベルが攻め込んでから奪ったCK
の場面です。キックが誰にも合わずにアル
ティゲンセの逆襲を受け、センターサークル
で構えていたマリアノ君もかわされてゴー
ル。これで5-2。
 この2失点は絶望的ですが、実は後半戦
はマルセル君がフィールダーに入ったお陰
で全体的に引き気味だったコベルは前で守
れるようになり、試合展開は悪くなかったの
です。そして、ここからは今度はコベルが連
続ゴールを挙げるのでした。
 マルセル君は巧みなポジショニングで相
手の動きを止めます。ここが前半にはなか
ったことで、マルセル君がらみだとラインア
ウト無しでボールを奪えるのです。また、マ
ルセル君は練習時にジョシに突き飛ばされ
慣れているので、半端な腕の使い方しか出
来ないアルティゲンセの突き飛ばしは通用
しません。猿真似じゃダメってことです。
 後半2失点の後はコベルが連続ゴール。
そのマルセル君がディレイしている間にニャ
ット君が挟み、中央でフリーになっていたフ
ェデリコ君にパス。フェデリコ君はまたも
悠々ゴール前に進出してシュート。このシュ
ートはGKに当たったのですが、先程ボール
を奪ったニャット君が走り込んでいてそのま
ま詰めました。これで5-3。
 コベルは相手に攻め込ませず、リスタート
も相手陣内が増えていきました。相手陣内
からアルティゲンセの頭を狙ったスローイン
がこぼれ、ニャット君がハーフラインで拾っ
て少しキープしてフリーでサイドにいるフェデ
リコ君にパス。フェデリコ君がフリーなのは
スローインをした選手がこぼれ球を追った
せいで、やはりゾーンで守っているようで
す。
 フェデリコ君はまたもGKと一対一になった
のですが、今度はシュートをせずに走りこん
できたニャット君へ横パス。それを詰めて
楽々ゴール。
 彼は昨年度のU-12得点王なのですが、ど
うやらこのパス&ゴーの動きが染み付いて
いるようです。これで5-4。
 ここでジョシが今度はマルセル君と交代。
 ジョシはいきなりロングシュートを放ちます
がGKがはじき出してコベルのCK。ジョシが
蹴ったボールは相手のワンタッチで出て逆
側からのスローイン。ここでジョシがマンマ
ークされ、そのお陰かニャット君がゴール前
でフリーとなりダイレクトシュート。ニャット君
ハットトリック。そして同点。
 

[一人で守る。]

 マルセル君との交代時にハビエル・オー
ナーコーチにジョシが言われたのは「マルセ
ルのポジションでやってみろ」でした。ジョシ
はボランテとして試合に出るのは初めてで
す。ゴールが欲しいのに。
 ジョシは指示通り守っています。ジョシの
パスはマルセル君に負けず劣らず正確な
ので、ジョシがボールを奪うとコベルの面々
はそれぞれ広がります。マルセル君の代役
は勤まっていますが、ジョシがパスの出し手
になってしまったのでなかなかゴール前に
は行かれないのです。
 時折攻撃にからむために上がりますが、
当然パスの出し手がいないのでボールが来
ず、さらにその出るはずのパスが敵に奪わ
れるので慌てて戻らなければなりません。
次第にジョシは上がらなくなり、逆にジョシが
下がると全員が上がり、ジョシ一人で守る形
となりました。
 本来ジョシはDFが下手なのです。注意力
が続かないのでパスコースやシュートコース
を消すといったセオリーが守れず、ワンサイ
ドカットが出来ません。このワンサイドカット
は相手のプレイを単純に限定するだけでは
なく、時にはワザとコースを空けてタイミング
よく飛び込んだりもできます。そういう駆け
引きも出来てこそ守備側にも醍醐味がある
ので、まずはワンサイドカットが出来なけれ
ば攻めの守備が成り立たないのです。
 そんなジョシですが、狭いコートなので中
央にいる限りはたいていコースが消せてい
て、この試合では一人でも十分守っていま
す。ここでこんな形で守備に関する信用が
高まっても広いコートではボロが出るのは
わかっているのですが、ハビエル氏の目に
はどう映っているのでしょうか?。
 そうこうするうちに同点だった試合が動き
ました。この1点がどちらにとっても決勝点
です。
 ジョシはこの時痺れを切らして上がりまし
た。GKから手を挙げているジョシにはもう一
度ジョシにスローインが入り、寄ってきたア
ルティゲンセの選手をターンしながらかわし
て左側にいるニャット君にパス。ニャット君
はダイレクトで右サイドにいるフェデリコ君
の前に流して、フェデリコ君はGKと向き合い
ながらゴール右側へ。角度がないのですが
フェデリコ君は迷わず右足でループシュー
ト。このシュートはゆっくりした右回転をしな
がらGKの頭上を越え、ゴールの奥へ僅か
に曲がりながら吸い込まれていきました。
 時間が止まったような美しい放物線でし
た。実はフェデリコ君が無理に打ったので、
皆外れたと思っていました。あんまり意外な
ゴールなので、このシーンは動画でご覧入
れようと思います。
 これが決勝点です。コベルは5-6で逆転
勝ち。スコアラーのフェデリコ君とニャット君
は揃ってハットトリックです。そしてジョシはノ
ーゴールです。
no56 アルゼンチンで戦う資格。 それぞれの道
  2007,4,29

 [サル者は追わず。]

 リーグ戦開幕直前。息子・ジョシ達は強豪
アルティゲンセを相手にホーム&アウェイで
苦しみながら二連勝し、新チームの形が見
えてきました。
 結局去年のチームメイトでコベルU-13/
14 チームに残るのはジョシ、フェデリコ君、
マルセル君、ロドリゴ君です。
 ジョシと共にアルヘンティノスJrs.のセレク
ションを受けたクリスチャン君とサル君は揃
ってコベルを離れました。特にサル君は一
旦は今年もコベルでやると言ってフレンドリ
ーマッチの直前まで練習に来ていたのです
が、残念ながらサッカーそのものから距離
を置く選択をしてしまったようです。
 その時は私もサル君と話しました。彼は英
会話が出来ないので短い言葉のやり取りで
したが、曰く「どうやったら今よりも上達でき
るのかわからない」と言うのです。
 以前書いたとおり彼等は独りで練習して技
術を培ったのではなく、毎日仲間とボールを
奪い合う中から発見や閃きを積み重ねて自
分のプレイをつくっています。そういった技
術が通用しなかったとき、それは自分のサ
ッカーの全てを否定されたのと同じ事であ
り、また、自然に積み重ねたものだからこ
そ、そこから這い上がる術を知らないので
す。
 私は彼にその答えを用意できる気がしま
す。ですが、それはジョシがアルゼンチンサ
ッカーに殴り込みをかけられる秘密であり、
今は明かせないと割り切っています。その
秘密はもちろんケン&マッシーの技術です。
 実際彼等には日本のDVDは(国際規格の
違いで)見られないのだし、もし自宅に招い
て映像を解説してもそれを伝える語学力が
双方にないのだから、現実的に教えられま
せんよね。
 仮にサル君をはじめコベルの親しい子供
達に教えるとして、それはどこまで続けるの
でしょうか?。ジョシがアルヘンティノスJrs.
なり今度セレクションを受けるベレスに入っ
たとして、そこでも親しくなった子供には教え
るのでしょうか?。それは無いわけで、サル
君をはじめコベルの子供達やこれから入る
チームで出会うチームメイト達もジョシには
ライバルでしかありません。
 実際ジョシがそこまでライバル心を持って
いないとしても、外国人であるジョシは現地
の人間からすれば競争相手というよりも邪
魔者なのです。そう考えれば、相手が誰で
あれ塩を送る余裕はありません。
 割り切っているというのはそういう事です。
だから「教えて」と来れば別ですが、それ以
外は誰にも教えません。
 話をサル君に戻せば、私だってサル君に
は頑張ってほしいし、ケン&マッシーとは違う
ことでも教えられることがあれば伝えたい気
持ちもあります。でも、日本人の私が彼に伝
えられる事は根本的にはないのです。彼に
も小さい頃から師事するコーチが目の前に
いるのだし、親兄弟親戚など、サッカーに精
通している人材は山ほどいるわけです。筋
としてもコーチに改めて教えを請うなり、自
分の身の回りの人間に頼るべきであり、仮
に彼はそうしたのだとしても、そこまでやる
やらないに関わらずこれも彼の選択であり、
他人の私が口を挟むことではありません。
 去る者は追えないのです。
 この話は他のチームメイトの動向を知れ
ば納得のいくものになるでしょう。
 

 [再起にかけるクリスチャン。]


