アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチン レポート その1

その1 アルゼンチン在住 モーゼさんからのお便り
  2006年 2月 24日 モーゼさんより

 昨年秋より、神奈川県の小田原市から
地球の反対にあたるアルゼンチンのブエ
ノスアイレスに移住してきました。
 家族は妻と12歳でプロのサッカー選手
を夢見る男の子が一人です。息子の胸に
は大きな夢と、手には「リフティング&ジン
ガバイブル」がありました。
 まだ正規の移住手続きは済んでいませ
んが、私の夢は自分の牧場を開き競走
馬を日本で走らせることです。
 息子は体が大きく足が速いのですが
(167cm、50m7秒前半)、積極性が足りず
日本の少年サッカーでは活躍できません
でした。
 私は息子をなんとか上達させてやろう
と思い、ピンポン玉でリフティングをさせ
たりビーチボールでボールタッチをさせ
たりと、様々な練習を考案し、ナンバ走
りや腸腰筋の強化、初動付加理論も研
究して実践させました。
 なかなか飲み込みの悪い子で成果は
あまり上がって来なかったのですが、
だんだん点が取れるようなり、「普通の子
よりは上達したかな」と、思えるぐらいに
はなってきていました。
 ただ、サッカー先進国で本当に生き残
ってために、決定的な武器を持ち合わせ
ていないことが不安で、
 「行けば自然と上達して何とかなる」と
いう楽観よりも、「息子の人生を台無しに
してしまっては取り返しがつかない」
 という不安な気持ちを常に抱いてい
ました。
 昨年の 7月末、そんな私が書店で手に
取ったのが「リフティング&ジンガバイブル」
でした。当時は息子にDVDをみせてフェイ
ントを真似させようと思い、DVDが付録の
書籍ばかり探していました。
 技術本の連続写真では子供に理解させ
るのに手間がかかりすぎるのです。
 バイブルを立ち読みして衝撃を受けた
のは、ペンギンリフティングやロボットリフ
ティングへアンチテーゼを送っていること
でした。
 小学生の息子はすでにリフティングを 
500回はできたのですが、いわゆるロボッ
トリフティングで膝を痛めてしまっていまし
た。
 他にリフティングが上手な子は押しなべ
てペンギンリフティングをしているので、
常々「あれでは実践で役に立たない」と
真似をさせないようにしていました。
 バイブルは本物のリフティングを理路整
然と展開し、ウェーブでボールを扱うことこ
そが「ボールと友達になる」ことだと私に強
く迫ってきました。
 キャプテン翼世代の私にとって「ボールと
友達になる」ことこそがサッカーの全てだと
常に考えていました。そのひとつの形として
「常にボールの中心へ足を当てる」ことが
大切だと考えて、ピンポン玉でリフティング
をさせました。
 また、「大きく動かすことは誰でもできる、
ほんの少しを思い通りに動かすのがコント
ロールだ」と考えて、ビーチボールでボー
ルタッチをさせたりしたのです。
 話が何度も逸れましたが、バイブルに出
会って以来、ウェーブこそが「ボールと友達
になる」ことだと確信しました。
 そして、ロナウドやロナウジーニョの出現
以来一躍注目を集めたジンガ。
 これをDVDのケンは横ウェーブで見事に
体現していました。
 私も体を動かしてみました。そしてすぐに
気づきました。
 この横ウェーブとは私が日々取り組んで
いるナンバそのものだったのです。
 巷を騒がす初動付加理論・ナンバ・ジン
ガ。
これらは全てウェーブで繋がっています。
 なるほどペレも認めるわけだと感服してお
ります。
 息子がウェーブに取り組んではや半年。
実は息子はジンガABCのステップを会得し、
ウェーブリフティングも 100回はできるよう
になりました。とは言っても肝心のウェーブ
はまだまだ漣ていどで、自然に相手がバ
ランスを崩すレベルにはありませんが・・・。
 現在はカテゴリーの問題もありプロチーム
の下部組織でプレイできてはいないのです
が、
渡米後すぐに所属したフットサルのブエノス
アイレス市内昨年チャンピオンチーム「コベ
ル」ではすでにエースストライカーになりつ
つあり、4月から始まる公式リーグ戦を心
待ちにしています。
 練習生の身分ではありますが、来年は強
豪のリバープレートに所属する予定で、こ
ちらも期待と不安で胸がいっぱいです。
 ジンガがあればこの世界でやっていけ
る・・・。
 このことを信じて日々体を揺らしていき
ます。 
 



その2 ブエノスアイレスの町の中は・・・。
 2006年2月24日
 私の息子は本当のサッカーボールを使っ

練習があまりできない環境にいます。 
 アルゼンチンといえば人口密度が信じられ
ないほど低く、地平線の彼方に家がポツリポ
ツリというイメージを持たれがちでしょうが、
それは半分正解で半分はそうではありませ
ん。 
 ケンはアルゼンチンでパフォーマンスをし
たことがあるのでよく解っているのでしょう
が、
首都のブエノスアイレスは総人口の 40%ほ

が密集し、人口密度は東京 23区内と大差な
いので はないでしょうか?。
 庭付き一戸建てなどはまず存在しません
(中心地を離れると状況は違います)。 
 都市区画が大変整備されていて、道路は
碁盤の目(京都市内をイメージしてください)
で一方通行ばかり。
 どこでも車が走っています。また交通量も
多く、運転マナーも世界的にかなり乱暴な
レベルだと思います。 
 よく「南米のテクニシャンはストリートサッ
カーで遊びながら自然に技術を身につける」
いわれていますが、少なくともブエノスアイレ
スの中心部にはストリートサッカーが存在し
ません。
 まあ、首都なので当然といえば当然なの
ですが・・・。 
 学校の校庭もコンクリートで、バレーボー
ルが 2面ほど作れるていどです。空き地や

場もありません(噴水やモニュメントがある庭
園公園はそこかしこにあります)。
 さらにもっと大きな(些細な?)問題が・・・。 
 ペットブームというか、特に犬は家族の一
員という感覚なのでしょうね。セントバーナー
ドやマスチフやグレートデーンといった超大
型犬が、運動不足解消のため人通りの多
い道を闊歩しています。本当にみんな大きく
て、シベリアンハスキーが小さく見えてしま
います。犬の散歩屋なる商売もあり、エスキ
モーのそり犬のごとく大型犬の大群を一人
のバイトが引きずられるように街を練り歩
いています。
 そして・・・。 
 この犬たちが歩道の真ん中に糞をします。
動物は運動をすると糞をしたくなるそうです
が、散歩中の大型犬が代わる代わる、とん
でもない量の糞をします。
 誰も片付けません。飼い主が一匹づつ散
歩していても糞は片付けません。街は糞だ
らけで真っ直ぐ歩けません。よそ見をしたり
考え事をしたり、何かに見とれたり、かっこ
いい車や綺麗な女の人とすれ違っても見と
れたり、気を抜いたりできません。
 公園も犬の散歩コースになっていますが、
もっと糞がいっぱいあります。 
 公園は臭いです。歩道も所々臭いです。
私はこの理由でブエノスアイレスがあまり
好きにはなれません。
 妻も息子も柔らかいのを一度づつ踏んづ
けてしまいました。
 私は今のところ大丈夫ですが、夜の薄暗
がりの中では自信がありません。 
 話が逸れましたが、サッカーをする所が
市街地には無いのです。ドリブルをしなが
ら学校に通う子供もいません。 
 なので、子供達はフットサルをしています。
 前出の校庭も子供達はバレーボールや
バスケットボールはせずにフットサルをして
います。
 女の子も果敢にドリブルを挑みシュートを
打ちます。休み時間は学年ごとに校庭を使
える曜日が決まっていて、あぶれた子供達
は屋上でフットサルをしています。街中も、
駐車場のようなスペースやビルの屋上、
高速道路の高架線の下などにもフットサ
ルのスペースがあります。
 プロサッカーの育成機関は 13歳からな
ので、ブエノスアイレスの子供達は日本の
小学生のように週末 ごとにフルコートで
サッカーをする機会はあまりありません。 
 息子の練習場所は、週に三回フットサル
チームの練習がある他は専ら家の中です。
 はじめは家の中でウェーブリフティングを
やっていたのですが、階下の住民から激し
いお叱りを受けて継続できなくなりました。
 また、ケンの意見に逆らうつもりはないの
ですが、子供達にとってサッカーイコール
フットサルなので、普段扱うボールはフット
サル用の低反発ボールとなります。
 少年サッカー用の 4号球は売っ てませ
ん。 
 以上の理由から息子はいわゆるサッカー
ボールを使った練習はあまりできず、音が
しないように工夫しています。もちろんそれ
ではウェーブをモノにできないので、サマー
バケーションシーズンの今は学校にお願い
して校庭を一人で借り切り、毎日ウェーブリ
フティングを特訓しています。ジンガは家の
中でもできるので、moちゃんのように一部
屋使って ボールコントロールの練習を続け
ています。 
 ケンの指摘のとおり、今後は上半身のウ
ェーブを特訓していこうと思います。
 場所は、自宅マンションの屋上が適当な
のではないでしょうか。実はここでウェーブ
リフティングの練習や壁打ちでトラップの練
習をさせていたのですが、 6階 から交通量
の多い道路へボールを蹴り出し、あわや
大事故という事件もありました・・・。
 足で蹴らなければ大丈夫でしょう。 
 実は、息子がサッカーボール以外のボー
ルを使って練習をしていたのにはもう一つ
理由が・・・。 
 息子は初めサッカーに積極的でなく、夢
は日本代表と言いつつも、暇さえあれば
ボールを蹴っているようなことはなく、TV
ゲームばかりしていました。
 私が夜に帰宅すると、サッカーのことは忘
れてゲームばかり。
 「本当にプロになりたいの?。」と聞くと
「なりたい!、明日から練習する」と、そして
翌日もゲーム・・・。一
 時期は星空の下に公営体育館の駐車場
で毎晩練習に付き合ったこともありました
が、
雨が降ればできませんし、こちらがしんどく
なって室内でも練習できる方法を考え出した
のでした。 
 今では自分から練習するようになったの
で、「夢は日本代表」の言葉に期待してい
ます。  
 



