アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチン レポート その2

その11 アルゼンチンへサッカー留学をお考えの人へ
  2006年4月24日

 今回のレポートはアルゼンチンサッカーの育
成状況というよりも、息子のように武者修行を
考える人に発信したいと思います。 
 なぜそんな余計なことを考えたかというと、ま
たラテン民族に嘘をつかれて当てにしていたネ
タが頓挫したからです。
 予定されていたはずの試合が消えてなくなり
ました。
 公式リーグのことではなく練習試合です。
 公式リーグは次の月曜日に選手登録をして
(火曜日になりました。また騙された)土曜日に
スタートします。
 今のところこれには騙しがないようです。 
 どう嘘をつかれたかというと、「今週末は試合
あるの?」。
 「あるよ」。
 「ホームでやるの?。アウェイでやるの?」。
 「アウェイだよ」。
 この会話は先週の火曜日です。
 「今週末の試合はどこでやるの?」。
「ホームだよ」。
 「あれ?。アウェイじゃないの」。
 「ホームだよ」。
 この会話が先週の木曜日です。
二日後の土曜日の朝にコベルに行くと、子供
たちが集まっていました。
ちなみに普段の練習では土曜の朝はサボり
ばかりです。 
 お、あいつ来てる。こいつも来てる。
これはベストメンバーで楽勝しそうだな。
息子は何点取るかな。
 なんて考えていました。ウォーミングアップ
代わりのミニゲームが始まりました。
 アルゼンチンでは日本のサッカーのように
輪を作って整理体操をしたり球慣らしをした
りしません。いきなり練習が始まり、ほとん
どミニゲームしかしません。
 息子の場合は家でストレッチと足首を回し
て、ジンガステップとウェーブリフティングをし
てから練習に向かいます。
 今度からはシッティングリフティングもやり
ます。 
 ミニゲームをやっている間にもどんどん子
供が集まってきます。
 時間にルーズなんですよね。
 私も日本ではルーズな方でしたが、こちら
では几帳面な方です。
 さらにしばらくして息子のガールフレンド
も現れました。まぁこのガールフレンドは本
当にフレンドで恋人ではないのですが、女連
れとは生意気な。事情を聞くと、息子が例の
無心のプレイを発動するために、緊張感を
高めようとアイデアを絞った末に仲間に観
戦するよう声を掛けたそうです。
 「純粋に試合で緊張しやがれ」と思いました。 
 ミニゲームが続きます。
 そして2時間経ったら終わりました。
 そろそろ相手チームが現れるのでしょう。 
あれ?。子供たちが帰って行きます。
 あれ?。息子がコートから出てベンチに座
って汗を拭いています。
 「試合は?」。「今やってたじゃん」。
 「えっ?、これで終わりなの?」。
「今日はチーム内の試合だって」。というわ
けです。 
 この女の子は何しに来たんだろう。
彼女は何も言いません。
こういうことに慣れているんですね。
仕方ないので当家の昼食に招待しました。 
 ラテンアメリカとはこういうところです。 
 しかし、このラテンアメリカはサッカーをや
らせれば世界で超一流なのです。
 日本からはブラジルとともに沢山のサッカ
ー留学生を受け入れています。 



 私見ですが、私はブラジルへのサッカー
留学をお勧めできません。ブラジルは労働
ビザをほとんど発給しないので、彼の地でプ
ロになるには実力以外の障害もあります。
 ハッキリ言って実力があってもほとんどプ
ロになれません。
 カズの成功例は例外中の例外で、うんと
レベルを落として地方リーグに挑戦しても、
セレクションには受かることがあってもプロ
契約をしてもらえず紅白戦要員で終わるこ
とでしょう。 
 こういう失敗談はアルゼンチンでは有名で
す。なぜなら途中で可能性が無いことに気
付いた青年たちは、結局ウルグアイやアル
ゼンチンに流れてきているのです。
 そういった意味では特にウルグアイがお
勧めです。
 観光ビザでも働けるのはこの国だけだか
らです。 
 ウルグアイはW杯で優勝候補になる国では
ありませんが、過去は2度制覇していますし
オリンピックも連覇しました。
 この頃の環境がそのまま残っていますの
で、選手の育成能力は極めて高いのです。
国際舞台で実績を残せないのは人口が少
なすぎるためです。
 なんと茨城県とほぼ同じです。茨城県の選
抜チームがW杯の南米予選を戦っているの
ですよ。 
 選手一人一人ののクオリティーの高さはア
ルゼンチンやブラジルと比べても遜色ありま
せん。代表でも国内リーグの選手がほとんど
いません。際立った強さがないのはレコバや
フォルランといった超一流選手を輩出するた
めの競技人口の分母が小さすぎるからです。 
 ブラジルの人口は約1億8千万人。
アルゼンチンの人口は約4千万人。
ウルグアイの人口は約3百万人です。
ちなみにヨーロッパの主要国はドイツが約8
千万人。イタリア、フランス、イギリスが約6千
万人。スペインが約4千万人。オランダは少
なくて約1千6百万人ということです。
 如何にブラジルが有利で、他の国を圧倒し
ているかがわかると思います。 
 これに対してウルグアイの少ないこと。
 ウルグアイの人口が今の十倍あればW杯
をあと何回か優勝しているかもしれません。
アルゼンチンもW杯の優勝回数こそブラジル
に劣るものの、南米選手権ではブラジルより
も優勝回数が多いのです。
 近年のW杯南米予選でもブラジルより好成
績です。 
 それではなぜ私たちがウルグアイに住んで
いないかというと、日系人が全く住んでいない
からです。私は学生時代に米国での留学経
験がありますが、日本人は時々日本食を食
べないと体調が悪くなります。日本から英語
の勉強もせずに海外へ来た息子のことを考
えても、日系人が数百人しかいないウルグ
アイでは学校で誰も助けてくれないはずです。 
 アルゼンチンには3万人の日系人が住ん
でおり、私たちは当地の日系人に大変助け
られています。
 息子はブエノスアイレスのバイリンガル校に
通っており、言葉の障害も最低限で済んでい
ます。 
 こういう事情もあるので、言葉に問題がない
人はウルグアイが絶対お勧めなんですが、
スペイン語ができない人はひとまずアルゼ
ンチンで慣らしてから、改めてウルグアイで
頑張ることをお勧めします。 
 アルゼンチンでも労働ビザの問題がありま
す。本質的にビザの取得そのものが難しい
わけではないのですが、サッカーを職業にす
るとなると話は別です。正式に戦力と認めら
れなければチームが手続きを取ってくれない
ので、ある程度の実力があるという程度なら、
面倒なので外国人は雇いません。仮にセレ
クションに受かっても職場である試合にはビ
ザ無しで出られません。 
 例えばレギュラーの誰かが怪我をしたり移
籍した時に、ビザの発給が昨日申請して明日
下りるというわけにはいかないので、このチャ
ンスはビザが関係ない国内選手のものになっ
てしまいます。 
 私の息子もアルゼンチンは修行の場で、プ
ロになるのはウルグアイと割り切っています。
 再びアルゼンチンの地を踏むのは戦力とし
て認められて移籍した時です。ウルグアイの
場合ならリベルタドーレス杯に出場するチー
ムの中心選手として活躍すれば、直接ヨーロ
ッパへの道も開けます。ウルグアイサッカー協
会も選手の輸出にとても積極的なので、その
結果がウルグアイ代表チームがヨーロッパの
チームに所属する選手ばかりで占められてい
るという状況に現れているわけです。
 まぁ、可能性の高さという話ですけれど。 
 あともう一つ、治安です。
 ウルグアイやアルゼンチンにはマフィアや
ギャングが存在しません。厳つい身なりで街を
歩いている人など全くおらず、治安も日本の
基準で考えなければとても高いレベルです。
深夜に女性が独り歩きしても貧民街でなけれ
ば身の危険がほとんどありません。 
 これに対してブラジルの治安は最悪です。
マフィアもいます。
 ラモスが「宅配ピザを注文しても、やって来
るのが強盗の場合もあるのでドアを開けられ
ない」と言っていました。
 危険率は比べ物にならないと思います。 
 ブラジルを貶めるのはこの辺までにして、留
学の実態を知っている限りでご紹介します。
 日本の雑誌やhpに留学斡旋業者が情報を
提供していますが、当地の実情を考えると、
よくよくその斡旋業者の内情を調べなければ
取り返しのつかないこともあります。
 まず滞在費ですが、当地でチームを探すケ
ースの倍はかかります。
 半分は中間マージンということです。 
 実は、何も準備せずに飛行機に乗ってアル
ゼンチンに来ても、言葉が何とかなるのなら
チームを探すことはできます。
 スペイン語が理想ですが、英語でも何とか
なります。ただ、今どちらも話せないのなら少
しでいいのでスペイン語の勉強をするべきです。
 せめて数ぐらいは覚えた方がいいですね。
 ビザの問題も簡単に観光ビザを更新できる
ので、パスポートの期限が来るまで何年でも
滞在できます。
 パスポートも大使館で更新できます。 
 フロンティア精神で一からトライする気概があ
るのならやってみるのも悪くないでしょう。
 こうやって苦労してみれば自然と人脈が築け
て後々大きな助けになるはずです。
 私も及ばずながらお手伝いします。 
 割安の業者でチームに所属できても練習が
別メニューで、ただそのチームの施設で暮ら
しているだけという状況もあるそうです。
 チームの練習場所は市内に何箇所かあり、
各カテゴリーの選手たちが日替わりであちこ
ちに移動します。最悪のケースではこの練習
場所が空いている時間に練習させられるので、
正規の選手と知り合う機会すらないこともあり
ます。
 スタッフも正規の人間ではなく、「顔」と「金」
で施設を借りているのです。 
 サッカー留学生というのは、とどのつまりお
客さんです。チームの存在意義はソシオに娯
楽を提供することにあるので、Jリーグのよう
にサッカー文化を広めるためではありません。
 彼等の本音は戦力外の選手には用がない
ので、セレクションを受けずに加入する人間は、
適当に相手をするだけで儲けになるというだ
けの存在です。だからこの状況下で当たり前
の練習だけしていたら、折角の人生を賭けた
挑戦を台無しにしてしまいます。 
 それでも設備からして日本とは違いますし、
正規の選手と同じコーチングを受けられるの
なら大変多くのことを吸収できます。
 これだけでも選手としてレベルアップできま
すが、チャンスという面では期待できないかも
しれません。
 ですから、斡旋業者がどこまで面倒を見てく
れるのか、自分がチームでどう扱われるのか
を信用できる情報で判断できないのなら、業者
に頼るのは諦めるべきです。 
 育成世代の選手ならプロになる年齢に達す
るまでに時間があるので、チームと関係を持
つだけでチャンスにも繋がりますが、選手とし
て即戦力となりうる力を求められる年代では
のんびりしていられません。 

 業者を通じてチームの練習生になってもチー
ムの周辺でしか人脈が築けず、他チームでの
セレクションに関する情報も全く手に入らないこ
とも予想できます。業者にとってはきちんと練習
してさえくれればいいので、迎え入れた人間が
プロになれなくても知ったことではないのです。
 そのチームで練習しに来たのか、どんなチャ
ンスでも掴むために来たのかということを考え
ればほとんどの人間が後者のはずです。
 だからただ来るというわけにはいきません。 
 実は、滞在費が尽きて行き場所のなくなった
留学生たちが多数発生しているようです。
 そういう人たちを救済している方もいらっしゃ
いますが、最初の一歩を間違えてしまえば貴
重な時間とお金が無駄です。
 私も後々は縁のある留学生をお世話したいと
考えていますが、本職は別なので何人も面倒
は見れません。
 もしサッカー留学に興味をお持ちの方がいら
っしゃったら、私のレポートで少しでも現地の
雰囲気を知っていただきたいと思います。 
 さて、留学についての考え方にも意見させて
いただきます。私の意見といってもほとんどが
当たり前のことなので、心構えができている人
にはうっとおしい話かもしれませんが、このレ
ポートに目を留めたのも縁だと思って読んでく
ださい。 
 まず、自信のある人には留学は向きません。
アルゼンチンでも通用する自信があるのなら、
日本でJのセレクションを受けるべきです。
 そのうえでチーム内のレギュラー争いよりも
武者修行を選ぶなら、然るべきルートで問題
なく留学できるはずです。これはJの下部組織
にいる人やトレセンに選出されている人も同じ
で、所属している組織の人脈を頼ればたとえ私
費でも然るべきルートがあると思います。 
 個人的に留学するのであれば自信は捨てて
ください。
 お知り合いにJの下部リーグや下部組織や
トレセン選出者がいるとして、その人に比べ
て自分の実力が劣るわけではないとしても、
ご自分の現状はその人に比べて客観的に実
力が劣っているからです。
 チャンスをモノにできなかったのだとしても、
チャンスを呼び寄せられるほどの実力がなか
ったのです。このままではプロになれないから
海外で腕を磨くのですから、自信を持って留学
するのはおかしいです。
 大前提として「できる」とは思わず「ダメもと」
と思ってください。 
 現実は本当に甘くないようです。
 そもそもアルゼンチンといいブラジルといい
W杯で優勝を狙う国なので、日本よりもレベル
が格段に高いし競争も厳しいです。
 日本でプロになれない人がそのままで通用
するはずがありません。このことはご自分でも
よくわかっているのかもしれませんが、よく胸
に刻み込んでから飛行機に乗ってほしいので
す。 
 当地でセレクションを受けても、自分とたい
して変わらない実力の人が合格するかもしれ
ません。
 その時に「チーム分けが悪かった」とか「パス
が悪かった」とか「調子が悪かった」とか、
色々なマイナス要素が思い当たることでしょう。
 でも、条件が揃わなければ発揮できない実
力なんて高が知れています。
 現状でその程度の実力しかないからチーム
に買ってもらえないのです。
 当地に来ればこんな経験を何度もするので
すから、自信を持つよりもゼロから自分を磨く
心意気を持たなければなりません。 
 現実に日本で培った技術はほとんど通用
しないでしょう。
 当地の事情通の方も、いきなりセレクション
に受かった前例はないと言います。
 私が思いつく限りでは、フィジカルコンタクトが
強烈な上にヨセが速いのでボールを受ける前
から苦労するはずです。
 これまでのレポートで指摘したとおり、子供の
頃からファールのないサッカーをやっているので、
セレクションの合否がかかる状況ではボールで
はなく体を止めに来ます。
 日本のサッカーはボールを持ったところからの
テクニックに偏りがちなので、テクニックを発揮
する前に潰されることは簡単に想像がつきます。 
 アルゼンチンリーグの試合では、DFがディレ
イするシーンが少ないのにお気付きでしょうか?。
 常に優勝を争うボカやリーベルにしても、ワン
サイドゲームは滅多にお目にかかれません。
 DFがハードなのでボールポゼッションで圧倒で
きないのです。若手ばかりのリーグではあります
が、欧州帰りの選手やこれから移籍すると噂の
有望選手が何人もいます。
 彼らにしても楽にボールキープするシーンは稀
で、
ペナルティエリア付近でパスを受ける時や、チャ

スメイクで少しボールを持てばすぐに吹き飛ばさ
れています。 
 アルゼンチンのサッカーについて他にも指摘
したいことがあります。
 見たところトップリーグにしても子供のプレイに
してもパスの精度があまり高くないのです。
 タイミングのいいパスは出るのですが、精度の
高いロングパスは全然ありません。
 たぶん代表でもパスの名手はペロンぐらいでし
ょう。こういったパサーがあまり好まれないとも聞
きます。
 つまり、逆に言えばピタリとした受け手に都合
のいいパスが来ないのです(というかパスそのも
のを出したがらないのですが)。
 息子のチームでも、コーナーキックがいいコー
スに飛んでくることがあまりありません。
 フィジカルコンタクトの他にもこういった面でフ
ァーストタッチに苦労します。 
 ズバリ、日本のサッカー選手はフィジカルコン
タクトに強くないので通用しないのです。
  少なくとも同じ体格の選手には負けないよう
にならなければ、次のステップが 見えてこない
でしょう。テクニックはそれからです。 
 息子の場合U-13ではありますが、身体が大
きくフィジカルで負けなかったからわりと早く適
合できたのです。
 彼のフィジカルの強さだって天然ではありま
せん。日本では3kgの重りを両足に足に巻い
て階段を駆け上ったり、腸腰筋を鍛えたり、四
股踏みをやらせたりして2年近く前からアル
ゼンチンへの渡航に備えました。
 日本のチームでの試合では、フィジカルコン
タクトに慣れるためにワザと身体を競らせました。
 それでも当地の同じぐらいの体格の子供に
は競り勝てていません。
 こちらの子供が特に鍛えているわけではな
いのでしょうが、当り際の厳しさが日々磨かれ
ているのでしょう。 
 ですから留学をするのならフィジカルの強化
をして準備してほしいと思います。
 テクニックを否定するわけではありませんが、
テクニックは急に上達しませんし、テクニシャン
なら当地には掃いて捨てるほどいるのです。
 その点フィジカルは才能に関係なく短期間で
も伸ばせます。
 当地に渡航してから思うようにプレイできず
壁にぷつかったとき、フィジカルだけでも通用
すれば拠り所になります。
 多少荒っぽくてもファールにならないので、
自分を活かす術が見えてくるかもしれません。 
 パスもそうです。ボールタッチに比べれば
練習の成果が上がりやすいのでお勧めです。
 当地にはパサーが少ないのでうまくすれば
存在感を示せるかもしれません。
 パスにしてもフィジカルにしてもどのポジション
でも必要な能力ではあるので、基礎固めをし
ておくに越したことがないでしょう。 
 そしてウェーブです。
 この動きはナンバなので少しの当たりなら
踏ん張りが利きます。
 トラップにしても柔らかいので間違いなく通用
するでしょう。
 ジンガも通用します。
 足裏のコントロールが主体なので、スペース
がなくてもボールを動かせますし、特に立ち足
の裏に通す動きはボールを晒さないで方向を
変えられるので効果的です。
 このレポートを読んでいる人なら十分理解し
ていることでしょう。 
 折角人生を賭けた挑戦をするのですから、
自分にできることは何でもやって、渡航前の
日本でも、渡航後でも常にベストを尽くしてほ
しいと思います。 

 〜お知らせ〜

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ありましたら遠慮なくトップページにある掲示
板に書き込みをお願いします。 
 