 同じくセレクションに落ちてコベルを去った
クリスチャン君は、自分に足りないものを求
めて別のチームに入りました。そのチーム
はコミニュカシオネスという全国リーグの一
部でも二部でもない地方リーグ所属のチー
ムです。
 ジョシが聞いた話では、クリスチャン君は
簡単なセレクションで入れたといいます。そ
してもちろん、レベル的にはたいした事がな
いそうです。彼が何故そのチームを選んだ
のかといえば、それはアルヘンティノスJrs.
のセレクションでサッカーのフィールドでプレ
イする感覚が不足している事を思い知った
からなのだそうです。 
 クリスチャン君は向かい合ってのDF力は
素晴らしいのですが、セレクションではその
強味を活かすことなく人数をかけてスペース
を突かれてやられてばかりいたそうです。フ
ィールドの経験がないのは他の選手も同じ
なのですが、身体が小さい分狙われていた
とジョシは話ています。
 一度崩されると何度も突かれ、味方のフォ
ローも少なく常に数的不利で走り回されてい
たとのことです。そしてその走り回る中で、
サッカーのフィールドに対するスペースの感
覚がもっと必要だと自覚したといいます。
 もともとセレクションのような場では攻撃を
アピールしたい連中が多く、攻守のバランス
など度外視してイケイケで攻め上がって来
るものです。そういう場で狙われるとどうなる
か、想像に難しいことではありません。
 攻撃参加でもクリスチャン君には光るもの
があるのですが、攻守のバランスからタイミ
ング良く攻撃に絡むクリスチャン君にとっ
て、イケイケでどんどん人がいなくなる中で
はタイミングも何もなく、攻め上がってから
の仕事は十分こなしてはいてもその機会そ
のものが余程少なかったのでしょう。セレク
ションの現場にいたジョシも同情していまし
た。
 そういったわけで、クリスチャン君はサッカ
ーのフィールドに拘った選択をしました。セ
レクションでは貧乏くじを引いた格好だった
のですが、それを運が悪かったとは捉え
ず、自分の課題を見つけ出したのは素晴ら
しい事だと思います。
 そして、彼に感化されてコベルを去った少
年がもう一人。ジョシとは二学年離れている
今年で12歳のイーニャ君です。動画で何度
かご紹介した引き技のキレが素晴らしい金
髪の少年です。
 彼は去年まで一学年上の試合にも飛び級
して自分の学年の試合と掛け持ちしていま
したが、今年は一学年上の連中がジョシ達
との混成になるので飛び級できず、他の方
法で自分を鍛える環境を探していたのだそ
うです。今回クリスチャン君がサッカーのフィ
ールドでプレイすることに課題をおいたので
イーニャ君もやってみたくなったとのことで
す。

 [ジョシに勝つために。]

 さらにもう一人、私が一番惜しく思う少年
がコベルを去りました。私がアルゼンチンに
来てから最初に目を奪われた少年、ボリビ
ア人のホアン君です。何が残念かって、彼
の動画は一回しか撮れなかったのです。い
つの日にか彼の決定的なプレイをカメラに
収めて日本の皆さんにも驚いてもらおうと思
っていたのに、それは叶わなくなってしまい
ました。
 彼の行き先は南米最高の施設を誇るあの
リバープレート(リーベル)です。本来ならもう
一年コベルでプレイしてからリーベルを目指
すはずでしたが、ある出来事がキッカケとな
って彼は急遽プランを前倒ししました。それ
は、ジョシのアルヘンティノスJrs.合格の報
だといいます。
 その時点でリーベルのセレクションは終わ
っていたので、彼は親に頼み込んでとりあえ
ずリーベルのスポーツ専門校に入学してし
まいました。そこでサッカースクールと校内
のサッカー同好会でプレイし、年内には正
規のユースチームに昇格するのが目標なの
だそうです。
 こういった選択をする少年は時々いるよう
ですが、ユースチームに所属することなくス
ポーツ専門校に通うと学費がべらぼうに高
いのです。ジョシにもこの話はありました
が、南米において毎月10万円ほどの学費は
無理でした(今のバイリンガルスクールは月
に15.000円ほど。それでも高い方です)。
 彼はかつてジョシに「この試合でどっちが
多く点を取るか勝負しようぜ」と持ちかける
など、今考えてみれば案外ジョシを意識して
いたのかもしれません。ジョシが活躍した試
合では「ジョシはいい選手だね」と真っ先に
私に言いに来たり、私としてもホアン君に一
番才能を感じていただけに、彼に息子が認
められるのを最高の褒め言葉として受け止
めていました。
 そのホアン君、「ジョシに差をつけられたく
ないから」とハッキリコーチに言ったのだそう
です。ジョシはセレクションに受かってもアル
ヘンティノスJrs.に入れないことはコーチも伝
えたのですが、「コーチの言うとおり来年リ
ーベルに入れるのなら今でも入れるはず
だ。ジョシが今年べレズに入るのならそれよ
り早くユースに昇格してみせる」と意気込み
を見せて、コーチに手続きを手伝ってもらっ
たのだそうです。
 それにしても親はなかなかの資産家であ
ろうとは予想していましたが、まさか一般で
リーベルに入れてしまうとは。余程期待して
いるのでしょう。
 そこまで見込んでもらえるとはジョシも幸
せですね。ホアン君の動画は日本の皆様に
も暫くおあづけです。いつの日かリーベルの
ユニフォームを着たホアン君と、ベレス(?)
のユニフォームを着たジョシが対決している
姿をご覧に入れられることを祈っています。
 というか、私は祈るだけじゃダメですね。
 サル君を叩くつもりはないのですが、同じ
時期にクリスチャン君やホアン君の選択を
みればサル君の弱さが残念です。
 しかし、この国で本気のサッカーを続ける
という事はこういうものなのでしょう。どんな
奴でも去る者には戦う資格がないのです。
  
no57 ストライカーとは。
 2007.5.7

[二部所属の全チームが昇格。]
 
 息子・ジョシにとって二年目のアルゼンチ
ン国内最大の少年サッカーリーグ・CA..F.I.
リーグがついに開幕しました。
 今年のトップリーグ参加数は昨年の8チ
ームから14チームに増えました。二部リー
グが全て昇格する形になったのは、昨年度
末のカップ戦でトップリーグ首位のはずのコ
ベルが二部リーグのアテネロ・サグラダ・フ
ァミリア(アテネロS.F.)に惨敗したからではな
いかとの噂です。
 その試合で負けたのは私的にはジョシの
せいなので、つまりはこの事態は日本から
飛び入り参加した日本人が引き起こした
と。まァそんなことではないのでしょうけれ
ど、とにかく一年を通して対戦するチーム数
が増えました。
 いろいろなチームや子供達を見たい私と
しては歓迎です。ただ、昨年遠征先でカツ
アゲされかけたリオ・コロラドが降格せずに
今年も遠征しなくちゃいけないのはウンザリ
です。
 未知のチームが増えて、もっと治安の悪
い地域に遠征しなくちゃいけなくなったらど
うしましょうね。そういうのは行きたくないん
ですよね。
 開幕戦はコベルのホームで相手は前出
のアテネロS.F.です。いわく付きの相手での
っけから好カードじゃないですか。
 サル君ホアン君がチームから離れた今、
ジョシが攻撃の中心となってこの相手を手
玉に取れれば、本当の意味でジョシの実力
がアルゼンチンで通用すると証明できる機
会ともいえるわけです。
 実際昨年はこのチーム内のライバル達に
随分助けられていたのですから、今年はジ
ョシ一人で何とかしなくちゃいけないとなれ
ばまだまだ試練は続きます。
 そのジョシですが一抹の不安もあります。
前の練習試合でチームメイトの二人がハッ
トトリックしたのにジョシはノーゴールでし
た。また先発から外されてしまうかもしれま
せん。
 そして、ジョシの学校の友達が言うには
「チーム内で一番ゴールを挙げているのに
スタメンで出られないのはおかしい。こうい
うのはよくある話だけど、きっと日本人だか
ら差別されていると思う」。
 コベルの雰囲気からしてそういう事はない
と思うのですが、サル君ホアン君がいなくな
ってもジョシがスタメンになれなければその
線はありそうですね。前回ノーゴールなのだ
からこの試合は仕方がないとして、もしもこ
の試合でトップスコアラーになってもスタメン
で起用されなければいよいよ黒です。
 ジョシも、ジョシの級友の日系人達も胸に
期するものがあるものがあるのだといいま
す。この先活躍しても昨年と同じ待遇なら
ば、級友諸君が通訳を買って出てハビエ
ル・オーナーコーチに直談判をする構えで
いるそうです。
 こういう事は親がしゃしゃり出る事ではあ
りませんし、私は静観します。子供が大人
に詰め寄るなんてゾッとしませんが、日本と
は少し違って自己主張というか、意思表示
をすることは悪い事ではありません。
 
 [チームプレイか個人技か。]
 