その3 アルゼンチンの子供サッカー状況 その1

  2006年2月27日 その1
私のようなアルゼンチン初心者が思い込み
だけでレポートしては、本当に地球の裏表
に迷惑をかけてしまうので、詳しいお話はも
う何日か後にさせてください(3月から新年度
なので世間はいまだバケーション中です)。 

 先日もお伝えしたとおり、プロサッカーの
下部組織は13歳からです。それ以下の年齢
の子供達にはチームのサポーター(ソシオ)
の子息のみを対象に週に一度ていどのサッ
カースクールがあります。これは、心の中で
サポーターになっているだけでは許されず、
ちゃんとクラブ(アスレチッククラブ)の会員
(ソシオ)になっていなければなりません。 
 実はクラブ側は副収入になるのだから誰
でも受け入れたいと思っているのですが、一
緒にレッスンを受けるソシオの父兄が自分
のクラブに他所のサポーターが出入りする
のを嫌がるからです。
 よそ者(他クラブのサポーター)は敵ですか
ら。 
 レッスンは練習グラウンドではなく、プロが
実際に試合をするホームスタジアムでやる
そうです。こう書けば察しがつくと思います
が、実態はあくまでファンサービスの一環で
あり、クラブ側も集めた子供の中からプロの
原石を探して磨き上げようという気持ちはな
いようです。 
 ちなみに何年かサッカースクールに通って
いた子供が息子のクラスメートにいるそうで
すが、その腕前はというと「ドリブルは巧い
けど全体的にたいしたことない」ということら
しいです。 
 以下はフットサルの話になりますが、ドリブ
ルが巧いという話ついでに子供達のプレー
スタイルもお伝えします。
 皆さんのお察しの通り基本はマラドーナで
す。
ただ凄いことは、下手な子供もマラドーナ気
取りでどこからでもドリブルを仕掛けます。
 ゴールキーパーも果敢にオーバーラップを
するというか、パントキックはせずにゴール
マウスからドリブルを始めたりします。
 だから、つまらないからといってゴールキ
ーパーをやりたがらない子供はあまり見か
けません。
 ゴールが空になってもコーチは何も言い
ません(勝ち負けのかかっている公式戦で
はこんなことはないと思います)。 
 コーチが何も言わないということについて
は、ある程度割り切った部分もあり、日本
のコーチも見習って欲しいことがあります。
まずコーチはミニゲームでファールをほと
んど取りません。ハンドも故意でなければ
(故意であっても?、ワールドカップでも見た
っけ?)まず取りませんし、ラインアウトもあ
まり気にしないことがあります。
 基本はプレーを止めないのです。 
 ファールスローも不恰好でなければ注意
しませんし、エンドライン近くでボールアウト
したスローインをハーフラインまで助走して
もOK。ファールがないので子供達はマジ
に潰しにかかります。服も引っ張るしガンガ
ン削ります。実の兄弟でも兄は年の離れた
弟を当然のように潰しています。この時に
危険なプレーがあった時のみ「イエローカ
ード!。」といってファールを取ります。
 私はこれでいいと思っています。 
 コーチがプレーを止めないことを強調しま
したが、逆に頻繁に止めることもあります。
それはポジショニングが悪いときです。
 ミニゲーム中であっても、FWがDFにパス
コースを潰されているのにボールを要求し
たりするとすぐに止めています。子供達の配
置を直前のプレーまで戻して状況を再現し
 「ボールホルダーが見えるか」
 「トラップしたときにシュートコースがある
か」
などと子供に問いかけ、当然のことを理解さ
せます。 
 まあ考えてみればサッカーのポジショニン
グは理詰めでいけば当然のことばかりで
す。
 本人が自分で考えても人が教えても結果
は同じなことが多いので、私の見る限りコー
チはロジカルなことをよく教えています。 
 例えば「目の前に一人か二人しかDFがい
ないときはドリブルを仕掛けてもいい、三人
のときは(フットサルのフィールダーは四人
なので)逆サイドが必ず空いているからサイ
ドチェンジしなさい。」「君は右のアタッカーだ
から、君の後ろからオーバーラップしたとき
は一緒にゴール前まで行ってはいけない。
 スペースを埋めなさい。」という具合です。
 私達親子はスペイン語がしゃべれないの
で、コーチが英語で指摘したことを私が通訳
しています。こういう指摘は毎回いろんなケ
ースで行われています。 
 そういえばチームに入ったときに「息子は
アタッカーか?、ディフェンダーか?」と聞かれ
ました。
 「本人はFWがやりたいみたいです」と答え
るとしばらく息子のプレーを見て
 「よし!。あいつはアタッカーだな!」と言い、
それ以来息子がミニゲームではあってもデ
ィフェンシブなポジションを指名されることは
ありませんでした。見た限り、ディフェンシブ
なポジションは責任感の強そうな子が
 「結局俺かよ」みたいな感じで毎回自然
に決まってしまいます。
 別に攻め気がない訳ではないので、当然
の如くどんどん攻撃参加していますが、自
然とパスプレーが多くなっている感じがしま
す。 
 言いたいことは、結局ポジションは自然に
決まるのです。全員で攻めていても勝負に
こだわる子はディフェンスに戻っていきま
す。
 ゴールにこだわる子と、勝負にこだわる
子は同じぐらいのスキルがあっても役割が
自然と決まっています。だから、コーチはミ
ニゲームのチーム分けでも常に意図を持
った人選をしています。 

 来週に続く 
 



アルゼンチンの子供サッカー状況 その2
  2006年2月27日 その2

 ここで少し別の話を展開したいのですが、
日本の少年サッカーは本気の子と体力づ
くりの一環の子が混在しています。いわゆ
る強豪チームではあっても、セレクションが
ないチームは子供達のモチベーションにば
らつきがあります。 
 前出のとおり、アルゼンチンの子供はみ
んなマラドーナ気取りで、あまり上達してい
ない子もまずはドリブルで抜くことばかり考
えています。なぜそうなのか?。 
 その一つの答えは、サッカーの練習の
ときに子供は自分のボールを持ってきま
せん。
 フットサル用のボールが安く売っていな
いこともあるかもしれませんが、そもそも
有料のチームに入っている子供はボール
一つ買うのに不自由はしていないはずで
す。
 私はこれが重要なことだと思います。 
 練習が始まる前、子供達はサブのコート
で遊んでいます。そこにはボールがたった
一つ。子供達は自然に奪い合います。
 フェイントをかけ、全力で逃げます。
 ボールが欲しい子は追いかけ、服をつ
かんで削ります。苦しくなると相手をかわ
して、味方になってくれそうな子にいきな
りパスをしてリターンパスを要求します。
 パスを受けた子はなんとなく進行方向を
決め(パスは返さない)、ボールを奪われる
前にシュートをします。その子達がシュー
トばかり決めていると、あとから来た子が
自然にボールに飛びついてセービングを
して、そのこぼれ球をクリアする子と、押し
込もうと飛び込んでくる子が自然に増えて
いきます。誰も「ゲームしようぜ」なんて野
暮なことは言いません。
 「俺達が先なんだから入って来るな」な
んて小競り合いもありません。 
 この国はサッカーが好きなのは当たり前
なのです。そんなことは日本にいる皆さ
んもご存知でしょうが、サッカーが好きな
うえに、プレーするのが好きな子と、観る
のが好きな子がいます。プレーするのが
好きじゃない子は前出の自然発生したミ
ニゲームには参加しません。親に連れら
れてチームに来ても、一ヶ月以内に辞め
ていきます。辞めても誰も気にしませんし
、コーチも何も言いません。親も挨拶に
来ません。自分がドリブルしたい子だけ
がチームに残ります。あまり上手くなくて
もです。 
 皆さんお気づきでしょう、このあまり上手
くない子がすぐに上達することを。こんな
サッカーをいつでもどこでもやっているん
じゃないかって。 
 日本の少年サッカーはウォーミングアッ
プに使うからと全員ボールを持ってきます。
練習が始まる前。休憩中。ほとんどの子
供がボールを椅子代わりにして座ってい
て、「サッカー大好き」な子だけがリフティ
ングしたりシュート練習したりしています。 
 「うちの子は本当にサッカーが好きなん
でしょうか」なんてお母さんが言います。
 コーチは「自主的に練習しなくてもサッ
カーを好きになることが大事」と言います。 
 本質的なプレーの楽しさがわからない
子は、自分から本気になるのは無理です
よね。 

 アルゼンチンのバビーフットボルが時
々話題になるようですが、実情は日本の
小学生ぐらいの子と変わらないと思います。
 ただ、自分はプレーヤーなのか、ファン
なのか。その選択が日本の子供よりも早
い気がします。 
 昼間に街を歩いていると、小さな子供が
沢山集まって思うままにボールを蹴っ飛ば
している光景を時々見かけます。
 あれがきっとバビーフットボルなのでし
ょう。息子のチームもやってます。
今度よく見てみます。 
      今回分 終わり 
 