その12 初戦惨敗、それはチャンピオンチームの余裕それとも腕試し
  2006,5,7

 ついに待ちに待った公式戦が始まりました。
正式名称は「チャレンジャーカップ」みたい
です。
 去年のトロフィーに書いてありました。
 とてもベタな名前ですね。
 参加チーム数はブエノスアイレス市内と近
隣衛星都市が集まって42チームあります。
 七つのグループに分けて6月一杯までホ
ームアンドアウェイのグループリーグを行い、
その後は勝ち残ったチームでまたグループ
リーグを展開するようです。
 最終的には10月まで毎週戦いが続きます。 
 参加チームは聞いたことがないチームば
かりなので、ほとんどが小さいアスレチックク
ラブなのでしよう。
 知っているチームもあります。
 ペンタゴナルのインデペンディエンテとラ
シン、他に一部リーグに所属するアーセナ
ルの名前もあり、他にも2部リーグや地方
リーグのクラブがあることでしょう。
 新聞であまり取り上げられないので確認
できませんが、アウェイで乗り込んだときに
レポートします。
 個人的にはラシンとインデペンディエンテ
が楽しみです。
 ボカとリーベルがないのは、プロの育成
機関と直結していないことが現れているの
だと思います。 
 初戦の相手は「リパブリック・デ・メヒコ」で
す。?。直訳するとメキシコ共和国。
 北米のメキシコはメキシコ合衆国なので
名前が違います。
 メキシコ移民のコミュニティーがバックボ
ーンなのでしょうか?。
 そういったコミュニティーの存在もあまり
聞いたことがないのですが、いつか私のス
ペイン語の熟達とともに真相がわかること
でしょう。
 今は疑問があってもほとんど自力で解決
できないので、用のないことはスルーです。 
 このチームのミステリーは他にもあります。
ホームの住所が他のチームと同じなのです。
 どうやら間借りしているみたいです。
 いかにも歴史の浅い移民団体っぽいですね。 
 このチームは私達の住むアルマグロから
すぐ近くで、地下鉄で二つ隣の駅です。
 おしゃれな店が多い地域で、よくウインドウ
ショッピングをしながら歩いて行きます。
 私達の住む地域も含めてこの辺りは政府
の中枢機関と直結しているので、ブエノスア
イレス市内では北部に続いて第二の高級
住宅街です。品のいい施設と品のいいチー
ムだといいのですが。 
 住所はアルゼンチン二部リーグに万年所
属している「フェロカリール・オエステ」のお膝
元です。
 名前の由来はフェロカリールが線路でオエ
ステが西です。たぶん鉄道の路線工が集ま
って作ったクラブというのが起源だと思います。
 アルゼンチンは広大な国土で生産された
農畜産物を港から欧州へジャンジャン輸出
していたので、大型トレーラーが普及するま
では南米最大の鉄道網が敷かれていました。
今は維持費が賄えず、半分近くが廃線とな
っています。 
 こういった労働者団体のチームはアマチュ
アにも非常に多く、タクシーの運転手チーム
やショッピングモールの従業員チーム、銀行
員チーム、陸軍チームなどが存在しています。
 なんとなく仲が悪そうですね。 
 フェロカリールを覗いてきました。やはり敷
地内にスタジアムがあるのですが、前回の
サンロレンソに比べるとショボイ。
 収容人数は一万人そこそこでしょう。
 道路から中を覗けてしまうので入場料を払
わなくても試合が見れそうです。
 サッカーの練習場は生意気に人工芝や天
然芝が何面かあり、線路脇の長細い土地に
誰もいない芝生が広がっていました。
 クラブハウスは結婚式場のような白亜のメ
ルヘンチックな建物で、その周囲に幾重もの
テニスコートの輪が広がっていました。テニ
スが好きな人はこれほどの施設があれば嬉
しいでしょう。
 ゴルフコースまでは備えていないので、や
はりビッグクラブのサンロレンソと比べると
小さいです。
 それでも総面積なら横浜の山下公園より
かなり広そうです。 
 対戦チームは閑素な高級住宅街を根城とし
ていました。静かで建物が美しい地域です
。住所を辿って行くと、行き着いたのはなん
ともボロい二階建ての鉄筋コンクリートでした。
 アスレチッククラブというよりは築30年ぐら
いの公民館といった感じです。中は小ぶりな
コンクリート張りのフットサルコート一面と合
気道とテコンドーを教える変な畳張りの道場。
 二階はシアターと書いてありましたが、デ
パートの屋上のイベントステージにビニール
の屋根を被せたようなどうしようもないシアタ
ーでした。
 日本語だと別の呼び名がつきそうですが、
スペイン語で当てはまるのはシアターになっ
てしまうのでしょう。 
 試合の時間に向けて、集合時間ちょうどに
到着した私達が一番乗りです。
 相手チームも小さい子が一人来ているだ
けで、会場の設営すらしていません。
 それから少しづつ両チームが集まり、全部
揃ったのは30分から1時間後です。
 これが有名なラテンタイムというヤツです。 
 相手チームの子供を見ると、フレンドリー
マッチをしたソル・デ・マヨのように大型選手
が見当たらず、思わずホッとしました。
 うまい奴が一人います。
 体型はズングリしていてこの歳では中背
の155cmくらいでしょうか。
「二代目の暴れはっちゃく」みたいな感じです。
 態度もそんな感じです。 
 こうして見るとうまいヤツは各チームに必
ず一人いるのですが、全体としてはそう多く
はありません。そして、うまいといってもコベ
ルのアタッキングスタッフの誰と比べても上
を行く子供がいません。あまりキレがないの
できちんと守れば一人で止められてしまう程
度です。本格的なコーチングを受ける前のお
山の大将といった感じです。 
 コベルにしても個人スキルに対するアプロ
ーチは何もしていないのですが、新しい子
が入っては辞めていくので、こういった中小
のクラブチームで飽き足らない子供が腕試
しに集まっているのでしょう。クラブチームの
子供は家族ぐるみでクラブに出入りしている
ので、引越しでもしない限り新しいチームに
加わることがないはずです。 
 息子のチームを探して通える範囲のクラブ
を見学しまくったとき、結局それぞれのチー
ムの実力は今まで対戦したチームと変わら
なかったようです。
 「この子達はサッカーが下手だから習って
いるんだよね」と息子と話し合っていました。
 その中でコベルは動きの質が違い、スピ
ーディでキレがあって抜け目のない子供達
が集まっていました。
 コベルはクラブチームではなくサッカース
クールなのです。 
 試合が始まりました。
 相手のフォーメーションは暴れはっちゃく
がワントップで後ろから1-2-1のオーソドッ
クスです。
 一番後ろだけが160cmと少しぐらいの背丈
で、こういうのが一人なら息子は楽勝なはず
です。そのはずなのですが、息子は前日に
風邪をひいて寝込んでいました。なんとも間
が悪い。その日のうちに熱が下がったので
当日は当然のように試合にやってきましたが、
コンディションがいいはずはありません。
 不安です。 
 コベルのスタメンは息子と新加入の巨漢
DFロドリゴ君とヘマばかりのガブリエル君が
控えなので、後ろから左が有望なレジスタ・
マルセル君、右がDFのスペシャリスト・クリス
チャン君、前の左が小柄な軽業師のマクシ
ミリアン君(通称サル)、右がコベルのクライ
フ・ホアン君です。  
 結局去年からのメンバーがそのままスタメ
ンです。この辺はオーナーコーチのハビエ
ル氏が慎重なのでしょう。普段の練習はアル
ゼンチンリーグ所属のヌエバ・チカゴ(英語読
みするとニュー・シカゴ、現在二部)のGKだっ
たジャバー氏なのですが、プロのコーチを兼
任しているので試合には現れません。
 ハビエル氏は普段バビーフットボルの担当
です。 
 先制点はメキシコです。
 ゴール前でハンドがあり、プレイが止まる
と思ったコベルの選手が気を抜き、審判が
流したのでそのままプレイを続けたメキシ
コの暴れはっちゃくがミドルシュートを決め
てしまいました。
 この審判ですが、コベルはコーチングス
タッフが少ないのでいつも相手チームの人
間が笛を吹きます。この影響は大きく、この
日も散々な目に会いました。 
 この審判、今までと違ってやたら笛を吹く
のです。しかもアタッキングゾーンに入って
プレイスピードが上がり、軽い接触があると
誰も倒れていないのにすぐに試合を止めます。
このチャージングは決まってOFチャージで、
いつもコベルがボールを失います。
 微妙な判定も全てコベルが悪いことになり、
一度は誰も触っていないのが明らかな敵の
シュートが逸れた時、ゴールキックになるは
ずのボールがコーナーキックになってしまい
ました。 
 コベルはアタッキングゾーンに入ることが
できずに攻撃が続きません。またしてもコー
トが狭く、オープンスペースが少ないのでゴ
ール付近では必ず接触してしまうのです。 
 二点目はまたしてもメキシコの暴れはっ
ちゃく。何だかわからないチャージングで
FKをとり、直接ファーサイドのゴール隅に蹴
り込みました。 
 この後はコベルが反撃。ホアン君が右に
切り込み、敵をひきつけてライン際に横パス。
これを後ろから走り込んだクリスチャン君が
ニヤサイドのゴールへダイレクトミドルシュート。
 一点差に戻しました。それにしてもクリスチ
ャン君はこういうプレーが多い。
 あまり前線まで来ないのですが、時折サイド
を駆け上がってミドルを決めます。
 以外にシュートコントロールもいいようです。  
 コベルの逆襲なるか?、
 と思ったところで息子が交代出場。
 引っ込むのはホアン君。私としては攻め気
が強すぎるサル君よりも、オールラウンダー
のホアン君と組んだ方がアシストがもらえて
いいのですが、なぜかエースが交代です。
 もしかしたらハビエル氏はサル君にワンラ
ンク上の力を身につけてほしいのかもしれ
ません。
 実はサル君とクリスチャン君は去年の秋ま
で息子とは違う時間帯で練習していました。
息子は現在OBとなった昨年の上級生達と凌
ぎを削っていたのです。この時一緒に練習し
ていたのがマルセル君とホアン君。
 つまりこの2人は飛び級で、上級生と互角
の実力の持ち主ということになります。クリス
チャン君とサル君は身体も小さく、学年どお
りの腕前です。ホアン君も小柄なのですが、
彼は別格です。 
 息子はマルセル君からのグラウンダーの
パスを中央でボールを受けると、ビエリのよ
うにマーカーを引きずりながら反転して、右
サイドライン際からドカンとシュート。ボール
はニヤサイド上隅へ一直線。
 入った!と思ったらGKに下から跳ね上
げられてボールアウト。いつもながらオーデ
ィエンスが沸き立つパワフルなプレイでした
が惜しかった。これはいけるでしょう。
 そんな予感がしていたのに時間切れでハ
ーフタイム。 
 ハーフタイムではハビエル氏から「ジョシ、
ガンガン行け」という簡単な指示が出され
ていました。言葉が通じないのでこれしか台
詞の準備がないのでしょう。息子もどうせそ
れしかできないので、この指示だけで十分
です。さぁ、後半もガンガン行きましょう。と
思ったら、今度はマルセル君が引っ込んで
新人のロドリゴ君。 
 彼は160cmオーバーでこの年代では大柄
なのですが、足元が水準以下です。最近は
クリスチャン君を参考にサイドを駆け上がっ
てきますが、トラップが下手でボールが外
に出てしまいます。困りました。
 マルセル君、ホアン君という2人のオール
ラウンダーが抜けて、パサーがいなくなって
しまいました。思ったとおりコベルはボール
が繋がらず、淡白な攻めを繰り返しました。
 とにかくパスの精度が低いので前線は前を
向けないのです。
 これはまさにアルゼンチンサッカーの弊害
です。 
 何度か書きましたが、チームとしての決ま
り事がないとアルゼンチンの子供達はパスを
出そうとしません。これは技術の有無は関
係ありません。つまりどんなにサッカーが上
手でも、生涯でパスを出す回数が日本の常
識から考えて遥かに少ないのです。 
 囲まれる前に捌くようなタイミングのいいシ
ョートパスは仕方なく出すのですが、遠くでフ
リーになって待っている味方に送り届けるよ
うなロングパスは、一回も狙ったことがない子
が大勢いるのではないでしょうか。 
 いなくなってみて気付いたのですが、このチ
ームにもホアン君とマルセル君以外は何人
ものDFを無力化するパスの出し手がいなか
ったのです。サル君に期待していましたが、
彼はサイドに張ってなかなか下がりません。
 彼の場合身長が140cm前半と小柄すぎて、
二学年下の子供に混じっても小さい方なので
す。相手チームにも彼ほどの小柄はいません。
 マーカーのフィジカルコンタクトに対して張り
合うのですが、押しても引いても相手が動かず、
彼が転ばされることがあっても相手が転んだ
ことはありません。動きは速いのですが単純
な走る速度は普通です。
 こうしてみると体格差が顕著に出る高学年
の試合では不利な点が多すぎるようです。
これだとサイドでフリーになった時のプレイし
か狙えず、常にマーカーがつくと後ろからの
ボールが受けられないので、チームのパスコ
ースが限定されていきました。 
 息子へのボールは足元へ真後ろから入る球
ばかり。このパスはコースが読まれやすく、受
けてからの動きも180度に近いのであまり前を
向けません。さらにDFを抑えて強引に前を向く
とOFチャージです。コベルの攻撃はゴールに
迫る前に敵のDFと審判によって遮断され、防
戦一方になってしまいました。
 不思議とメキシコの選手はゴール前に迫り
(全然不思議じゃないのですが)、後半に入って
から2点追加されてしまいました。 
 コベルはDFでも守りきれません。
 息子もサル君も自分の持ち味は攻撃とばか
りに下がらないのです。カウンターを狙うなら
息子の方がスピードとフィジカルがあるのです
が、とにかく2人とも戻らないからコベルで守っ
ているのは二人だけ。
 相手のボールをルーズボールにできても、
DFとOFの間が開きすぎてまた敵に拾われて
います。時々2人のどちらかがこぼれ球を拾
うのですが、どちらも久しぶりの攻撃の機会
に張り切りすぎて繋ぐことを忘れ、フィールドの
深い位置から切り込んでは結局ボールを失
ってしまいました。 
 そんな中で息子が切り込み、後ろから駆け
上がってきたクリスチャン君に横パスを出し
ました。前半の再現です。まったく同じように
ミドルシュートが決まり、クリスチャン君は本
日2点目。また息子が横パス、今度はロドリ
ゴ君です。彼はシュートを真っ直ぐ蹴り込み
ゴールの右横3mに外しました。 
 息子は後半ノーシュート。数え切れないOF
チャージのジャッジを受けて、直前にシュート
を外したロドリゴ君と共に交代していきました。 
 その後もコベルのOFチャージでボールを失
い続け、結局大量7失点をしてしまいました。
 もう追いつけません。
 それでもサル君がリバウンドを素早くファー
サイドに蹴り込みコベルは3得点。巻き返し
はここまででした。スコアを回想してもコベル
のシュートは全てミドルシュート。ゴール前で
は審判に阻まれてプレイできなかったのです。
これがアウェイというものなのでしょうか?。 
 続いて低学年の試合が6試合続きましたが、
ずっと同じ審判で際どいジャッジは全てコベ
ルが悪いことになっていました。
 全試合で笛を吹いていたこの審判はご苦
労様でしたが、二度とそのツラは見たくねェ。
 たぶん通算でも負け越したのでしょうが、
私は試合を見るとムカつくので周りを何ブロ
ックも歩いて散策していました。 
 ホームアンドアウェイのリーグなのでホーム
でリベンジができますが、コベルはスタッフが
少ないので全試合で審判は相手チームの人
間になりそうです。今後も全試合アウェイなら
勝つのは難しいでしょう。
 もしや昨年のチャンピオンチームなので
マークが厳しいのかも。 
 来週はコベルのホームでリオ・コロラドを迎
えます。以前レポートで書いた田舎の弱い
チームです。今度は勝ってくれるでしょう。
 息子はジャバーコーチに5ゴールを誓わ
されました。. 
 現在シュート精度を上げるためにシッティン
グリフティングを重点的に取り組んでいます。
 ケンにはボディーコンタクトを受けながらの
トラップも教わりましたので、マタドールのよう
にヒラリとかわしてくれることでしょう。
5ゴール.。乞うご期待。   
 



その13 プロコーチが語るプロになる道とバラバラなチームでは絶対勝てませんの二本立て。

  2006,5,13
 皆さんに期待を請ったコベルのホーム開幕
戦は9対3の惨敗でした。
 3点ということは5ゴールを決めるはずの息
子はもちろん空振りです。
 1点でした。
 今回は試合の経過をお伝えする前に、トレ
ーニングコーチのジャバー氏との談話を紹
介します。 

「惨敗、ジャーバー氏の分析とプロの卵」 

 コベルは惨敗続きです。
去年のチャンピオンがどうしてここまで勝て
ないのですか?。 

 「あいつらはスクールでやっていることと違
うプレイをしているだろ?」。 
 その通りです。本来守るのも攻めるのも3人
でやるのがここでの練習ですが、試合ではい
つも2人で攻めて2人で守っています。
 相手は守るのも攻めるのも3人なので、な
ぜかいつも数的不利です。まるで相手の人
数が多いようにすら感じます。
 どっちがチャンピオンなのかわかりません。 
 「去年は俺が毎試合帯同していた。今年は
プロチームのGKコーチを引き受けたから、
土曜日は試合がかち合って出られないんだ。
 練習の前にミーティングしてあいつらに言っ
て聞かせるよ。今度の試合を見ててくれ」。 
 ところでコベルのOBでプロになった選手は
いないんですか?。
 チームのトロフィーを数えれば毎年好成績
なのはわかります。それだけのレベルなら何
人かいてもおかしくないですよね。コベルの
子達がプロになれないのなら、どんな子供が
プロになるんですか?。 
 「コベル出身のプロ選手はいない。俺は10
年もこのチームで教えているが、ここの子供
達は公立学校には行かず私立の学校ばか
りだし、父兄も子供もプロになろうとはあまり
考えていないんだ」。 
 去年のダニーも今年のホアンもいい選手で
すよ。ああいう子でもプロ志向にはならないん
ですか?。 
 「2人ともいい選手だよ。だけどプロになる
のは厳しい道だ。プロといっても生活が楽な
選手は限られているし、サッカーが好きなだ
けではとてもそこまでの選手になれない。
 ホアンにしてもサッカーが楽しいから今プレ
イしているだけで、プロを目指すのなら今の
ようには楽しくなくなってしまう。
 アルゼンチンでサッカーをやっているから
といって、みんながプロを目指しているわけ
じゃないんだよ。日本だって同じだろ?」。  
 息子はプロを目指してここでプレイしてい
るんです。息子はこのままでもプロを目指し
ていけますか?。 
 「あいつはプロになれるかもしれないと思っ
ているよ。でも、スペイン語が喋れないと無
理だ。サッカーで使う言葉は限られているん
だから、それぐらいは早く覚えてほしい」。 
 セレクションまであと半年あるし、今は大
分聞き取りが出来ているのでもう少しで会
話ができると思います。スペイン語が喋れ
るようになったら、今よりももっと鍛えてくだ
さい。 
  
 私の愚痴から始まった会話ですが、実り
のある話が出来ました。アルゼンチンだか
らってプロになるのは別の話。考えてみれ
ばそれはそうですね。
 以上の話はホーム開幕戦後のやり取りで
した。 

「対リオ・コロラド戦、ジョシ先発」 

 さて、先にお伝えしたホーム開幕戦の模
様を大雑把にお伝えします。
 珍しく時間通りに全員集合し、相手チー
ムもだいたい時間通りにやや遅れて集ま
りました。ここではやや遅れても時間通り
と言います。 
 コベルの先発は後ろから右が目下2ゴー
ルの.クリスチャン君。シュート数が少ない
のに抜群のポジショニングセンスで攻守
に活躍しています。 
 左がマルセル君。彼はパスのコントロー
ルならチームでトップクラスです。息子が
チームに入ってから何度もマッチアップし
ているので、一番認めてくれています。
 彼がいない試合には出たくないと息子は
言っています。
 「そんなことでどうする、一人でも点を取
れ」と、私は言います。 
 前の右がお馴染みのサル君。本名はマ
クシミリアンですが、誰もそう呼びません。
 月謝の領収書にも「サル」と書かれてい
ました。結構ヤルのですが、身体が小さす
ぎて試合ではあまり見せ場がありません。
 だけど攻撃大好き。開幕戦にフル出場し
てワンゴールです。 
 前の左はジョシ君。日本からやってきた
サッカー版の巨人の星です。私の息子な
のですが目下ノーゴール。親子共にヘタレ
の巨人の星です。
 でも初先発です。嬉しいです。今度こそ
期待しています。 
 ベンチは2人。前の控えにフェデリコ君。
前回の開幕戦はサボりました。ここではサ
ボってもサボりだと言われませんし、本人
もサボったとは思っていません。ですが私
はサボったと思っています。
 彼はあまりボールを持たずにゴール前で
飛び込んでくるプレイが得意です。息子は
彼と組むと「おいしいところを持っていかれ
る」とぼやきますが、チャンスでは確実に
点を取る選手です。 
 後ろの控えは新加入の巨漢ロドリゴ君で
す。お父さんもこの春からコベルの大人チ
ームで張り切っています。本人は守りを見
込まれているのですが、攻撃参加を心掛
けています。今のところその攻撃参加がチ
ームにとって迷惑なこともあります。 
 今日はなんとエースのホアン君が現れま
せんでした。サボりもOKなのですが、ちゃん
と来いよ。 
 相手のリオ・コロラドには特に目立った選
手がいません。大きくもなく小さくもなく、巧
くもなく下手でもありません。ただ、前回見
た感じではラフプレーがないのですがヨセと
いか囲みが早かったようです。意外に強い
といわれているようですが、チームプレイ
が出来ているのかもしれません。 
 そして今日も息子のガールフレンドが。
 彼女は日系アルゼンチン人なので、会場
に一番乗りしたのはこの子でした。
 さすが日本人。 