 もう一つジョシは悩みを抱えています。攻
撃の軸に指名されたのは嬉しかったのです
が、チーム戦術においては求められる事が
増えてしまいました。
 特にジョシという大型選手を抱えるチーム
としては、今年はポストプレイに挑戦したい
ようです。
 サッカーならポストプレイで捌いた後でも
フィニッシュに行けますが、フットサルは展
開が速いので遅れてゴール前に詰め寄っ
てもラストパスが出ずに攻撃が終わってし
まいます。
 アシストに専念するのも時には悪くないの
ですが、肝心の味方に突破力や決定力が
ないのでジョシがポスト役になっても練習で
すらゴールには繋がりません。
 さらにそういう約束事はジョシだけに求め
ているので、実際はポストから簡単に捌こう
としても出し所が無かったりします。
 その点についての私のアドバイスはこうで
す。「その約束事は誰のためなのか?、ジョ
シを活かすためだとしてもジョシのためには
なっていないし、ゴールが生まれなければ
チームのためにもなっていない。結局コー
チが思いついたことをやらせているに過ぎ
ず、コーチのための戦術としか言えなくはな
いだろうか」。 
 「そんなものに縛られても自分のためには
ならない。それよりもやりたいようにやりなさ
い。ただし、やりたいようにやるからにはゴ
ールを奪ってチームを勝たせなさい。プロで
もない子供のお前は自分を磨くためにプレ
イする方が重要なのだから」。
 「コーチの指示を無視し続けるわけにもい
かないので、注意されたらその直後のワン
プレイだけは言われたとおりにやりなさい。
完全に無視すれば戦術を理解していないと
思われる。やれば出来ることを示せば注意
の数も減るだろう」。
 「本当は状況に応じてポストプレイと単独
突破を使い分けるのが理想だけど、今のお
前にはそう器用に切り替えは出来ないだろ
う。基本は単独突破狙いでもかまわない
が、とにかく言われた時だけは戦術どおり
にやって状況判断にもだんだん慣れなさ
い。味方が連動しなければ戦術は機能しな
いのだから、最終的には状況判断しながら
どちらでもできるようになるんだよ」。
 ジョシは驚いていました。「コーチの指示
通りにやらなくてもいいの?」。
 「もちろんだよ。だってその戦術はみんな
で話し合って決めたの?、コーチが勝手に
決めたんでしょ。お前はコーチのためにサ
ッカーをやっているの?。今はプロじゃない
んだから、コーチの戦術は選択肢の一つで
しかないんだよ。だから両方やればいいん
だよ」。
 ジョシはさらに「そんなことして試合に出ら
れなくならないかな」と言っています。
 「だから、それじゃコーチのためにサッカ
ーをやっている事になるじゃないか。チーム
のためにプレイすることはあってもコーチの
ためにやることはないんだよ。だから自由
にやるからにはゴールを奪ってチームを勝
たせなさい。サッカーの戦術はゴールのた
めにあるんだから、ゴールさえ奪えば誰に
も文句は言われないよ。それに、そんなに
心配ならコーチに自由にやらせてくれって
言いなよ」。
 「えっ、反論してもいいの?」。
 何とも日本の子供らしい反応ですね。コー
チは誰のためのコーチなのか。そして、コ
ーチの夢は何なのか。そう考えていけば、
ジョシが自分のプレイを捨ててまでコーチの
言いなりになる理由はないはずです。
 
 [ストライカーとは。]
 
 「反論してもいいんだよ。当たり前じゃない
か。やりたいことがあるのに我慢するくらい
なら話し合えばいいんだよ。ロベルトバッジ
ョだってチームの戦術に合わなければスタ
メンから外されて結局チームを転々とした
んだから、アタッカーにとってはチーム戦術
は大切なんだよ」。
 「特にストライカーは攻撃に対する考え方
が他のポジションとは違うものなんだ。中盤
まではチャンスを増やしながら攻撃の選択
をするけれど、ストライカーはゴールから逆
算してポジショニングするから許容できるパ
スが限られている。ゴールのためには“ここ
しかない”っていうポジショニングやパスが
あるのはお前もわかるだろ?」。
 「うん、わかるよ」。
 今はこの問いかけに二つ返事が出来るジ
ョシですが、日本にいた時はこうは答えられ
なかったはずです。この成長はこの一年間
で得たものなのですから、環境、修練、そし
て自信が異国の地で全て実を結びつつあ
るのでしょう。想えば難しい話ができるよう
になったものです。何だか少し感動してしま
いました。
 「それがわかるなら、今のお前は“ここし
かない”というプレイを練習でも試合でも何
度もつくっていくことが一番大切なんだ。スト
ライカーはエゴイストだといわれるけれど、
それで点が入るならパスを出す側も要求に
応えなきゃいけない。“ここしかない”がわか
る選手ならストライカーじゃなくても一流の
チャンスメイカーになれるし、どのポジション
でも凄味のある選手になれるはずだ。だか
ら、お前はこの先プロでもストライカーでい
られるとは限らないとしても、今はゴールに
拘っていた方がいいんだ」。
 すかさずジョシは「あーわかった。だから
日本のFWは点が取れないんだ」と言い放ち
ました。
 まァそういう要素もあるのでしょう。良いプ
レイがあっても怖いプレイが少ないと感じる
のは皆さんにもご理解いただけると思いま
す。言い換えるならば、良いプレイだと次は
防げるけれど、怖いプレイならまたやられる
かもしれないって感じですね。
 ジョシにはまだ“またやられるかも”という
プレイがありません。私はそれを持てるか
どうかが今後大成できるかの分かれ目だと
いう気がします。だから生意気にも日本選
手に話題を振っても「今は君の話だから」
と、取り合いませんでした。
 そういうことでジョシは少し吹っ切れたの
かもしれません。練習中にコーチに注意さ
れると「仕方ねぇな」という感じでしばらく要
求どおりに動き、折を見てポジションを捨て
て活き活きと前を向いて突破を図るように
なりました。
 こういうことを繰り返すうちに、いずれは自
分で状況判断して戦術と個人技の使いどこ
ろをわきまえていくのでしょう。目的はコー
チの指示ではなくゴールであると、今はそ
の事を忘れないでプレイして欲しいと思いま
す。
 
 [先発漏れ。]
 
 さて肝心の試合ですがジョシは予想どおり
先発漏れ、そしてフェデリコ君が先発。一試
合出来が悪かっただけでこの厳しさは何な
のでしょうね?。
 試合の相手アテネロS.F.は去年の年末と
は全く違う顔ぶれです。やっぱりこのチーム
も昨年は一学年上の選手を中心にしてい
たようで、去年対戦した二試合のいづれで
もジョシをマンマークした大きな選手がいま
せん。同級生相手なら楽な試合になりそう
です。
 楽な試合になるはずが開始後五分に相
手GKからのスローイングに3人寄ってしま
い、一人振られると難なくゴール前にパスを
出されてフリーでシュートを喰らって先制さ
れてしまいました。
 これは先にボールに寄っても何もしなかっ
たフェデリコ君をマルセル君がアテにしたた
めにやられました。彼はすぐにボールに寄
るので邪魔なんです。
 攻撃時でも広がらずにボールに寄るので
ポジションが重なってパスコースが減るば
かりか、味方がトラップしたボールまでかっ
さらうような自分勝手なプレイばかりしま
す。
 サッカーにあまり興味がない妻でさえ「お
邪魔君」と呼ぶくらい素人目でも動きの悪さ
が目立つのに、彼がいるとジョシは先発で
きないわけです。
 この日も特に動きが悪く、失点直後にジョ
シと交代させられてしまいました。せっかく
先発してもすぐに代えられるというのもパタ
ーンですね。考えてみると年齢制限がある
おかげでフェデリコ君と一緒にプレイするこ
とがほとんどないのですから、見せ場はつく
りやすいかもしれません。
 交代出場したジョシはゴール前で身体を
張り、直後のプレイでマンマークする相手の
大型選手を突き倒してシュートをかましまし
たがこれはファール。攻撃側のチャージン
グなんてあまりないので、その力強さはOK
です。気合が入っています
 前の試合とは明らかに動きが違い、ゴー
ル前から離れずにプレイしています。どうや
ら試合中の動きについてはだいぶ吹っ切れ
たようです。
 ジョシのゴールはこの二分後、味方のス
ローインがヘディングの競り合いで中央に
流れ、そのボールにワンステップで合わせ
ていきなりシュート。
 コースは甘かったのですが、スローインで
ニアポストに寄っていたGKが中央に戻ると
ころを逆にとったのでほとんど反応させませ
んでした。
 次のゴールはそのまた二分後。左サイド
を抜け出したマリアノ君が中央にフリーで走
りこんできたジョシに横パス。ジョシのシュー
トはGKの正面でしたが、リバウンドにマリア
ノ君が詰めてゴール。これでアッサリ逆転で
す。
 さらに今度は二分と経たずにまたゴー
ル。コベルのスローインが逆サイドのマリア
ノ君に入ったのですが揉み合いになってボ
ールを奪われ、後ろから詰めたポラコ君が
奪い返しました。攻守の切り替え際に中央
でフリーになっていたジョシに横パスが入
り、飛び出したGKと接触しながら一歩先に
触れたジョシのシュートがゴールに入りまし
た。
 これで3対1。途中交代後五分ほどで3点
にからむ活躍です。しかし先の接触で右足
を傷め、前半残りわずかというところでフェ
デリコ君と交代して一旦引っ込みました。こ
れはただの打ち身で大事には至らず、後半
もまだまだやれそうです。試合はその後動
かず前半が終了しました。 
 
 [ダメ出しのハットトリック。]
 