その4 「カンチャ・デ・フットボル・シンコ」ってなんだ?
    3月6日

 ご無沙汰しています。Mosesです。 
 息子は今日から新学期で、ダラっと通学し
ていきました。フットサルの方はまだバケー
ションで、再開は来週の火曜日です。 
 前回、プロチームが主催する少年世代の
育成活動はファンサービスの一環であると
ご紹介しましたが、もちろんそれだけでは
ありません。
 子供達がフットサルばかりしているという
状況は変わらないのですが、そもそもアル
ゼンチンには「フットサル」という名称の競
技は存在しません。
 ブラジルやヨーロッパ諸国がそれぞれ長
い歴史を持つインドアサッカーを、アルゼン
チンも独自の伝統の中で育んできました。
 (発祥の地はウルグアイだという説があり
ます)。 
 アルゼンチンでは「カンチャ・デ・フットボ
ル・シンコ」と呼ばれています。
 直訳すれば「屋内の五人制サッカー」で
す。
 要するにフットサルなのですが、呼び方が
違うよっていう話です。
 ただ、床は板張りではなくてカーペット
(絨毯)です。このカーペットの上に消しゴム
のカスみたいなラバーチップをふんだんに
撒き散らしているので、滑りと衝撃の吸収
に一助があるようです。
 おかげでGKはよく飛びますし、チャンスと
見るや子供達は躊躇なくボールに突っ込
みます。 
 このカンチャ・デ・フットボル・シンコ=
(以下フットボル5)は至る所に存在するとご
紹介済みですが、一般的な市民がプレイす
るためには、わざわざチームに入らなけれ
ばいけないというわけではありません。 
 ブエノスアイレス市内には日本のコンビニ
と同じ数ぐらいのフィットネスクラブがあり、
体型の崩れた中高年が目立つ割には市民
生活に浸透しています。
 小さいものはウェイトマシーンやウォーキ
ングマシーンといった設備があるだけです
が、少し大きくなると屋内プールや小ぶりな
体育館、チェスのサロンもあります。
 もちろんここにフットボル5の設備もあり、
クラブの会員はプレイの質を問わずに自
由に参加できるというわけです。 
 つまり、こういったクラブが大きくなるとプ
ロチームを持つ複合施設に発達するとい
う流れになるわけです。
 有名な「ボカ」や「リーベル」などの大きな
チームは「アスレチッククラブ」と名乗って
いますし、他の中小のプロチームは「ヒム
ナシア(Gimnasia)」=ジムと名乗っている
チームが沢山あります。
 それぞれのクラブはプロサッカーの成績
だけを競うのではなく、バスケットボールや
バレーボール、ボート競技などでもライバ
ルです。 
 ご存知の方も多いと思いますが、チーム
のサポーターはソシオと呼ばれ、単なるフ
ァンではなくプロチームが所属するスポー
ツクラブの利用会員なのです。
 Jリーグのほとんどのクラブがサッカーチ
ームしか持たず、サポーターはファンクラ
ブの会員と大差ない状況とは大きな違い
があります。
 海外のサポーターが生涯チームを愛し
続けるのは、根本的には「母校」を応援す
る気持ちに近いものがあるようです。
 もちろん純粋なサッカーファンとしてクラ
ブのソシオになる人の方が今は多いので
しょう。 
 そして、ソシオの子息がスポーツと出会
うのは学校ではなく、物心つく前から週末
ごとに両親と通っているクラブの中になる
のです。 
 「バビーフットボル」は子供サッカー教室
と考えて差し支えないと思います。
 日本のように指導者が幼稚園を巡回し
たり、ビラを配ったりして子供を集める必
要はなく、ソシオの大人が連れてきた子供
を集めて子供は子供同士、大人は大人同
士でそれぞれクラブの施設で楽しむ。
 こういった構成だと思います。 
 息子が所属するチームはフットボル5だけ
で他の運動施設を持たないのですが、チ
ームに通う子供の何人かはお父さんも大
人のチームに所属しており、子供達の練習
と入れ替わってお父さんが現れると、お父
さんが終わるまでサブコートで同じようにお
父さんを待っている子供同士でミニゲーム
を続けています。  
 日本の子供がサッカーと出会う時は、試
合を観たり友達が習い始めたり。子供の
「サ
ッカーしたい」という一言から始まります。
 「お父さんがサッカーやっているから」とい
うケースは稀です。
 子供達に聞いても「幼稚園の時に始めた」
「小学校何年の時に始めた」と、「始めた」と
いう言葉が必ずついてきます。 
 アルゼンチンは、ある意味自分の意思と
は関係なく、物心つく前からすでに出会って
います。だから外国人Jリーガーにサッカー
との出会いを聞いても「何歳の時にクラブに
入った」としか答えが返ってこ来ず、どうして
サッカーを始めていつからプロを目指したか
という込み入った話はありません。 
 日本の子供もプロ野球なら「家族がジャイ
アンツファン」とか「息子とキャッチボールし

い」といった話はあるので、自然にプロを目
指す土壌があるのですが・・・。
 Jリーグのテレビ中継が少ないのは残念で
すね。 
 話は変わって、息子は明日から「学校のチ
ーム」に参加することになりました。
 当初「日系人ばかりで下手だから面白くな
い」と言って渋っていましたが、有料のチー
ムやアスレチッククラブに通えないハングリ
ーな境遇の子供達と技を競うためには学校
のチームに入るしかない事に気づきまし
た。 
 プロチームのセレクションで合否を争うの
はこういった子供達のはずなので、 
 ゲーム形式はフットボル5です。練習場所
がないのですからサッカーはできないので
す。
試合はまだ先なのですが、明日の夜、息子

らどんな話が聞けるのか楽しみです。   
 



その5 バビーフットボルのレポートです。
   3月25日
  お待たせしました。
バビーフットボルのレポートです。
 最年少の5歳児クラスを見学してきました。 
 御想像に難しくないように内容は子供サッ
カースクールです。
 子供たちも目を見張るような技術を持って
いるわけではなく、ただボールを手を使わず
に動かしているに過ぎません。
 アルゼンチンの他の年代のトレーニングと
比べてみると、珍しく全員にボールを渡しま
す(自前ではなくチームのボール)。
 ボールを受け取るとゴールへ向かって次々
に走り出し、ゴールにボテボテのシュートを
蹴り込み、ネットからボールを取り出してま
た反対側のゴールへ走り出していきます。 
 少し気になったのですが、子供たちはシュ
ートのときにステップを合わせず、右でも左
でも構わずタイミングの合ったほうでシュー
トをしています。
 他の年代を見ても左でボールを扱う子の
数は日本より多くいます。
 私は日本の幼稚園児のサッカーを見たこ
とはありませんが、日本でも幼稚園からや
っている子は右利きでも左でボールを扱う
子が多いような気がします。
 ただ、日本もアルゼンチンも両足でボー
ルを扱えるようになる子は少ないですね。 
 はじめは子供たちが自由にボールと走り
回るのを放っておくのですが、やがてコーチ
がコートに入り、手当たり次第に子供のド
リブルを止め始めました。
 ボールを奪うのではなく、プレッシャーを
かけるために行く手を阻んでいる感じです。 
 子供は必死に逃げてスピードを上げます。
 全くいい練習だと思いました。 
 コーンを置いて別のドリブル練習を始め
ました。普通にモタモタとコーンにぶつけな
がら順番に進んでいくのですが、全部コー
ンをクリアすると最後はキーパーの立って
いるゴールに向かってシュートをします。
 このシュートを打つ前の子供たちの表情
といったら、みんなニコッとキーパーの目を
見て笑い、ワクワクしながら蹴るのです。
 ゴールすると喜びを爆発させます。大勢
の親も見学しているのですが、毎回拍手
が沸きます。見ていて只々微笑ましく、平
和な気分になりました。 
 次は同じ練習を両手にボールを抱えて
やらせていました。ボールが自分の頭より
ずっと大きいので、ボール無しでやったと
きにうまくいった子もバランスに苦労しな
がらさらにモタモタ。しばらく見ていて気づ
いたことは、下ばかり見ていた子供たち
の背筋が伸びているのです。
 どうやら前かがみになるとボールを落とし
てしまうので、自然に背筋を伸ばしている
ようです。
 シュートもボール無しより余裕がなく、き
ちんと打てない子が若干増えていたよう
です。 
 最後は恒例のミニゲームです。
 ちなみにアルゼンチンのサッカー練習は
ミニゲームばかりです。
 学年が進むとミニゲームに一工夫してゲ
ームでの動きを身につけさせているのです
が、さすがにこの年代は手放しです。
と、思っていたら・・・。 
 コーチがミニゲームに入って来ました。
 ここでアルゼンチンに来て何度か見た
一風違うミニゲームを紹介します。
 一人だけ色の違うビブスを来た子が入
ります。この子は常に攻撃側の味方で、
攻守が入れ替わるたびに別のゴールを
攻めます。当然この役目をこなせるのは
実力が抜け出ている子供だけで、コーチ
の狙いに合わせたプレーをします。 
 さて、バビーフットボルのミニゲームです
が、この時のコーチはやはり攻撃側の味
方でディフェンスはやりません。さらに基
本は審判で、局面でのみパスを受けて、
しばらくキープしていました。この後のプレ
ーで、私は唸ってしまいました。 
 5歳児なので当然団子です。
 コーチがサイドでキープするボールへと、
敵も味方も群がっていきました。
 そして、一人だけフリーで逆サイドのゴ
ール前へと団子から離れていく子供が現
れ、その子めがけてサイドチェンジのパス
が出て、ダイレクトシュートが決まりました。 
 この子は去年からの在籍で、いつもサブ
コートで遊んでいる子です。
 逆サイドで待っていればコーチがパスを
くれるのを知っているのです。 
 まだ新年度が始まったばかりですが、
このプレーを何度もやっていれば、他の子
も逆サイドでフリーになる感覚を身につけ
るでしょう。そして、守る時もゴール前でフ
リーになる敵をつくってはいけないことに
気づきます。
 団子が段々ばらけていく未来の姿が私の
頭に浮かびました。 
 5歳児といえば言葉では教えられない年
齢なのかもしれませんが、一本のパスが
いろいろなことを教えてくれるのだと思い
ます。  
 