「守れないコベル、でも初ゴール」 
  
 相手チームの審判でキックオフ。と思っ
たら、アッという間に2失点。前の試合同
様守りの人数が足りず、数的不利を突か
れています。
 息子のガールフレンド嬢がポツリ「GKっ
てあんな小さい子がやるの?」。
 そう、コベルにはいいGKがいないのです。 
 GKは開幕戦からトニー君です。今まで名
前が出なかったのは活躍しないからです。
 GKなのにサル君と同じ大きさなので、どう
してもセービングの範囲が狭いようです。
 奪われた2本のシュートは、どれもチョッ
とコースがいいだけの普通の距離と威力で
した。これは最後までこの調子で、今までも
相手のスーパープレイを見たことがありま
せん。
 いつも普通にシュートされて、何故かGK
がセーブできないのです。
 考えてみると取られた点とシュート数がほ
ぼ同じなんですよね。 
 コベルで攻撃を止めるのはいつも後ろ任せ。
前の2人は極力下がらないようにして味方の
パスを待っているのです。少しだけ私も責任
を感じます。
 息子には常々「チームが負けてもいいか
らお前は点を取れ」とか、「守って勝つな、勝
ちたかったら点を取って勝て」と言い続けてい
ました。そのせいばかりとは思いませんが、
こうも無様に失点するチームを見ていると、
もう少しチームプレイを意識させた方がいい
のかもしれません。 
 それでも序盤は攻めました。
 息子は何度かGKと一対一になりましたが、
身体を投げ出すGKにそのまま蹴り込み全部
弾かれました。こぼれ球に詰めたサル君も、
いつもはアッサリ決めている角度でもミスキッ
クを連発。明らかに動きが硬いのです。 
 それにしても、いくらアルゼンチンではどん
どんシュートを打てと言われているとはいえ、
飛び込んで来るGKぐらいかわそうとは思わ
ないのかね。
 皆さんお気づきでしょう。
 息子は考えるのが苦手なんです。
 ハッキリ言って試合前に公約した5ゴールは
とっくに達成しているはずです。 
 コベルは珍しく中盤でパスを繋ぎ、クリスチ
ャン君が右サイドを上がってきました。
 中央にグラウンダーのセンタリングが出て、
敵GKと正対したサル君が横パス。
 そこへハポネス・フガドール(日本のサッカ
ー選手という意味です)ジョシ君が詰めてご
っつぁんゴール。公式戦初ゴールです。
しかも、我が家では賞金をつけているごっつ
ぁんゴールです。味方のシュートを眺めずに
走った結果に生まれるプレイなのです。 
 さあ、エンジンがかかって来ました。と思っ
たら前半の半ばで交代させられました。
またしてもサル君はフィールドに残っています。 

「失点は続く」 

 交代したフェデリコ君なのですが、彼こそが
最も中盤に戻るのを嫌う選手です。
 指定席はサイドライン際からエンドラインを
舐めるようにゴール中央まで。常に隅にいま
す。コベルは相変わらず攻められ続け、前半
終了までに6失点。フェデリコ君と同時にマル
セル君を引っ込めて交代出場したロドリゴ君
は、すぐにマークを外してボールに寄るので
さらに攻守のバランスが崩れました。
 前半に5点差をつけられてはもう追いつけ
ません。
 一度は勝ったチーム相手に散々です。 
 ハーフタイムでロドリゴ君が引っ込み、後ろ
にマルセル君が戻りましたが状況は変わら
ずさらに2失点。
 後半開始早々にコベルのショートコーナー
からゴールエリアの外側を繋いできたボール
をサル君がミドルでゴールを奪いましたが、
他にはチャンスらしいチャンスがありません
でした。
 フェデリコ君がノーシュートで失意のまま引
っ込み、ハポネス・フガドールのジョシ君再び
登場。 
 後半半ばから現れた息子が攻撃しようと
すると、リオ・コロラドの動きが短い時間で洗
練されていたことに気付きました。一度は負
けた相手に大差をつけていることから自信
を持っているようです。逆にコベルは縮こま
り、パスコースが甘くトラップミスが目立ちま
した。 
 再びパスが来ない状況に業を煮やした息
子は下がってボールを受けましたが、完全に
リズムをつかんだリオ・コロラドは活き活き
と動きます。
 素早く囲み、次々と身体を寄せてきます。
1人2人とかわしても必ず3人目が控えてい
て、前半に何度も迫ったゴール前までたど
り着けません。
 それでも息子がもつれてこぼしたボールを
サル君が拾ってそのまま3点目のシュート。
 でも、その時点で総失点は9点でした。息子
が愚直に3対1のドリブル突破を何度も試み
ている間に時間切れとなり、コベルは三倍の
スコアで負けました。後半の息子のシュート
数は0でした。 

「次への課題」 
      
 敗因はGKとアタッカー陣です。
 自分が点を取ることばかり考えているアタッ
カーの3人は、完全に繋ぐことを忘れていまし
た。その後のチーム練習ではジャバー氏の叱
責を受けたサル君がゴール前でアシストを連
発するようになり、すっかりチームプレイを取り
戻していました。この調子で試合でもチームプ
レイをしてくれるといいのですが。 
 息子は自分の本分に専念することにしまし
た。今までは自信過剰で中央で受けすぎてい
たのですが、なるべくサイドでオフザボールの
動きに腐心し、カウンターでの単独突破という
最大の武器を売り物にすることに決めました。
 中央は待って受けるのではなく走り込んで
受ければ、今いたスペースを空けられるので
味方が上がりやすく、受けたボールを捌くにして
もフリーの選手がサイドにいれば簡単に繋げ
ます。 
 ゴール前のシュートは、GKが飛び込んだ時
は打たずにかわすことになりました。これは全
部当たり前なのですが、彼は一度失敗しない
とわからないみたいですね。 
 ケンにアドバイスを受けたボディコンタクトの
中でのトラップですが、本人曰く大変効果があ
ったようです。確かにトラップできずにボールを
失うシーンがなくなりました。腕で常に相手を
捕まえて、身体が当たる前に相手の動きを察
知すると共に、スペースを確保するわけです。
 それが出来ていたのにワンゴールとは・・・。 
 土曜になればまた試合があります。
 今度はアウェイの「ポルベクラブ」だそうです。
変な名前。 
 早く皆さんに勝ちゲームを披露したいです。 
 
 



その14  もう一つの聖地と 「コベルなぜ負ける?」と 日本人留学生登場
 2006,5,20 

「もう一つのアルゼンチンサッカーの聖地」 
   四戦目はアウェイです。お手合わせの
相手は「ポルベ クラブ」。前回も書きました
が変な名前です。考えてみるとコベルも変な
名前ですね。日本では英語のニュアンスが
ある外来語ばかりなので、ラテン世界の名
詞にはどうしても違和感があります。でも、
語源的に英語に影響を与えているのはラテ
ン語の方なので、慣れなきゃ国際人にはな
れません。 
 今は外国相手に仕事をするならバイリンガ
ルは当たり前で、ラテン語から派生したフラ
ンス語やイタリア語、ポルトガル語、スペイン
語のどれかを覚えればあっという間に他の
ラテン語もマスターできます。私の場合は日
英はできるのでプラス4になれば6ヶ国語で
す。外国人で何ヶ国語も話せる人がいます
が、ラテン語の一つを覚えれば他は方言み
たいなものなので楽勝なんです。だから理解
する程度で本当に喋れるわけじゃないんで
すよ。騙されてはいけません。そもそも日本
語が喋れる西洋人で完璧な人ってあまりい
ませんよね。彼等は基準が甘いのでそんな
程度です。 
 話を戻すとポルベ クラブはコベルから遠く
ないので現地集合になりました。地図上では
2〜3kmの距離です。地下鉄を一度乗り継
いで、市内の南西を縦に貫く高速道路近辺
の駅で降りました。中心地からは少し離れた
住宅街です。信号待ちの車に雑貨を売る物
売りはいますが、ビラ配りがいないので道に
ゴミが少なく、物乞いもいません。これはズ
バリ住民に財力がないからです。高級住宅
街のように30階建てに近い高層住宅はなく、
建物の背が低くて集合住宅にはオートロック
がありません。玄関と窓は錆びた鉄格子で
防犯されています。松竹梅で言えば竹。中
級所得層の地域です。 
 私はよく地下鉄で移動しているのですが、
このようなブエノスアイレス市民の中級所得
層以下が使う日常の足は、ボロボロの自家
用車かバスです(自前の馬車に乗っている人
もいます)。基本的に地下鉄は低所得層の
住宅地に敷設されていないのです。 
 このバスが曲者で、碁盤の目になっている
通りを一直線に走ればいいのに、目的地に
向かってジグザグに走ります。一方通行な
ので同じ路線でも行きと帰りでは通る道が違
ううえに、経由地を明示していないのでどこ
を走るのかは運転手に尋ねる以外に知る手
段がありません。そしてその路線数は300。
だから市民は自分がよく乗る路線でないと、
どのバスがどこを通るのか知りません。目的
地にピンポイントで移動するために、総ペー
ジ数300のバス路線地図帳が一家に一冊あ
ります。この地図を活用して事前に時間をか
けて調べないととんでもない所に連れて行か
れてしまいますし、車内アナウンスがなく似
たような路地ばかりなので、降りる場所の地
形を覚えていないと降りられません。バスは
おいそれと乗れないのです。 
 本当はバスで行けば20分とかからない距
離だったのですが、バスは怖い(治安という
意味ではありません)ので地下鉄で1時間ぐ
らい時間をみて家を出ました。9時15分集合
だったのですが、私達が到着したのは9時で
す。ここはアルゼンチンなのでもちろん一番
乗りでした。 
 場所は高速道路の高架線下です。床はコ
ンクリート張りにラテックスコートされていて、
仕上げが雑で凸凹してはいるけれど割とま
ともなコンディションと広さのコートです。この
高速道路高架線下というのがブエノスアイレ
ス市内のフットサルの聖地なのです。こうい
った遊休地の利用状況は駐車場かフットサ
ルコートと相場が決まっていて、500mぐらい
の間隔で駐車場とコートが交互に付設され
ています。この場所は特定のチームが利用
するのではなく、日本の公共運動施設と同じ
ように予約を取って借り切るのです。ただ、
とにかく沢山あるのでアチコチで予約の順番
待ちをすることはなく、いつも同じ場所の同じ
時間で練習をしているようです。 
 場所によっては高架線下なのにプールや
テニスコートを備えた小さなアスレチッククラ
ブになっている所もあります。碁盤の目のよ
うに道路に囲まれた区画の市街地では、よ
ほどの財力がなければ大きな施設を構えら
れないので、広い国土のモータリゼーション
を支える高速道路網はこんな風に活用され
ています。アルゼンチンのスポーツはアスレ
チッククラブと高架線下の二本立てです。日
本でのアスレチッククラブの浸透はまだまだ
先ですが、橋や高架下の遊休地なら無数に
存在するので、日本もこうなるといいです
ね。 
 ちなみにポルベ クラブの隣の駐車場には
陸軍の砲台付装甲車が2台停まっていまし
た。アルゼンチン陸軍はしばらく戦争をして
いないので、この装甲車は暴動鎮圧が目的
で市内の何箇所かに待機しているようで
す。 


 「コベル先制、いつもと違う試合展開」 
 みんなが「時間通り」に現れたのは9時30
分。いつもどおりです。思うのですが、相手
チームとの約束の時間は9時30分で、遅刻
を見越して15分前に集合時間を設定してい
るのですが、この習慣はみんな織り込み済
みで、それを見越して9時30分に集まってい
るのではないでしょうか?。つまり、9時15分
の15分前に来る奴は馬鹿なんですよね。時
間を守ろうとする私のどこがいけないという
のでしょうか?。 
 「時間通り」に集まったのは息子を入れて6
人。今回はエースのホアン君が現れて、毎
試合フル出場していたサル君が来ていませ
ん。アタッキングスタッフは2人だけ。「やっ
た、フル出場できるじゃん、しかもパートナー
はホアンだ」。にわかに喜んでいました。ユ
ニフォームに着替えて軽いシュート練習。審
判も選出されてスタメンの確認。やっぱり先
発です。そこへ、小さな子供と禿げたオッサ
ンが走り込んで来ました。・・・サルです・・・。
禿はサルのオヤジでした。 
 アルゼンチンなので遅刻OK。誰も咎めま
せん。ニコニコしながら皆と抱き合って挨拶
を済ませ、さっさと着替えてあっさりスタメン
交代。引っ込められたのは勿論新参者の外
国人、私の息子ジョシ君でした。無念です。
日本なら大幅な遅刻した小僧をスタメンに入
れずにベンチに座らせるでしょう。こっちは
毎度時間前に来ているのです。シーズンオ
フで皆がサボっている時も真面目に皆勤賞
でした。でも、でもですね。そういうことはサッ
カーの実力とは関係ないんです。 
 ハッキリ言ってサッカーの実力だってプレ
イスタイルの違いはあれど負けてはいませ
ん。だけどそれを証明できていません。実績
は去年もプレイしているサルの方が上なの
です。ポジションを奪うためにはゴールの
み。チャンスは与えられているので、そこで
持てる力を出し切るしかないのです。それに
してもシビアですね。きっとこの采配を不服
に思っているのは私達だけなのでしょう。こ
れにてスタメンはいつもどおりに前はサル君
とホアン君、後ろはマルセル君とクリスチャ
ン君に決定してしまいました。控えは前が愚
息で後ろが新人ロドリゴ君です。GKはフレン
ドリーマッチで不安定感を発揮したガブリエ
ル君です。 
 初対面のサルのオヤジはシュート練習を
見ながらニコニコ話かけてきました。「凄いシ
ュートを打つね。パンチが違うよ」と言いなが
らタバコを私に勧めるのです。意外にいい奴
っぽいです。息子のサル君に似ていますが
サル顔ではありません。でも遅刻はダメだ
よ。 
 さて、相変わらずコベルの面々は体格で相
手に劣るのですが、相手のシュート練習はち
っとも入りません。これはいつものことです
が、相手には目を引く選手がいないのです。
ただ、今回は一人、目を引く選手がいまし
た。GKなのですが175cmぐらいあります。全
体的には160cmぐらいあれば大型選手の部
類に入るので、これは規格外です。でも、相
手のシュートも凄みがないけどGKも鈍い。 
 どこの対戦チームにも大型選手はいるの
ですが、アタッカーで大きい選手がいませ
ん。実はコベルにはU-13のカテゴリーに選
手登録をされていない息子と同じぐらいの背
の子がいるのですが、その子も含めて大き
い奴は決まって鈍いように思います。一説に
は西洋人の成長期は遅く、変声期がない人
も割合いるとのことです。日本にはニキビ面
の中高生が多いのですが、肌質もあるので
しょうがアルゼンチンには松井秀樹のような
アバタ顔は皆無といっていいでしょう。将来
有望な選手とは、今は小柄なテクニシャンの
身長が伸びきるまではわからないのかもし
れません。チーム一小さいサル君の親父さ
んも背は平均的なのです。それにしてもコベ
ルは小さい。 
 キックオフです。今回も相手はコベルと同
じボックス形。目立った選手がいるんだかい
ないんだか、GKが大きくて鈍いこと以外は
大きくもないし小さくもなく、巧くもなく下手で
もないのです。どうせいつも負けるのなら物
凄い選手を見てみたいものです。 
 といっても彼等は日本の平均的な小学校
チームなら大活躍間違いなしでしょう。、息
子の身近には神奈川県のトレセン選手やJ
のJrYに選ばれた選手がいましたが、アルゼ
ンチンでは平均的なパフォーマンスになって
しまうと思います。 
 今まで対戦した大抵のチームは日本なら
相当な強豪になりそうです。こう断言できる
のは、試合を見ていても目立つほどの隙が
ないし、穴と呼べるほど動きの悪い選手が
見当たらないことと、精度はともかくとして、ド
リブル、パス、シュートの選択に無駄や迷い
がなく試合を見ていてもストレスを感じない
のです。日本の少年サッカーなら「代わりに
出ようか」とか「代わりに教えようか」という気
分にもなるのですが、アルゼンチンだと選手
起用に不服があっても試合の動きには文句
はありません。やっぱり世界の強豪国なの
です。スキル云々というよりも、サッカーのこ
とは日本の子供よりよくわかっているという
ことです。 
 序盤の試合展開は一進一退。特にホアン
君は両ゴール前に必ず現れてピンチを救
い、チャンスを広げます。そしてもう一人、ピ
ンチを摘む男がいました。GKのガブリエル
君です。彼は変わりました。今までとの違い
は一目でわかります。ゴールの脇に去年ま
でチームスタッフだったオッサンが立ってず
っと指示を与えているのです。その結果ガブ
リエル君は前に飛び出すプレイを連発、セー
ブ、セーブ、またセーブ。互角の試合展開の
立役者です。FKの時も、壁に指示できない
ガブリエル君の代わりにオッサンが指示を
出し、愚直にも壁のブラインドを気にしない
ガブリエル君がファーサイドを空けてニアに
立つと、「壁があるんだからファーを守れ」と
ビシッ。見事FKをセーブしました。 
 前半半ばのことです、拮抗した試合が動き
ました。CKがファーサイドで構えていたクリ
スチャン君に渡りミドルシュート一閃。デカイ
GKは鈍くて反応できずそのままネットに突き
刺さりました。本当にクリスチャン君はミドル
のコントロールがいい。先制点はコベル。今
日は行ける、守れる。息子の出番はまだ
か?。 