 二人までと制限されているU-14の選手で
後半の頭から出場したのはロドリゴ君とマ
ルセル君です。ちなみに前半はフェデリコ
君とマルセル君が先発し、ジョシが投入さ
れた時に一緒に交代したのが辞めた筈の
クリスチャン君です。
 復帰の理由はよくわかりませんが、普段
の練習はコムニカシオネスでやっているの
でコベルには来ません。コーチングを受け
ていないのですから月謝を払っているのか
も不明ですが、今まで何年も払っていたわ
けですし、従兄弟の日系ハーフの兄弟は今
でもコベルに月謝を納めていますから、最
後の一年ぐらいは免除されるのかな?。
 コムニカシオネスでも試合があるはずで
すが、たぶん日曜日なのでしょう。こちらで
知り合ったサッカー留学生も試合の前日に
移動がなければ全休日だそうで、束の間の
息抜きをしていました。ジョシもセレクション
に受かったらこういう生活になるのかもしれ
ません。
 ジョシが前半でゴール前で張り付いていら
れたのもクリスチャン君が守っていたからと
いう面があります。守備の要であるクリスチ
ャン君とマルセル君のどちらかがフィールド
の後衛に必ず入っていれば大崩れの心配
がありません。もしかしたら長年プレイした
コベルへの愛情に突き動かされての復帰な
のかもしれませんね。
 後半で先にゴールしたのはまたコベルで
した。センターライン付近でロドリゴ君が身
体をぶつけて奪ったボールをマリアノ君が
素早く逆サイドにパス。このボールをフリー
のポラコ君がシュートしてコベルは4点目。
 ここでアテネロS.F.が2点目を取って追い
上げます。前掛りになって後衛に一人残っ
たマルセル君を挟んでゴール前でワンツー
を決め、右に流れながらGKグスタボ君の股
を抜けるシュートでゴール。
 試合はその後膠着し、残り六分少々で再
びジョシとクリスチャン君が登場。そしてジョ
シはハットトリックを達成します。
 そのゴールについてジョシは、「最初に二
人抜いたんだよ。三人目が来て取られたけ
ど取り返えしたし、うまくやったでしょ」と言う
のですが、そんなことはありません。私はビ
デオを見ながらダメ出ししました。
 ジョシの3点目はGKからのスローインで
始まりました。私は昨年からこの状況から
のプレイを最重視しているので、一度も体
現できていないことに歯痒さを覚えていま
す。 
 ジョシはハーフラインの右手前でマーカー
を背負いながらボールを受けました。マーカ
ーを抑えながらライン際まで流れ、フォーロ
ーの敵の選手が近づいて挟まれる直前で
「フェイントバイブル」にあったプッシュボー
ルターンを決めて抜け出しました。その後
三人目の選手に行く手を阻まれ、ジョシをフ
ォローしようと突っ込んできたマリアノ君が
逆に進路を塞がれて一旦はボールを失い
ましたが、そのマリアノ君がチェックを続け
たお陰でボールを奪い返し、その場でワン
ステップしてシュート。ジョシはワンステップ
でボールを蹴る習慣が身についているので
GKは咄嗟に反応できませんでした。
 これでハットトリックですが、私達が追い
求めているのはこの絵ではありません。だ
からダメ。
 本来はリスタート時にマーカーを確認した
ら、GKが投げる前に突き飛ばして相手の
出足を止めないといけません。突き飛ばし
た反動のままジョシは数歩横のスペースに
流れ、そこで半身になって足元にボールを
受け、そのまま単独でゴールに迫る。という
のが理想です。
 マーカーを確認しているのに押しもしない
のは怠慢です。ジョシはこの時「マークが一
人なら簡単だ」と思ったのだそうです。実際
は三人を相手にしてボールを奪われている
のですから、ここで「一人なら」と気を緩めて
いるのは慢心ともいえます。スペースが無
いフットサルでは手数をかけてはいけない
のです。
 
 [強運の持ち主。]
 
 コベルはこの時点で5-2、残り時間は一
分を切っていました。もう追加点はいらない
ので、ハビエルコーチは時間稼ぎでジョシと
クリスチャン君をもう一度下げて、出番が少
なかったフェデリコ君とロドリゴ君を入れま
した。
 コベルのスローインから再開です。相手ゴ
ール近くで得たスローインを投げたロドリゴ
君がゴールエリア右側に落とし、DFを引き
連れて中央から走りこんだギド君がバック
パス。これを拾ったフェデリコ君が二人の
DFでブラインドになった所へシュート。入っ
てしまいました。 
 昨年から邪魔ばかりされてきたフェデリコ
君。憎くはないのですが、目立たれても起
用に影響が出て邪魔です。でも、終了直前
のワンプレイでキッチリ決めてくるなんて、
星が強いのでしょうね。昨年も何が優れて
いるのかよくわからないけど点は取るんで
す。その強運はジョシにも欲しいところで
す。
 ジョシが目指すのは昨年と同じこと、圧倒
的な実力差を見せつけてコーチに選択肢を
与えないことです。
 ハットトリックをしたのだから、次の試合は
先発できるでしょう。もしもまた控えならどう
なることやら。少し不安になってきました。
no58 ジョシ 念願の先発、でも・・・
 [のどかな庭園都市。]

 リーグ戦二戦目はアウェイです。
 場所はグランド・ブエノスアイレス内の衛星
都市、トレス.デ.フェブレロ(2月3日の意)市
の外れにある高級住宅街で、「ガーデンシテ
ィ(庭園都市)」と呼ばれる緑化整備が進んだ
地域でした。
 住みやすそうです。治安が良いというより
も、住民の生活水準が高いおかげで治安維
持する必要が無い感じでした。交通量も少な
いので中心街の十字路にすら信号機があり
ません。
 アルゼンチンの交通事情は免許を持って
いても運転する気がなくなるくらい荒っぽく、
市街地でもエンジンを唸らせて驀進するので
野鳩ですら逃げ遅れて轢かれています。な
ので、街中には野良猫がいないのです。た
ぶん、轢かれてしまうのでしょう。私の家の
前の交差点では二時間おきぐらいに急ブレ
ーキが響き、一日に一回は衝突音も聞こえ
てきます。人間ですら常に命の危険に晒さ
れているのです。
 ガーデンシティでは野良猫が日向ぼっこし
ています。
 住人にとってもこの環境は誇りのでしょう、
観光地でもないのにイラストマップが各商業
施設に配られていました。どうやらこの地域
は陸軍が払い下げた新興住宅地のようで
す。果てしなく張り巡らされた金網の中に陸
軍の基地が広がっていました。地図の端に
A.F.A.L.P.というアスレチッククラブがありま
す。治安の心配もないので足を伸ばしてみ
ました。
 アスレチッククラブというのは総合スポーツ
クラブと社交クラブが合わさっている組織
で、ボカやリーベルに代表されるように、広
大な土地にありとあらゆるスポーツ施設を持
っています。都市整備が進んだ近年は都心
にそういった設備を維持できないので、メイ
ンのフィットネスジム以外はほとんど郊外に
移転しており、私のように都心に暮らす人間
にはその全容をなかなか見る機会がありま
せん。
 便宜上私はアスレチッククラブと普通のス
ポーツクラブを分けるために小さい方をスポ
ーツジムと呼びます。小さいスポーツクラブ
はだいたい「ジム」と名乗っていて、3階建て
ぐらいの建物にウエイトルームを中心とした
屋内のスポーツ設備を揃えており、子供たち
が近所の空き地のように集まってくるフット
サルコートはたいてい屋上か中庭にありま
す。アスレチッククラブを中心とした大小のス
ポーツ施設はブエノスアイレスには無数にあ
り、私の家から半径200mほどの範囲にも4・
5軒あります。
 こういった面もあり、ブエノスアイレスの子
供たちにはフィールドでサッカーをする機会
が極端に少ないわけです。
 今回のA.F.A.L.P.は何の略なのか知りませ
んが、とにかく行ってみました。
 入り口にゲートがあり、二人のオバチャン
が人の出入りをチェックしています。「こんに
ちは。中を見ていいですか?」。金を取られ
たら嫌だなァなんて思っていたら、「どうぞ」
だって。大らかなものです。
 中は天然芝のサッカーのフィールドが三面
と、土のフィールドが二面(片方は芝が剥げ
ているだけ)。休日の昼前で雨も降っていな
いのに誰もサッカーをやっていません。体育
館が二つ。片方は板張りで、もう片方は石
畳。どちらも子供達がバスケットをやってい
ます。
 体育館の脇ではオジサン達がビールを飲
みながらバーベキューをやっています。「フッ
トサルはやってないの?」と聞くと、「今日は
遠征でいないよ。でもこのクラブではバスケ
ットの方が人気があるんだ。バスケットの連
中もこのバーベキューを食べたら遠征に出
かけるよ」と教えてくれました。
 「じゃあフットサルじゃなくてサッカーは?」
と尋ねると、「午後から大人が集まってやる
と思うよ。午前中は人数が集まらないから誰
も出てこないよ。子供はフットサルの方が好
きみたいだね。試合が沢山あるし、学校でも
フットサルだからね」。「午前中ならテニスの
連中がやってるから、そっちも見てみなよ」。
テニスコートも6面ほど。家族でやっている
人達が多くて、子供がしごかれていました。
 地域密着のアスレチッククラブってこういう
ものなんですね。公民館みたいなものです。
 それにしても、体育館の壁に貼ってあるポ
スターがマラドーナじゃなくてマイケルジョー
ダンだなんて。
 対戦相手の“クロス”はこのアスレチックク
ラブではなく別の場所のスポーツクラブで
す。最初から脱線してしまいました。