その6 アルゼンチンリーグの話題をひとつ
 3月25日
 
 さて、話は変わってアルゼンチンリーグの
話題をひとつ。 
 アルゼンチンリーグは昔のJリーグと同じ
2ステージ制です。優勝候補は常にボカと
リーベルで、あまりに関心が高いためにこ
の2チームの試合はどんなカードでもTVで
は有料放送になっています。
 つまり、普通ではTVで見られないのです。 
 このほかにもインディペンデンテ、ラシン、
サンロレンソが長い歴史を持つ強豪チーム
で、この5つのビッククラブは「ペンタゴナル
(ペンタゴン)」と呼ばれています。
 また、この5チームのどの組み合わせでも
「クラシコ(クラシック)」と呼び、特にボカとリ
ーベルのカードは「.スーペルクラシコ(スー
パークラシック)」と呼ばれています。 
 私たちがアルゼンチンに到着した去年の
秋(当地では春)はボカが優勝街道をばく進
中で、リーベルは何連勝かできれば首位に
手が届くかもといったところでした。
 そんな中でリーベルがホームのスーペル
クラシコがありました。 
 試合前の一週間は、チケットの前売り場
でもサポーターが暴れだして警察沙汰に。
息子がどうしても観たいと言うので当日の
朝チケットを手配して、市価の三倍するチ
ケットを手に入れて観戦に出かけました。 
 結果を先に言うと0-0で引き分け。
メディアではリーベルの善戦が伝えられて
いるようですが、現地で見た私たちにとって
は凡戦もいいところ。双方無得点というこ
とはゴールシーンが無かったわけで、最高
のカードでのアルゼンチンサッカー初体験
を期待していた私たちはガッカリしました。 
 しかし会場の雰囲気は「さすが」という感
じで、チケット代は高すぎたけれどいい経
験になりました。 
 特にホームの選手が入場した瞬間は天
地を揺るがす爆発的な歓声と、名物の紙
吹雪が乱れ飛び大興奮です。
 この紙吹雪はよく風に舞い、何十メートル
も上空をいつまでも飛んでいるのです。
 足元に落ちてきた一枚を拾ってみるとチ
ームのオフィシャルスタンプが。こんなもの
まで売っているとは。別の一枚を拾い上げ
ると、当日のパンフレットが破られて撒か
れたものでした。 
 アウェイの選手が入場した時は罵声の
嵐。
 相手を罵る応援歌の大合唱が始まりまし
た。この応援歌は何種類かあるのですがほ
とんどは相手を罵倒する内容のようで、歌
うときはゲームの流れをチラチラ見ながら
相手のサポーターに向かって歌っています。
 つまり、これはボカとリーベルがサッカー
の試合をしているのではなく、アスレチック
クラブのボカとリーベルの会員がスタンドで
戦っているわけです。
 ここはJリーグと決定的に違います。 
 試合の観戦中はコーラやアイスクリーム
の売り子まで客席に座り込んで、自分の売
り物を食べながら観戦していました。
 みんなが夢中になってゴールを待ち望ん
でいたのに、最後までアウェイチームのゴー
ルを割れなかったのは本当に残念です。 
 試合が終わってもホームのサポーターは
帰りませんでした。なぜかというとアウェイの
サポーターが帰るまで帰らないからです。
 今回はアウェイが負けなかったから強気
を出してなかなか帰りませんでした。
 言葉はわかりませんがきっと連中もホー
ムを罵る歌を歌っていたのでしょう。
 結局試合終了後2時間近く帰れませんで
した。 
 さて、今週の日曜はまたスーペルクラシコ
があります。今回はリーベルがダニエル・
パサレラ(98年フランスW杯のアルゼンチ
ン代表監督)という大物監督に交代して現
在首位。戦い方も奔放なドリブル突破ばか
りではなくなり大変安定しています。
 好ゲームが期待できます。 
 でも私はスタジアムに行かずに家で有料
放送を見ます。観戦すると行き帰りに疲れ
るし、私はまだどちらのサポーターでもあり
ませんので。来年は息子がリーベルに入り
私たちもスタジアムの近所に引っ越します。
そうなったら時々観戦しようと思っていま
す。  
 



その7 ボカとリベール と私の回り
   4月2日
 
 今年のスーペルクラシコ一回戦はボカのホ
ーム・ボンボネーラで激突しました。
 ボンボネーラとはお菓子箱だかオモチャ箱
だか弁当箱だかという意味です。要するに客
席が高く切り立った四角いスタジアムです。
 世界で一番アウェーが勝つのが難しいとい
われているそうです。
 サポーターも気が荒いです。
 年末の南米選手権で優勝した時は、サポー
ターが歓喜のあまりなぜか暴れ出し、中心街
の商店などに投石したり道路を壊したりして
いました。試合に勝って暴れられてはたまり
ません。 
 さらに言えばアルゼンチンの4割とも7割とも
いわれる人たちがボカのサポーターです。
 最近は財政状態も良く、ライバルのリーベル
が億万長者のチームといわれていますが、
実際は金持ちなのはボカのほうです。
 このチームは育成があまりうまくないようで、
トップチームに下部組織出身者が少ないです。
その分ギャラクシーのように目ぼしい選手を
買い集めています。
 チームのスタイルはカウンターが得意で、年
間を通して失点が少ないのも特徴です。
 だからホームではあまり負けないのでしょう
ね。 
 リーベルは金持ちのイメージに反して財政は
赤字だそうです。サポーターも国内では2割ぐ
らいという統計が新聞にありました。その記事
でボカは4割だったんですが、なぜか皆口々に
7割と言うのです。
 ちなみに子供の文房具をチームのグッズで
統一しようとしても、スーパーや文具店ではこ
の2チームのグッズしか手に入りません。
 でもなぜかカー用品のちょっとしたアクセサリ
ーならペンタゴナルの5チーム分が売っていま
す。 
 市内交通の半分を占めるタクシーには、大抵
チームのグッズと十字架がぶら下がっていま
す。
 「おじさんどこのチーム?」
 とわかっていても尋ねると嬉しそうにグッズ
を指します。
 英語がわかる人なら盛り上がるし、日本人だ

話すと「ラモン・ディアスとビスコンティーがヨコ

ママリノスにいただろ」と言われます。そう言わ
れると私も嬉しいんですよ。
 なぜかメディナベージョの事は言われませ
ん。 
 リーベルの育成は優秀なようで、下部組織の
出身者が多数スタメンに揃っています。
 ただし、財政面に不安があるので選手を買い
集められないという背景もあると思います。
 実際に近年の成績はボカにリードされっぱな
しです。チーム戦術はひたすらドリブル突破。
最近は中盤が四人ならダブルボランチが主流
なのにリーベルはワンボランチです。
 だからボランチの出来がチームの浮沈に大
きく関わっていると思います。
 今年はパサレラ監督に代わってリーグの首
位争いをしていますが、スタメンのボランチが
入れ替わったことが影響していると私は睨ん
でいます。 
 もともと守って勝つよりも点を獲って勝つスタ
イルのようで、ゴールも多いけど失点も多いみ
たいです。 
 長い前置きを読んでくれてありがとう。
 読んでない人は今一度お願いします。今後の
話がわからなくなるかもしれません。こんなの
知ってた人は、今度私にも色々教えてくださ
い。
 さて、スーペルクラシコの話を聞いてくださ
い。 
 荒れました。前半はリーベルが押せ押せで優
位だったようですがなかなかゴールを割れませ
んでした。
 私はテレビにかじりついていることができず、
息子が時々実況してくれていました。雑用を済

せて40分過ぎにテレビの前に座ると、リーベル
の皆さんは私に気を使って待っていたかのよう
にビューティフルゴールを決めてくれました。
 最終ラインの手前に飛び出ていたDFの横でF
Wがトラップし、寄ってきた2人のDFを左右にス

ップしてかわしながらゴール右上隅にシュート。
 わかっていても取れないコースにボールが飛

でいきました。 
 いいゴールでした。
 ホームでは本当に負けられないボカのサポ

ターは大ショック。この感じは、ドーハの悲劇と
か、
日韓戦を韓国でやった時に日本が先制した感

に似ていましたね。
 リーベルの方はジョホールバルの歓喜といっ

ところでしょうか。天国と地獄をカメラが映しな

ら前半が終了しました。 
 後半が始まると、ちょっと妻に雑用を頼まれ

隙にボカのGKが退場してしまいました。
 VTRを見たら、なんとセンターライン付近でフ
リー
になったリーベルのエース・ガジャルドにGKが

当たり。
 なんでそんなことをしたのかは、「これ以上失

できない」という責任感でしょう。スーペルクラシ

の魔力ですね。その後は、足の裏をハッキリ見

ながらスライディングしたり、どんどん荒くなって

きました。遂にボカは二人目の退場者。超満
員の
スタンドはお通夜です。
 一方ゴリラがドラミングするように興奮するリ
ーベ
ル。スタジアムに行きたかったな〜。 
 もうロスタイム。ゴリラが胸を叩く!。ボカはトヨ
タカ
ップでリケルメと一緒に大活躍したベテランサ
イド
プレイヤーのギジェルモを投入。ギジェルモ切
り込
む、もう勝った気でいるリーベル。
 ペナルティーエリアでギジェルモ転倒。
 カードとPK。あーあ。 
 ヨーロッパで活躍しなかったエース・パレルモ

GKの逆をついてゴール。勝ちを逃がしたリー
ベル
と九死に一生を得たボカ。
 天国と地獄がひっくり返ってしまいました。
 ムンクの「叫び」みたいに皆顔に手を当てて
います。
これも見たかった。私はどっちのサポーターで
もな
いので、ゴリラでもムンクでもいいんです。 
 首位だったリーベル。しかしボカと同率2位だ
った
オルテガを擁するニュウエルスが勝ったので、
2位
に落ちました。ニュウエルスは地方都市の中
堅クラ
ブなのに遂に首位。さすがオルテガ。アルゼン
チン
のアントニオ猪木。リーベルも先日猪木にやら
れて
唯一の黒星をつけられてしまいました。
 実はオルテガとリーベルは当地の移籍市場
では
常に注目の的なのです。リーベルはかつての
エース
・オルテガを買い戻したいのですが、パスの保
有権
が分散しすぎてなかなか話がまとまらない。
 リーベルのサポーターにとってスーパードリブ
ラー
のオルテガは永遠のアイドルです。
 アゴは気にしません。なのに毎年オルテガに
やら
れています。手を抜いてほしいんですが、その
強さ
がまた魅力で。 
 このオルテガといいボカのギジェルモといい、
彼ら
はドリブルしながら直角に曲がりますね。特に
オル
テガはバイクのように身体を寝かしつけていま
す。
 ポイントは巧みなアウトサイドと体重移動だと
思い
ます。彼らは天然なので、真似できるかどうか
は不
明です。
 マッシーはここにどんな理論を見つけてくれる
ので
しょうか。 
 アルゼンチンリーグには日本人でも知ってる
名プ
レイヤーが活躍中です。活躍中と書いておいて
なん
ですが、去年は世界一汚いプレーをするとい
われて
いるシメオネがラシンクラブに移籍してきまし
た。
 残念ながら年内に引退するとのことですが、
います。
 彼は子供の頃からこのチームのファンだった
そう
です。それから元マリノスのアコスタとゴロシー
トの
コンビはサンロレンソにいます。
 今年はいるのかな?。ごめんなさい不確かな
情報で。
 元アビスパのトログリオは、とっくに現役を引
退し
てヒムナシア・ラプラタ(ラプラタ市のジムという

