アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチン レポート その3

その21 レベルを下げると自然にヘタになるとは知らなかった。
   2006,7,9

「新たなライバル」 

 コベルのリーグ戦は後半戦の折り返しに
なりました。前半のU-13/14チームは開幕
からの三連敗が響いて低迷しましたが、首
位のアルティゲンセに土をつけているのは
コベルだけですし、勝ち点差はもう4ポイント
しかありません。後半戦全勝が条件です
が、最終的に1位になることは可能です。勝
って勝って勝ちまくればいい。そんなに上手
くいきますかねェ。現在のクラブ総合順位は
2位です。下級生は強いなァ。 
 コベルでは練習に新メンバーが二人加わ
っています。二人ともU-13で背が160cmを
超えている大型選手です。一人は角刈りで
ボカのユニフォームを身にまとっています
が、典型的なアルゼンチン小僧でボールを
欲しがってあまりパスをしません。 
 腕前はというと、ボールを呼ぶ時にDFのブ
ラインドに入っているのでパスを通せませ
ん。ポジショニングが悪いのです。これはボ
ールを呼んでいるのではなくて「俺はここだ」
と言っているだけです。これも典型的なアル
ゼンチン小僧の特徴です。 
 トラップが下手で、速いパスは逸らして緩
いパスはボールを待つので取られていま
す。ドリブルは好きなようですが、コネてか
わすことはあってもキレがイマイチであまり
通用していません。日本の少年団の中心選
手ではこういったドリブラーをよく見かけます
が、チャレンジ精神は評価できるとしても、
攻撃に時間をかけすぎるのであまりアテに
できません。キープ力と突破力は別なんで
す。 
 もう一人、天パで眉がゴン太(ぶと)の少年
がいます。彼はまともで、実は少し息子・ジョ
シとプレイスタイルが被っています。ジョシの
場合は身体も足の速さもキック力も全て上
回っていますが、ゴン太君はボールを受け
るために近づいたり、攻守にわたってよく動
くのでボールが集まります。彼もアルゼンチ
ン生まれなのであまりパスをしないのです
が、苦しくなる前にボールを離すのでシュー
トまで行けますし、割とDFの隙を突くことを
狙っていてよくゴール前に現れます。彼にジ
ョシと同じことは出来ないのですが、誰でも
出来ることならジョシよりも上手にこなしま
す。 
 今のところ二人とも大型選手チームとして
ジョシと一緒にプレイしているので、練習で
も常にマークが喰らいついてくるジョシに比
べるとかなり自由にプレイできています。ゴ
ン太君は先日トレーニングコーチのジャバ
ー氏に選手登録するように勧められまし
た。 
 レギュラーのDFを単独でやり込めるほど
のテクニシャンではないので、彼の加入によ
ってコベルの攻撃力が大幅に上がるという
ことはありませんが、ホアン君のようにつな
ぎ役をこなしてくれれば前線の組み合わせ
は幅が増えそうです。ゴン太君についてはこ
れほど存在感がある選手は今までの対戦
チームにもいなかったので、ポジション争い
はこれまで以上に厳しくなりそうです。 
 角刈り君の方は声をかけてもらえなかった
ので、本人としてはGKを狙うかどうか迷って
いるようです。 