 [強味をゴールに繋げる。]


 庭園都市内のスポーツジム・クロスは、実
は昨年の二部リーグ最下位だった弱いチー
ムです。
 アウェイで乗り込んでみると、プールも体育
館も備えた立派な建物でした。さすが高級住
宅地。一部リーグでも高級住宅地のチーム
は弱かったのですが、貧富の差がこういう部
分にも出てしまうのかもしれません。近隣の
アスレチッククラブでも盛んなのはサッカー
よりもバスケットやテニスだったわけです。
 弱いといっても、何度も書きますが技術的
な隔たりは試合に出るレベルではあまり見ら
れず、「サッカーがわかってないな」と見て取
れるのは7歳以下の試合までです。
 8歳からは試合中に転ばなくなるし、シュー
トも枠に飛んでGKが取れないボールを蹴っ
ています。そういうことは一部リーグチャンピ
オンのコベルだろうと二部リーグ最下位のク
ロスだろうと同じなんだと再確認できました。
 昨年からのリーグ戦を通して感じた実力
差、そして試合での成績の差は、ストロング
ポイントの有無だったのだと思います。
 欠点は欠点で補えるものは補いますが、
実際に攻守の局面やチームに勝利をもたら
すのは如何に得意な形を持つか、それも絶
対的な強味に昇華させるか、そういう部分で
す。
 息子・ジョシの強味は今となってはいくつか
ありますが、絶対的に得意な形となるとフィ
ジカルコンタクトを制することです。
 昨年一年かけて動きのタイミングや手と身
体の使い方でハードマークを撥ね退けられ
るようになって、それが直接ゴールに結びつ
いてはいませんが、ルール無用のアルゼン
チンサッカーにおいて体当たりや足掛けで
倒されたり、削られたりすることがほとんどな
くなりました。
 自分のプレイによって怪我を防いでいるわ
けですから、この技術の習得はとても大きい
と思います。
 今年の課題はこの技術をゴールに結びつ
けることです。そのためには味方にもパスの
タイミングを覚えてもらわないといけません。
 まだまだ日本の男の子っぽく自分の言い
たいことを伝えるのが苦手なジョシですが、
言葉の壁が大分解消された今なら尻を叩け
ば動くはず。
 フィジカルコンタクトを制してゴールに繋げ
るのはもう一年越しの課題ですから、悠長な
事は言ってられません。私はジョシに迫りま
した「GKからのスローイングを全部投げても
らえるようにGKの子達と話し合え」。
 「何て言えばいいの?」とトボケたことをぬ
かす愚息。
 「それくらい自分で考えろ」。
 「突き飛ばすって言えばいいんでしょ」。
 「そうだけど、タイミングや投げる場所も伝
えないと」。
 「他には?」。
 結局私に依存してくるわけです。一番肝心
な事は、マンマークされても大丈夫だって事
です。一人なら絶対にフリーになる。二人来
たらボールを捌く。だからリスタートは必ず起
点にして欲しい。ひいてはコーチにもポスト
役を期待されているのだから、チーム戦術
を成立させるためにもGKに理解してもらえな
いと何にもならないのです。だけど本人がち
ゃんと理解しているかどうかも怪しい。
 幸い去年からジョシを見ているマルセル君
はわかっています。ただ彼だけがGKをやる
のではなく、あと二人います。一人は飛び級
で参加している2学年下のグスタボ君。前の
試合で彼より年上のマリアノ君からポジショ
ンを奪いました。マルセル君が間に立ってく
れたのでジョシの意図は伝わったようです。
 残るはマリアノ君ですが、ジョシは話しかけ
ようとしません。「何で話さないの?」と聞くと
「この前ポジション奪われたからあいつはも
うGKやらないでしょ」。
 私だったら念押しするところなのに用心が
足りないと思いましたが、マルセル君にも骨
を折ってもらっているので私もあまりとやかく
言えません。


 [念願の先発、でも。]


 ジョシは前回のハットトリックが効いて先発
する事になりました。ここで先発になれなか
った場合は、ジョシが学校の友達を連れて
ハビエル・オーナーコーチに詰め寄ると息巻
いていたので、ここは先発出来て良かった。
 これで人種差別の疑いもなくなりました。と
いうことはつまり、今までジョシはフェアな評
価を受けて先発させてもらえなかったという
事です。
 まァ過去の事はともかく、今はU-14が二人
しか出られない中で、ジョシを含めて五人全
員が揃ったうえでの先発ですから、今回ば
かりはケチのつけようがありません。
 そして思ったとおり、スローイングのタイミ
ングを打ち合わせしなかったマリアノ君が先
発GKです。自分の今までの起用法を考えれ
ばわかりそうなものなのに。コベルではたっ
た一度の失敗でポジションを取り上げるよう
な事はしないし、たまたま一度活躍しただけ
で優遇される事もない。喋るだけならタダな
のに、意味も無く労力を惜しむからこうなる
んです。迂闊な。こういう手抜かりを今後も
繰り返すのでしょう。世話が焼ける。
 ホームチーム・クロスのコートは吹き抜け
になっていて、観客は二階席から見下ろす
形になります。青い床はラバーパネルを繋ぎ
合わせたもので、足の角度によって滑ったり
止まったりと掴みどころのない特殊なコート
です。
 声が上から聞こえるのでジョシは私が声を
かけてもなかなか気付きません。これでまた
理想の速攻が遠のく。ジョシはマリアノ君が
GKでも一言も話そうとしません。
 試合が始まりジョシはマーカーを背負いな
がらボールを要求しています。本来ここから
マーカーを突き飛ばすのでボールを横のス
ペースにもらいたいのですが、通常はこの場
合手前にボールを入れてマーカーから一歩
離れて戻るわけです。
 案の定ジョシの手前にボールが投げ込ま
れていますが、そのボールではチャンスにな
らない。
 加えてこのコートもバレーボールサイズで、
トラップで一人抜くぐらいでないとフォローが
早くて単独では持ち込めないのです。
 ジョシはワントラップから前を向いて自分の
マーカーと向き合うのですが、やっぱりフォロ
ーが早くてスペースが無いので決定的な仕
事にはなりません。
 こういう狭いコートではいつもそうなのです
が、なかなかゴール前まで持ち込めないの
で遠目から打ってワンタッチを取り、流れよ
りもセットプレイでのゴールを狙う形になるの
です。つまらんサッカーです。ホームがこん
なコートだからチームが弱いんです。
 ジョシのゴールはそのセットプレイでした。
試合開始後一分少々で得た左のCK、ショー
トコーナーで相手選手を動かしてから中央の
ジョシへ。ジョシは右のアウトサイドで直角に
蹴り込んで難なくゴール。これは今年になっ
てからコベルの初めての先制点なので、ハ
ビエルコーチは大喜びだったそうです。ジョ
シも先発先制なのでまずは役目を果たせま
した(動画@)


 [ファールじゃないけれど。]


 その後、ジョシは押しても押してもボールが
欲しいところに来なくて速攻を仕掛けられま
せん。本当にマリアノ君と打ち合わせしなか
ったことが悔やまれます。打ち合わせする機
会は今日だけでなく昨年からずっとチャンス
があったのに、のほほんと構えているから結
果を出せないんです。
 一方高級住宅街のお坊ちゃんチームはそ
れほど荒っぽくなく、審判も公平にジャッジを
しています。そこでジョシは審判に注意を受
けました。押し過ぎるとのことです。別にファ
ールじゃありません。予め腕を伸ばしきって
掌を密着させてから突き飛ばしているので、
そうそうファールは取られないはずです。そ
の証拠にカードが出ていないのはもちろん、
ボールサイドはコベルのままです。
 コートが狭すぎるせいで審判の近くでやり
合う形になったのがいけません。もちろんDF
も押したり服を引っ張ったりしているのです
が、ジョシの押し方が強くてマーカーがよろ
けるのが目に付いたようです。
 腕を伸ばしたままでも全体重を使った衝撃
は体当たりと同じですからよろけもするでし
ょう。よろけた相手は離れていくジョシの腕を
掴んですがりついてきます。こんな金色夜叉
の寛一とお宮みたいなことをやっていれば
目に付くでしょう。派手にやりすぎました。
 この注意のせいでジョシの動きが縮こま
り、加えてベンチからはしきりに捌けだの打
てだのと指示だけが増えて、前半の中頃に
交代させられてしまいました。
 人数制限があるU-14が五人もいるのです
からこの交代は止むを得ないのですが、先
制後に追加点を狙えなかったのは残念で
す。
 試合はその後も膠着し、コベルの追加点
はジョシのゴールから12分後、三本パスが
繋がってゴール前に迫った時、クロスの選手
がオウンゴールをしました。
 さらにその直後、ギド君が相手陣地の左側
から戻したボールをフリーのクリスチャン君
へ。遠めからのシュートが対角線に突き進
み、ゴール左隅のサイドネットに突き刺さり
ました。このミドルシュートのコントロールが
クリスチャン君の武器です。本当によく決ま
(動画A)
 前半はここで終了。スコアは0-3です。
 ジョシの突き飛ばしは今後も注意されて使
えなくなると困るので対策を取らねばなりま
せん。もともと二段構えでいたのですから、
以後は体当たりから始めて審判に注意され
たら腕で突き飛ばすようにします。
 ワンプレイの中でタイミングが合わずに何
度も突き飛ばすから余計に目立つので、一
発で決めてしまう方が良いでしょう。
 これも元を正せばジョシの精神的な逃げが
あるから手だけでやっていたので、体当たり
の方が相手の制止時間が長くてタイミング
は合うはずです。
 注意されてから体当たりを止めて手で突き
飛ばせば、注意を受け入れたことを示せる
ので審判の心象も少し違うでしょう。何にせ
よファールでもないのに少し注意されたから
といって仕掛られなくなると、無防備になって
球際でやられるのが目に見えています。