味)で昨年から監督をしています(ホントにごめ
んな
さい)。 
 このヒムナシア・ラプラタは昨年大旋風を巻き
起こし、最終節まで優勝争いをしてボカを脅か
し、リーグ二位の成績を収めました。トログリオ
監督の手腕もさることながら、このチームのエ

スもマスコミででメチャメチャ大きく取り上げら

ました。なんで「メチャメチャ」取り上げられたの

というと、ホームのリーベルに完勝したからで
す。 
 ボカとリーベルはホームで滅多に負けないの
です。それが完勝となると、活躍した選手はシ

デレラボーイになれます。彼は「たった60kgの
ファンタジスタ」という見出しで英雄になりまし
た。
名前はルーカス・ロボスといいます24歳です。
 もうアルゼンチンにはいません。スペインリー
グのカディスに売られていきました。おかげでト
ログリオのヒムナシアは昨年ほど勝てていませ
ん。これがアルゼンチンの実態なのですね。
スターはすぐいなくなってしまいます。 
 これからいなくなってしまうスターといえば、
ボカのロドリゴ・パラシオスでしょう。24歳です。
最近弱小チームから移籍してきたようです。
 彼はシャドーストライカーで、ペナルティーエ
リアの所々で現れます。だけどよく潰されます。
 私見ですが点は取るのですが単独だと?だと
思っています。スターウォーズのアナキン・スカ
イウォーカーのように、うしろ頭に変な飾りを
つけています。彼のせいじゃないと思いますが
この付け毛はアルゼンチンのティーンエイジに
大流行しています。
 彼はじきに欧州に売られていくという専らの
評判です。そのときは付け毛をやめているこ
とでしょう。 
 ボカは大エースでマラドーナの後継者として
マラドーナが直々に指名したテベス(以前は
アイマールが指名されていたはずですよね)を
失ったので、前出のパラシオの他にもう一人
スター選手を補強しました。
 今ボカのNo.10はこの人です。フェデリコ・イ
ンスア、26歳。彼は移籍前もペンタゴナルのイ
ンデペンディエンテでNo.10でした。年齢的に
海外は難しいかもしれませんが、私たちが渡
航した当初、日本人のサッカー留学生に
「テベスの次はインスアに注目だよ」と言われ
ていました。プレイスタイルはオールラウンド
なOHといった感じですね。 
 さて、このインスアを失ったインデペンディエ
ンテでは後釜が大活躍中です。この人は大
注目で、メッシーの次は彼に決まりです。
 名前はセルジオ・アグエロ。年齢はなんと18
歳、この前誕生日を迎えたばかりなので、
昨年は17歳でビッグクラブのNo.10を背負っ
ていたのです。まるで漫画ですよ。 
 これからU-20で活躍する年齢なので、将来
は無限の可能性を感じます。ポジションはセ
カンドトップですが、組み立てたり右にも左に
も現れて縦横無尽の活躍です。得点王争い
にも顔を出しています。今のところ2試合に1
点のペースです。 
 技術的にはファンタジスタという感じでもない
のですが、肩幅が広くて当たりが強いのです。
 身長は180cmに満たないのですが、もしか
したらもう一伸びあるかもしれません。
 前出のパラシオがすぐにすっ飛ばされるの
に対して、彼は競り合った末に崩されている
感じです。だからアッサリ取られるシーンは
少ないと思います。ルックスがあどけないの
で女性ファンもどんどん増えることでしょう。
 ちょっとジャニーズ入っています。 
 さて、もっと未来のスターの話をしましょう。
 我が息子のいるチームにも逸材がいます。
息子の同級生では一人、いや息子を入れると
二人かな?。レポートに信憑性がなくなるので
一人にしておきます。 
 彼はホアンといいます。苗字は知りません。
現在12歳でまさしく金の卵でしょう。どんな選
手かといえばオルテガやギジェルモのように
直角に曲がるのです。見たら動きが速くてビ
ックリしますよ。周りの子供とは明らかに違う
スピード感覚を持っています、スピードという
かクイックネスですね。彼は栄養失調なのか
と思うぐらい細身で、ピノキオのように全く肉
のない手足をしています。だから、彼は筋力
ではなく重力で加速しているようです。 
 日本でも似たような少年を見たことがあり
ます。
 テレビなのですが、何年か前のフットサル
全国大会・バーモントカップの決勝戦でした。
チーム全員160cm以上の大型チームと、チ
ーム全員160cm未満の埼玉県代表の普通
チームが対戦しましたが、この埼玉チーム
にU-12日本代表が一人いました。この子も
直角に曲がる選手で、大型チームの連中を
ノーフェイントでズバズバ抜き去り、ドリブル
したら全部ゴールする感じでした。
 ゲームはこの子の独り舞台で圧勝。 
 全国大会を勝ちあがってきたチームでも
まるで相手になりませんでした。 
 ホアンの場合は責任感も強く、よく守ります。
飛び出したキーパーのカバーをするのも大
抵ホアンです。もちろんそんな約束事はして
いません。そして守っていても攻めることは
忘れず、意表をついてロングシュートも打っ
てきます。 
 私が驚いたプレーの一つは、ミニゲームで
ホアンのチームが失点した時にもありました。
息子とチームを分けて試合をしていたのです
が、ホアンが守るのでなかなか点が入らず、
苦労して苦労して、ゴール前でこぼれ球の取
り合いになった時にやっとゴールに押し込んで
先制しました。長い間膠着していたのでみんな
喜んで、ゆっくり戻っていたのです。
 キックオフとなって一番後ろにポジションを
取っていたホアンにボールが回りました。
 息子達はダラっと前に寄って行ったのでノー
プレッシャーです。当然ボールを回すのかと思
ったらいきなりロングシュートを打たれ、キーパ
ーも気を抜いていたので振り出しに戻されてし
まいました。一番深いところだったので、全員
アゼンとしてしまいました。
 「この子は勝負をわかっているな」と感心しま
した。 
 当然やられた方は間抜けなんです。
 DFにしたって息子なんぞは無責任で、ゴー
ルに向かう敵は追うのですが自分の眼前をフ
リーで横切られても関心を示しません。
 マンマークも敵が動き回ると簡単に逃がして
しまいます。セットプレーでボールを受けるの

決まって息子がマークしていたハズの子供で
す。
 DFはハートでやるものだといいますが、息子
は向いてませんね。
 それでいいわけではありませんけどね。 
 同じ学年にはもう一人、身体は抜きん出て小
さいのですが、トラップするときに後ろ回し蹴り

ダイレクトで繋いだりする軽業師もいます。
 名前はマクシーだったと思います。
 頼もしい仲間達です。 
 一つ下の学年には、ナチュラルにナンバの
二軸歩行で歩き、マッシーの言う膝下を動かさ
ないで真っ直ぐ足を振る弾丸シュートを放つ子
や、ケンのビデオのように肩を基点としたウェ
ーブで柔らかいボールタッチをしている子もい

す。特にこのウェーブの子はお兄ちゃんが昨

巣立っていったOBで、同じようにウェーブして

たテクニシャンで昨年のエースです。
 この兄弟もナチュラルなんですね。 
 本当はケンのDVDでも見せて、ウェーブを究
めさせてあげたいのですが、子供は英語が話
せないので込み入った話はできません。
 それに本職のコーチが預かっている子供た

だから、あまりいじりたくないのです。
 もっとコミュニケーションが取れてから改めて
考えて行こうと思います。ケンにも当地で「宣伝
しろ」と言われてますので。 
 ところで直角に曲がると私が表現していた連
中は、もしかしたら曲線ドリブルの習得者なの
かもしれませんね。Moちゃんの曲線ドリブル
に似ているような気がします。
 フィールドでスピードに乗っているときと、部

の中ではスピード感が違いますから判別でき
ませんが。是非土屋兄弟の考察をお聞きした
いです。「オルテガは曲線ドリブルをしている
のか」ということですよね。 
 息子の話をほんの少し。自慢もしたいのです
が、彼は昨年度のチャンピオンシップに参加し
ていないので実績がないのです。おいそれとデ
カイことは言えないというジレンマがあります。
ちなみに昨年度のチャンピオンというのは独
特の決め方をしています。
 アルゼンチンでは全ての年齢で同時に試
合をして年間を通して勝ち点を積み上げてい
きます。だからチャンピオンは幼児から12歳
まで一年ごとにカテゴリーを分けて、総合優
勝したチームなのです。息子のチーム「コベ
ル」の昨年の成績は2つの学年が2位で、あ
とは全部1位だったとのことです。息子の学
年も1位でした。 
 息子の特徴は俊足の長身です。昔はオー
プンスペースでフリーになることばかり考え
ていましたが、ロングパスを正確に止める
練習を重ねたので今は半身からワンタッチ
で前を向いてドリブルばかり仕掛けています。
 シュート練習も相当積んだので、今ではア
ルゼンチンの子供と同じようにどこからで
も狙っています。 
 このドリブルですが、ウェーブの練習を欠
かさずやったおかげかタッチが柔らかくなり、
ボールコントロールから開放されつつある
ようです。最近は変なことを口走ります。
 曰く「ドリブルを始めたら何にも考えない。
何も考えないとアイデアが浮かんで勝手
に身体が動く。だからホントに何も考えて
いない」。なんか薄気味悪いんですよ。
 でも、ケンに言われたとおりに上半身の
ウェーブを徹底させたらウェーブが大きく
なってきて、時々上半身の動きだけでか
わせているみたいです。
 それと、ヘディングが格段に進歩しました。
今では全てのミニゲームでトップスコアラー
です。 
 アルゼンチンの子供たちの話が出たつい
でに子供たちの体格も紹介します。
 日本の子供より確実に小さいです。
 12歳で160cmに届く子供は稀で、それよ
りも大きい子はまずいません。
 168cmの息子は完全に規格はずれです。
何人か文面で紹介した子供もみんな150cm
そこそこです。一説には東洋人より成長期
が始まるのが遅いそうです。ニキビ顔でチ
ョビ髭のある子供はゼロです。 
 食べ物はひたすら肉肉肉。レストランで
はパンが無料でお替り自由です。穀物は
添え物です。アルゼンチンは世界三位の畜
産高で、黒毛牛のロースは1kgで250円ほど
です。食料自給率は限りなく100%に近く。
 乞食でも毎日ステーキが食えるといわれ
ています。 
 子供たちの肥満は意外に目立たないの
ですが、チョットだけふっくらしているような
気がします。ただ、体型に特徴があること
だけ強調させていただきます。
 それはほぼ全員が臀部が大きくて腰骨が
明らかに前傾していることです。猫背は先
天的に障害がある子供以外に見当たりま
せん。
 長嶋茂雄もこうだったと聞きます。
 瞬発力を発揮するのに都合がいいこと
は想像に難しくありません。
 皆、それなりのクイックネスを持っている
ように感じます。私は息子にここ二年ほど
四股を踏ませていました。日本の少年団
時代はまわりの子供より二周り大きい腰
周りだったのですが、ここに来たら普通に
なってしまいました。 
 さて、明日の土曜日はシーズン前の練習
試合があります。私は同行して通訳のため
にベンチ入りもします。
どんな強敵に出会うか楽しみです。 
 長い話にお付き合いいただきありがとう
ございました。 
  