 「君達守りすぎじゃないの?」 
 試合はその後も引き続き一進一退。敵は
サイドアタックを中心にコベルのゴール前に
迫りますが、マルセル君もクリスチャン君も
敵を逃すことなく攻撃を寸断。こぼれ球は鉄
人28号状態のガブリエル君が処理し、ホア
ン君も飛び込んでどんな状況も危なげなく乗
り切っていきます。ただ、前線で残っている
はずのサル君も下がっているのでカウンタ
ーの発動地点が深すぎて相手コール前に運
べなくなってきました。 
 流れではゴールに迫ることもあるのです
が、いかんせんフィジカルで劣るために誰か
しら倒されて攻撃があまり続きません。シュ
ートで終わるというよりもファールされて終わ
っています。心配材料のジャッジは割りと公
平で助かりましたが、流れでは攻め切れな
いと相手を崩せないので決定機をつくれま
せん。 
 前半終了間際にサル君が敵に潰されて転
倒。腹を抱えてうずくまっています。少し心配
ですが、代わりに出るのは誰かわかってい
るので「引っ込め、引っ込め」と心の中で連
呼する私。引っ込みました。サル君、君は毎
試合フル出場でよく頑張った。後は息子に
任せてあげて。お疲れ様。 
 さあ、前半の残り時間は僅かです。ですが
ついに私の理想とする布陣ができました。後
ろにポジショニングのクリスチャン君とパス
センスあるマルセル君、前がオールラウンダ
ーのエース・ホアン君とスピードとパワーのジ
ョシ。練習中は軽々と得点を重ねるこの布
陣を、オーナーコーチのハビエル氏は知りま
せん。今こそ追加点を重ねてこの試合をモノ
にしようじゃないか。 
 やっぱり時間はありませんでした。パス二
回でタイムアップ。もっと早く倒れてくれよ。
だって結局たいして怪我してないじゃない
か。それでも今まで前半で勝負がついてしま
うほどの失点だったのが0封しています。オ
ッサンのコーチングはバッチリです。後半は
爆発の気配。 
 後半開始。メンバーチェンジは敵のGK。代
わった奴は長髪でハンサムですがふてぶて
しい面構え、イタリアのかっぱらい小僧とい
った感じです(アルゼンチンは大戦中にムッ
ソリーニを支援していたので、港湾作業員と
して移民したイタリア系が多いのです。マラド
ーナもイタリア系移民がルーツです)。コベル
は前半終了間際の布陣だったのに、ワンプ
レーするとホアン君が抜けてサル君復帰。
「なんで?、なんでそんなにサル君が優遇さ
れるの?」。日本語で呟いてしまいました。
続いてマルセル君も負傷してロドリゴ君投
入。またいつものバラバラの布陣に早代わ
りしてしまいました。 
 後半はジョシ君が発奮して攻めました。し
かし、イタリアのかっぱらいっぽいGKは相当
ヤル選手でした。ゴールエリアギリギリで絶
妙の飛び出しを連発し、息子の投入でシン
プルな繋ぎに変わったコベルの攻撃をことご
とくシャットアウト。何度もGKとのクロスプレ
イがあり、それを全部抑えられてしまいまし
た。 
 この攻撃に崩して攻めるパターンが加わ
ればもっとチャンスが増えるのですが、その
辺がバラバラで組み立てが出来ないので
す。パスが大きく繋がらなくなっていきまし
た。 ゴール前には迫るのに次第に淡白な
攻めになり、敵の攻撃が増えました。こうな
ると攻める気持ちよりも守り切る気持ちが強
くなり、ハーフラインを越えてパスを受ける選
手がいなくなっていきました。 
 後半半ばにゴールエリアの右隅でゴチャゴ
チャになり、GKのガブリエル君が寄った足
元にルーズボールがころころ。誰が最後に
触ったのかわからないボールがゴールの枠
に入ってしまいました。守ろうと消極的になっ
た所で追いつかれ、コベルの守備陣はガッ
クリ。そしてベンチが動き、息子とホアン君、
マルセル君とロドリゴ君が交代しました。 
 またノーゴールだった息子。レガースを外
して着替えようとしています。「おい、また負
傷者が出るかもしれないから身体を冷やさ
ないようにして待ってろよ」と私が声をかける
と「だってもう時間ないよ、前半のGKだった
らゴールできたのに」と力を落とす息子。「い
いからまだ着替えるな」。僅かな望みです
が、それでも可能性がないわけじゃないの
は本当のことです。たら、ればは言ってもし
ょうがないのです。こうやって変に諦めのい
いところがチャンスを引き寄せられないので
す。成功体験が少ないので、強く願うよりも
諦める方が慣れているのです。言いたいこと
はいっぱいありましたが、試合中に外国人
親子が説教しても無駄に目立つので黙って
試合を見つめていました。 
 コベルは攻撃を忘れて守っていました。攻
撃をしなければ守るしかないのですが、同点
なので守っていても勝てません。そして守っ
てばかりいるチームは必ず負けるのです。コ
ーチが試合に来ないだけでこれほどチーム
は変わるのだろうか?。チームのエースは
ホアン君で、彼の動きは未来を感じさせてく
れるのに、試合では脱力しきった忍者のよう
な体裁きを見せてくれません。息子の目下
のライバルはサル君ですが、彼のボールタ
ッチも見たことがないほど素早く、身体が小
さくても余りあるテクニックで何人でも翻弄で
きるのに、試合では相手に競りかけてばか
り。余裕がないのです。 
 守れなくても攻め勝てるチームだといつも
期待しているのですが、攻め切れずに守り
抜けません。 
 この文面から伺えるように、コベルは後半
終了間際にコーナキックを逆サイドに振られ
てミドルシュートを喰らい逆転されてしまいま
した。 
 あわててベンチが動きます。メンバーチェ
ンジで再び息子にチャンスが回り、代わって
引っ込んだのはまたしてもホアン君。どうし
てサル君だけフル出場が許されるのか本当
に疑問です。 
 なにはともあれ本当にチャンスが巡って来
たので良かったです。さっさと帰り支度をして
たら得られなかった機会ですが、期待されて
いるのはゴールのみ。まずは試合の流れを
変えなければいけません。 
 試合の流れは変わりました。シンプルにボ
ールを繋いでとにかくジョシへ。久しぶりにア
タッキングエリアへ攻め込んだ息子は、ゴー
ルエリアの左隅から右足を振りぬきました。
重いインパクト音をさせて鋭く伸びるシュート
が逆サイドの隅へ。私はいつも逆サイドのシ
ュートを推奨しているのです。GKがセーブす
るためには前に跳ぶしかないのですが、た
いていは自分の前を横切ってから横に跳ぶ
のでセーブできません。そしてこのGKは前
に跳んで弾きました。 
 コベルのベンチは一斉に溜息。いつもは
惜しいシュートでも拍手しているのに、この
時ばかりは皆悔しがりました。逆に沸き立つ
ポルベベンチ、試合は決まってしまいまし
た。。息子の投入で確かに流れが変わりま
したが、結局遅すぎたんです。時間は無情
にも足早に過ぎ去りゲームセット。今度は大
量点差ではなく、点が取れなくて負けてしま
いました。 
  
 「次こそは」 

 息子は決意しました。一つはカウンターで
絶対に点を取ること。だから敵のセットプレ
イは一番離れている選手をルーズマークし
て、相手を動かさないようにするのです。相
手をフリーでプレイさせなければ問題ないの
で、ボールが飛んで来てから詰めればDFの
役目を果たせます。ポゼッションから崩すの
は独力では確率が低いのでカウンターで点
を取るのです。 
 そして、今度こそ中央で待つのを辞めてサ
イドを動き回ります。中央は捌くだけ。深い
位置で受けたら無理せず戻す。ポジション争
いに勝つためには結果のみ。とにかくゴー
ル、ゴールです。 
 そしてもう一つ。トレーニングコーチのジャ
バー氏に問いかけるのです。チームの中心
はホアンなのになぜマキシ(サル)ばかりが試
合に出続けるのか。自分はホアンと交代す
るのではなく、ホアンとプレイしたいのだと。 
 このことは試合から三日後の火曜日に直
訴しました。私が英語で熱く通訳したのです
が、コーチは何も応えずに静かに「わかっ
た」と言って、そのまま背中を向けました。自
分が育てたチームが敗戦続きなので、ジャ
バー氏も思うところがあるようです。結局先
の試合でも修正された部分があるので、少
しでも改善されればと思います。 
  
 そして、コベルには珍客が現れました。
日本から短期滞在で来ている北海道出身の
A君が練習に参加しているのです。十代後
半の彼ですが、札幌の社会人チームの選手
だそうです。今回アルバイト生活から足を洗
うのをキッカケに知人を頼って訪れました。2
ヶ月の短期滞在ですが、滞在中にアルゼン
チンに住む私の存在を知り、矢島さんを通し
てコンタクトを取りました。 
 本人はどうしてもアルゼンチンのプレイヤ
ーと交流して腕試しをしたいということでした
ので、コベルのU-13の練習と、その後のお
父さんチームの練習にに混ざれることになり
ました。 
 すでに二回練習にに参加して、腿裏の筋
肉痛に悩まされているとのことです。「日本で
もプレイしていたのに」と本人は首を傾げて
います。 
 小柄な彼ですが左足を苦もなく使い、最新
の運動理論を参考に走り方を変えるほどハ
マッている人で、なかなかやります。 
 さすがお兄さん。コベルの子供達には遠慮
しながらも冷静にボールを繋ぎ、骨太なお父
さんチームには果敢にアタックしています。
彼のお陰で息子もお父さんチームと手合わ
せしていただけることになりました。フィジカ
ルコンタクトが課題なのでもってこいの練習
台です。 
 今回はネタ繋ぎのために彼のコメントを来
週に回します。コベルの奮戦記と合わせて
乞うご期待。 
 次回はホームの「アルティゲンセ」戦です。
また変な名前ですね。  
 



その15 二人の日本人どこまで通用する? 技術そしてフィジカルは? 。と やっとコベル快進撃。
   2006.5.28

「北海道のA君奮戦記」 
  
 十代後半の日本人A君は二ヶ月の短期滞
在を終えて帰国していきました。お爺さんが
南米各国の日本人学校で校長職を歴任さ
れていたということで、かつての教え子であ
るブエノスアイレス在住の日系人夫婦を頼
ってモラトリアムの時間を過ごしたようで
す。 
 渡航したのはいいものの、この若夫婦は
数日前にJrが誕生して人生で一番忙しい瞬
間だったので、彼に寝泊りする場所を提供
するのが精一杯だったようです。日にちが
経つにつれ時間持て余した彼はインターネ
ットでこのhpにたどり着き、管理人の矢島さ
んを通して私と連絡を取りました。 
 曰く「クラブチームの練習に参加したい」。
無理です。日本でだってJの練習に参加す
るには然るべきルートを通さなければなりま
せん。うーんと妥協してもらって、コベルのお
父さんチームの練習に混ぜてもらうことにな
りました。 
 素人の集まりといっても生まれてからずっ
とサッカーブームが続いている国でプレイし
続けた人達なので、全員がパーフェクトスキ
ルの持ち主です。大袈裟に書きましたが、
基礎はできているということですね。A君は
日本でも社会人チームに所属するウイング
だということで、これによって日亜アマチュア
対決が実現しました。 
 ちなみに私はのめり込む性格なので、妻
にサッカーをすることを止められています。
妻の立場からすれば、言葉がわからないの
に夫が趣味に走っては孤独になってしまうと
いうことです。私の代わりに息子が奮闘して
いるので今は充実してそれなりに満たされ
ています。 
 A君は正式なコーチングを受けた経験が
ないらしいのですが、自己流で模索したさま
ざまな努力に裏づけされた確かな技術を披
露してくれました。 
 日本人らしくシュートが最優先されていな
いことが少し気になりますが、技術的に穴が
ないのは素晴らしいことです。日本のアマチ
ュアもここまでのレベルなのだとかえって感
心させられました。ただ、改めて感じたのは
日本人のフィジカルの弱さです。A君は
170cmに満たない小柄なのですが、それに
しても身体の太さが違う。お父さんチームの
面々も素人なのでフィジカルトレーニングを
積んだわけじゃないことは腹の出っ張り具
合で知れているのですが、固太りというか、
肩幅や身体の厚みが根本的に大きいので
す。 
 プレイでも簡単なショルダーチャージだけ
でA君がバランスを崩される場面が随所に
見られました。技術というよりもこの大きな
身体を活かしたプレイがそのまま差に繋が
っているように感じます。A君も当たり返して
いましたが、質量保存の物理法則が正しい
ことを証明することとなり、押しても引いても
お父さん達はバランスを崩さないのです。A
君はサイドに張ってスピードで張り合ってい
ましたが、この体格差だとそれしかないとい
う感じです。ケンからも指摘されましたが、
やはり力で張り合うのは無理なようです。押
し合うのではなく力をいかなさなければ海外
では生き残れません。 
  
 「ボールばかり要求するなよ」 

 A君の感想は「ドリブルばかりするくせに、
他人がボールを持つと寄こせ寄こせとうるさ
い。」とのことです。もちろん日本のオジサン
達より巧いことは言っていましたが、まずそ
れだそうです。息子のミニゲームを見ていて
も同じなので納得しましたが、少し考えてみ
ると違う面もあるのではないでしょうか?。 
 彼等は何度声を掛けてもボールが来ない
ことに慣れているので、本来は諦めて何も
言わなくてもいいはずです。つまり「ボール
を寄こせ!」と言っているのではなく、「俺は
ここにいるぞ」と知らせているだけなので
す。だってGK以外が全てボールを要求する
のは不自然です。 
 いいポジションを取った選手だけが声を掛
けるとマーカーにバレてしまいますが、全員
が声を出せば紛れます。パスは誰か一人に
しか出せないので、パスを出しても出さなく
ても常に何人かは無視されるわけですか
ら、別に出さなくても誰も文句を言わないの
です。ただ、単独突破に拘ってボールを取ら
れると「一人でやるなよ」と文句を言われる
ことがあります。その程度だと思えば気軽に
無視できるというものですね。 
 こう考えると全員が声を掛けるのは大変
いいことです。日本では黙ってプレイするチ
ームが多いので見習ってみるのもいいかも
しれません。本当は自分がプレイしたいから
ボールを要求しているだけなのでしょうが、
オフザボールのポジショニングが良くなけれ
ばボールを繋げないのは当たり前なので、
声を掛けられたからといってパスしなければ
ならないということはありません。 
 そういった他人の顔色を伺うところはとて
も日本的な発想なのかもしれません。判断
をするのは常にボールを持った本人なの
で、有効なパスコースがなければ何度声を
掛けられても無視していいんです。これは当
たり前ですよね。 
 息子もお父さんチームに混ぜてもらいまし
た。どうやら全員がキッチリ練習に来ること
がないようで、人数合わせのためにコベル
のスタッフを引き込むことが日常的にあるよ
うです。日本にも助っ人登録制度があります
から、どこでも事情は同じだったんですね。 
 セルジオ越後氏も少年時代は大人に混ざ
ってプレイしていたようで、曰く「子供はそう
やって大人と混ざるのが一番上達する。」の
だそうです。当時アマチュア規定があったオ
リンピックを蹴ってプロになった同氏の言葉
を思い出しました。これからはどんどん混ぜ
てもらい、力をいなすプレイを身につけさせ
たいと思います。 

 「コベルの順位は」 
  
 開幕以来三連敗したコベルですが、実は
最下位ではありませんでした。負けていた
のはU−13チームだけで、それ以下のカテ
ゴリーは一勝一敗一分けが一チーム、他の
チームは全部勝ち越し中で各カテゴリーの
首位争いをしています。一つ下のチームに
は目下得点王に輝く選手もおり、総合順位
は予選ブロックの8チーム中なんと3位で
す。前半戦の残りの対戦相手は下位のチー
ムばかりなので、実は首位になることも可能
なのです。情けないお兄さん達は下の子供
達に頭が上がりません。 
 現在の総合1位は開幕戦で対戦したリパ
ブリック・メキシコです。このチームの場合は
選手の実力というよりも審判の力だと思い
ます。ズルイなァ。 
 前回対戦したポルベクラブは総合3位でコ
ベルと同率です。このチームのU-13は全勝
中ですが、得点王争いをするポイントゲッタ
ーがいないので守り勝っているようです。や
はりGKがいいみたいですね。 
 コベルとの試合で7得点したリパブリック・
メキシコと9得点したリオ・コロラドはその後
も得点を重ねて得点王を争う選手がいるの
ではないかと思っていましたが、実はあまり
点を取っていないようで得点ランキングの上
位には誰もいません。やはりコベルは点を
取られすぎていたようです。GKの出来の差
がハッキリと出ています。 
 総合順位こそ低いもののU-13の得点王と
2位がいるのがボヘミオ・Jr。対戦はニ週間
後になります。さらに、このボヘミオ・Jrとす
でに対戦して唯一の土を付けたのが今回ホ
ームで対戦するアルティゲンセです。目下全
勝中、強敵です。 
 ホーム&アウェイを7戦づつこなすので、コ
ベルはここで4敗目を喫すれば前半戦負け
越し決定となります。まさに正念場といえる
でしょう。 
 今回はエース・ホアン君が現れず、サル君
が来ています。それとホームだとサボらない
フェデリコ君が来ているので、息子・ジョシ君
はまた交代出場になりそうです。本人曰く
「サルと同じようにフル出場していれば一試
合に一点は取れてるよ」とのことですが、自
信があっても実績がなければ誰も認めてく
れません。途中出場でも一試合一点取らな
ければいけないのです。いくら練習でゴール
を重ねても、本番で点が取れなければいつ
まで経ってもチャンスを与えてもらう立場で
しかありません。 
 後ろはいつもどおり、クリスチャン君とマル
セル君が来ていて、控えのロドリゴ君もいま
す。こちらは力関係がハッキリしているので
特にスタメンをいじる必要はないでしょう。3
ゴール.のクリスチャン君に比べてマルセル
君が点を取っていませんが、テクニックなら
マルセル君です。それにしてもポジショニン
グとはことさら重要なのですね。攻撃力を一
番期待されていないクリスチャン君がチャン
スで必ず決めているのですから。実は一番
将来性があるのはクリスチャン君だったりし
ませんか?。 
 GKは二人。ガブリエル君とトニー君。今の
ところ勝敗の鍵を握るのは彼らということに
なります。たぶん前回の出来からしてガブリ
エル君に任せることになるのでしょうが、不
安です。 
 首位チームのアルティゲンセはコベルの
面々よりも早く選手が揃いました。関心じゃ
ないか。大きい選手が二人。目を引くテクニ
ックを持つ選手はゼロ。なんで首位なの?。
マラドーナの後継者はどこにいるのだろ
う?。 
 布陣は前二人後ろ二人のボックス型で、
またデカイ奴が後ろです。デカイといっても
165cmぐらいですね。今まで対戦したチーム
で大型のアタッカーを見たことがありませ
ん。168cmの日本人にはもっと頑張ってほし
いのですが、気持ちが後ろ向きになってしま
います。 
  
 「いけるかも?」 
  
 先発はいつもの通りクリスチャン君、マル
セル君が後ろでサル君とフェデリコ君が前
です。GKはガブリエル君。先週ホアン君を
軸にしてくれと直訴したのに、当の本人が現
れないのならあまり意味がありません。実績
のない面々はサブに回りました。 
 キックオフ。序盤はどちらもペースを握れ
ず中盤でボールが行き来していました。時
折コベルのゴール前にボールが入ってきま
したが、今日は専属コーチがいないのにガ
ブリエル君が奮闘。また接戦になりそうで
す。 
 左サイドでボールを受けたアルティゲンセ
のアタッカーがニアポストにシュートを打ちま
したが、あらかじめニアサイドで構えていた
ガブリエル君が横に少し跳んでセービング。
いいじゃんガビー。と思ったらボールはゴー
ルの中へ。 
 身体をすり抜けた!。違うんです。彼は身
体で止めようとせずに手だけで?もうとしたの
で後逸したのです。何やってんだよ、胸で止
めろよ。体勢的に無理じゃなかったけど無
理ならパンチングでもいいんだよ。それにし
てもコベルのトレーニングコーチは元プロの
GKなのに、何だってこんなにGKがマズイの
だろう。思い返せば練習中にコーチがGKに
何か教えたことは一度もないな。 
 一点ビハインドでまたキックオフ。またダメ
なんだろうな。こうもアッサリ失点すると私は
すっかり弱気になっていました。 
 今度はコベルのコーナキックになりまし
た。右からGKの脇をすり抜けたボールが逆
サイドのサル君に合いそうです。いける!。
走り込んだアルティゲンセの大型選手がワ
ンタッチ。そしてオウンゴール。なんともアッ
サリ同点になりました。 
 スコアの動きが早い試合になってきまし
た。今度はオーバーラップしたクリスチャン
君がゴールエリア中央でボールを受けまし
た。モタモタと3タッチ、彼は足元がイマイチ
なんです。でもアルティゲンセのDFが寄って
こないのでフリーでシュート。GKの頬を掠め
るように上に伸び上がったボールがネットを
揺らしました。なんと勝ち越し点です。 
 クリスチャン君はこれで4ゴール目となりチ
ーム内得点王になりました。打ったシュート
を必ず入れる不思議な奴です。顔はスター
トレックのサイボーグクルーに似ていてあま
り表情がありません。地味な奴が活躍する
となんとも複雑な気分ですね。 
 そして今度はフェデリコ君。いつものように
ゴール前に出現してフリーでパスを受け、こ
れもあっさりゴール。何故か今日は強いん
ですよ。いけますね。相手は無敗の首位だ
ったのに前半途中でもう3-1ですよ。 
 しかし、守れないコベルも健在でした。ロン
グボールを蹴り込まれ、クリスチャン君と敵
のアタッカーがバウンドを競り合っていると
ころにガブリエル君も跳び込み、先にボー
ルに触れたアルティゲンセのシュートに触れ
ずゴール。3-2に戻されました。 
 あそこは跳び込まずにコースを塞げば良
かったハズ。GKのセオリーは味方が競って
いる時に動いちゃいけないんじゃなかったっ
け?。味方が先に触れてもオウンゴールに
なっちゃうじゃないか!。誰か奴に教える人
間はいないのか?。 
 ベンチが動いてジョシ君登場。引っ込んだ
のもいつもの通りフェデリコ君。そしていつも
のようにワンプレーで時間切れ。それでも前
半は一点リードです。前回も一点リードで折
り返したはず。守れるチームじゃないので油
断は禁物ですね。 