 
 [固め打ちには形が必要。]


 後半戦開始二分、コベルは追加点です。
ギド君自陣でパスカットしたものの、コートの
狭さが手伝って素早く寄ってきた敵の二人に
囲まれました。そこをクリスチャン君がフォロ
ーし、相手の二人の間を抜ける縦パス。再
びギド君がボールを受け、逆サイドでフリー
のポラコ君へ。ポラコ君のシュートが入って0
-4。
 後半五分過ぎにはフェデリコ君登場、ゴー
ルはその四分後。敵陣中ほどでニャット君
の横パスを受けた時に囲まれ、奪い合ううち
にこぼれたボールに素早く反応して足を振り
抜きました。
 これで0-5。
 相変わらず綺麗に点を取りませんが評価
を落とさない程度に点を取る感じで、やはり
星の強い選手です。
 その後はスコアが動かず試合終了です。
今回は控えのGKが無失点で抑えきれる内
容でも、コートの狭さでコベル側も攻め切れ
ていませんでした。
 固め打ちできた選手がおらず、ジョシもワ
ンゴールでは物足りないけれど、形のつくれ
ていない今はこうなるのが必然でしょう。
 その後の練習では、グスタボ君はスローイ
ングを全部ジョシに投げていました。
 いや、そう極端じゃなくてもいいんですけれ
どね。やっぱり年上に言われると逆らえない
んですね。マリアノ君はあまり練習に来ない
のでまだ話し合えていません。
 来週は試合が無いので、特ダネがなけれ
ばレポートを休みます。
 動画は更新します。

no59 コベル・・・ゴールラッシュ
 2007,6,5

[悪い子はお尻に注射。]
 
 先週はまたしても風邪をひいてダウンして
しまい、レポートを更新できませんでした。い
つも読んでいてくれる皆様にはご迷惑をお
かけして申し訳ありません。
 家族も替わり番こに風邪をひいています。
地球の裏側なので風邪の種類が少し違うの
か、抗体が効いていないのかもしれません。
でも悪い事ばかりではなく、赤道を挟んで季
節が逆転するので北半球で伝染病が流行し
てもこちらにはあまり影響しないといいます。
 特にH5N1型・鳥インフルエンザですが、
南米が発生源になる可能性はほとんど無い
そうです。まず渡り鳥が赤道を越えて渡るケ
ースがほとんど無いこと。アフリカから南極
を通って渡る鳥もいるのですが、飛行距離
が長いために感染している鳥は渡りきれな
いそうです。
 もちろん北半球で大流行してしまえば人の
行き来がある以上南米も安泰とはいきませ
んが、北半球での流行を受けてから時間差
で対策できるので、衛生的な環境であれば
それほど心配ないでしょう。全体的に人口密
度が低いのも幸いです。でも、風邪で毎度
40゜も熱を出していたら普通に命を落としか
ねませんよね。
 ついでに現地の医療についてもお伝えしま
す。日本では過去に医療事故があったため
に10cc以上の薬物投与は注射ではなく点滴
をするのだそうで、小さい子供に「言うことを
きかないとお医者さんで大きな注射をお尻
に打ってもらうよ!」と脅しても、そんな大き
な注射は今は使いません。
 アルゼンチンではそういうのはお構い無し
で大きな注射を打ちます。場所はもちろんお
尻です。
 私も風邪をこじらせて動けなくなったので
お医者さんに往診してもらいました。高熱で
もやはり感冒で、注射を打つことになったの
ですが、お医者さんが「あなたは注射怖くな
いですか?」と聞くのです。
 そんなもの今更怖いわけがないじゃないで
すか。当然「平気ですよ」と答えると、ながー
い注射針と大きな注射器が出てきたので
す。「あっ、やっぱり怖いです」とは言えず、
清水の舞台から飛び降りるというか、要する
に腹を括ったわけです。
 前述の医療事故で10ccの注射がどうのこ
うのとはこの時に聞かされて、ズボンをずら
して半ケツを出したらブスリ。
 やっぱりチクッっていう感じじゃないです
ね。私は鍼灸をやっているので鍼を刺す感
覚は良く知っているのですが、鍼を効かす感
じに良く似ています。ズ〜ンと鈍く痛いんで
す。やっぱり子供は泣くんでしょうね。これで
泣かない子は相当強い子だ。
 このケツ注射。実は妻が軽い外科手術を
受ける時に感染予防のために打ったことが
あったので存在は知っていました。妻が打た
れたのは手術の前日で、医者の処方箋を持
って薬局に行ったら薬剤師に打たれたので
す。アルゼンチンでは薬剤師でも注射しちゃ
うんですね。
 妻の場合は運悪く“ヘタ”だったようで、涙
が出るほど痛がって、痛みが足まで響いて
ビッコを轢きながら歩いていました。
 風邪でもケツ注射されるとは思いませんで
した。皆さんも外国で病院に行く時は覚悟を
したほうがいいかもしれません。私も次に
「注射は怖くないか」と聞かれたら正直に「怖
いです」と言っちゃいそうです。さすがに医者
は臨床経験が豊富なので泣くほど痛くはな
いんですけれど。
 でも針の太さが違うので痛いですよ。
 
 
 [トゥキック炸裂。]
 
 本当はもっと医療の話をしたいのですが、
これはサッカーのレポートなのでまた次の機
会に。これから書くのは5月19日のリオ.コロ
ラド戦です。
 これでリーグ戦は三試合目ですが、息子・
ジョシは前回に引き続き先発しました。やは
り先制点を挙げたのが効いているようです。
 昨年のリーグ戦でコベルはほとんど先制で
きていませんし、実際にこちらが先制できる
と本当に試合が楽です。先制点は1点以上
の価値があるというのはよくわかります。
 そして、このリオ.コロラド戦でも先制点を挙
げたのはジョシでした。時間は開始後30秒
ほど。
 クリスチャン君とニャット君で挟んで奪った
ボールを左に下がったポラコ君が受けて、
自陣左側からゴール正面にスルーパス。ハ
ーフライン付近で待っていたジョシが半身で
走り込みながらボールを受け、トゥキックで
ニヤサイドに決めました。
 (背番号11が二人いますが、ボールを奪っ
た方がクリスチャン君でフィニッシュしたのが
ジョシです)
 このトゥキックは日本で壁当てをしながら
練習したもので、普段はあまりやらないので
すが咄嗟に出せたようです。右に傾きながら
右足で左に蹴ったので少しボディーフェイン
ト気味にもなったみたいですね。けっこう難し
い事をやるようになったものです。
 トゥキックは教えた私も正面から受けたこ
とが無いのでGKからどう見えるのかはわか
りませんが、完全にコースを塞いでいるはず
のGKがほとんど反応できていないので、相
当タイミングが取りづらいのでしょう。
 2点目はその1分後、クリスチャン君です。
自分が投げたスローインをヘッドでクリアさ
れ、そのボールを奪ってゴール前がブライン
ドになっているところに迷わずミドル。GKは
ボールが見えずにまたもや反応できません
でした。
 3点目はさらに2分後。相手のキーパース
ローをジョシとクリスチャン君が挟んでボー
ルを奪い、クリスチャン君が再びミドル。この
シュートはGKの正面で弾いたのですが、逆
サイドにいたポラコ君が拾って決めました。
 ゲーム開始後4分と経たないうちに3対0。
一方的な展開です。
 
 
 [ヘディングのゴール。]
 