 「ジョシの迷い、日系人」 

 問題のジョシはというと、実は最近ヘタに
なってきました。ボールを受けてからの優先
順位から明らかにシュートが抜けているの
です。 
 大人と手合わせしているうちに慎重にシュ
ートを打つようになったのかと思いきや、実
は原因が別のところにありました。学校の
日系アルゼンチン移民達とプレイしている
のがいけないようです。 
 彼等は正式にサッカーに打ち込んでいる
子は少ないものの、アルゼンチン育ちなの
で日本の男の子達よりは腕が立ちます。も
ちろんボールを受けてから何もせずにパス
で逃げたりはしませんし、一対一なら積極的
に仕掛けていきます。前出の角刈り君と同
じような感じです。 
 当初プレイ時間が増えることはいいことだ
と思っていたのですが、彼等にするとジョシ
のボディーコンタクトが厳しすぎるらしく「キタ
ナイだけで上手くない」と、あまり認めてもら
えないようです。 
 そんなことはどうでもいいのですが、実は
最近ジョシだけロングシュート禁止にされて
しまったそうです。学校のコートは狭いの
で、ジョシのシュートレンジならハーフライン
の手前からでもシュートできてしまうのです
が、それはあまりにも不公平ということで仲
間内で禁止にされてしまいました。 
 そのせいでジョシはボールを受けてから密
集を突破せねばならず、しかもそれは大し
た障害にもならずにいつも抜け出せてしまう
ので、結局ゴール前でGKをかわしてシュー
トするプレイばかりになってしまっているよう
です。 
 この弊害はすさまじく、ジョシはあれだけ練
習したロングシュートを全く打たなくなりまし
た。こうなるとキックフェイントにも効き目が
なく、DFをかわすパターンが限られてしまい
ます。 
 私は環境こそが人を大きく伸ばすと信じて
息子も自分もあえて厳しい環境に晒してい
ますが、ジョシにとってはクラスメイトはぬる
過ぎるうです。レベルが高い環境でプレイす
れば自然にレベルが上がるものですが、レ
ベルを下げると自然にヘタになるとは知らな
かった。今後クラスメイトとサッカーをするな
とは言えませんが、GKだけやらせることにし
ます。これ以上積み重ねたものを台無しに
されてはたまりません。 
 GKは日本の少年団でもパントキックの飛
距離と身体の大きさや反応の良さを見込ま
れて何試合か経験したことがあります。責
任感がないので不意を突かれたシュートを
眺めたり、キャッチングをしなかったりと適
性の無さも大いに目立ちましたが、GKにと
って嫌なシュートなどを知る機会となりとても
参考になりました。これからはそういうつもり
でGKをさせればアタッカーとしてのプレイの
選択に大きなプラスとなるでしょう。 
 アルゼンチンの敗退でアルゼンチンのサ
ッカーオジサン達の「サッカーしたい熱」は
一気に冷めてしまったようです。お陰で子供
達の練習の後に集まってくるお父さん達が
激減し、ジョシはまたオジサンチームに混ざ
ってプレイできるようになりました。パスが強
くてDFやGKのプレッシャーが絶大で、ジョシ
はチャンスでモタモタしてしまっています。 
 今のところ学校でつまらない癖をつけてし
まったせいもあり、積極的にシュートできて
いません。ボールを受けて最短距離でゴー
ルに迫る動きはほぼ取り戻したので、あと
はシュートだけです。 
 なんで三歩進んで四歩下がるようなことに
なっているのか・・・。もっとよく考えて欲しい
ものです。 

 「リーグ戦、リベンジ」 
  
 先週のリーグ戦の模様をお伝えします。相
手は初戦で戦ったリパブリック・メキシコで、
ホームに迎えての再戦です。前回は一方的
に不利なジャッジを受けてコベルは全年齢
のチームでいいところが無かったのです
が、今回は違うレフリーが登場しました。 
 このレフリーも相手チームの人間で相変
わらず「ピッピ、ピッピ」笛を吹くのですが、
比較的公平にジャッジしているようです。助
かります。今回も先発はサル君とフェデリコ
君で、後ろもいつもどおりマルセル君とクリ
スチャン君でした。ジョシが先発を勝ち取る
のはいつのことやら。今回はまたホアン君
が現れず不安です。 
 この日はサル君が絶好調。前半の半ばま
でにミドルシュートを連発して2得点しまし
た。フェデリコ君はこの日も不発。ジョシの
代わりに引っ込んだのはフェデリコ君でし
た。 
 ジョシはというと、前回よりも楽に攻め上が
っています。何せ前回はトラップして振り向く
毎にオフェンスチャージを取られていたの
で、全く攻め込むことが出来ませんでした。
実は相手はあまり強いチームではないので
す。初戦で7点取られて負けたのは、攻撃
の芽をジャッジによってほとんど摘み取られ
たからに他なりません。 
 今にして思えばシュート数が少なかったの
ですが、ジョシはゴール前に再三迫りまし
た。シュートはGKと一対一になった時に、い
つものとおり逆サイドに流し込みました。GK
が届かないところをボールが進んでいきまし
たが、惜しくもポストに弾かれゴールなら
ず。このパターンはもう一度あり、ジョシは
奮闘空しくノーゴールのまま最初の出番を
終えました。 
 再びフェデリコ君投入となりましたが、相
手のCKからゴール前で混戦となり、ボール
を押し込まれて1点返されてしまいました。
それでもこの日絶好調のサル君が再びミド
ルシュートを決めてハットトリック。スコアも3
-1に押し戻し、大活躍のサル君を引っ込め
て再びジョシ登場です。 
 ジョシは再び楽に攻め上がるのですが、シ
ュートを後回しにして抜き去ることばかり考
えているようです。以前は観ている私が「チ
ャンス!」と思うのと同時にシュートを打って
いたので試合観戦中にあまりストレスが無
かったのですが、今は試合だろうと練習だ
ろうと物凄いストレスです。たまたま楽に勝
てる相手の時はいいのですが、少し人数を
かけて守られるとボールを受けてからの優
先順位のマズさが目に付きます。 
 「今回もノーゴールか」と思っていたのです
が、フェデリコ君が囲まれながら放ったミド
ルシュートをGKがファンブルし、詰め寄った
ジョシが押し込んでゴールを挙げました。 
 ごっつあんゴールですが、私はごっつあん
ゴールを推奨しているのでOKです。点が取
れない相手にはごっつあんゴールです。今
回は点が取れない相手じゃなかったとは思
いますが、苦しい時こそこういった得点を生
むポジショニングが活きるというものです。
デカシタ、息子よ。 
 4-1で前回の雪辱を果たし、コベルはまた
勝ち点を積み上げました。ジョシもワンゴー
ルながら得点を上積みしてチーム内の得点
王を守り、全体の得点ランキングでも上位
に留まることができたと思います。 
  