 「本当にいけるかも!」 

 後半が始まりました。またまたいつもの通
りマルセル君とロドリゴ君が交代、いつもの
ダメな布陣です。 
 ダメだと思ったのに、サル君が右サイドを
抜け出し、寄せてきたDFが競りかける前に
ゴール前にグラウンタ゛ーのパス。走り込ん
で来たのは日本のジョシ君です。ワンタッチ
でファーにシュートしてゴール。なんとコベル
は再び突き放しました。 
 そして今度はジョシ君が右サイドでボール
を受け、マーカーにスピードを殺されたもの
のジンガステップを繰り出し、敵が跳び込め
ないままゴール前まで進入してスライディン
グを誘い、かわし際にシュート。コベルはつ
いに3点差をつけてしまいました。私は思わ
ずサル君の禿げた親父さんと抱き合いまし
た。 
 再びコベルベンチが動きました。連続ゴー
ルのジョシ君とノーゴールのサル君が引っ
込み、フェデリコ君と控えGKのトニー君をア
タッカーでで投入。見せ場がなかったロドリ
コ君が交代したかどうかは忘れてしまいまし
たが、とにかく今までと違って結果を出した
うえでの交代でした。 
 サッカーは3点差がつくと試合の大勢が決
まるといいます。連続出場していたサル君
が引っ込んだのがその証といえるでしょう。
息子はいい働きでした。勝った。やっと勝っ
た。 
 フェデリコ君も奮闘。まずはコーナーキック
で敵に囲まれて倒されたフェデリコ君の足
元にボールがコロコロ。寝そべったまま迷
わず蹴り込んで追加点。スコアは6-2、4点
差になりました。 
 次はガブリエル君が見せ場をつくりまし
た。敵のシュートをキャッチングできずにコ
ロコロ。沈黙していたアルティゲンセが3点
目をゲットしました。まだ3点あるからいいん
だけど、ちゃんと身体で取れよ。 
 またまたフェデリコ君。ゴール前に現れて
フリーでシュート。ハットトリック達成です。す
でに負けが確定していたアルティゲンセが
前掛りだったので、彼のようにスペースを突
くタイプは楽にプレイできていたようです。何
はともあれ7-3で再び4点差。 
 そして最後もガブリエル君。敵のシュート
を読んで横っ跳び。でもシュートがミートせ
ずにボテボテになってタイミングが合わず、
再び失点です。スコアは7-4になり、シーソ
ーのように交互に点を取り合っています。ベ
ンチに引っ込んだチームメイトはガビーの珍
プレイの連発でドリフのコントのようにずっこ
けていました。 
 それでも時間は刻々と進み、遂に審判が
ホイッスルを鳴らして試合が終了しました。
勝った。本当に勝った。 
 ニコニコ戻ってくる息子に「2ゴールはスト
ライカーの証。よくやった」と一声かけて私も
キメました。 

 「神の教え」 
  
 次もホームで試合があります。相手はビベ
ンシアというチームですが、目下全敗中のう
えに通算でも2点以上取った選手がいない
弱いよわーいチームです。絶対勝てます。
残酷な得点ラッシュとなることでしょう。一回
勝っただけで随分気持ちが大きくなるもので
す。 
 ところで、息子が三対一の状況でもドリブ
ルを仕掛ける理由が判明しました。彼は無
意識でボールコントロールすることがあり、
ビデオに残したいほどのスーパープレーを
時々披露します。本人はその感覚の虜にな
り、今はそういったプレイをするためにサッ
カーをしている節があります。 
 こう書けばもう気付かれた方もいらっしゃ
ると思いますが、実は無意識のプレイを無
理やり引き出すために、ワザと強引な突破
を仕掛けていたのです。 
 なんて馬鹿な男なのでしょうか。こういうこ
とを試合中にずっとやっているのです。当然
スーパープレーなど出ません。そもそも私は
フリーになることが攻撃の成否を決めると言
っていたのに、全く逆のことをしているので
す。 
 曰く「1人2人なら自分の意識で抜けるか
ら試しても意味がない。だから3人いる時も
仕掛けていた」とのことです。私はクリスチャ
ンなので聖書を引用して彼を諭しました。 
 「聖書には[神を試みてはいけない]とあ
る。つまり神様が守ってくれるからといって
アテにして、自殺の真似事などをしても守っ
てもらえないということだ。ひたむきにプレイ
するからこそ無意識に身体が動く瞬間が訪
れるのであって、変にアテにしても絶対にそ
の瞬間は来ない。馬鹿なことは止めてゴー
ルを奪うことを考えろ」。 
 息子は「今は無意識に身体が動かないけ
ど、以前はその瞬間でしかできなかったこと
が最近はできるようになってきた。これから
前みたいにスペースを突いたプレイをした
ら、今度はどんなプレイを無意識でできるの
かな」と言ってきました。それは楽しみなの
ですが、とりあえずはもう止めてよね。 
 道理で最近変なプレイばかりすると思った
らそういうことでした。本当にもう止めさせな
いとまたゴールと出場時間が遠のいてしま
います。コベルが連敗していたのはコイツの
せいでした。フリーになってシュートを打つ。
サッカーはそういうスポーツなのです。発見
が遅すぎなくて良かった。 
 これでゴール量産体制が整いました。現
在の得点王は7ゴールですが、同時進行の
試合の集計がわからないので9ゴールぐら
いになっているかもしれません。通算3ゴー
ルの息子がどこまで詰め寄れるかわかりま
せんが、これからゴールを重ねてチーム内
のポジション争いを制してくれれば可能性が
あるかもしれません。まずは安パイのビベン
シア戦です。乞うご 
 



その16 アルゼンチンでも通用するケンのウェーブ理論とマッシー理論。
  2006.6.4

「予想どおり弱い相手でした」 

 今週はホームのビベンシア戦でした。予
告どおり大勝したのでレポートはいつも以上
のダイジェスト版でいいですよね。 
 ゴールはマルセル君が開始して数プレイ
で先制。おめでとうマルセル君。君はハンサ
ムなので活躍すると別の未来があるかも
よ。アルゼンチンでは成績に関係なくしょっ
ちゅう新聞に載っているジャニーズ顔のイデ
ペンディエンテのNo,10、17歳のアギエロ君
みたいなアイドルがいるので、君にも頑張っ
てほしい。顔で選ぶなら代表でもやっていけ
る。シュートはサイドをオーバーラップしてセ
ンタリングを上げるタイミングから、逆サイド
上部のネットに突き刺したものでした。 
 2点目はクリスチャン君のミドル。いつもミ
ドルを決める地味な男。これも同じような展
開でオーバーラップし、ゴール右からで逆サ
イド下隅へのシュートでした。今回はサル君
が現れず、アタッカーとしてホアン君と先発
したフェデリコ君が3点目。またシンプルに
繋いだボールをゴール前でシュート。その次
もフェデリコ君でトドメの4点。ここで日本の
ジョシ君登場。 
  
 「中村じゃないぞ!」 

 本名はヨシヒロと言います。幼児洗礼を済
ませた一応のクリスチャンで、洗礼名は私
のクリスチャンネーム・モーゼから連想し
て、モーゼの後継者である「ジョシュア」とな
っています。アルゼンチンでは私のようにク
リスチャンネームを名乗るように言いました
が、本人は恥ずかしがって名乗りません。
ただし、ヨシヒロならアダ名がヨシとなり、ア
ルゼンチンでのスペイン語はカスティージャ
訛りでYをJと発音するので「ジョシ」と呼ばれ
てしまうのです。結果オーライですね。 
 得点シーンは、スペースがあった中央に
走り込んでパスを受け、寄ってきたDFを一
人二人とかわしてシュート。続けて右サイド
と左サイドでボールを受けてミドルシュート2
連発。4点目はゴールエリアでDFを背負っ
てボールを受け、ワンタッチで外回りにター
ンしながら左足でシュート。このターンシュー
トはジョシ君が日本で2年近く特訓した必殺
技です。最近は練習できなかったのです
が、身体がしっかり覚えていてくれたんです
ね。練習を指示したのは私なので感動しま
した。 
 それにしてもシュート精度が格段に良くな
りました。これはケンがヤフー掲示板の「教
えてもらっているサッカーテクニック」でシュ
ート精度を上げる方法として、シッティングリ
フティングから真上に高く蹴り上げる練習を
紹介してくれたからです。今まではシュート
を外した時に「フットサルじゃなくてサッカー
のゴールだったら入っていたね」と話してい
たのですが、今はフットサルのゴールにキッ
チリ収まるようになりました。 
 前半で2点後半でも2点。いつも以上に短
い出場時間でしたが、ジョシが出ている間
は一人しか点を取っておらず、まさに独壇
場でした。最後のターンシュートなどは、DF
していた相手選手が「お前はナカムラか?」
と言っていたそうで、ジョシは中村俊介が嫌
いなので怒っていました。 
 ちなみにアルゼンチンの子供の間ではフ
ットボールカード集めが盛んで、日本人選手
でも海外の一部リーグで活躍する選手なら
名前を知っているようです。この間キャプテ
ン翼カードも見かけました。 
 それから、学校やコベルの練習でジョシが
ウェーブリフティングを披露して、背中にボ
ールを乗せてから腕立てしたりすると「お前
はロナウジーニョか?」と言われるそうで
す。ジョシはロナウジーニョなら喜びます。 

「チーム内得点王争い」 

 ジョシは後半が始まってすぐに引っ込みま
したが、メンバーチェンジする時は拍手の喝
采を受けました。後日トレーニングコーチの
ジャバー氏と話した時に「ジョシは4ゴールし
たそうじゃないか。なかでもサイドからゴー
ルの逆サイドに放ったミドルは凄かったって
オーナーコーチのハビエル氏が言ってた
ぞ」と言われました。 
 このシュートはGKがマトモに反応するだけ
じゃ取れないんですよね。左からシュートを
打たれるのではじめはGKがニアに寄るの
ですが、軌道がファーなので今度は右に跳
びつきます。この時に横に跳ぶとコースが
厳しい時は絶対に間に合わないのです。セ
ーブするにはボールが中央に来る前に前に
跳び出さないといけません。そういう意味で
も素晴らしいシュートだったと思いますが、
実は私は雑談中で見てなかったのです。 
 8点差で再びフェデリコ君が登場し、実は
3点取ってしまいます。ほとんどごっつぁんゴ
ールで、中にはホアン君のミドルシュートを
GKの横でトラップして、改めて蹴り込むとい
うゴールもありました。これは触らなくても明
らかに入っていました。お陰でホアン君はノ
ーゴールです。ただ、こういったプレイも走り
込まなければ絶対に産まれないので、彼の
掛け値なしのゴールです。 
 ジョシはフェデリコ君とチーム内得点王を
競っていたので、彼が1点多く取ったことを
大変悔しがっています。出場時間はフェデリ
コ君の半分で、アシストを受けてばかりいた
フェデリコ君と比べても内容は遜色なかった
のですけれど。それから、ロドリコ君と控え
GKのトニー君もフィールダーでワンゴールし
たのだそうです。私は雑談中でした。 
 雑談していたのは私だけでなく、この試合
のコベルの父兄はずっとお喋りしていまし
た。さらに父兄だけでなく、試合後にオーナ
ーコーチのハビエル氏にスコアを尋ねたら
「10-1、いや10-2だったかな」と言っていま
した。見てなかったんですよ。本当は13-1
です。一失点はガブリエル君のゴールで、
敵のシュートを正面で受け、ボールが弾ん
で後逸しました。とにかく楽勝だったので余
裕に満ち溢れていたコベルの面々でした。 
 次はアウェイのボヘミオJr戦です。屋外コ
ートなので雨天順延となっており、天気予報
は雨。やたら点を取る選手がいるチームな
ので、前半戦では最後の山場となります。ビ
ベンシア戦での大量点でジョシとフェデリコ
君は得点ランキングにも顔を出しそうです
が、次の試合の如何で今後の展開が見え
てきます。実はジョシは試合後に熱を出して
今週は一日おきに学校を休んでいます。雨
で流れてくれてもいいのですが、なんとも含
みのある土曜日になりそうです。現在コベ
ルの総合順位は2位です。 

 「ジョシとモーゼ、サッカーとの出会い」 
 「世界の留学生とサッカーしていたモー
ゼ」 

 ここで昔話を一つ。アルゼンチンの話とは
関係ないのですが、私と息子のことを自己
紹介させていただきます。 
 私・モーゼが日常的にサッカーをしていた
のは米国に留学中の20歳頃です。米国に
は欧州・アフリカ・中南米など世界中から留
学生が集まっているので、遊ぼうとなると自
然とサッカーになりました。英語の習得のた
め日本人とは一切付き合わなかったので、
私はサッカーをやる連中とつるむしかなか
ったのです。ちなみに私は日本でテニスば
かりしていました。 
 米国はサッカーが不人気だと思われがち
ですが、観るスポーツとしては4大スポーツ
にかないませんが、プレイングスポーツとし
ては手軽なので人気があり、競技人口がと
ても多いのです。加えて国土の広さ、広大な
芝生がどこにでもあります。女子サッカーが
トップクラスの実力を誇るのも、競技人口の
多さが要因となっているからだと思います。 
 近年米国の男子サッカーも実力をつけて
いて、その成功の影にクーバーコーチング
システムの優秀性があるといわれています
が、実際のところW杯の優勝候補になるよう
な国には必要な取り組みとはいえません。
これらの国々はサッカーを研究される立場
で、その成果がクーバーコーチングシステ
ムなのです。だから、サッカー文化が根付
いていない米国や日本などの国々なら、裾
野からレベルアップするためには特に有効
だといわれています。 
 私もレベルの低い裾野の人間だったの
で、天気が良ければ外でサッカーをして、子
供の頃から世界のトップクラスの選手を真
似ていた連中と一緒にサッカーするのは大
変でした。パスを貰ってもトラップミスする
し、ドリブルで2m近いドイツ人を抜くなんて
恐ろしいことは考えもしませんでした。 
 次第にプレーは消極的になり、端っこへ端
っこへ。ボールを奪われないようにとにかく
遠くへ蹴っ飛ばし、パスが来ないようにと逆
にポジショニングに気をつかいました。 
 当然、勝っても嬉しくないし負けても悔しく
ない。ただ、仲がいい友達がみんなやって
いるから誘われるまま毎日プレーしていまし
た。 
 面白いとは思えなかったのですが、「サッ
カー巧くなりたいな」とは思いました。試合に
貢献したいし自分のシュートで点も取ってみ
たい。レベルが違うので無理なんですが、
一矢報いたいという気持ちはありました。 
 そして気づいたのですが、ボールが集まる
奴がいて、そいつを起点とした攻撃を防げ
ば味方も守りやすいんです。だから巧い奴
をマークすればいいわけです。 
   
「下手なりにできたこと」 

 私はボールを奪うのではなくマークするこ
とに専念しました。そうしたら面白くなりまし
た。いつもボールの近くでプレーできるんで
す。そして、私が近くにいるとトラップミスし
たり、かわされても味方のフォローでボール
を奪えたりしました。足と持久力には自信が
あったので、抜かれても何度も追いついて
ひたすら邪魔をしてやりました。 
 友達は「お前頑張るな、見直した」と言って
くれました。そして「そろそろ点を取ったらど
うだ、シュートしたいだろ」とも言われまし
た。 
 はっきり言って敵を何人も抜いてシュート
打つのは不可能なんですよ。でも、味方が
攻めていると暇なので(ただ参加していた時
はずっと暇だったくせに)、「攻撃に参加しよ
うかな」と思うきっかけになりました(それま
では攻撃に参加する気がなかった)。 
 そう思うと、みんながドリブルするのはサイ
ドライン際が多くて、最後はセンタリングが
上がるわけですが、中央で合わないと逆サ
イドへテンテンと転がっていくわけです。「あ
れなら簡単にシュートできるのでは」と思
い、サイドで味方がドリブルしているときは
逆サイドへ上がることにしました。 
 転がってきた球をインサイドに当てるだ
け。生涯初ゴールはこうして生まれました。 

 逆サイドへ上がるプレーを覚えると、今度
は逆サイドがいつも気になるようになりまし
た。今までは「敵のミスで」ボールが奪えて
も、腕の立つ奴を探してとにかくパスして役
割を完了していました。それが、逆サイドで
フリーの味方にロングパスを放るアイデア
が生まれたのです。しかもフリーなのでセン
タリングまで行けるケースが多く、今度はそ
の逆サイドへ走り込むプレーも覚えました。 
 攻撃の時も忙しくなりました。でも「ボール
が来るかも」と思うとワクワクして走るのが
楽しい。自分が開けた場所に攻め込まれる
と「畜生、今潰してやるからな」とまたダッシ
ュ。でも「モーゼスが上がったぞ」なんて声も
聞こえてきて嬉しいんです。 
 「そんなにうまくいくもんか」と思う方もいら
っしゃるでしょう。自分でも「こんなにうまくい
ったのかな」と思います。考えてみると、こん
なプレーができたのも深い芝生でプレーして
いたからなんです。 
 深い芝生はボールの勢いが止まりやすい
ので、私のでたらめなパスもボールアウトに
なる前に止まりました。トラップする時も、初
めはみんなと同じように「ワンタッチで前を
向く」という意識がありましたが、練習もして
いないのにそんなことはできるはずもなく、
空振りしていました。そこで「とにかく身体の
どこかに当てよう」ということにしました。芝
生が深いので、ボールを大きく逸らさずに済
んだのです。 さらに芝がボールを浮かして
いるので、ボールを苦もなく蹴り上げること
ができました。 
 逆に急に止まると滑って倒れてしまいま
す。踵に体重をかけると必ず滑るので、前
かがみで動くようになりました。欧米人は
軽々とステップを踏むので、よほど芝生に
慣れているのでしょう。だから私は敵からボ
ールを奪うことを諦めて、マークする方向に
変えたのです。 
 一人でボールを奪えないのですが、味方
から「誰もいない側を抜かれるな」と言われ
てからは私の後ろでボールを奪う回数が増
えて、こぼれ球をサイドチェンジしてダッシ
ュ。味方が先に囲んだ時は、パスが来そう
な敵をマークしていたら本当にボールが来
て、インターセプトして逆サイドへ。逆サイド
に誰もいなければ巧い奴にパス。こんなこと
を繰り返していました。 
 私はヘタクソなので、とにかく動く。これだ
けを信条にサッカーをしました。ものすごく
疲れるのですが楽しいんです。充実感があ
り、ちょっとした悩みも吹き飛んでしまいまし
た。今はこんなしんどいことをやる気になれ
ませんが、「サッカーは頑張れば楽しいん
だ」。このことだけはわかっているつもりで
す。 

 「ジョシのサッカー、自分と違う・・・。」 

 さて、息子の話ですが、小2の時に「キック
ベースでホームランを打ちたい」と言い出
し、「サッカーやればうまくなるよ」と誘導して
翌年からサッカーを始めました。はじめは私
と同じように隅っこへ隅っこへ、ボールが来
ても蹴っ飛ばすだけのサッカーでした。まだ
始めたばかりなので仕方ないと思っていま
したが、抜かれても追わないのは我慢でき
ませんでした。 
 自分の体験談を何度も話し「下手でもや
れることはあるんだ」と言い聞かせましたが
効果はなく、辞めさせようかとも思いました。
息子は体が大きく足が速かったので、頑張
ればモノになるのではと期待していました
が、動かないのでボールに絡まず、私はあ
ほらしくなってしまったのです。 
 試合は責任感がないのを見抜かれてFW
で出るようになりました。チームが失点した
くないからのようです。技術がないのにFWを
やっても活躍できるはずもなく。まさにでくの
棒でした。半年経ってもリフティング10回が
出来なかったので、見かねて毎晩練習に連
れ出しました。これに合わせてせっかくFWで
試合に出ているので、技術がなくても点が
取れる方法も教えました。それは私が米国
の草サッカーで学んだ逆サイドでフリーにな
ることです。   
 今までDFと一緒にボーっと立っていたの
で、何度も首を振らせてオープンスペースを
探し、フリーになったらボールを呼んで半身
でトラップしてゴールに迫る。これを覚え込
ませました。味方が攻められている時も、
DFがチャレンジを始めたらスペースに走り
込んでボールを呼ぶ。GKがボールを持った
らオープンスペースへ、敵のコーナーは逆
サイドでフリーに、味方がドリブルで切り込
んだら逆サイドを併走させ、シュートを打っ
たらゴール前に詰める。とにかくオフザボー
ルの動きを教え込みました。テレビのサッカ
ー番組もどんどん録画し、これはというプレ
ーは何度も見せてその場でマグネットを使
って解説し、足技は部屋の中で真似させま
した。 こんなことを徹底させたので、個人
技はそこそこでも点に絡むようになりまし
た。本人もどんどん自信をつけていき、真剣
にサッカーに取り組むようになったのです。 
だけど息子は守備は全くやる気がなく、サ
ボリが目立ちました。自分へのパスがカット
されても、味方からのパスが逸れても、ドリ
ブルでボールを取られても追いませんでし
た見かねた私は自分が関与したボールは
ハーフラインまで追いかけさせました。自分
が関与していなくても一番近くにいる時は追
わせ、二番目に近くても守備に行かせまし
た。FWがボールを奪えたらビッグチャンス
なのだからと言い聞かせたのです。 生来
ボーっとしている子供なのでなかなか実践
できず、出来があまりにも悪い時や練習を
怠けた時には「才能がないのに頑張らない
のなら辞めろ」と迫ったり、往復ビンタをした
こともありました(あまり良くないのですが)。
これらの動きが全部こなせるようになったの
はアルゼンチンに来てからです。 