  

   モーゼさんへ
 曰く「ドリブルを始めたら何にも考えない。
何も考えないとアイデアが浮かんで勝手
に身体が動く。だからホントに何も考えて
いない」。

 そうです。moちゃんも同じことを言ってい
ました。
 相手の動きを観察して、相手の隙や弱点
を本能的に理解してこちらが動くという
ことだと思います。
 だから、相手が動いたほうやり易いと
言っていました。 
 



その8 南米シュート考
   2006,4,3  

こんにちは、日本は春でお花見の季節です
が、花粉も心配な時期ですね。
 ブエノスアイレスには花粉症がないもので
すから忘れていました。
 季節は秋です。 
 花粉症は私に無縁でしたが、いつか発症
するかと思ってビクビクしていました。
ブエノスアイレスは山から何百kmも離れてい
るのでスギ花粉が飛んできません。
大地震も大西洋側なので発生しませんし、
火山もありません。台風も来ません。 
 雨は2週間に一度ぐらいであとは毎日晴
ればかりです。湿度は大陸なので夏でも40%
程度、風があれば日陰は涼しいくらいです。
乾燥していてもパンタナール大湿原やアン
デス山脈を水源にしている大河が流れ込ん
でいるので、渇水の心配もありません。
 日本にいた時は天変地異にビクビクして
いたのに気持ちが楽です。 
 「この国の人はずっとこうだったんだ」と
思うと少し羨ましく思います。 
 来週からついにフットサルリーグが開幕
します。この休みの間に学校の校庭を借
切って毎日練習した成果を試せるかと思
うとウキウキしてきます。 
 ステップドリブルも特訓しました。
 少しアレンジして左右に一個づつボールを
持たせ、同時に二つのボールを一歩づつコ
ントロールさせてみました。ウェーブを効か
せるとできるものですね。ボールが二個なの
で曲がれないけれど、ボールタッチに強弱
をつけて小走りでドリブルしています。実は
このアレンジはバスケットボールのドリブル
練習からヒントを得ました。こうすると一歩
づつコントロールせざるを得ないので、自然
にステップドリブルになったのです。 
 上半身のウェーブも特訓中です。肩・頭・
肩と2往復まではなんとかできるようになり
ました。これはもっと頑張らせねばと思って
います。 
 他の練習は主にシュート練習をさせまし
た。
ブエノスアイレスに来てサッカーの違いを痛
感する場面を何度か見ましたが、「すごく違

」というプレーはシュートだったからです。 
 具体的にいうとシュートレンジがすごく広
いのです。フットサルのボールは低反発の
ため小学生世代には重いのですが、20mぐ
らいでフリーならゴール上隅を狙って打って
きます。だからフットサルの半円のゴール
ラインからは無条件にぶっ放します。 
 そもそもドリブルで何人かわそうが、ダイ
レクトでヒールパスを決めようが、ピンポイ
ントでサイドチェンジしようが、誰も褒めませ
ん。 
 賞賛はシュートだけに限られ、ボールが
枠から逸れても、ダイレクトボレーやワントラ
ップのターンシュートなど難易度が高いもの
には子供達から拍手が沸くことがあります。
 豪快なシュートならゴールに入っても入ら
なくてもコーチは絶賛します。 
 私は群馬県の大泉村へ息子のチームの
遠征に同行したことがありましたが、あちら
ではキーパーの裏をかいてコントロールし
たシュートを入れる習慣を、当地の日系ブ
ラジル人の子供たちは当然のプレーとし
て披露していました。 
 同行したコーチは「必ず相手の裏をかく
習慣を日本のサッカー少年に見習って欲
しい」と言っていましたが、ブエノスアイレス
は逆でした。 
 逆もまた然り。キーパーが立ちはだかって
も反応できないシュートを打てばいいので
す。
 人間の反応には0.1秒以上かかるといわ
れています。
 脇を抜けたりファンブルしたりするので、
キーパーが目の前にいてもシュートコース
はあるのです。逆に近ければ力いっぱい
蹴っても枠の中に納まるので、プレー時間
を遅らせてチャンスを失うよりも、チャンス
があったら打つ。これがアルゼンチンの
スタイルなようです。 
 息子はゴールラインの中でもキーパーに
コースを塞がれると横パスしたり、ワンフェ
イント入れたりしていました。
 コーチはそのたびに彼に大声で注意し(ス
ペイン語なのでわからない)、続いて私をコ
ートの隅に呼びつけて英語で「あのライン
の近くに来たらシュート以外のプレーをす
るな。ドリブルもパスもダメ、キックフェイン
トもいらない、余計なことはするな」と言う
のです。 
 日本の少年サッカーに思いをはせるとち
ょっとした違いを感じます。少年サッカーの
現場ではコーチの「勝負しろ!」という声がい
つも響き渡っています。これはドリブルで相
手を抜けと言っているので、勝負に勝って
もシュートは打てずに点が入らないことが
よくあります。
 それと、コーチだけじゃなく応援の父兄か
らも「シュート!!!。」という叫び声が聞こえて
きます。この声が挙がった時点でゴール前
にいる子供はシュートモーションすらはじ
めておらず、結局打たずにチャンスを逃す
シーンを山ほど見ました。 
 もう一つ、JFA主催のストライカー講習会
が行われているようですが、選抜された子
供達は気持ち悪いほどシュートを打たなか
ったという報道がありました。
 さらに、「日本のサッカーはまるでシュート
を打つのが目的とされているかのように、
放たれたシュートの行方を敵も味方も立ち
止まって見ている」とは元レッズの福田選手
の言葉だそうです。
 そういえばセルジオ越後氏も「打てと言う
な、決めろと言え」と言っていました。  
 アルゼンチンの子供達は身長150cmに
も満たない子ばかりですが、シュートはみん
なライナーで強烈です。大きなキックモーシ
ョンの子もいますが、一定のスキルがある
子供の中にはナンバで蹴る子がいます。
ナンバはフォロースルー無しで蹴り足がす
ぐに着地して、軸足が跳ね上がるのですぐ
にわかります。ナンバのシュートはあまり浮
き上がらず、回転が少なくてノビもあるので
明らかに威力が上です。 
 今のところウェーブを効かせている子は
あまり見当たりませんが、各学年のトップク
ラスの子は自然にナンバで走っています。
 ケンの話ではアルゼンチンのウェーブは
小刻みで見分けにくいとのことですから、
彼らの中にウェーブを効かせている子供が
いるのかもしれません。
 私はナンバで自然に走るにはウェーブが
必要だと思うのですが。 
 ところでこのナンバなのですが、蹴り終わ
っても前進力が残るので何歩か前に進み
ます。だからシュートを打った選手がその
まま前に詰めてこぼれ球を押し込んだりし
ます。日本の子供はシュートの行方を眺
めてしまうので、混戦時以外にはごっつあ
んゴールがありませんよね。
 それに、綺麗に決めるのが美徳なのか、
ごっつあんゴールはあまり喜ばれないよう
に感じます。 
 ブエノスアイレスに来て再確認したのは、
一点は一点だということです。子供達はどん
なゴールでも、たとえミニゲームや遊びでも
大喜びして走り回り、味方に押し倒されて
何人も乗っかってきます。
 アシストをもらえば握手して抱き合い、敵
のチームには指の拳銃で一発「バキューン」
とおみまいします。 
 サッカーはゴールが全て。アルゼンチン
代表にはいくらでも点を取りそうなストライ
カーが何人もいて、もったいないから3トッ
プなんてやっていますが、FW不足の日本
には羨ましい限りですね。 
 今、息子は「打て!」と思ったときには声
を出す前にシュートを打つようになりました。
でもまだごっつあんゴールが少ない。
 チーム力が拮抗してなかなか点が取れ
ない時、綺麗なシュートじゃないゴールが
明暗を分けると思うのですが。 
 この次はリーグ戦の光景をお伝えできる
と思います。息子にはどんどん「ごっつぁ
んゴール」をものにして欲しい。 
Moses  
 