 「借りがある相手、、三度目の激突」 

 次回もリベンジ。相手は今年三度目の手
合わせとなるリオ・コロラドです。今回はアウ
ェイ。あの石畳の狭いコートで試合をするこ
とになります。ただ4ヶ月前にこのコートで試
合した時は勝っているのだし、GKは最近ポ
カがめっきりなくなったので大量失点はもう
起こらないと思います。一応まだ怖いんです
けれど。 
 期待したいのはジョシのロングシュートで
す。4ヶ月前とは見違えるほどのコントロー
ルがあるはずです。リオ・コロラドのコートは
最も狭いので、ドリブルよりもロングシュート
です。さらに、石畳なのでGKがあまり横跳び
しません。とにかくバンバン打てばいいんで
す。 
 どうせジョシは先発じゃないので、試合が
始まってから暫くは私が真横で一緒に試合
を見て、どの状況で打つべきかしっかりレク
チャーしようと思います。 
 先週二つ年下のペーニャ君のことを紹介
して以来トップスピードの足裏のコントロー
ルが気になって、今ジョシにはルーレットに
取り組ませています。リオ・コロラドのコート
は狭いので、スペースに抜け出すよりも足
裏を使いながらスクリーンターンする方が有
効だと考えました。 
 ジョシは技術的には問題なくこなせるので
すが、コツがわかっていないんですね。やら
せてみるとボールの上でクルッと回るだけで
ボールが動いていないんです。これじゃあフ
ィギュアスケートのターンと同じです。ルーレ
ットはボールがルーレットのようにDFから遠
ざかりながら前に周り込まなければいけま
せん。ポイントは一歩目の踏み込みの時に
上体を被せながら半身になり、DFから真横
に逃げるようにボールを引いて動かすことで
す。 
 一晩である程度形になったので、明日の
実戦で試してみます。 

 「アルゼンチン敗退。ブエノスアイレスの市
内は」 

 アルゼンチンの敗退は、意外に冷静に受
け止められたようでした。開催国との試合だ
ったのでジャッジに偏りがあったことは明ら
かでした。W杯はそういうものだという認識
は市民に浸透しており、その辺が南米選手
権で優勝しても暴れる連中が今回は大人し
かった理由だと思います。 
 息子はまた授業を潰して学校で観戦した
そうです。先制点はお祭り騒ぎで、その後も
ボール支配を続けたので誰もが試合をモノ
にしたと思っていました。私の家の窓の下に
はアルゼンチン仮面がウロウロし、道端で
応援グッズを売りながら時々ガラス越しにカ
フェのTVを覗いて一喜一憂していました。 
 後半に追いつかれた時から街が静まり返
り、アルゼンチン仮面もTVから目を離さなく
なりました。PK戦が終わって負けが確定し
た時、アルゼンチン仮面はマントを脱いでグ
ッズを片付け始めました。アルゼンチン仮
面から普通の人に戻った姿が、この国の敗
退を象徴しているようでした。 
 学校では「今日は何が起こるかわからな
いので、学校に残らず速やかに帰るように。
寄り道もしないように」と全員に訓示があっ
たそうです。 
 何も起こらなかったのは残念でもあり、ま
たさらに寂しさを強く感じさせられました。 




no22 ジョシの涙とプロへの扉が遠くにかすんで見えた日 
   2006.7.15

「得点ランキング3位」 
  
 リーグ戦10試合が終わってコベルの総合
順位は4位ですが、雨天で順延している試
合があるので、一試合少ないチーム同士だ
と一番順位が高く、今までの平均勝ち点を
一試合分積み上げるとトップなんです。予選
ゾーンは七つあり、たぶんそれぞれの順位
同士でリーグ戦が再編されるので、このまま
で行けば1位リーグに参戦して、今年もブエ
ノスアイレスチャンピオンに挑戦できる体制
が整いつつあるようです。あっ、挑戦じゃなく
て防衛ですね。 
 息子のジョシは12得点で得点ランキング3
位です。2位のボヘミオ・ジュニアの選手は
14点で、このチームとの対戦は雨天で順延
したためどんな選手だかわかりませんが、
ジョシに固め打ちがもう一度あれば抜けると
ころまで来ています。 
 1位はロス・アミーゴスの選手で23点、残
念ながらこの点差だと届きそうもありませ
ん。こちらは既に対戦しましたが、ジョシが
熱を出して休んだため、やはりどんな選手
なのかわかりません。試合は5対5の引き
分けだったそうで、きっとこの選手にもやら
れたのでしょうがとにかく詳細はわかりませ
ん。すみません。 
 この選手の得点の積み重ね方をみると、
平均して各試合で2〜3点取っているのです
が、一度に7点取った試合があります。この
内容から伺えるのは、どんな相手でも必ず
点を取り、時には調子がいい時のジョシの
倍近い大量点を挙げています。たぶんフル
出場しているのでしょう。 
 他の対戦チームと比べてコベルはメンバ
ーチェンジが多く、ほとんどのチームは中心
選手が交代することはありません。得点ラン
キングで見れば、ランキングに名を連ねて
いるコベルの選手は四人で、ランキング内
の得点合計も37点とぶっちぎっています。次
点はリオ・コロラドで、ランキング内に三人、
合計得点数は21点です。得点王がいるロ
ス・アミーゴスはランキング内が一人、だか
ら合計点数も23点です。ボヘミオ・ジュニア
は二人で合計23点です。 
 以上のようにコベルの選手起用が特殊な
ことが伺えます。コベルの場合はこの間まで
ほぼフル出場していたサル君と、大量点を
取ったり全く取らなかったりと波が激しいフェ
デリコ君が同点の10得点で、ランキングも4
位です。親の贔屓目で見れば、ジョシがフル
出場できていれば得点王も夢ではないか
と・・・。現実はスタメン争いから抜け出せて
いないのに、都合のいい空想ですね。 