 4点目は前半開始後の5分ほど、3点目の
1分後で再びジョシ。
 相手ゴール右側からコベルのスローイン。
クリスチャン君がゴールのニヤに立つジョシ
の頭めがけて投げたボールはやや低かった
のですが、額の左側に当てて後方に流し、
誰もいないファーに入りました。
 ヘディングのゴールは今年初めてで、長身
選手である以上これも課題にしていました。
フットサルのボールは低反発でヘディングに
は向いていないわけですが、だからといって
折角高さがあるのに味方にアテにしてもらえ
ないのは情けないので、今まで一年越しで
対策を練ってきたのです。
 はじめは飛んでいるボールを如何にイン
パクトするかという練習をしていたのです
が、やってみるとそれは出来ていました。次
に威力を出す練習で、低反発ボールを使っ
てヘディングで壁当てをさせました。
 暫くするとこれも出来るようになったのです
が、それでもまだヘディングでのゴールは生
まれませんでした。何故今しつこくヘディング
の話をしているのかといえば、この次の対策
がこのゴールに繋がったからです。
 結局ボールに当てる、飛ばすができてもゴ
ールが生まれないわけです。理由はコントロ
ールです。
 普通にサッカーボールを使って練習させて
も体勢に余裕があればそれなりにコントロー
ルができているので、もっと難しい状況での
練習を考えました。
 ボールはピンポン球と同じ大きさの発砲ウ
レタン。反発力はちょうどフットサル用の低
反発ボールと同じくらい。
 壁と向かい合って床に座り、足を伸ばして
壁につけ、この距離で真っ直ぐ壁にぶつけ
たボールが真っ直ぐ戻ったところを、ヘディ
ングで直角に真っ直ぐ飛ばすのです。
 全てライナーでボールが飛ばなければなら
ないので、投げる時にはそれなりの勢いが
必要です。特にヘディングしたボールに自分
で勢いをつけさせるために反発力の低いボ
ールを選んだわけです。ボールを小さくした
のはミートポイントを厳密にするためです。
 練習の成果も嬉しいのですが、何より今後
も味方にアテにしてもらえるようになるのが
嬉しいのです。
 いい調子でゴールを重ねたジョシですが、
大勢も決まって前半はここでフェデリコ君と
交代。
 前半は残り10分ほど、コベルは攻め続け
たのですが実は、その後1点も入らずに前
半が終了してしまいました。
 折角先発してもジョシの出番が少ない。U-
14は人数制限があるので去年よりも時間が
少ないくらいです。これを仕方がないで片付
けていては先が知れています。私はジョシ自
身の責任でもあると思っています。
 
 
 [ジョシの形。]
 
 後半もコベルのゴールから。
 リオ.コロラドのCKがファーに流れ、そこで
待っていたニャット君がボールを拾うと相手
を一人振り切って単独でドリブル突破のカウ
ンター。
 GKを右サイドに引き付けたところで横パ
ス、フォローで追走していたポラコ君がフィニ
ッシュ…となるはずでしたが、慌てて戻って
来た相手のDFがポラコ君より先に触ってゴ
ールの右にクリア。でもそこにはここまでボ
ールを運んだニャット君がいて、結局彼が押
し込みました。
 このゴール。昨年から読んで下さっている
方は覚えているかもしれませんが、これもジ
ョシが体現しようと一年越しで取り組んでい
る形なのです。
 相手のCKで守る時にあえてファーサイドで
ルーズにマークして、誰にも合わずに流れて
来たボールを拾ってから単独でのカウンタ
ー。チームの練習では何度も決めているの
ですが、試合になるとベンチからポジション
修正の指示が出るし、何よりも本人の意思
というか割り切りが足りないんです。
 カウンターに備えることで相手の攻撃参加
を一枚減らせるとか、フットサルの小さいゴ
ールではセットプレイのニアサイドはフィール
ダー1人とGKでほとんど守りきれるとか、何
度教えても理解しきれない。
 私としては形のある選手が強いのだと思っ
ているので、特にボールが止まっている状
態からの形をどうしてもモノにさせたい。
 もちろん形に固執するとプレイが広がりま
せんが、絶対的な形があるからこそコーチ
や仲間に頼られるようになるのです。何度も
GKと一対一になれる形があれば、たとえゴ
ールを割れなくても期待感が膨らみ続けま
す。
 その形がジョシだけのものだとすればコー
チは安易に交代させないはずだし、味方も
ジョシの形を覚えてボールを預けます。
 決まった形を持つと相手も対応してきます
が、自分のパターンを相手が覚えてパター
ンで守ってくるからこそ裏がかけるので、相
手が覚えてしまうほどの形があるというのは
どう転んでも悪い事ではありません。
 今ジョシに必要なのはこの部分で、 試合
に出るたびにゴールを重ねて存在感が増し
てはいても、少し手こずると「調子が悪いの
かな」とか「相性が悪いのかな」と勘繰られて
別の選手を試されてしまうわけです。
 
 
 [ジョシから失点。]
 
 話を試合に戻しましょう。5対0からコベル
はまた追加点です。自陣ゴール前で相手の
間接FKになったのですが、ボールを繋いで
るところをインターセプトして、上がっていた
GKが戻る前にニャット君が仕留めました。
 さすがは昨年のU-12得点王です。彼は技
術やスピード、パワーではどれも特別なもの
を持っているわけではありませんが、動きの
質がいいですね。選択に間違いが少ないと
いうか、こういうのを“よくわかっている”とい
うのでしょう。だからジョシが時間をかけてモ
ノにしようとしているシンプルなプレイが自然
に繰り出せているのです。良い選手というの
は色々あるものです。
 後半の半ば、ジョシは再び登場しました。
相手のCKで投入されたジョシ、ショートコー
ナーからニヤサイドにシュートを撃たれ、GK
が弾いたボールをカウンターに備えていたジ
ョシが拾いました。
 前にいる相手のフィールダーは1人だけ。
ドリブルで突っかけるジョシ、マッシー理論の
とおりにDFが来た方向にボールを動かして
1人は難なくかわしたのですが、そのままス
ピードを上げようとボールを大きく動かした
ために戻って来たもう1人のDFにボールを
奪われ、不意を突かれたコベル陣営も崩れ
てしまったので失点してしまいました。

 ジョシは常々「オレが出ている時は失点し
ない」と言っていたのですが、自らのミスでの
失点ですから言い訳のしようがありません。
折角狙っていた形どおりにハマルところだっ
たのにもったいない。とはいえジョシにはそ
れほど落ち度があったわけではないので、
前向きな失敗ですね。
 大勝している試合であっても僅かなミスで
止められてしまうし、小さな綻びからゴール
だって奪われる。負けていても試合を捨てな
いスピリット。この辺りがアルゼンチンで育っ
たサッカー少年達の底力を伺える部分でし
ょう。 
 ジョシにしても、技術と状況がそろっていて
も僅かなミスでうまくいかない。試合のスコア
では圧倒できる相手でも、一つ一つのプレイ
はほとんど止められているのです。だから難
しく、歯痒く、やり甲斐もあるというものです。
 昨年とは違ってチームメイトに頼れる部分
が減り、今年はジョシ自身の力量が問われ
ています。試合の勝敗だけではなく、真剣勝
負の中でどんなプレイが出来るのかがより
求められることでしょう。
 さて再び試合に話を戻すと、先程のジョシ
のミスはすぐに挽回できました。
 コート中央で相手のボールを奪って前線に
送り、走りこんだポラコ君がスライディングで
中継したボールをギド君が流し込んで7点
目。

 さらに追加点が二つ。一つ目はコベルの
CKが逆サイドでフリーだったジョシに渡り、
ワントラップしてから正確にファーサイドに蹴
り込みました。これでハットトリック。そして終
了間際の相手ゴール前の間接FKではGKマ
リアノ君が決め、そのままタイムアップでリ
オ.コロラド戦は9対1の大勝となりました。 
 
 
no60 アルゼンチントッププロ 加藤友介とジョシスランプ
  2007,6,17


 [先輩の活躍。]
 
 南米サッカーに詳しい人はご存知の方もい
らっしゃるかもしれません。今アルゼンチン
では現地で単身武者修行をしてトッププロに
なった日本人が活躍しています。
 名前は加藤友介。18歳で日本からやって
来て22歳になった今年、現在全国リーグ2部
に所属するの名門チーム“ウラカン”のFWと
して堂々とプレイしています。今年サテライト
から昇格したばかりなのでまだスタメンには
なれていませんが、重要な試合で決勝点を
挙げたこともあり、ただのベンチウォーマー
ではなくチームの戦力として期待されている
のを贔屓目無しで窺い知れます。
 何故2部リーグ所属なのに名門と呼ぶの
かというと、それはアルゼンチンリーグにお
ける伝統的な力関係によります。
 何度かご紹介したとおり、アルゼンチンリ
ーグの主役はボカとリーベルです。この2チ
ームは強力なライバル関係で、直接対決す
る試合はスタンドが常に超満員、TV中継も
有料放送のスーパークラシック(スーペルクラ
シコ)と呼ばれます。
 スーパーじゃない普通のクラシックは他に
もあります。ボカ、リーベルのライバル関係
に順ずるライバル同士なのが、ホームスタジ
アムが道路一本を隔てて隣り合っているイン
デペンディエンテとラシンです。
 これにもう1チーム、サンロレンソを加えた
5チームがアルゼンチンリーグにおいて抜き
ん出た優勝回数を誇り、五大チームとして
“ペンタゴナル”(五角形)と呼ばれ、それぞれ
の対戦はどの組み合わせでもクラシックとし
て、リーグ戦の順位に関係なく国民的な関心
事として注目されています。もちろんTV中継
は有料です。
 ちなみに、上記5チームの優勝回数にあと
一回で並べるところまで来ているのが息子・
ジョシが目指すベレスです。特にベレスの優
勝はここ20年ほどの間に頻発していて、近
年は実力的に他のペンタゴナルを差し置い
てボカ.リーベルに並ぶ三大チームと目され
ています。
 話を戻しますが、ペンタゴナル内ではボカ・
リーベル、インデペンディエンテ・ラシンとそ
れぞれライバル関係を築いていますが、た
だ1チーム、サンロレンソだけはクラシコで
対戦するライバルが存在しません。
 そのサンロレンソのライバルが現在2部と
低迷してしまっているウラカンなのです。日
本の野球でいえば巨人に対する阪神でしょう
か?。リーグ戦の成績に関係なく伝統的なラ
イバルだということです。日本で有名なアル
ゼンチン選手のモネールはウラカンのOBで
もあります。
 本来ペンタゴナルを向こうに回して張り合
わなければいけないウラカンなので、2部に
降格しても2部リーグでは注目の的です。TV
も2部では異例ともいえる全試合中継で、1
部リーグの中堅チーム同士の試合よりも各
メディアで大きく扱われています。
 他の2部リーグのチームにとってはウラカ
ンを負かせばハクがつくのでモチベーション
が高く、そのことで実力的に抜けているはず
の2部リーグにおけるウラカンの戦いが難し
い試合ばかりになっています。今期こそは昇
格確実との噂ではありますが、上位4チーム
が自動昇格するはずなのに、ウラカンは私
達がアルゼンチンに来て以来ずっと2部のま
までした。
 もう一つ補足があります。近年アルゼンチ
ンリーグのタイトルを独占してきたボカは、昨
年の後期リーグでは元アルゼンチン代表の
ベロン率いるエストゥディアンテス(監督は元
代表キャプテンのシメオネ)と勝ち点が並
び、優勝決定戦に敗れてタイトルを逃してい
ます。
 今年は元横浜マリノス所属でJリーグ初代
得点王のラモン・ディアスが監督のサンロレ
ンソにリーグ戦の勝ち点で独走され、二期続
けてタイトルを逃しました。
 ボカの中盤には今年スペインリーグから復
帰したリケルメがいたのに…。いい気味で
す。
 さあ俄然注目のウラカン、そして加藤選手
ですが、私達ともほんの少し繋がりがありま
す。
 