「アルゼンチンで頑張る」

アルゼンチンに来たのは、第一に私の夢で
す。
 この国は本質的には農業国で、畜産物が
溢れかえっています。貿易収支が悪化した
時は、牛肉を輸出しても儲からないので殺
して道端に捨てていたほどなんです。これを
ビジネスとして日本に供給できれば、アルゼ
ンチンとしても欧州以外の新しい商売相手
が増えるし、日本も米国と豪州に頼り切った
肉質の悪い牛肉の流通に選択肢が増えま
す。 実は馬肉は日系人の業者が買い付け
をしていて、すでに日本との流通経路が確
立されています。馬肉は日本で高値で流通
しているのでボロ儲け状態だそうです。私は
この業者とコンタクトが取れているので、
先々は牛肉でビジネスをする予定です。 
その先は、牧場を手に入れて競走馬を日本
で走らせたいのです。南半球は年末が馬の
出産シーズンなので、一月産まれの早生ま
れを意図的に生産し、日本で走らせたいと
考えています。 ちょっとサッカーと離れ過ぎ
た話なのでこれぐらいにしますが、今は人
脈を作っていくために、日本で渡航準備の
ために修行した鍼灸を少しづつやっていま
す。アルゼンチンでの資格の取得がまだな
ので、暫くは電気鍼を日系人相手に施術
し、その他の収入は日本でやっていたフリ
ーライターの仕事をインターネットで出来る
範囲で少しだけやっています。ほとんどが業
界著名人のあいさつ文のリライトですが、た
まに翻訳をしたりもしています。 
 息子はサッカーをやりに来ました。逆にい
えば息子がサッカーでの将来を考えてくれ
たので私の夢が実現できそうなのです。そ
もそも私達は息子の進路をスポーツ推薦で
やっていこうと考えていたので、中学受験の
準備をしていました。 トレセン選出経験も
ないし、公式戦はノーゴールだった子なので
すが体力だけはあるので、環境が整った学
校を選んで真剣に取り組めばモノになる可
能性があると考えたのです。とにかく粘り強
く続けていけば、最後に強豪チームの中心
選手になれればサッカー繋がりの就職だっ
て有り得ます。その後もプレイを続けていけ
ば、あわよくばプロだって。その程度の未来
なら可能かもしれないという目論見でした。
 学校を選ぶ段になって元Jリーガーの指導
者に相談したところ、「ブラジル留学しませ
んか」と突拍子もないことを言われ、それな
らアルゼンチンでということになりました。先
に書いたとおり私の目論見は別のところに
ありました。私のアルゼンチンへの夢はず
っと温めていましたが、息子が大学に進学
を果たしたら休学させて武者修行をさせる
つもりだったので、その時に人脈をつくって
から取り組むつもりでいました。 現実的な
ことを考えれば、今海外にいても私が中学
受験で指導したことを続ければ学力には不
安がないので、日本の学校に進学する必要
はないし、サッカーでモノにならなくても帰国
子女枠で日本の受験をすれば競争倍率が
低くなるのです。大検ぐらいまでなら家でも
教えられます。そういう時代なのです。日本
での一年分の生活費があれば、経済破綻
したアルゼンチンでは当面やっていけます。
もともと中学受験に向けた蓄えもあったの
で、そんな諸々の判断で家族揃って移住し
たのです。 渡航後の生活環境の整備は思
いのほかトントン拍子で、一番苦労した息子
のチーム選びは、紆余曲折の末自宅から
一番近いサッカースクールのコベルになり
ました。通える範囲のクラブを虱潰しにした
のですが、コベルの子供達が一番巧かった
のです。これは悩む必要がないくらい差が
ありました。 

「ウェーブのお陰で」 

 ベル練習は初めは大変でした。まず何と
言ってもパスが来ない。ドリブルは容赦なく
潰される。それでも二ヶ月ほどでアジャスト
できたのは、オフザボールの動きが良くフリ
ーでボールを受けていたのと、アルゼンチ
ンへの渡航に向けたフィジカルアップが功を
奏していたからです。そして、それ以上に絶
大な効果を発揮したのがウェーブでした。 
息子がウェーブに取り組んだのが昨年の8
月で、リフティング・ジンガバイブルの出版
がキッカケです。それからニヶ月で渡航し、
その後の二ヶ月でアルゼンチンの子供達
と、しかも年上チームのエースと一対一で勝
ち負けできるようになりました。もともとニ軸
動作のナンバに取り組んでいたのですが、
そういったものの集大成がウェーブだった
のです。今ではチームメイトの信頼を勝ち得
てパスが集まってくるようになっています。 
実は、コベルで練習しているからといって試
合に出れるわけではなかったのです。試合
に出れるのはコーチが認めた子供だけで、
それ以外の子供はリーグ戦の名簿に名前
がありません。結構巧い子もいたのです
が、リーグ戦が始まったらどんどん辞めてし
まいました。対戦相手も控え選手が少ない
ので事情は同じだと思います。 息子がコー
チから声をかけられたのが昨年の12月だっ
たので、丁度ジンガステップをマスターした
頃でした。これを知らなかったら今頃どうな
っているのか、空恐ろしくもあります。アル
ゼンチンの隣人にはワンバウンドリフティン
グの騒音で散々迷惑をかけましたが、やり
続けてよかったです。今ではボールを落とさ
ないので苦情がありません。 マッシーの理
論にも取り組んでいますが、息子がアホな
のと、理論は反復練習だけで身につけてい
くものではないので少し手こずっています。
いずれにせよ土屋兄弟の教えはまだまだ
奥が深いので、それゆえに息子にもまだま
だ伸び代があると考えています。今でも取っ
掛かりは私が実演して見せないとなかなか
覚えられないのですが、とにかく私も息子の
前で土屋兄弟の技術の整合性を証明して
おりますので、これからもドップリ浸かってい
きます。 最後に日本の少年サッカーに携
わる全ての親御さん、指導者の方々へ。ゴ
ールデンエイジは必ず伸びます。なので、本
物を目指していく価値は十分あります。誰で
もプロを目指せということではないのです
が、本気の子にはトコトン付き合ってあげて
ください。肥料はあげすぎることはありませ
ん。持っているものは全部あげてください。
お金のことじゃないですよ。手間のことで
す。  
 



その17 アルゼンチン留学のための心構え
  2006,6,10 

「武者修行希望者 tsuttsun」 

 アルゼンチンの天気予報はよく当たりま
す。大陸性気候なので、アンデス山脈の麓
あたりから順番に天気が変わっていくので
す。日本のように常に大陸気候と海洋気候
がせめぎ合って気圧の谷間ができるのと比
べると単純なんです。そして、予報どおり先
週の試合は雨に祟られて順延になりました。
今回は試合詳報無しです。 
 さて、私はニヶ月ほど前から矢島さんの紹
介で日本の青年と情報のやり取りをしていま
す。彼の名は「tsuttsun」。もちろん仮名で
す。 
 現在19歳の彼は、海外での武者修行を、
そしてプロを熱望する血気盛んな青年です。
連絡をいただいた頃は行き先をどこの国に
するのか決めかねていたようでしたが、私は
強烈にアルゼンチンをプッシュしました。ヨー
ロッパは外国人がやってくるので競争が激し
すぎるし物価も安くない。南米となればビザ
の壁が厚すぎるブラジルよりもアルゼンチ
ン。もう前に書きましたよね。 
 私の熱意が通じたのか、他の判断材料も
あったのでしょうが、彼はアルゼンチンで死
ぬほど頑張るということで腹を括ってくれまし
た。私自身も彼と関わることで色々勉強した
いので、当面は当家に身を置いていただく
約束になっています。 
 ただし、私が生活の一切を面倒をみれる
わけではないので、彼は今資金作りに励ん
でいます。そういうことなので、彼のサッカー
人生を賭けた挑戦は来年からということにな
りそうです。親に出してもらおうとしない心構
えはGoodですよね。 
 死ぬ気で頑張る構えでいる彼は今から頑
張っています。アルバイトを掛け持ちし、プー
ルやジムで効率の良い筋肉を作り、サッカ
ーチームと個人参加のフットサルで着々と準
備をしているようです。頼もしい限りです。 
 今回は彼が晴れて南米生活をスタートさせ
た時のシミュレーションをご紹介しようと思い
ます。内容は彼とメールのやり取りをした時
のものですが、本人に承諾を得ています。 


「言葉の勉強どうするの?」 

 まずスペイン語ですが、日本にいる間に少
しやっておいてください。教材は \100ショッ
プで手に入る程度で十分です。ダイソーなん
かにはいい物があるので、CD付で買うとい
いと思います。 
 スペイン語は日本人にとって大変聞き取り
やすい言葉なので、それほど気合を入れなく
ても覚えられます。特に中学卒業までの英
語力があれば文法もボキャブラリーもかなり
入りやすいんです。でも英語が苦手だったか
らといって英語を復習する必要は無いので、
今はスペイン語の練習をしてください。 
 それから、スペイン語の辞典はこちらでは
手に入らないので、日本にいる間に出来る
だけいい辞典を選んで買ってください。理想
は二冊です。一冊は出来るだけ語彙数が少
ないポケットサイズ。語彙数が少ないという
ことは重要度が高い言葉を選んで載せてい
るので、複数の表現がある時に迷わないか
らです。粗悪な編集が多いので、値段と相談
しながら選んでください。 
 もう一冊は詳し目のヤツです。詳し目とは
語彙数が多いという意味ではなく使いやすい
という意味です。使いやすい辞典とは読み物
としても使える辞典です。 
 表やイラストが多く、雑学的な知識が得ら
れる編集がされている辞典です。こういう辞
典は調べたいことがあっても表やイラストに
目が留まり、知りたかった語句以外の知識
を自然に吸収できます。暇な時に辞典をパ
ラパラ捲る気になるような辞典を探してくださ
い。 
 私は日本で英会話の講師をしていたことも
ありますが、私が教える時は辞典を買い替
えさせていました。いい辞典があると言葉を
早く覚えられるものなんですよ。この辞典を
買う時は、金に糸目をつけてはいけませ
ん。 
 こちらに到着してからの語学ですが、初め
は日本語がわかる人に家庭教師をしてもら
う方がいいですね。家庭教師の相場は1時
間 \500 程度なので、日本と比べると本当に
安いです。引き受 けてくれそうな人に心当た
りがありますので、私の家に来てからすぐに
始められると思います。 
 日本と比べて割安といっても家庭教師は
高くつくので、二ヶ月ぐらい経ったらスペイン
語の会話教室に切り替えるといいと思いま
す。当地は学費が安く、私立学校に通う息
子の学費は1万円程度です。私達も妻の歯
の手術が終わったら学校を探すので、
tsuttsunが来るまでにはいいアドバイスがで
きると思います。 
 会話教室はグループレッスンをするので言
葉を覚えるのに効率がいいのです。教える
立場だった私にしても、一対一は効率が悪
かったですね。何の共通性も無い人間と一
対一だと会話が弾まないでしょう?。 
 グループレッスンなら色々な話題が出てく
るし、人の話を聞く機会が増えるので学習成
果が高いんです。それにも増して友達が作
れるのが最大の魅力ですね。 
 辞書を引きながらでも夜通し話し合えるよ
うな友達(恋人だと尚良)ができれば語学学
校の必要はなくなります。この状態がつくれ
れば信じられないほどのスピードで言葉を覚
えてしまいますよ。逆にこの状態をつくれな
ければいつまで経っても言葉を覚えられま
せん。これは本当に重要なので、よく肝に銘
じてください。 
  

 「毎日何をすればいいんだろう?」 

 さて、当地での標準的なタイムテーブルで
すが、家庭教師は昼過ぎか夕方にならない
と来てもらえないので午前中は暇です。掃除
洗濯やサッカーの個人練習はこの時間です
ね。語学学校が始まると時間が読めません
が、サッカーの方が重要なのでサッカーの邪
魔にならない学校を選べばいいと思いま
す。 
 サッカーの練習場所はあまりないので悩ま
しいのですが、アパートの屋上とか壁打ちが
できる公園を探すしかありません。本当にそ
ういった場所が全然ないのにみんなどこかし
らで腕を磨いているのがアルゼンチンの七
不思議です。大きなマンションの屋上だと金
網を張り巡らせて子供がサッカーをしている
ので、そういった自分だけの場所を見つけて
いきましょう。 
 肝心のサッカーですが、アルゼンチンには
プロ契約の継続ができなかった元プロ選手
達が集まって練習している団体があります。
契約してくれるかどうかもわからない大きな
クラブに練習生で入るよりも、プロ選手と同
じレベルのこういった人達と練習をする方が
ためになると思います。 
 彼らは基本的には失業中なので、この団
体で練習するのならお金の心配も少ないと
思います。 
 tsuttsunは滞在費がなくなったら結果がど
うであれ帰国しなければならないので、でき
るだけ粘らなければいけません。一流のクラ
ブと一流のコーチングは魅力ですが、選手じ
ゃない人間が練習するにはお金も一流なん
です。 
 このプロ予備軍の団体の詳細がわからな
いので、これに入るまでは何日か日数が必
要です。だから到着早々は手っ取り早くアマ
チュアのフットサルを始めればいいと思いま
す。この練習時間は夕方か、ほとんどの場
合は夜です。 
 フットサルチームは通える範囲でレベルが
高いチームを選べばいいと思います。アマチ
ュアとはいえこのレベルでブイブイ言わせら
れなければセレクションには絶対受からない
ので、まずここでアルゼンチンサッカーの洗
礼を受けてください。 
 はじめは時差ボケで身体の切れもないの
で苦労すると思いますよ。相手はプロではな
いけれど、生まれた時からずっとアルゼンチ
ンでサッカーをしている連中なのですから。 
 言葉も含めて少し慣れてきたらプロ予備軍
の団体とコンタクトを取りましょう。「何をのん
びり」なんて感じるでしょうが、少し慣れてか
らじゃないとレベルが高い所では相手にされ
ませんよ。下手なうえに喋れないんじゃ誰も
相手にしないのはわかりますよね。アマチュ
アならみんなフレンドリーですが、プロを目指
すサバイバルでは一目置かれなければ溶け
込めません。この団体に入るまでの目標は
一ヶ月か二ヶ月です。 
 この団体に入ったらチームメイトがいるフッ
トサルチームを紹介してもらって、それぞれ
の練習場所に都合がいい所に引っ越せば
いいと思います。練習をプロ予備軍とアマチ
ュアフットサルの二本立てにすれば上達が
早いです。 
 機会があればフットサルチームを二つにす
るのもいいかもしれません。アマチュアの練
習時間は短いので一日二回でも可能です。
息子も学校のチームとコベルが重なる日が
あります。フットサルの試合ならスケジュー
ルが合わなければサボってもOKですよ。だ
から心置きなく掛け持ちしてください。 
 プロのコーチングを受けられないのならと
にかく実践あるのみです。でもプロの下部組
織も結局ミニゲームばかりですからね。名よ
り実を取るのです。 
 語学学校はサッカーが整ってから探せば
無駄な移動時間に悩まされないで済みま
す。学校は完全に喋れるようになるまで通う
のではなく、コミュニケーションがなんとかな
って友達や知り合いが増えたら辞めてしまい
ましょう。その程度のつもりで通えばいいの
で、毎日ではなく週二回程度でいいと思いま
す。毎日じゃ忙しいですからね。 
 最初の一ヶ月は強烈な時差ボケで寝てば
っかりでしょうね。これは仕方ないので割り
切ってください。身体が資本の仕事をするの
ならコンディションを整えることも必要です。  
 



その18 息子ジョシ熱でダウン。と アルゼンチン戦決死のレポート
 2006,6,17

「コベル引き分け、その時ジョシは」 
  
 今回も試合の報告が出来ません。息子・
ジョシは風邪が治りきらず、週末に発熱した
ために大事な試合を休みました。 
 折角得点ランキングに載ったハズなのに、
雨で一試合流れたうえに次の試合に出てい
ないので、この2試合で得点ランキングが大
きく動いたことでしょう。カタチとして残したか
ったので残念です。このビハインドを挽回す
るほどの活躍に期待します。健康管理は親
の責任でもありますが、学校で風邪が大流
行しているようなので防げませんでした。 
 時々日本の皆さんから励ましのお言葉
を、ヤフーの掲示板などでいただいていま
す。健康の不安なく頑張れるように、親とし
ての役割を果たしていきたいと思います。 
 息子が欠場した試合は5-5の引き分けだ
ったそうです。もし息子が出てゴールを決め
ていたら、引き分けが勝ちになっていたかも
しれません。タラ、レバは言っても仕方がな
いのですが、負けなかったのなら尚更試合
に出したかったですね。もしかしたらまたGK
のファインプレーで敵のゴールが増えていた
りして・・・。観ていないので勘繰るのは止め
ます。 
 試合も練習も連絡ナシで休むのがコベル
の常なのですが、試合後の練習日には私も
息子も「どうして試合に来ないんだよ」と責め
られました。私にはオーナーコーチのハビエ
ル氏、息子にはポジション争いのライバル・
サル君です。「熱が出たから」としか答えよう
がありませんでしたが、少し嬉しくもあり、や
はり残念でもありました。 
 おかげ様で息子も、そして二週前から体
調を崩している私も順調に回復しています。
今は妻が寝込んでいますが、とにかく次回
は元気に試合に出られそうです。 
 さて、次の相手は知らないチームです。
元々全部知らないチームが相手なのです
が、チャレンジャーカップの予選リーグの前
半戦は先週で終了し、勝ち点のカウントは
加算されますが、今後の2試合は別ゾーン
のチームが相手の試合です。イメージとして
はプロ野球のセ・パ交流戦と同じです。あま
り情報がないので本当に知らない相手で
す。U-13の前半戦の通算成績は2勝3敗1
分けで、雨で順延した1試合があるのでそ
の結果にもよりますが、勝ち星先行というカ
タチには持っていけませんでした。1分けが
勝ちになっていたら・・・、返す返す残念で
す。このビハインドを覆す活躍をコベルのみ
んなに期待しています。ちなみに全体の成
績は3位辺りだと思います。一番上のお兄さ
んは年下の子供達に助けられています。 
  
 「コベルの面々コンディションが上がってき
ました」 

 成績上昇の兆しはあります。本当に神様
から貰ったモノがあると確信させる選手・ホ
アン君がトップフォームに戻りつつあるよう
です。「アイツは練習も試合もサボり過ぎな
んだよ」とは息子・ジョシのコメントです。ツ
バメが飛ぶように、軌跡が線になって見える
ほどキレのあるドリブルがだんだん戻って来
ました。 
 先月コベルの練習に参加した日本人のA
君にも彼のトップフォームを見せたかった。
A君はサル君の足技に「あんな子は日本に
はまずいない」と感嘆していましたが、本当
に驚くのはホアン君の脱力プレーです。特
に直角に曲がるドリブルは、バイクレースの
コーナーリングのように身体を倒し込み、方
向が変わってもスピードが落ちません。シュ
ートコントロールはGKが立ちはだかってもお
構いなしで、ゴールポストに掠らせながらニ
アに打ち込みます。この怪物が目覚めるの
なら、残り試合でコベルの全勝も難しい話で
はありません。でもサボるんですよね、コン
ディションが崩れるほどに。 
 息子のトップフォームもまだなんです。練
習を休んでないのにコンディションが落ちた
のは、下らないチャレンジをしていたせいで
す。ワザと苦境に自分を追い込み、考えな
いでも身体が勝手に動くプレイを引き出そう
としていたからです。お陰でもう何ヶ月も身
体が勝手に動いていません。自信だけが肥
大して(無心で身体が動く時のプレイをアテ
にして)、ゴールへの最短距離(物理的な距
離ではなく)を忘れてしまっています。 
 最近は試合でゴールを重ねて戻りつつあ
りますが、練習中はレギュラー組以外を足
手まといだと考えるようになり、無謀な突破
を繰り返しています。実際に試合に出ている
選手と練習だけの子供の格差が大きくパス
が出しにくいのですが、いい意味でも、悪い
意味でもワガママなプレイが目立ちます。い
い意味とはあまり日本人らしくない部分を指
していますが、プレイの選択そのものは悪
い部分です。 
 ただ、囲まれて手こずっている間は高が
知れているので、先々は楽々突破できるよ
うになってからチームプレイをすればいいと
も思っています。自分の技術は練習で培っ
たものだと自覚しているので、レギュラー組
と練習だけの子供の格差を「本人の努力が
ないからだ」という部分で見下しているわけ
です。性格的に天狗だったり自己中心的だ
ということではありません。 
 この傾向は日本にいた時からありました。
両足でボールを扱えるのも、チーム一のキ
ック力があるのも全て練習の賜物で、初め
から人より優れた特徴はコレといって持ち
合わせていませんでした。だから、他者の
努力が足りない部分を許せないのでしょう。
気持ちはわかります。でもね、とも思うので
すが、今完成形を求めても仕方がないので
もう暫く黙っています。「たまにはパスしない
とイカンよ」とだけ言っていますが。 
  