 「三度目の対戦、リオ・コロラド」 

 私はリオ・コロラドのホームに行くのが嫌
なんです。今南半球の季節は真冬で、ブエ
ノスアイレスは最低気温が東京の冬の平均
気温と同じくらい、平均気温は東京の最高
気温と同じくらいです。天気は夏場に比べて
曇りがちで、東京の冬よりも気温が高くても
毎日天気のいい冬場の東京よりも日が出て
いない分暖かくはありません。天気が良いと
20度を超えるし、最低気温が氷点下まで下
がることがないので、冬とはいえかなり暖か
いのですが。 
 ということで、貧乏クラブのリオ・コロラドは
コートが屋外で、身体を動かさない大人の
観戦者には寒いんです。しかもさらにムカつ
くことが。この街に来るのは二度目なので勝
手がわかる分クラブの外をウロウロしてい
たら、クラブの方向から二人連れの男が歩
いてきて私に話しかけました。 
 私は相手が何を言うのかを予想しながら
言葉がわからないことを補っているので、咄
嗟に無関係なことを言われると相手が言っ
ていることがわからなくなります。気軽に話
しかけてくるところを見るとサッカーの関係
者だと思って立ち止まりましたが、どうやら
私から小銭をせびろうというのです。 
 物乞いはブエノスアイレスでは珍しくありま
せんが、彼等の基本はみすぼらしい身形で
同情を誘い、わざと情けない声で話しかけ
るのです。 
 普通の身形のオッサンが友達と話しなが
ら近づいてきて、親近感一杯に小銭せびる
とは何たることか。ナメやがって。始めは「ス
ペイン語がわからない」と言いましたが、相
手は見るからに普通のオッサンで、私がク
ラブの父兄と見間違えるほどの働き盛りな
わけです。だんだんムカついてきて、私は
「俺にも金をくれ」と手を差し出しました。相
手は少し驚いたようで、さらに「1ペソくれよ」
と言うと、アホかという仕草をして立ち去りま
した。 
 考えてみれば誰でも気軽に金をせびるの
なら私が貰ったっていいわけです。 
 あー嫌だ。こんな駆け引きはまっぴらだ。
もう貧乏な地域には行きたくありません。 

 試合は、相変わらず狭いコートでしたが、
石畳に新しくラテックスコートがしてあって、
少し転んだだけでは擦り剥かないようになっ
ていました。C.A.F.I.(カンピナート・アミスタド・
デ・フットボル・インファンチル)*キッズサッカ
ーのフレンドリーチャンピオンシップの意*の
レギュレーションなのでしょう。 
 ちなみに私は「バビー・フットボール」って
現地ではそういう呼び名を聞いたことがあり
ません。日本では渡航前から聞いていたの
ですが・・・。子供のサッカーは「フットボル・
インファンチル」と呼ばれています。対象は
5歳児からですが、それより小さい子のサッ
カーが「バビー・フットボール」って呼ばれて
いるんでしょうか?。5歳児の試合を見る
と、それより小さい子がサッカーをするのは
無理だと思います。ボールに追い付けない
からです。とにかく今まで黙っていてすみま
せん。 