 
 [ボールを隠すのがうまい選手。]
 
 もともと加藤選手はアルゼンチンの日系人
社会においてはちょっとした有名人でした。
昨年のオフも「日本人がウラカンのトップチ
ームに昇格した」というニュースは、日系人
同士でサッカーの話をする度に何度か耳に
挟んでおり、私達も「へー」とか、「ふーん」と
か、そういうリアクションをしていました。
 ここに来て急に話題として取り上げたのに
は理由があります。
 3月にアルヘンティノスJrs.のセレクションを
蹴って以来自己流の修練法を模索していた
ジョシは、ブエノスアイレス在住の日系人が
集まるフットサルコートを探し出し、オーナー
には「子供はお呼びじゃない」と断られたも
のの、従業員に取り入ってまんまと大人のリ
ーグ戦に飛び入りで参加をしています。
 ジョシが仲間に入れてもらっている大人の
日系人チームは、試合の時間にコートに行
っても時間にルーズで集まりが悪かったり試
合がなかなか始まらなかったりとダベッてば
かりなのですが、そのお喋りの時間にちょう
どウラカンの試合が中継されていて、加藤選
手が交代出場した瞬間に「ユウスケ・カトウ
だ!」と、試合を凝視しはじめたのです。
 前述のとおり私達も彼の存在は知っていま
した。同じ日系人同士だから応援しているの
かと思ったら、「アイツは、去年まで俺達と一
緒にここでやってたんだぜ」と言うではありま
せんか!。
 曰く、加藤選手は去年までサテライト所属
だったので週末は暇だったらしく、毎週この
日系人が集まるフットサルコートにやって来
てアマチュアのフットサルの試合にも出てい
たのだそうです。
 「俺達と一緒に試合に出ていたなんてラッ
キーやな」と言っていましたが、それが加藤
選手がラッキーなのか日系のオジサン達が
ラッキーなのかはよくわかりません。「だから
お前もラッキーだよな」というニュアンスを感
じるので、オジサン達がサッカー修行をする
若者達に幸運をもたらす存在であると言い
たげな気もします。
 この瞬間から急に身近になった加藤選手。
どんなプレイをするのかと尋ねたら「ボール
を隠すのがうまかったな。背は高かったよ、
ワシらよりも高かった」。
 173cmの私もオジサン達より背が高いの
で、本当はどれくらい高いのかは窺い知れま
せん。でも、ボールを隠すプレイという事は
懐が深いのでしょう。ここが重要です。
 ただ長身でリーチが長いだけではアルゼン
チンサッカーの肉弾戦で簡単にボールキー
プできるわけがありません。ボールを隠す、
つまりタイトなマークをするDFの位置を背中
越しに察知してボールにチャレンジさせない
という事です。このプレイが得意だということ
は腕の使い方がうまい。相手を近づけない、
そして腕を触覚のように使って相手の動きを
捉える。そういうプレイなのだと思います。
 フィジカルコンタクトでどうしても劣る日本人
選手が、技術よりもさらにフィジカルを押し出
すプレイが中心の2部リーグでプレイをする
という事を踏まえれば理に適ったことでしょ
う。
 そして何よりも、この場所からもプロの選
手が生み出された事。そういう環境でジョシ
もまた、自身のプレイをレベルアップさせる
べく修行をする機会を与えられている事。師
匠のマッシー旺史氏も「ジョシは運が強いか
ら大丈夫だ」と言ってくれていましたが、最近
は本当に引きが強いというか、サッカーに関
係があることだけは望外の運を引き寄せて
いるのを感じます。
 
 
 [調子が悪いのは何故か。]
 
 肝心の大人の試合ですが、ジョシは今のと
ころ通用していません。そもそも“ハポネス
(日本人)”が“サッカーが下手な野郎”の代名
詞だったのは過去の事になりつつあります。
それは南米に入植した日系一世達(私達もこ
のまま定着すれば日系一世ですが)や、サッ
カーに興味がない親達の中で育った二世達
のことです。
 南米各地の生活習慣に同化している日系
二世や三世達は、当地の一般的な人達と同
じようにサッカーが大好きで、技術的にも何
ら変わりがありません。そのことは、この日
系人のフットサルコートとコベルのフットサル
コートで様々な人種の大人達とプレイしてい
るジョシは肌で感じています。
 ジョシが通用していない理由はただ相手が
大人だからだというだけではありません。子
供同士の時よりレベルが高いのは当たり前
なのですが、実のところトップフォームのジョ
シはたいていの大人が相手でも互角にはで
きます。通用していないのは明らかにトップ
フォームではないからです。
 本人にも心当たりがあるといいます。それ
は、スポーツ専門校に進学できずに学力を
優先しているバイリンガルスクールに進学し
たせいでもあるとのことです。
 昨年まではこちらの学制で小学生だったた
め、休み時間も多くていつも学校でサッカー
をしていました。それが進学してみるとカリキ
ュラムがキツくてあまり外で遊べなくなりまし
た。小学校と校庭を共有しているので、狭い
校庭を使って外で遊ぶのは小学生が優先な
のだそうです。
 こういう部分はジョシに限らず、この年代の
アルゼンチンの少年達にはだいたい当ては
まることでしょう。小さい頃から夢見ていたサ
ッカー選手を本気で目指していくのか、それ
とも現実的な進路を選んでいくのか。進学と
ともに夢の形を変えていく年齢なのです。
 コベルのリーグ戦でもジョシは調子を落とし
ています。最後のレポートから3試合消化し
ましたが、ジョシは全試合で先発して先制点
を挙げているものの、ゴール数はいづれも1
点のみ。先の2試合でハットトリックをしてい
たおかげで総ゴール数が10となってランキン
グは3位。コベルU-13/14は2位、クラブの
総合順位も2位です。全体的にはそう悪くは
ないのですが、昨年よりも有利な状況でこの
程度の出来では先がありません。
 こうも調子を崩している理由。ジョシは対人
プレイの減少を挙げていますが、要因として
は確かにそうであっても具体的には少し違い
ます。本人は今の自分を評して「これじゃあ
デカくて鈍い普通の奴と一緒だ」と言ってい
ます。瞬発力に欠け、ボールが足につかな
いのです。
 不調の原因は、ずっとジョシのプレイを見
続けていた私にはハッキリわかりますし、家
や公園でやっている毎日の練習でも兆しを
感じていました。原因は腰高、重心位置が高
いのです。
 ジョシはサッカーをはじめた頃から腰高で、
何度注意しても意識が散漫で歩幅を広げて
重心を落とす姿勢が維持できませんでした。
二軸動作やジンガを覚えていく過程で、集中
力が高まる勝負どころでは相撲取りのように
自然に腰を落として踏ん張るのですが、やは
り独りで練習する時は散漫でただこなすだけ
になっています。勝負どころで自然に重心が
落ちるのだからと黙認していましたが、普段
の練習の手抜きがこういう形で出てしまうの
です。
 結局このレポートで動画を撮影したのが役
に立ちました。私のイメージの中にしか存在
していなかったトップフォームのジョシは、沢
山の映像としてパソコンに残っているので
す。百聞は一見に如かず。さすがにあまりい
うことを聞かないジョシも今回はハッキリ自
覚できたようです。
 来週からはトップフォームのジョシが、手強
い南米育ちの大人達と互角にやりあう姿を
動画とともにレポートできると思います。 


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こうやってプロを目指していく