その9 地方のクラブの現状と南米初ゴール
  2006年4月7日

 私たちは先週、アルゼンチンの英雄・マラド
ーナの故郷を訪れました。
 生家に行ったわけではないのですが、マラド
ーナが生まれ育ったブエノスアイレスのベッド
タウン・ラヌスに行きました。
 ここは日本大使館から渡航注意警報が発
令されています。とてもハングリーな地域だそ
うです。 
 何しに行ったかというと、フットサルの公式
戦直前の調整試合です。ぷれしーずんまっち
って言んですかね。練習試合です。
 相手はリオ・コロラドというアスレチッククラ
ブです。わりと強いほうだと聞きました。 
 ラヌスはブエノスアイレス市内と同じように
碁盤の目で、空き地はありませんでした。
 交通量が少ないのでストリートサッカーはで
きそうですけれど、誰もやってません。ここで
もスポーツはアスレチッククラブでやるものな
んですね。 
 当地に到着する前にビッグクラブのサンロ
レンソの前を通りました。私はリバープレート
や他の弱小クラブへ何度か行ったことがあっ
たのですが、リゾート地帯と隣接していたた
め敷地があまりにも大きくて全体像を把握で
きませんでした。サンロレンソは四方が住宅
街で壁に囲まれていたために全体像がわか
りました。大きいんですよ。ゴルフ場が18ホー
ル分スッポリ収まっていました。ビッグクラブな
ので43.500人収容できるスタジアムを持ってい
ますが、敷地面積の全体からみれば隅の方
にチョコットです。 
 ちなみに、プロチームはクラブの会員がチー
ムを結成して参戦していったという変遷を経て
いますが、現在の姿はソシオに娯楽を提供す
るために運営しているようです。だから、移籍
市場で買い漁った選手よりも育成世代から生
え抜きの選手のほうがより愛されるのです。
 これが本格的なプロ組織を持たない中小クラ
ブなら、生え抜きの選手達ばかりが地方リーグ
を戦う姿に変わります。チームが弱くても応援
に力が入ることでしょう。 
 そういえば、学生時代に一ヶ月メキシコの友
人の家を渡り歩いたことがありましたが、行く
先々で「友達に紹介するからクラブへ行こう」
と言われて連れて行かれました。私は「社交
クラブだな」と早合点していましたが、友人の
幼馴染が出ているサッカーの地方リーグの試
合で応援もしました。
 いつも夜で、友人の幼馴染達とビールを飲
んで宴会ばかりでしたが、私が酒を飲んで壁
に落書きしていたのはアスレチッククラブのク
ラブハウスだったようです。 
 たぶん地方の中小クラブだったのでしょうが、
出入りしているのは上から下まで幅広い年齢
層で、みんな私の友人を小さい頃から知って
いるようでした。私も知らない人から家族扱い
されたりしました。ラテン世界ではこういう「近
所付き合い」をしているのですね。来年から
私もリーベルのソシオになるので、楽しみに
なってきました。 
 そんなことを考えているとラヌスに到着。
 アスレチッククラブのリオ・コロラドはサンロ
レンソと比べればものすごく小さいし、ボロ
かったのです。敷地面積は日本で田んぼに
囲まれている中学校や高校と同じぐらいでし
ょうか。屋内施設は柔道やオリンピックの体
操をやる体育館、屋内プール、屋外はサッ
カーグラウンド一面、フットサル3面、バレー
ボール4面です。これらが高い壁に囲まれ
て、地域住民のレクレーション施設として
「近所付き合い」の場を提供していました。
なぜかレクレーションで訪れたわけではない
私から2ペソを奪っていったことも書き添えさ
せていただきます(子供はタダでした)。 
 本当にボロくて、建物はレンガ造りで半分
は朽ちて崩れています。このクラブの周囲
の街並み全体も朽ちています。日本だった
ら閉山した炭鉱街を想像していただくとかな
りイメージが重なると思います。ただ、あば
ら家はなくて人は住んでいます。本当はあ
ばら家はあるんですがそこにも人が。 
 サッカーのグランドも、芝と芝じゃない草が
自生していて、散水施設が無いので土は
カチカチです。雨後にぬかるんだグラウンド
に足跡が残るので、芝の下は山あり谷あり、
4WDのラジコンを走らせてみたくなりました。
ただ、壁に囲まれた有料施設なので犬の散
歩コースにはならず、アルゼンチンの社会
問題である野糞がないのが唯一の存在意
義ではないかと思いました。 
 試合はフットサルです。子供たちはサッカ
ー場があってもフットサルをやっているよう
で、フィールドにあまり入っていきません。
このフットサルコートですが、お粗末でした。 
 屋外なのも意外でしたが、床が石畳なん
です。ドラゴンボールの天下一武道会の
会場を知っている人はそれをイメージして
ください。一辺20cmの石畳が敷き詰めら
れていました。敷き詰められているんです
が、いくつかは浮いたり沈んだりしていま
す。普段カーペットでやっている我がチー
ム「コベル」の子供達は相当苦戦すること
が予想できました。子供達の公式リーグ戦
は週に一回週末の朝にTV中継されている
のですが、全て屋内でカーペットです。特殊
なコンディションのアウェイであることを御
理解ください。ちなみにこのコートはミニバ
スケットも兼ねていて、ゴールの上にバス
ケットが下がっています。全長は22m。フ
ットサルの公式ピッチは40m、とんだアウェ
イです。 
 試合は93年生まれの一番上のカテゴリ
ーから始まりました。息子のチームです。
先制点はコベル、クリスチャン君です。
 敵DFの甘いクリアを拾ってミドルを叩き
込みました。彼は信頼のおけるDFが持ち
味で、彼のマークには息子も手を焼いて
います。足元はキレがないのですが、勝負
どころでは前線に現れてピリッとした働き
をします。次のゴールもコベル、フェデリコ
君です。サイドで頑張った軽業師のマキシ
君のライナーのセンタリングを押し込みま
した。彼もやはり足元は強くないのですが
フリーになる動きが巧く、よくノーマークで
サイドでボールを受けたり、中央に現れ
てワンタッチで押し込んだりします。 
 ここでリオ・コロラドがゴール前の団子
から一点を返しましたが、すぐさまエース
のホアン君がドリブルシュートを決めて3-1.。
そのあと息子が前半終了間際に交代出
場しました。今回は全員同じ時間だけ出場
させたようです。エースのホアン君も先発
から外れていたので、途中交代は気にな
りませんでした。攻め気盛んな息子は何
度かシュートを打ちましたが、同じチーム
の下級生にジャストミーさせて泣かしたり
していました。結局試合は動かずに前半
終了。 
 後半も息子はガンガン。ボレーでもミドル
でもジャストミートをかっ飛ばしてはずすは
ずす。でも、身体が大きいのでターゲット
マンとしては機能し、GKからのボールや
スローインではマンマークされても上が
空いているのでボールが集まってきま
した。「空回りで終わるかも」と思った頃、
左のゴール前でフリーになった息子にパス
が。真っ直ぐゴール隅に蹴り込んで記念
すべき対外戦初ゴールが生まれました。 
 その後、なんとリオ・コロラドの3連続ゴ
ール、4-4の同点。コベルのGKが前半に
膝を擦りむいて飛ばないのです。そして
息子よ。君が入ってからチームの守りが
相当バランスを崩しているんだよ。息子
は目が合ったヤツしか追わず、フリーで
敵が目の前を横切っても知らん顔です。 
 息子は時間切れで引っ込みました。
初ゴールはあったけど課題も浮き彫り。
そしてボールをぶつけた子、ごめんね。 
 残り時間でエースのホアン君が抜け
出して2点目。コベルは前哨戦を5-4の
辛勝で乗り切りました。他の6試合も全
部勝ちを収め、結局コベルは全勝でした。 
 息子の事後談ですが、苦戦の原因はコ
ートが狭すぎてスピードを活かせなかっ
たことを挙げています。抜いてもすぐに
GKがいるし、中盤でもあまりフリーにな
れずにすぐに人が寄って来る。寄せが
速いんじゃなくてとにかく狭かった。相手
の技量的には「すぐ足を出すし、たいし
たことなかった」そうです。それから、固
い床でもツルツルしていれば擦りむけな
いので飛び込めるけど、今回は石畳の
表面がザラザラしていた。敵のGKは膝
当てをしていてズルイ。とのコメントをい
ただきました。 
 確かに1対1で取られるシーンよりも、
人が集まってきてドリブルやパスが引っ
かかるシーンが多かったです。こちらの
シュートのほとんどが綺麗にパスが通っ
てフリーになっているケースばかりですが、
相手のシュートは密集から飛んでくるケー
スが多く、GKが反応していても動きが小
さいために奪われたゴールでした。下の学
年が楽勝したのは、スピードを活かしたプ
レイをしていないためだと思います。
 息子のチームは、息子をはじめとしてス
ピードを活かした選手が多いのも確かです。 
 こうして、とにもかくにも南米初ゴールが
生まれ、少しだけホッとした私なのでした。  
 