 「また苦戦。どうして?」 

 思えばこのチームとは相性がが悪いのか
もしれません。コーチは「なかなか強いチー
ム」だと言っていましたが、どう見てもエース
格の選手がいないし、DFが厳しいといえ
ば、後で説明しますがそれほどのこともな
く、何というかひたすらやりにくいチームなの
です。 
 さて、そのやりにくさについて解説します
と、どうやらキタナイチームなようです。ボデ
ィーチャージは当りが強いということではなく
てもスッポンマークです。そして、自分がマ
ークしている相手がボールを持つととにかく
足を出してきます。それもボールではなく足
掛けです。今回も息子は「足とボールを間違
えてるんじゃないのか」と言うほどしこたま蹴
られました。思えば初対戦の時も同じ事を
言っていたような気がします。 
 確かにこのチームを相手にすると蜜集が
多く、ゴチャゴチャしている中でコベルの選
手が倒れます。普段は明らかに突き飛ばさ
れて倒れるのですが、このチームの時はス
ピードが出ていない時に倒されているので
す。ゴチャゴチャしているから審判にも見え
ないのでしょう。こうしてみると確信犯です
ね。 
 キックオフするとコベルがボールを支配し
てゴール前に迫るのですが、必ずゴール前
はゴチャゴチャで防ぎきられます。それでも
こぼれ球を後ろのマルセル君が拾ってミド
ルを叩き込み、コベルが先制しました。申し
遅れましたが、スタメンはいつもどおりクリス
チャン君、マルセル君、フェデリコ君、サル
君(マキシミリアムというカッコイイ名前が本
名)でした。ジョシがスタメンを取れない理由
もこの日に朧げながらわかりました。それも
後ほど。 
 いい調子で攻めるのですが、なぜかこの
日はコベルの面々に繋ぐ意識が強くて、フィ
ニッシュに至る前の僅かなミスで攻めきれま
せん。思えば囲まれるとろくな目に合わない
ので、敵に近づくのを避けていたからかもし
れません。全体的に広がることでコベルの
DFが密集を作れず、逆に敵の密集攻撃を
数的不利で受けることになりました。 
 先制したものの責めあぐねるコベル。いつ
ものように前半の半ばにオーナーコーチ・ハ
ビエル氏がホアン君にアップを命じ、結局こ
の日もゴールがなかったフェデリコ君と交代
させました。先にノーゴールと書いてしまい
ましたが、フェデリコ君はこの試合を含めて
4試合連続ノーゴールです。前回同様アタッ
カーを総入れ替えすると思ったのですが、
サル君はもう少しコートに残るようです。 
 なかなか追加点が奪えない中、敵のミドル
シュートがDFの足に当たったところからゴー
ル前がゴチャゴチャになり、誰が最後に触っ
たかわからないようなボールがコベルのゴ
ールに滑り込みました。またしてもこのパタ
ーンです。コベルの失点シーンに同じケース
が多いのは、DFの身体が小さくて敵を弾き
出せないせいかもしれません。そういえばコ
ベルのゴール前で敵のアタッカーが倒れて
いるところを見たことがありません。 
 リスタート直後にサル君のミドルで遅すぎ
る追加点を奪うと、またゴール前のゴチャゴ
チャから失点して同点に戻され、試合は点
の奪い合いになってきました。 
 いつもなら後半に入る前にジョシが交代し
てワンプレーするところ、この日はこのまま
前半終了。どうやらハビエル氏は後半をま
るまるジョシに預けるつもりなのでしょう。そ
ういうことなら後半に期待するとしましょう。 

 「一番点を取っても・・・。」 

 後半が始まってもジョシの出番は来ません
でした。どうしてなんだろう?。明らかにジョ
シも不満気です。試合は少し膠着した後クリ
スチャン君がミドルを決めて、ホアン君との
入れ替えでジョシが投入されました。 
 ジョシのこの日の課題はロングシュートで
すが、味方がミドルで3点も取った後なので
すっかり警戒されています。そして、出場選
手中最も背が高いジョシは常にマークが集
まります。狭いコートで固まって守るリオ・コ
ロラドと最も相性が悪いのはジョシなのかも
しれません。やりにくいことこの上ないようで
す。 
 それでもジョシはサイドでボールを受けて
何度も前を向いてシュートモーションに入り
ました。普段マークが薄い中盤のサイドで
も、スッポンマークを敢行するリオ・コロラド
のDFは離れません。トラップでいなしても諦
めずに回り込んでくるので、結局シュートを
弾かれてしまいます。かつてのジョシならこ
の時にキックフェイントを入れてマークをず
らしていましたが、そういう良いリズムを今
は思い出せていません。 
 7〜8本はロングとミドルを放ったでしょう
か?。ゴール前に迫ってから放ったシュート
も2〜3本ありました。全部弾かれたのです
が、短い時間で本当に沢山のシュートを打
ちました。そして、後半は最後までプレイで
きると思っていたのに何故か半ばで交代。
ジョシはチームで一番出番が少なかったの
です。 
 ベンチに戻るとジョシはユニフォームを脱
ぎ捨てて地面に叩きつけていました。私は
駆け寄り「おい!まだ終わってないんだから
脱ぐなよ」と言いましたが、納得できない交
代で頭に血が上っているのはよくわかりまし
た。 
 試合はというと、またしてもゴール前のゴ
チャゴチャから今度はミドルを決められて再
び3-3の同点。だけれど最後の最後にコベ
ルが誇る天才児・ホアン君がこの日初めて
単独で持ち込んでそのままゴールし、結局4
-3で勝ちを収めました。ということは、やっ
ぱりジョシに二回目のチャンスが訪れなかっ
たのです。 
 今回は相手に押さえきられたわけではな
く、もう少し時間があれば必ずゴールが奪え
たと思うのですが、チーム内得点王に対す
るこの冷遇は何なのでしょう?。 
 試合が終わり、ジョシは込み上げるものを
抑えきれず俯いて肩を震わせていました。
久しぶりに見た息子の涙。彼のこういう悔し
泣きは初めてかもしれません。私は「男にな
ったんだな」と思いました。かつて途中交代
で出た試合ですぐに引っ込められても平気
な顔をしていた少年が、今は周りと対等の
扱いを受けないとユニフォームを叩きつけて
悔し涙をするのです。 
 ダメダメだった息子を方向転換させるため
に始めたサッカーは、いつしか彼の誇りとな
っていたのです。目の前でひっそりと涙する
息子ですが、こういう時はあまり慰めなくて
もいいんだと思いました。 
 「試合に出れないのが悔しいんだよな。チ
ームで一番点を取っているのに納得できな
いよな。今回はプレイで反省しなくちゃいけ
ないことはなかったぞ、もっと時間があれば
きっとゴールできたよな」。言葉が途切れる
度に首を縦に動かします。気持ちを共有で
きれば楽になるものです。私はその後はし
ばらく放っておくことにしました。 
 一通り泣き終わって、でもまだ目が赤いジ
ョシが、試合の球拾いをしている(屋外なの
で転がって行ってしまうのです)私の所に歩
いて来ました。 
 「これじゃあ前のモーノ(猿のスペイン語、
サル君の本当のあだ名)と同じになってしま
った。どうせレポートに書くんでしょ」。そうな
んですよ。君の涙はオイシイ。でも、かっこ
悪いとは誰も思いませんよね。点が取れなく
て泣いたサル君は自分のせいだけど、今回
の交代劇を全てジョシのせいにするのは酷
です。 