 「上達間違いナシの練習」 

 先程の日本人A君のお陰で、息子は週に
一回オジサンチームの練習に人数合わせ
で頻繁に参加するようになりました。U-13で
は目立って大きな身体もオジサン相手には
全く通用しません。テクニックも、リーチがあ
る大人相手では掠め取られてしまいます。
十年単位でずっとプレイしているオジサンば
かりなので、中年太りでも判断力の早さに
加えてスピードが衰えず、同年代では俊足
で鳴らしている息子のスピードすらも通用し
ません。この中でプレイする時は、ゴールへ
の最短距離を意識するようになってきてい
ます。子供相手なのに相撲を取るように身
体を寄せるオジサン達をいなせるようにな
れば、もう一皮剥けることでしょう。 
 味方のオジサンは子供に華を持たせてく
れるので、ポジショニングが良ければどんど
んパスをくれます。なるほど大人とプレイす
れば巧くなるわけです。とにかく「行け!」と
ばかりに上質のチャンスボールが何度も供
給されます。それでも相手のオジサンは勝
気が盛んで抜かれても食い下がってきま
す。決定的な場面は緩めず、子供とこぼれ
球を競り合います。ハッキリ言って大人気な
い。でもスポーツは真剣じゃないと面白くな
いですね。 
 日本でも子供だけでサッカーをせずに大
人と混ざることをお勧めしたいです。ただ
し、日本には大人が気軽にプレイするサッカ
ー文化がありませんね。本当は子供を鍛え
るのは少年団などのアマチュアコーチでは
なく、近所のサッカーオジサンとプレイする
環境が一番だと実感しています。 
 ブラジルってこうなんですってね。働かない
で昼間からサッカーしているオジサンが多い
とか。アルゼンチンのオジサンは働いてい
ますよ。でも、日中にブラブラしているオジ
サンも多い様な気が・・・。それから、午後三
時頃までお昼を食べているスーツの団体が
デザートにパフェを食べている姿も。あっワ
イン飲んでる。ボトルの数も多いな。うーん、
不思議だ。 
 その不思議なオジサン達。実はW杯開幕
以来サッカー熱が上がったのか練習での集
まりが良く、いつもの倍は来ています。つま
り、折角練習の場を得た息子は補欠要員と
しては用ナシで、あまり混ぜてもらえませ
ん。それでも遅刻を屁とも思わないラテン気
質の権現なので、練習時間の半ばまで全員
揃いません。だから最初だけ混ぜてもらっ
たりしています。 
 アルゼンチンのサッカーオジサンに一泡
吹かせるようになるのはW杯が終わってか
らのようです。 

 「アルゼンチン仮面」 

 ついに開幕したW杯。アルゼンチンの人達
がどんな様子か、触りだけお伝えします。日
本との時差はちょうど12時間です。わかりや
すくて助かります。日本時間で日曜の午前4
時にキックオフしたアルゼンチン対コートジ
ボアール戦は、アルゼンチンでは夕方の4
時でした。3時頃に急いで夕飯の買い物に
出かけた時、街の風景は普通の土曜の昼
下がりでした。ただし、私の家の近所にはア
ルゼンチン最大規模のスポーツカフェ、ロコ
ス・フットボール(サッカー気違いという意味)
の本店があり、ハーフタイムで街の実況を
するためのテレビの中継が入っています。
この店の前は30人以上行列になっており、
全員ナショナルチームのユニフォームを着
てソワソワしていました。 
 買い物が終わって4時ちょうどに歩いて5
分ほどの家路に着くと、街の様子が一変。
日本でいえば正月の丸の内のように人がい
ないのです。 
 マクドナルドやバーガーキングの店内は、
普段はどんな時間でも半分ぐらい座席が埋
まっているのですが、この時はガラガラ。ど
の店もガラガラ。車も少なくて、6車線の大
通りを信号無視でも余裕で歩いて渡れまし
た。 
 試合の結果はご存知でしょう。2-1で勝ち
ました。試合が終わるなり太鼓の音や合唱
や車のクラクションが一斉に鳴りだし、正月
の静けさが吹き飛びました。外の様子を見
ようと窓を開けると紙吹雪がどんどん降って
来るのです。当マンションの住人が近所迷
惑も顧みずにちぎった新聞紙を景気良く撒
いていたのです。本当に近所迷惑で、ベラ
ンダに降り積もった新聞紙を片付けるは誰
なんだよ!。 
 これは一度ロコス・フットボールで観戦しな
ければアルゼンチンのW杯を語れないと思
い、第二戦目に狙いをつけました。二戦目
は金曜日の午前10時です。この日なら普通
の人は働いているので行列にはならないで
しょう。事前にフランス対スイス戦をロコス・
フットボールでランチを兼ねて観戦しまし
た。何のことはない、大きなプロジェクター
が5台ありますが、普通のテレビ付きのレス
トランです。メニューも普通。客の入りは四
割くらい。ただサッカーが好きな人がランチ
のついでに観戦しているだけでした。 
 来る金曜日。午前10時直前にロコス・フッ
トボールを目指して妻と二人で家を出まし
た。街は、またしても正月の丸の内。交差点
は信号に関係なくどんどん歩けます。ちなみ
に普段こんなことをしたら確実に命を落とし
ます。アルゼンチンの車はフルスロットルで
唸りを上げて走るので、急ブレーキは絶対
間に合いません。普段でも減速し切れずに
しょっちゅう横断歩道に飛び込んできます。
ドライバーの良心は全くアテにならないの
で、青信号でも細心の注意を払って歩かね
ば命の保証がありません。 
 そんな街角にアルゼンチン仮面が立って
いました。アルゼンチンのユニフォーム、顔
全体のフェイスペインティング、水色と白の
ピエロの帽子、風になびくアルゼンチン国旗
のマント、手にはオモチャのラッパ。一分の
隙もありません。愛国心を象徴する完璧で
神々しい姿でした。 
 このアルゼンチン仮面は街頭の物売り
で、信号待ちする数少ない車に自分の姿を
見せて購買意欲を煽っているのです。この
人は普段何を売っているのだろう?。 
 ちなみにブエノスアイレスの半数近い交差
点には、何かしらの物売りかストリートパフ
ォーマーが小銭を稼いでいます。そういえば
ケンもアルゼンチンでストリートパフォーマン
スをしていたそうですよね。いつかケンにそ
の時の話を聞いてみたい。 
 このアルゼンチン仮面。どこでも男女ペア
でそこら中にいました。この人達は普段何を
しているのだろう?。 

 「お祭り騒ぎとはこのことだ」 

 平日なのに満員。店に入ろうとしたら「チ
ケットは?」と呼び止められました。えっ、も
しかしたら入れないの?。それは情けない。
「チケットって何のこと?、持ってないとダメ
なの?」。その後スペイン語でナンヤカン
ヤ、一呼吸したところで「スペイン語わから
ないんだ、英語で喋ってくれる?(アルゼン
チンは英語がかなり通じますが、喋れない
人は恥ずかしいらしく、たいてい立場が逆転
します)。追い返そうとしていた店員は諦めて
店の中へ。「この人チケット持ってないんだ
けどスペイン語わからないんだって」と小声
でゴニョゴニョ。それぐらいわかっているの
に知らん顔の私。店の中を覗き込んで「あ
そこ空いてるじゃん」と話せないはずのスペ
イン語で空席を指差しました。 
 「じゃあ、一人25ペソね」。へっ?。普段は
料理の代金しか取らないのに入場料取る
の?。しかも25ペソ(当地の感覚では2,500
円くらい。換算すると900円くらい。日本円だ
と何でも安いんです)?。仕方がない、後学
とアルゼンチンレポートのためだ。「二人で
50ペソだよね。じゃあそれでいいよ」と、また
喋れないはずのスペイン語。無事潜入に成
功しました。 
 おお、店の中までアルゼンチン仮面で一
杯だ。店内は軽く100人を超える大賑わい。
半分ぐらいはパイプ椅子です。みんなプロジ
ェクターを見つめています。キックオフして間
がなかったのですが椅子に座るなりいきな
りゴール。「ウォー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」。一分ぐらい
は椅子を並べた妻の声さえ聞こえず、しょう
がないのでただ拍手をして周りに合わせて
いました。 
 ご存知でしょう。強敵相手のゴールラッシ
ュに大狂乱。ゴールする度に耳が聞こえなく
なり、一分後に静まるとテレビの音が聞こえ
てきて、今度はドイツのスタジアムで合唱し
ている歌に合わせて店内で大合唱。ここは
スタジアムじゃないのに旗を振る馬鹿野郎。
見えないっての!。ラッパを吹くな!、選手
には聞こえないんだぞ!。よく観ると子供が
何人も。学校はどうした?。 
 大興奮の中でハーフタイム。テレビカメラ
がウロウロ。あっ、今俺映ってる。ディレク
TVの実況中継はこの店だけのようです。イ
ンタビューの後ろで手を振る私の姿が何度
も画面に映りました。でも、中国人と間違わ
れてるみたいです。 
 妻がポツリ「ウチの息子ってこういう選手
達と肩を並べてサッカーやろうとしてる
の?、バッカじゃないの?」。このセリフ、ボ
カとリーベルのスーペルクラシコのスタンド
でも言っていました。息子よ。母を見返して
やるんだぞ!。 
 後半戦もゴールラッシュ。ゴールじゃなくて
もGKがセーブする度に歓声が上がります。
テベスがアップした時も歓声です。でもそれ
よりもっと大きな歓声を集めたのはアルゼ
ンチンのニューヒーロー、メッシでした。アル
ゼンチンリーグの経験がない彼は、いきなり
現れた救世主です。でも次のW杯ってCFは
誰がやるんだろう。頑張れクレスポ。君が現
役のうちに世界制覇するんだ!。 
 「息子はクレスポと同じポジションなんだ
よ」と妻に話したら大笑いされました。妻は
アルゼンチンでの息子の変わり様を知ら
ず、ヘタレだった日本の姿しかイメージでき
ないんです。 クッソーと、私が思っても仕方 
ないんですけどね。歯のインプラントが終わ
るまでは息子の試合を観ないそうです。あと
一ヶ月の辛抱です。 
 試合は終わりました。楽しかった。本当に
無邪気に喜ぶアルゼンチンの人達、オネェ
チャン達が喜びのダンスをしています。この
雰囲気はいいですね。日本代表にも私をハ
ッピーにしてほしいんですが・・・。 
 息子は昼過ぎに学校から帰ってきました。
「試合観た?」。「うん観たよ」。「えっ、授業は
どうしたの?」。「今日は何にもやってない
よ、向かいの学校は休みだった」。ナンジャ
ソリャ。 
 
 



その19 フィジカルの差とテクニック
   2006年6月23日

「得点ランキング」 

 2試合を逃したジョシの総得点は現在7
点。実は得点ランキングは7位です。どうや
ら点を取る選手が各チームで限られている
ため、それなりに得点を重ねていれば大きく
ランクダウンしないみたいです。というわけ
で、アルゼンチンで頑張っている証が公的
な記録に残りました。 
 チームの練習に行ったらオーナーコーチ
のハビエル氏が掲示板の前までジョシを連
れて行き、コピーした得点ランキングを見せ
て「おめでとう」と手を握りました。外国から
出てきた私達を見守り、支えていてくれてい
るのです。嬉しいです。 
 おかげさまで試合に無事復帰しました。今
回は他の予選ブロックとの交流戦です。相
手チームは「アテネロ・サグラダ・ファミリ
ア」。コベルのホーム戦なのでどんな地域の
連中なのか考察できませんが、ブエノスアイ
レス市郊外のチームです。大型選手が何人
もいます。特にそのうちの一人は174cmの
私より背が高く、後にこの選手によってコベ
ルのアタッカーは苦戦することになりました。
クラブの総合成績は第三位。コベルは別の
ブロックですが現在第二位です。しかし、ア
テネロのU−13の成績はビリです。コベルも
大したことはありませんが、一応五位で、チ
ョッとだけ格上です。 
 定刻から三十分遅れてキックオフ。試合の
時間すら守れないんですね…。序盤からシ
ュートが少なく、両チームとも良く守ります。
実は相手のアテネロが属するブロックは、
得点ランキングのゴール数が他のブロック
の半数ほどです。全体的に点が入らない試
合が多く、どのチームも守備が堅ようです。
そして、アテネロの場合は前出の大型選手
が守りの要でした。 
 何せ大きいもので、少し触れただけなのに
サル君もホアン君も吹っ飛びます。特にサ
ル君はまったく見せ場が作れず、ゴール前
に迫るどころか遠目からシュートを放つこと
も出来ません。実はサル君、足はあまり速く
ないのです。ホアン君の場合はスピードがあ
るのでスペースに抜け出せばそのままゴー
ルまで行けますが、サル君の場合は捕まっ
てしまいます。先週も書きましたがサル君だ
って抜きん出たテクニシャンで、息子の同級
生だった神奈川県のトレセンメンバーやJの
Jrユースに入った連中と比べても埋めきれ
ないほどの格差があります。彼の不幸は小
さな身体と並のスピードしかないことでしょ
う。昨年まではチームのポイントゲッターだ
ったようですが、体格差が出る一番上のカ
テゴリーではテクニック以外の面で思うよう
にプレイできていないようです。 
 ルールが多少違う面もあります。実は息子
のカテゴリーは93年生まれだけのカテゴリー
ではなく、92年と93年の二つの年代が集ま
っています。たぶん去年プロのセレクション
を受けた92年生まれの落第組を救済する意
味があるのかもしれません。日本の受験制
度でいえば一浪状態です。コベルの場合は
GKのガブリエル君だけが92年生まれです。
だから、他チームの大型選手の中には一つ
年上が大勢いることでしょう。 
 さらにもう一つ。便宜上私はフットサルと書
いていますが、アルゼンチンの場合はフット
サルの国際統一ルールが出来る前から伝
統的にプレイされている「カンチャ・デ・フット
ボル5」(5人制の室内サッカーという意味)の
ルールで行なわれており、実はU-12以下の
カテゴリーではフィールダーが5人のルール
で試合をしています。つまりGKを含めると6
人です。「フィールダーの数が5だからゲー
ムの名前と合ってるじゃん」みたいな屁理屈
です。 
 だから、昨年5人のフィールダーで活躍し
ていたサル君は、より一人一人の負担が大
きい大人のルールでは苦戦しているようで
す。しかも一つ年上の大型選手がいるの
で、ここに来てフィジカルで劣る面がクロー
ズアップされてしまっています。他のチーム
と比べてことさらコベルの選手が小さい背景
はこういった要素もあるのです。 

 「天才の閃き」 

 ホアン君だけが大型選手をかわしてゴー
ル前に迫りますが、相手のGKも非常に動き
が良く、シュートを打たせません。彼は言う
なれば川口タイプ、南米なのでイギータか、
またはメキシコのホルヘ・カンボスといった
感じでしょうか。とにかくいつも前でプレイし
て、スイーパーの役目も果たしています。だ
から大型選手をかわしてもGKのフォローが
早く、とにかく上手に守られてしまいます。い
つもオーバーラップしてワンショット・ワンス
キルを渋く決める、いぶし銀のクリスチャン
君の数少ないシュートもセーブされてしまい
ました。 
 そしてここでもジャッジが公平性を欠き、前
でばかりプレイするGKが度々ゴールエリア
を飛び出してセーブしているのにお咎めなし
です。そもそもフットサルでGKがそんなに前
でプレイするのには無理があります。コベル
はサッカースクールなので他のスポーツクラ
ブと比べるとスタッフが少なく、一度も自チー
ム側の審判で試合をしたことがありません。
審判の心掛けにもよりますが、ホームの試
合だろうとアウェイの試合だろうと常に不利
なジャッジを受けています。 
 不利なジャッジは大型選手のチャージも正
当化し、体格で劣るコベルの面々の攻撃を
難なく摘み取ります。それでも天才・ホアン
君は閃きを放ち、大型選手のチャージを僅
かにいなして、まだ上がりっぱなしのGKの
頭上にループシュートを放り込みました。前
半の半ばにコベルの先制点が入りました。 
 コベルの守備陣も奮闘し、シュートを打た
せない守りを続けていました。考えてみれば
相手は同じカテゴリーではビリのチームで、
六試合中一勝しかしていないのです。攻撃
力は大したことがありません。それでも脅威
は相手の大型選手で、肩より低いコベルの
選手と空中戦で楽々競り勝ち、ヘディングシ
ュートを連発していました。 
 コベルのベンチが動きました。お待たせし
ました、日本人のジョシ登場です。交代相手
はサル君です。ついにサル君重用の流れが
変わりました。 
 試合の流れを見て私が息子・ジョシにして
いたアドバイスは「大型選手と競り合うな、
競り勝てるかどうかわからないし、そんなこ
とばかりしていたら怪我も怖い。あいつを避
ければ楽になるので、無理なプレイをする
な」でした。 
 しかし、当然ベンチの指示は「デカイのを
抑えろ、競り勝て」です。わかってはいたの
ですが、私は親なのであえて怪我の危険を
避けたかったのです。相手のやることも決ま
っています。マンマークの相手は当然大型
選手のジョシです。なにせ攻撃的な大型選
手はジョシ以外今まで見たことがありませ
ん。常にタイトマークを受けるジョシ。アルゼ
ンチンが君に試練を与えているんだ。 
 技術的な課題が少なくなってきた今、試合
に挑むに当たって私がかけられる言葉も少
なくなってきました。「頑張れよ、本当に頑張
れよ」。結局最後はこれだけです。 