その10 何もかもが考えられないラテンなお国 アルゼンチン。
  2006年4月19日

 みなさん申し訳ありません。
ブエノスアイレス市内公式Jrリーグ(そういえ
ば正式名称を知りませんでした。
今回は勝手に銘銘させていただき、次回ま
でに調べてきます。「正式な」開幕期日が判
明いたしました。
 4月29日だそうです。 
 今まで4月の第2週だと言われ、その第2
週になってみれば「4月1日は土曜日だった
から4月は2日から第1週が始まり、2週目
の週末は15日と16日だよ」と言われ、その
前日には「来週開幕するよ」と言われ、真
相を問い質してみれば「4月29日だ。
相手はわからない」ということになりました。 
 みなさん。ラテンとはこういうものです。
はっきり言って4月29日はアテにならないか
もしれません。でも、いつか近い将来に開幕
することは間違いありません。それからコベ
ルが昨年のチャンピオンなのも本当のこと
です。実害のないことですので、機が熟すま
でお待ちください。 
 開幕に向けて毎週フレンドリーマッチが用
意されています。第2戦目の今回は、ブエノ
スアイレス市内マタデロス地区の「ソル・デ・
マヨ(5月の太陽)」というアスレチッククラブを
ホームに招きました。今回も私から3ペソを
奪っていきました。どうやら名目は観戦料だ
そうです。これからも毎回取られそうです。 
 このマタデロス地区は「一人でウロウロし
てはいけない」地区です。ブエノスアイレス
は地下鉄が通っていない地区のほとんど
がそうです。特に西と南の地区は貧富の
貧の地区で、富の地区は北側です。リバ
ープレートは北でボカは南、こういう構図
なのです。 
 前回のラヌスは市外の南西で、今回のマ
タデロスは西です。私の住むアルマグロは
ド真ん中で、行政府が近いのでやや富と
いう感じです。だから西と南には物乞いが
いないのですが、真ん中と北にはアチコチ
に物乞いがいます。彼らは西と南から通勤
してきているわけです。ちなみに東はラプラ
タ川で対岸まで500kmほどあります。 
 あと、北は富で治安がいいのですが、市外
は警察の管轄が変わるので多少危険です。
どう危険かといえば、強盗が家にやってき
て資産家の家族を皆殺しにしたりします。
滅多にありませんがそういうこともあるそう
です。路上に強盗がウロウロしていることは
ないので、隣近所が富裕層な分やはり北
は治安がいい方ではあります。単純に警察
官の数で、市内と市外では治安に差があり
ます。 
 今回はキリストの復活を祝うイースター
の金曜日に試合がありました。というわけ
で、
当日はサボりばかり。レギュラーメンバーは
3人だけ。足りない分はこの春加入したばか
りの下級生で埋めました。 
 相手は全員参加しているようでした。背番
号が物語っています。そして体格がいいで
す。U-13にして170cmオーバーが2人。
 試合前の練習を見るにテクニックが飛び抜
けている子供は1人だけ。その子は大柄で
はないのですが、お山の大将気取りでボー
ルを持ったら離しません。こういったタイプは
アルゼンチンにはたくさんいますが、選択肢
がドリブルに限られているので実はあまり
怖くありません。問題は大型選手です。
 そしてこの不安は的中しました。 
 コベルの布陣を説明します。後ろから2-2
のボックス型です。この後ろ2人はボールが
前線に入るとボールホルダーによって片方
が上がり、1-3の形に変化します。日本で紹
介されるフットサルは1-2-1で、真ん中の
2人が上がったり下がったりしますが、コベ
ルもそれに近い感じです。 
 メンバーは後ろの左がマルセル君。彼は
オールラウンダーですが、このチームはア
タッカーが多いのでいつも後ろをやってい
ます。よくわかっている選手で、フルコートで
試合をすればいいレジスタになりそうです。
顔もハンサムでいい選手なのですが、攻守
に決定的な強みを持たないので、守備の強
い選手を揃えた時はGKをやることがありま
す。もしかしたらチーム一のGKなのかもし
れません。 
 同じく後ろの右は軽業師のマクシミリアン
君。
チーム一の小柄ですが、回し蹴りやヒールキ
ックなどクイックなダイレクトプレーが得意で
なかなかのアタッカーです。まだ名前を知ら
なかった頃、私は彼の風貌から「サル」と呼
んでいましたが、チーム内では「モーノ」呼ば
れています。サルのことです。このことを知っ
たとき、チームの子供に「マクシはモーノなの
?」と聞いたら「違うよ、本当のサルじゃなくて
あだ名がサルなんだよ」と言われました。
 それぐらいサルです。彼はアタッカーなの
ですが、メンバーがいないので後ろにポジシ
ョンを取ることになりました。 
 右の前が我が息子です。チーム内ではJos
hiと呼ばれています。本名はヨシヒロなので

が、彼等は「やゆよ」の発音ができないので
「ジョシ」と呼んでいます。今回はワントップの
形になってしまいました。なぜなら左の前は
春から入ったU-12の子が替わり番こだから
です。この子達は攻撃は大好きなのです
が、
まだ入ったばかりで1人では攻撃できませ
ん。
本当に人手不足です。 
 ソル・デ・マヨは後ろから2-1-1です。後ろ
の2人は今回前線には上がらず、縦並びの
2人がボールを持ちます。守るときは真ん中
が下がって3人です。始めて見る守備的な
布陣でした。そして、後ろの2人というのが
170cmオーバー、真ん中も160cmオーバー
で、身体を最大限に活かして守るチームで
した。前線は例のお山の大将です。 
 キックオフして、すぐにコベルの弱点が露
呈しました。息子は168cmと体格的には負
けていないのですが、大型選手の2人に完
全にマークされ、トラップするとすぐに体当
たりの連続で、全く前を向けません。ワンタ
ッチで前を向いて2人をかわすと、3人目が
体当たりしてきました。コベルはトップにボ
ールが入ると後ろがサイドに上がってきて
1人だけ残るのですが、前線がすぐに潰さ
れてしまうのであっという間に攻守が入れ
替わって数的不利になってしまいます。この
時前線のもう1人はフォローする約束にな
っていますが、一学年下の子はこれを知ら
ない。前線が潰れるとあっという間に攻守
が入れ替わるのはこのためです。結局コ
ベルは中盤でボールを奪い返せずに、敵
の攻撃にさらされていきました。 
 息子にマークが集中しているのでサイド
が空いているのですが、一学年下の2人は
ワンタッチで前を向けないのでフリーでも
チャンスが広がりません。すぐに大型選
手に囲まれてボールを失いました。コベル
は防戦一方です。 
 そして、以前もコーチがファールを取ら
ないと書きましたが、今回笛を吹いたソル
・デ・マヨのコーチは試合中に一回しかフ
ァールを取りません。その一回はスロー
インを受ける息子の後頭部に後ろから
ヘディングをかました時です。ボールは
胸の高さです。明らかな危険行為です。 
 これ以外は何度吹っ飛ばされて転が
りまわってもノーファールです。息子も
何回かは抜け出しましたが、必ず足を掛
けてきてチャンスを潰されました。
 フットサルなのでチャージングは禁止
のはずですが、ここアルゼンチンは試合
が止まりません。 
 アメフトのように何度も体当たりを食らっ
て倒れる息子。立ち上がる度に足を押さ
えたり腹を押さえたり、それでもパスは
飛んできます。見ていた私は身を切るよ
うな気持ちになってきました。「自分だっ
たら泣き出すかもしれないな。この国で
サッカーをする限りこんなことが続くのだ
ろうか」。この残酷なショーは、今まで前
向きに息子を導いてきた私に初めて現
実を突きつけてきました。 
 前線はほぼ息子1人なのでボールを
奪うとすぐ息子に渡り、横に捌けばボール
を取られ、前を向けば転ばされ、普段シュ
ートを打つ回数の何倍もひっくり返されま
した。 
 この間ソル・デ・マヨは前線が切り込ん
で横パスを詰めるという攻撃を繰り返し
5点を奪取。コベルのGKガブリエル君は、
シュートに反応するプレイばかりでゴール
の枠から動きません。彼は前回も膝を擦
り剥いて消極的なセービングをしていたの
で、拮抗した試合では出番を得られなくな
るかもしれません。 
 結局前半は0-5。息子にも非があり、
ごっつあんゴールを2本外しています。
彼にはチャンスをモノにする厳しさを持っ
てもらいたい。 
 後半になり、コベルは変わりました。
あれだけ打てなかったシュートをどんど
ん打ち始めました。見ると息子が右から
左に。こうすると息子の後ろを守備力の高
いマルセル君がフォローできるわけです。
 攻撃力が売り物のマクシミリアン君が息
子の後ろの場合、上がる時に狭いスペー
スしかないのですが、逆の関係になったの
で彼の上がりが利きはじめました。 
 コベルの逆襲が始まりました。1点目は
マクシミリアン君のサイド突破から息子が
中央で受けて、突っ込んできたGKを掠め
るようなワンタッチのループシュートがゴー
ル上隅に。後で聞いたのですが、このワ
ンプレーは例の身体が勝手に動いたプレ
ーだそうです。 
 次もコベルです。今度は息子が中央で
捌いたボールをマルセル君がサイドから
エンドラインに持ち込み、ゴール前を横
切るパス。下級生が詰めていたのですが
届かず。でもソル・デ・マヨの選手がゴー
ルに飛び込んでオウンゴール。 
 3点目はマルセル君がゴール前で奪っ
たボールをフィード、それを息子がDFと
競り合いながら振り払ってGKの前でノー
トラップシュート。飛び出したGKの脇をす
り抜けたボールはそのままゴールネット
に突き刺さりました。 
 息子も変わりました。相変わらず吹っ飛
ばされるのですが、ボールを受けてすぐで
はなく、パスやシュートなどワンプレイして
からのチャージングが増えたのです。これ
も事後談なのですが、今まではゴールへの
最短距離を陣取って止まってトラップして
いたのを、後半からはそこを空けておいて、
ホールを受ける時に動きながらトラップし
ていたそうです。ガンガン打つようになり
ました。そして、残念ながら全部外しまし
た。でも、必要以上に強烈な息子のシュー
トにオーディエンスは盛り上がりました。 
 試合を控えた下の学年の子供たちが
金網にへばりつき、息子がボールを受け
るたびに「ジョシ!、ジョシ!!」と応援してくれ
るのです。ソル・デ・マヨの子供たちも「ア
ンタの息子?」と握手を求めてきました。
日本ではこんなに周りに期待されたこと
がなかったので、私は少し目頭が熱くな
りました。 
 ソル・デ・マヨも例のお山の大将を中心
に2点返してきたのですが、最後にマル
セル君が最終ラインでGKから受けたボ
ールをそのまま持ち込み、前線で2人の
DFを引き付けた息子が囮になる形でそ
のままフリーでシュート。4点目です。ガ
ンガン打ったのが明らかに利いていま
した。 
 0-5からの猛追も時間切れでスコア
は4-7、負けました。後半のミドルシュ
ートや前半のごっつあんゴールが惜しま
れますが、実りのある試合になりました。 
 コベルは体格で劣る選手が多いので、
コーチから「ボールタッチが多すぎる」と
か「簡単に捌け」と再三指摘されていた
意味もわかった気がします。 
 しかし、苦戦の原因はメンバーが揃わ
なかったせいです。コベルはサッカースク
ールから派生したチームなので、小さい頃
からずっとチームと付き合ってきたアスレ
チッククラブの子供たちに比べればどうし
てもチームへの愛着が薄いのでしょう。
14歳になれば二度と戻れないチームなの
です。 
 後日、試合に現れなかったコーチ(プロチ
ームのコーチをしているのでシーズン中は
末が忙しい)に話を聞きました。「あのチー
ムはデカイ奴がいるが、サイドから崩せる
のでたいして強くない。去年も問題なかっ
た」。だそうです。なんだか愚直に身体を
ぶつけていった息子がアホみたいです。 
 ただ、この愚直なチャレンジがみんなの
心を打ったようで、試合後はまるで勝った
かのように私たち親子を祝福してくれまし
た。息子は話したことのないオバサンにま
で抱きしめられて、ほっぺにキスされまし
た。 
 言葉に不自由している息子なのですが
、これからもチームに愛される存在になっ
てほしいです。  
 





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