 「試合も練習も」 

 思い当たるのは練習中の不調です。最近
レギュラー組を鍛える役回りなので、自分達
の攻撃は単発で終わってばかりです。相手
はDFもレギュラー組なので、彼らをやり込め
るのなら練習中のジョシの仲間も試合に出
れています。パスが繋がらず、DFはボール
を奪えず。逆にジョシはレギュラーを相手に
して自分を鍛えられるのですが、サポートな
しで二人いっぺんに相手にするのは無理で
す。ジョシの練習中の態度も次第に投げや
りになっていました。 
 さらに、攻撃にばかり備えているとボール
を全く触れないので、ジョシも下がるようにな
りました。それはそれで悪くはないのです
が、ボールを奪っても攻撃を仕掛けるには
ポジションが深すぎるので、組み立てのため
にボールを回すと味方が上がる前にボール
を奪われてしまうのです。練習相手にしては
レギュラー組が強すぎるわけです。 
 だからジョシはこういうチーム分けをするコ
ーチの意図を理解はしているものの少しだ
け恨むようになり、練習の帰りに愚痴ってい
ました。加えてロングシュートを禁止される
毎日のサッカーのせいで自分の武器を減ら
し、そのことも余計に練習時のモチベーショ
ンをマイナスに向かわせたのです。 
 トレーニングコーチのジャバー氏は試合に
は現れないものの、当然試合で采配を振る
うハビエル氏とは連絡が密で、練習でのコ
ンディションが試合に影響しているわけで
す。ホアン君が試合での中心になれないの
もこのためだと思います。彼は最近復調し
て試合でも活躍し始めていますが、ジョシは
試合で点を取っても練習はどんどん調子を
崩しています。 
 そう思うと、残念ながら練習で常に絶好調
なのはサル君で、レギュラー組以外の連中
や下級生を相手に点を取りまくっています。
フェデリコ君も練習相手が楽なので、試合で
一ヶ月近く点が取れていなくてもスタメンな
わけです。ジョシ達も下級生相手なら点が
取れそうなものですが、相手は年下とはい
えレギュラーの腕前で、穴だらけのジョシ達
大型チームでは通用しないのです。一体何
のための大型チームだか。カスを集めたら
たまたま背が高いだけなのと同じことです。 
 この一件以来、ジョシのその後の一週間
は変わりました。本人曰く「余計なことを考え
るのはもう止めた。特に練習は、味方が守
れないのならそれでいい。自分は攻撃に専
念してクリスチャンとマルセルをキッチリ潰
す(抜くという意味だと思います)」。だそうで
す。私はずっと前から(日本にいた時から)
「試合で負けてもいいからお前は点を取れ」
と言っていたのに、やっぱり人に言われたこ
とと自分で気付いたことは違うんですかね。
失敗する前に言われたことの意味を理解し
て欲しいのですが。何はともあれ練習でアピ
ールする方向で腹をくくったようです。もうそ
れしかありませんからね。 
 まだまだロングシュートとキックフェイントで
正対するDFをビビらせまくっていた頃のプレ
イは戻っていませんが、ボールに喰らいつ
いてDFを振りほどきながらシュートするシー
ンが格段に増えました。先日は大型DFのロ
ドリゴ君を身体とスピードでブチ抜いた瞬間
に右45゜のシュートを決めたので、今まで以
上にメンタル面の変化が見て取れます。シ
ュートするタイミングも、傍から見ている私と
シンクロする回数が増えました。 