 「大型選手対決」 

 170cm近いジョシとそれより5cmは大きい
アテネロの大型DFの競り合いが始まりまし
た。かつては自分と同じぐらいの体格だと競
り負けていたジョシは、大きく成長した姿を
披露してくれました。今度は競り負けないの
です。手を広げ、相手がぶつかって来ても
体をずらして対応しています。まだいなすと
ころまでは出来ていませんが、物理的に飛
ばされることがなくなりました。 
 これはこのhpでしつこく質問を繰り返して
教えてもらった大型選手との対処法が実践
できているためです。私は何度でも繰り返し
て言いますが、ケンとマッシーの技術は本物
です。彼等の示す技術を一つづつ自分のも
のにしていけば、必ず一目置かれる選手に
なれます。 
 攻撃を簡単に潰されるシーンはなくなった
ものの、やはり大型選手との対応に手こず
ることには変わりなく、囲まれて上手く攻撃
が進められません。そして、いつも期待して
いるホアン君との攻撃もうまく機能しません
でした。 
 まず理由の一つがホアン君が抜け出した
先にいつもジョシがいるので重なってしまう
のです。これはジョシがポジションチェンジを
すればいいのですが、ジョシがそこに気付い
たのはハーフタイムになってからで、その後
はホアン君が交代したため結局ホアン君と
のホットラインを構築できませんでした。 
 練習中のメンバー分けにも問題がありま
す。コベルの正規メンバーはジョシと新入り
DFのロドリゴ君以外に大型選手がおらず、
ミニゲームでは小さい選手対大きい選手と
いう構成で練習しています。ジョシにとっても
正規メンバーが相手の方が攻撃する時の
難易度が上がって実戦的なトレーニングに
なり、体格で常に劣る正規メンバーにとって
も大型選手との対応を常に試せる点でいい
練習になっているのですが、肝心の試合で
一緒にプレイする者同士が練習でコンビネ
ーションを試せないのです。大型チームの
他のメンバーは試合に出るほどの腕前では
なく、結局ジョシはパスを期待せずに単独プ
レイばかりになってしまっています。  
 試合で一番期待しているホアン君とのコン
ビネーションは、結局試合でぶっつけ本番に
なってしまっています。試合での勝ちを取る
か、ひたすら単独プレイに磨きをかけるの
かは、今の時点では試練に打ち勝つ単独プ
レイの方向で間違いないのですが、ホアン
君を中心としたコンビネーションがジョシ以
外とは出来上がっているため、サル君の重
用がなくなってもジョシが取って代われるわ
けではないのです。 
 しかしジョシはジョシで奮闘しました。唯一
コベルのゴールを脅かしていた大型選手の
ヘディングを完封したのです。ジョシのマー
クは大型選手、大型選手のマークもジョシ、
二人だけで試合をする展開になっていきま
した。 
 ジョシは相手が大型選手でもキープして攻
撃の糸口を掴みかけていましたが、不幸は
先発できなかった試合展開にもありました。
先制したホアン君のループシュートのお陰
で、GKの前後の動きが巧みになっていたの
です。ジョシもホアン君に習ってループシュ
ートを狙っていたようなのですが、あれだけ
上がりっぱなしだったGKはジョシがボールを
持つと下がり、代わりに攻撃の選手が下が
ってジョシは常に二人がかりで押さえ込まれ
てしまいました。 
 それなら他の選手がフリーになれているは
ずなのですが、味方のパスはジョシに集まっ
てしまいます。この理由も単純なのです。後
半にホアン君と交代したのはフェデリコ君
で、常に裏を狙うプレイを好む彼は中盤でボ
ールを受けるとすぐにジョシに渡してしまい
ます。結局相手が一番警戒しているジョシに
ボールが集まるので、相手のマークがことさ
ら厳しくなってしまいました。 
 ジョシもジョシで一対一で負けていないの
でなんとか突破しようとムキになっていまし
た。そして、ここ最近のテーマであるCKから
のカウンターも、一度も発動しませんでし
た。相手のCKで必ず合わせてくる大型選手
は、それが唯一の得点手段のようでキッカ
ーとの約束事が出来上がっていました。 
 予めゴール前でポジションを取ることはせ
ず、必ずセンターライン付近で構えてからゴ
ール前に走り込んで来ます。これをマークす
るジョシは一緒ににゴール前に走り込むの
で、カウンターの為に上がってクリアボール
を待つことが出来ないのです。 
 ただ、ジョシもヘディングを期待される大型
選手なのでこの動きは参考になりました。今
後はCKで後ろにポジションを取ってから走り
込んでヘディングをするシーンが増えそうで
す。 

 「コベル完封、サル君の涙」 

 ジョシの出番は後半の半ばで終わりまし
た。今まで手こずっていた大型選手の対応
に進歩が見られたのは収穫でしたが、チー
ムメイトとのコンビネーションなど、改めて浮
き彫りになった課題もありました。今は完成
を急がず一歩一歩上達していければいいの
で、ノーゴールだったとはいえ実りのある試
合でした。 
 その後交代したホアン君とサル君は結局
相手の大型選手とGKを攻略できず、コベル
のゴールは1点のみ。でもDF陣の奮闘と、
ポカばかりのGKガブリエル君がこの日はノ
ーミスで、コベルは今季初完封し試合をモノ
にしました。 
 接戦をモノにできたのはとにかく収穫で
す。通算成績も三勝三敗一分けで五分にな
りました。ジョシはノーゴールのクセに勝ち
戦を喜んでいましたが、勝っても涙する選手
が一人、サル君です。 
 もちろん彼もノーゴールでこれは嬉し涙で
はありません。彼の涙は悔し涙です。ずっと
フル出場していた彼は、この日遂に交代さ
せられてしまいました。今日はほとんどシュ
ートも打てずゴール無し、総ゴール数は5で
すが、プレイ時間が一番長いにもかかわら
ずチーム内では三番目です。自分が情けな
く、不甲斐ないプレイが許せないのでしょう。
お父さんが抱き寄せて励ましましたが、涙が
次々に溢れてくるのです。 
 私も抱き寄せて励ましました。今日はほと
んど出番がなかったロドリゴ君のお父さんも
お腹をくすぐって励ましました。お孫さんが二
人ともコベルの選手だという、いつも来てい
るお爺さんがサル君に歩み寄り、抱き寄せ
るのかと思ったらビンタをして、やっぱり抱き
寄せました。 
 「テクニックを磨くしかないだろう」。みんな
口々に言います。サル君がなかなか泣き止
まないのでみんな困ってしまいましたが、そ
れほど悔しがる彼のサッカーに懸ける情熱
に、みんな頼もしく、微笑ましくもあり、泣い
ているサル君の横で笑っていました。「お前
もノーゴールなのになんで泣かないんだ」。
ジョシを小突きました。 
 勝ったからいいようなものの、今後も少し
ディフェンスがいい相手だと点が取れないよ
うでは困ります。課題は得点パターンを増や
すこと。流れから点を取ろうと頑張っても
早々にゴールが増えるわけではなく、不安
定な攻撃力ではセールスポイントになりませ
ん。この試合ではCKの時にいいお手本があ
ったので、是非取り入れていきたいもので
す。そして敵のCKからのカウンター。まだど
ちらのパターンからも点を取れていないの
で、早くモノにして味方とコーチの信頼を得
なければなりません。 
 サル君起用の方向性が変わった今、出場
機会は完全に公平になりました。ただまだ
サル君はスタメンで、ゲームの流れ次第で
は交代が後回しになる可能性もあります。
悔し涙を流してスピリットを見せたサル君で
はありますがジョシにとってはライバルに違
いなく、まだまだポジション争いが続きます。
ジョシは意外にスロースターターなので、で
きればフル出場させたい。だからもっとゴー
ルを重ねて欠かせない存在にならなけれ
ば。 
 あのガキわかってんのかよ!。泣いたって
しょうがないけどもっと悔しがれ!。 
次戦は交流戦第二段、アウェイの「ラ・カル
ピタ」戦。クラブ総合順位はビリ。U-13(&U-
14)チームは三位、この程度の相手は手玉
にとってほしい。それが出来なければ総合
順位でトップになっても、各リーグを勝ち抜
いたクラブが集まるトップリーグに入った時
に苦戦してしまいます。昨年チャンピオンの
コベル、連覇に向けて頑張れ。       
  

  「余談、アルゼンチン代表」      

     アルゼンチン代表は予選ブロックを
トップで切り抜け、トーナメントは対メキシコ
戦からスタート。日本代表の話は私が語ら
なくても日本中が語り合っていることでしょ
う。アルゼンチンで日本代表の話をするの
がとても恥ずかしかった。「ジーコは口ばっ
かだな」とコベルの面々に言われました。そ
れでも皆さん、くれぐれも高原を見かけて生
卵を投げないようにしてください。   アル
ゼンチン代表も順風満帆とは行きそうにあ
りません。オランダ戦のノーゴールは危険信
号です。オランダとは欧州有数の攻撃的チ
ームで、失点は折込済みの攻撃サッカーが
売り物です。つまり、守備力は超一流ではあ
りません。ドローはいいとして、スコアレスド
ローはいただけません。           
 クレスポ温存が攻撃パターンを減らしたの
は明白です。いくらテクニシャンが多くても、
前線に潰せないFWがいなくてはここぞという
時に踏ん張りが利きません。         
  日本の不甲斐ない戦いも原因はそこに
あります。高原はポストプレイヤーではなく、
本質的にはシャドーストライカーです。ジュビ
ロで得点王を取った時も、背の高さはあべ
こべですが中山のシャドーとして得点を重ね
たのです。ドイツには高原よりも背が高いク
ローゼがいますが、彼の得点パターンもほ
とんどがシャドーとしてプレイした時です。一
応これだけは言いたかった。   あまりス
ポットライトが当たっていないようですが、ア
ルゼンチン代表の浮沈はクレスポに懸かっ
ています。ジョシは当然点を取って勝つとし
て、アルゼンチン代表はクレスポが勝たせ
てほしいと思います。ちなみにメキシコ大好
きの私は中田のチームメイトだったボルゲッ
ティにも大注目です。二人とも今大会が全盛
期でも在り、ほぼラストチャンスです。アレ
ッ、ボルゲッティって怪我したんでしたっ
け?。          
 で、あえてこの話をしているのは、日本の
子供はキャプテン翼やブラジルのドリブラー
を目指すのではなく、フォワードを目指して
ほしいんです。後にどのポジションをやるに
しても、得点感覚がある選手なら必ずポジシ
ョン争いをリードできます。私だってジョシに
は本格派のCFになってほしいと思います
が、そもそもFWを志向したのは、どのポジシ
ョンをやるにしても得点感覚を身につけて欲
しかったからです。         
  子供のうちだけなんですよ、自由に自分
のポジションを決められるのは。だから皆さ
ん、子供がCFに憧れるように仕向けてくださ
い。それが日本代表を抜本的に強化する手
段だと思います。  
 



その20 リケルメとソリンの軌跡発見とジョシはチーム内得点王
 2006年6月30日 


「リケルメとソリンがOB」 

 ラ・カルピタ戦はアウェイの交流戦です。こ
の試合を終えるとちょうど8試合で、ここを
勝てば勝ち星先行での折り返しです。相手
のU-13&14の順位は別ブロックの三位なの
で、コベルが楽勝出来るならどこのブロック
でも優勝争いできる実力がある.というわけ
です(勝手な解釈ですが)。 
 コベルは序盤の三連敗が祟っているけれ
ど、実はその後は一回引き分けただけで負
けナシだし、だんだん昨年チャンピオンらし
くなってきました。 
 ラ・カルピタの所在地はブエノスアイレスの
隣街、トレス・デ・フェブレロ(二月三日という
意味、何の日だかは不明)市。前回のアテ
ネロ・サグラダ・ファミリアはもう一つ北の同
じく隣街で、モロン市のチームでした。モロ
ン市は位置的に治安があまり良くなく危険
なのですが、ラ・カルピタの近所はなかなか
の住宅街。 
 不便そうだけどキレイな街並みでした。ア
ルゼンチンで本当にキレイな街並みだと、
高い塀の隙間からプールが見えたりするの
でこの近辺はそこまでではないのですが、
少なくとも家の修繕費用は賄えていそうで
す。普通ならそれもアヤシイので、ここなら
腹を空かしている奴は少なそうです。 
 クラブの建物もナカナカ。敷地面積ならコ
ベルの倍はあります。体育館調の建物で、
サロンは50人程度が楽に腰掛けられる机と
椅子が完備され、それでも残りの半分はガ
ランと空いたスペースになるほど広いんで
す。施設的には今までで一番のようです。 
 肝心のフットサルコートはラテックスコート
のタイル張り。サイズはコベルよりは小さい
ものの、マァマァかな。私は選手じゃないの
でどこまで求めるかによりますね。入り口に
張り紙が・・・。「ふぁん・ろまん・りける
め」?。入場料を徴収するオジサンに聞い
てみました「なんでリケルメの名前が書いて
あるの?」。「ここの選手だったんだよ。ソリ
ンもだよ」、と自慢気なオジサン。 
 私はすごく嬉しかったんです。13歳の暮れ
までセレクションが無いのはわかっていた
のですが、これだけサッカー文化が根付い
ているアルゼンチンで、本当に少年達はフ
ットサルだけやって過ごしているのか。実
は、私が知らない所で今の対戦相手を大き
く上回る怪物達が凌ぎを削っているのでは
ないか。強敵に巡り会えないのですごく不安
でした。 
 そして、ここに現アルゼンチン代表の10番
とキャプテンの足跡が。同じ道にいたので
す。改めて確信しました。彼等の少年時代
もこうやって場末のスポーツクラブを転戦し
ていたわけです。きっとスゴイ選手だったん
でしょう。そして、ここにはリケルメの後継者
が…いた !!!。 
  
 「リケルメ?」 

背番号は栄光のNo.10。頭がブチ模様で気
取った少年がいました。 背丈は160cmと少
しで一応大柄です。初の大柄アタッカー !!!。
楽しみな人がいたー。 
 相手の攻撃の要はリケルメのようですが、
息子は相変わらずベンチスタート、天才児
ホアン君も控えです。スタメンはまたサル君
と目下得点ランキング三位のフェデリコ君。
後ろはいつもと同じ、クリスキャン君とマル
セル君。GKは前回初完封して数々の汚名
を返上しようと伺うガブリエル君。要注意は
リケルメだぞ、みんな頑張れよ。 
 キックオフ。 僅かなボール回しからリケル
メがドリブルを開始、正対しているのはクリ
スチャン君、マルセル君もフォロー、サル君
が後ろのスペースを埋める。クリスチャン
君、素早く間合いに飛び込んだ!。ボール
を挟んで足が交錯、すかさずマルセル君フ
ォロー、アレ?!。あっさりマイボールになっ
て、フェデリコ君がゴール前に持ち込んだボ
ールを横に捌くとサル君シュート。先週ノー
ゴールで泣きじゃくっていたサル君がアッと
いう間に先制点を上げてしまいました。 
 その後もリケルメはクリスチャン君に完封
され、ボールが集まっても一度も抜け出せ
ませんでした。リーグ三位の中心選手がこ
の程度のはずはなく、どうやら影武者のよう
です。というか、チャッカリ10番着けている
わけだし、これが今回のリケルメというわけ
です。彼はコベルでならポジション争いをす
ることもできないでしょう。 
 サル君が再び得点し、2-0でコベルの選
手交代。なんと天才・ホアン君と凡才の息
子・ジョシが同時に投入。夢の競演(私の)が
始まりました。 

 「やりやすい」 

 リケルメはどうでも良くなってしまいまし
た。ホアン君は下がり目でボールを進めてく
れるので、ジョシばかりにマークが集中する
ことなくいかにも動きやすそう。どうやらこの
チームは大型DFがいないし、前線と守備陣
の連絡が少ないようで、ジョシ達が攻めても
マークが増えません。 
 時折見せるホアン君のポジションチェンジ
も今回は大丈夫。というか、そんなことを確
認する前にジョシは交代早々に、後ろから
真直ぐ来たボールを深い位置でDFを背負
いながら受け、そのままターンして1点取
り、続けて同じパターンでホアン君のパスで
もう1点取って、また同じパターンで今度は
外して、交代直後にシュート三本放って2点
取ってしまいました。 
 とにかくマークが一人ならラクチンみたい
です。ホアン君がタメを作ってくれるお陰で
す。連続で放ったターンシュート、私達親子
で3年も築いてきたフィニッシュパターンで
す。後に「どうしてターンシュートばかりして
いたのか」と聞いたら、「アレが一番手っ取
り早い。いちいち前向いてからシュートコー
スを決めるより、ターンしながらキックモーシ
ョンに入れるし、だいたい決まった場所に蹴
り込むだけだから」。と言ってくれました。 
 ジョシばかりシュートをするとさすがにマー
クが増えましたが、今度はホアン君が楽々
抜け出してドリブルシュート。そして、やっぱ
りホアン君も止めなきゃとマークがずれる
と、今度はスルーパスでフリーのジョシに渡
り、ワンタッチでハットトリック達成。 
 ほんの五分ほどの間でジョシとホアン君が
合わせて4点取ってしまいました。前半終了
時のスコアは6-0。もう試合は決まってしま
いました。 

 「ア!ジョシ(Go!ジョシ)」 
  
 前半終了間際にスルーパスでハットトリッ
クを達成すると、私の元に金髪の男の子が
走り寄って来て、「ジョシのお父さんでし
ょ?、ジョシはスゴイね」と抱きついてきまし
た。今回はアウェイなので、いつも試合時間
に合わせてやって来る下級生も、今朝は朝
早く集まって一斉に貸し切りバスで遠征して
きました。だから今まではジョシの試合をあ
まり観たことがなかったようです。その後も
私の前でピョンヒョン飛び跳ねて、「ア!ジョ
シ、ア!ジョシ」と小躍りしています。こういう
のが一番嬉しいんです。無垢な子供は相手
が外国人でもすごいと思えば大好きになっ
てくれます。 
 ジョシの活躍で大いに湧いたコベル陣営
は、短時間で結果を出したジョシを後半に
入る前に引っ込めて、ホアン君とフェデリコ
君を組ませました。ホアン君はその後自力
で1点取り、今日も出番が少なかったロドリ
ゴ君もDFながら1点取り。逆にリメルメがこ
ぼれ球を押し込んで1点と、アシストでも1点
上げて8-2となり、再びジョシ投入。 
 「キャー!。ア!ジョシ、ア!ジョシ」また小
躍りが始まりました。さっきまでは応援フレ
ーズが「ア!コベル」だったんです。 
 今度は割りと相性が悪いフェデリコ君との
コンビです。只今チーム内得点王争いでも
並んでいます。彼のプレイスタイルは日本に
いた頃のジョシとそっくり。決定力はアルゼ
ンチン仕込のフェデリコ君の方が上です
が、味方に活かしてもらうストライカーなの
で、局面を独力で打開する力には欠けてい
ます。そういうところも良く似ています。 
 今回は大量リードなのにノーゴールは彼
一人。今回ばかりは躍起になって一人で持
ち込みます。そうなると楽なのはジョシで、
DF陣から長めに入ったボールをフリーで走
り込んでスライディングシュートを放ちまし
た。「キャー!。ア!ジョシ、ア!ジョシ」。私
より喜ぶ下級生たち。その中心は前出の金
髪少年ピピィ君です。もうすっかり仲良し。 
 そしてなんと4点目。これで通算11点、チ
ーム内得点王にもなりました。 

 「俺に着させて」 

 試合はジョシのゴール後間もなく終わり、
最終スコアは9-2。ジョシはコートに雪崩れ
込んだ5歳年下のピピィ君達に囲まれてい
ます。さすがにフェデリコ君の表情は晴れ晴
れとはしていませんが、先週泣いていたサ
ル君も私に駆け寄って「やったぞ!」と元気
の良い言葉。全員と握手を交わし、最後に
ジョシも褒めてやろうとしたら照れて逃げま
した。そこで逃がす私ではなく、東洋人らし
からず抱擁してやりました。私はラテンのこ
ういう雰囲気が大好きなんです。 
 次の試合にもコベルが擁する天才児がい
ます。ピーニャ君といいまして、トレーニング
コーチのジャバー氏が太鼓判を押している
のは、U-13のホアン君とU-11のピーニャ君
の二人だけです。次の試合はU-12の試合
なわけですが、ピーニャ君は飛び級のレギ
ュラーです。 
 ミニゲームではジョシもピーニャ君に結構
やられています。特徴はトップスピードでの
足裏のタッチと、針の穴を通すようなシュー
トコントロールです。ドリブルを始めたら全部
一人でやってしまうのでプレイスタイルから
して疲れやすいのですが、毎度二試合フル
出場なうえに練習も二クラス分参加している
ので、最近は少しお疲れ気味の様子です。 
 このピーニャ君がジョシに駆け寄って来ま
した。ユニフォームを着させてほしいのだそ
うです。コベルのユニフォームはチームが
管理しており、番号が適当なうえに、次の試
合でも下級生が着回します。先の試合で4
点取ったジョシのユニフォームを着て試合
に出たいと言うのです。 
 次期エース直々の御指名は光栄です。こ
の日たまたま着ていたのは偶然にもクライ
フの栄光の番号14番。アルゼンチンの子が
クライフということもないでしょう。この日の
14番はジョシの番号なのです。 
 試合は接戦をモノにしたそうですが、ピー
ニャ君の活躍ぶりは、電話やら買出しやら
で忙しかった私は知りません。このカテゴリ
ーでコベルは二位なので、そこらへんのチ
ームには負けないことでしょう。 
 5歳年下のピピィ君。実は万年補欠でし
た。少しボールが怖いようです。頑張れ!。
ジョシも日本では万年補欠だったんだぞ。 
 全試合が終わり、コベルは概ね全勝だっ
たようです。自分の試合も勝って、家に帰れ
ばW杯のアルゼンチン対メキシコ戦です。バ
スの中は小一時間応援歌の合唱でした。  





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