 「プロのスカウト」 

 最近はトレーニングコーチのジャバー氏が
練習の終わりに息子に一言声をかけてくれ
るようになりました。思えばこうして特別に声
をかけてもらっているのはジョシだけです。
外国人だからといって不利なことばかりでは
ないんです。 
 特に今週はシュートまで強引に持っていく
姿勢が誰の目にも明らかで、「ビエン!(い
いぞ)ジョシ」とのコーチの声が増えていま
す。そして、先日は練習後にみんなが帰っ
た後、ジョシと私を捕まえてジャバー氏が面
白い話をしてくれました。 
 「ホアンはいい選手だろう?、俺は来年、
ホアンをビッグクラブに推薦するつもりでい
るんだ。もちろん本人が望めばこその話だ
けどね」。 
 この話の真意とは、つまり、この元トップリ
ーグのGKだったジャバー氏のお眼鏡に適え
ば、プロへの道へ導いてくれるということで
す。 
 ハングリーなサッカー先進国ではスカウト
の暗躍があるとの事ですが、実は彼のよう
な少年達の指導者がそのままスカウト活動
をしているようです。考えてみれば彼等はほ
とんどが元プロ選手で、プロサッカー界での
人脈は豊富なわけです。加えて日頃子供と
接しているのはもちろんコーチ達で、セレク
ションの現場に立ち会うよりも、一人の子供
の技術や将来性に正しい判断が出来てい
るのです。 
 コベルにおいてはホアン君と比べて遜色
がなければ、その選手もまたプロへの道が
開かれるレベルということで、ジャバー氏は
ジョシがプロ志向の強いことを織り込み済み
で、わざわざ言わなくてもいいチームメイト
の話をしているわけです。 
 つまり、だから「お前も頑張れ」と。ホアン
君の意向を確認しないで捕らぬ狸の何とや
らをやっているのは、遠まわしにジョシを認
め、ハッパをかけているのだと私は思いまし
た。 
 わざわざジャバー氏の意向を聞くのも野
暮なので、次にまた同じ話が出たら問いか
けてみます。その時は是非「ジョシも推薦し
てやるぞ」と言われたいものです。練習のパ
フォーマンスを気にしている場合ではありま
せん。 
 実は当家の仲介をしている日系不動産業
者もサッカー業界に詳しい方で、ずっと前か
らサッカーに関する甘い話をしてくれていま
す。 
 実力が伴わなければ意味がないので、ジ
ョシに対する客観的で高い評価を得るまで
は頼らないことにしています。 
 しかし、今客観的にプロに一番近いホアン
君がいて、しかも手が届かないほどの差が
あるわけではありません。少なくともチーム
内でホアン君に次ぐ実力があるのは間違い
なくジョシです。実はノーゴールの試合もホ
アン君の次に少ないのです。 
 リケルメの件といい、アルゼンチンに来て
からプロの入り口が見え隠れするようになり
ました。 
 セレクションまであと5ヵ月ほどです。   
 



no23 例え短い時間でもゴールを挙げることが一番価値があるって言ったんだよ
   2006.7.23

「強敵、ポルベクラブ」 

 三月の末に開幕したリーグ戦で三連敗し
たコベルですが、冷静に分析すると始めの
二試合は今は控えGKのトミー君が大量失
点してしまったことが敗因でした。GKに全て
の責任を擦り付けるわけにはいきません
が、その後コベルは大量失点していないの
でこの部分はデータが物語っています。 
 三敗目を喫した相手は今回のポルベクラ
ブです。前回の試合は接戦で、コベルが先
制したものの追加点が取れず、試合の終盤
に追い付かれたうえに逆転負けを喫した苦
い試合でした。このチームはGKがいいんで
す。以下にデータから考察します。 
 得点ランキングをベースに見ると、9試合
をこなしたポルベクラブのトップスコアラーは
7点で、その他にランクインしている選手は
いません。つまり、一試合に2点以上取れる
ケースは稀なのでしょう。なのにポルベクラ
ブは5勝2敗2分で現在首位です。明らかに
ロースコアで守り勝っていますし、それほど
ハードなDFをするチームではなかったので、
GKが凄いということです。 
 前回の対戦では、通常は横跳びするする
ファーサイドを狙った弾丸シュートを、ボール
が身体の正面を横切る前にジャッジして前
に跳びついてセーブしたのが印象的でした。
私的には相当なセンスを感じたのです。ちな
みにその風貌は、イタリア辺りの裏街でパン
をかっぱらって人混みを縫うように逃げてい
くような、そんな小ズルそうな感じでした。 
 そのGKは健在で、先発出場していました。
前回は巨大なGKが先発して同点に追い付
いて、からかっぱらい少年はハマ大魔神の
ように試合を終わらせるために登場したの
です。 

 「コベルのGKは」 

 コベルを負かした相手との試合はこれが
最後です。もちろん今までの借りは返してき
ました。最初の試合では7点取られて、次の
試合では9点取られて、得点王はコベルに
勝ったチームから出てくるのかと思ったら全
然そんなことはなくて、いかに大したことのな
い相手に負けていたのかがわかりました。 
 最近のGK・ガブリエル君は調子が良く、試
合でも勝てる範囲の失点で抑えていますし、
実は練習でも侮れない動きをするようになり
ました。背は高くないのですが、本当は相撲
取りにしたいウエストをしています。アルゼン
チンでサッカーをしている子は太った子が少
ないのですが、彼だけは昔からアンコ形をし
ています。 
 この試合、ホームなのでみんな遅刻覚悟
でバラバラに集まったのですが、実はコベル
のGKが一人も来なかったのです。もうじき
冬休みなのでテスト勉強でもやっているので
しょうか?。最近レギュレーションと登録選
手のプロフィールを見たのですが、実はコベ
ルのGKは二人とも年上で92年生まれでし
た。存在感が薄いのですがお兄さんだった
んですね。その他の選手は全員93年生まれ
の同級生です。 
 この試合でゴールマウスを守るのはマル
セル君です。彼は正GKではありませんが、
練習時にやるGKの時の動きを見る限り実
力はNo.1です。ちなみに息子・ジョシが言う
にはジョシがNo.2だそうです。確かに身体が
デカくて反応はいいのですが、セーフティファ
ーストの意味がわかっていないので私はジョ
シのGKは見たくありません。 
 試合の先発メンバーは、後ろにマルセル
君の代わりのロドリゴ君とクリスチャン君、
前がサル君とフェデリコ君でした。コベルの
昔の写真を見るとこのメンバーは全員小さ
い頃から在籍していたようです。ロドリゴ君
は新参者だと思っていましたが、実は一時
的に抜けていただけだったようです。実力的
に?な部分もあるのですが、何年かのブラ
ンクを取り戻すために頑張っているのでしょ
う。 
 ジョシに昔の写真がないのは当然ですが、
天才児・ホアン君の写真もありません。彼も
ここ一年、二年の間に加入したようです。ジ
ョシと共にスタメンを飾る回数が少ないホア
ン君ですが、もしやコベルは実力主義では
ないのでしょうか?。 

 「若島津 健」 

 ポルベクラブのGKは一味違いました。キッ
クオフしてからコベルが優勢で攻め立ててい
るのですが、シュートが全然入りません。ポ
ルベクラブのゴールは客席の向かい側で
GKが正面を向いているわけですが、私達に
背を向けてコベルの選手が放ったシュート
がゴール上隅へ伸び上がっていった時、か
っぱらいのGKがスッと視野に入って難なくセ
ーブするのです。 
 自軍DF陣によく声をかけてノーマークを作
りませんが、他の選手が本当に大したこと
がなくてコベルはいい形でボールを進めて
います。特に目立つのがポルベクラブで一
番デカイDF。彼は前回先発のGKで、ジョシ
は彼にシュートをぶち込みたくてウズウズし
ていたそうです。結局かっぱらいGKと早々
に交代して、ジョシ曰く得点チャンスを逃した
ということで悔しがっていました。 
 そして、彼はニブいのです。当りだけは強
くて小兵ぞろいのコベルの選手に追いつい
た時だけは競り潰していましたが、向かい合
うと普通の人で、身体の大きさをほとんど活
かせていません。 
 そんな頼りないDFを補って余りあるGKの
ファインプレー。私達の視界の外から跳びこ
んで来るので、私はキャプテン翼の空手GK
を思い出してしまいました。 
 攻めあぐねるコベルの攻撃陣。決定的な
シュートチャンスもフェデリコ君はミスを繰り
返し、オーナーコーチ・ハビエル氏から「寝て
るんじゃねェぞ」と怒鳴られる始末。きっと攻
めても点が取れないのはコベルに限った話
ではないのでしょう。 
 いつものように前半の半ばでフェデリコ君
はホアン君と取替えられてしまいました。実
はフェデリコ君はこの日もノーゴールで終わ
るのです。実力主義でやって欲しいものです
ね。 
 このGKはホアン君でもヤバイでしょう。何
といっても若島津 健なのですから。キャプテ
ン翼カードはアルゼンチンでも売っていま
す。アルゼンチンの子供達は、スゴイ選手
に出会った時に本物の選手とアニメの選手
とどっちを思い浮かべるのでしょうか?。キ
ャプテン翼では現実離れの象徴とされる若
島津 健を思い浮かべるのは私ぐらいのも
のでしょうね。 
 でも、本当の怪物はコベルのホアン君でし
た。ニブイ大型DFのチャージを鮮やかにか
いくぐり、ゴール右隅に進出するとファーサ
イドにシュート。このコースは取るはずのか
っぱらいGKの足元を横ぎり、ボールがゴー
ルポストの内側に当たって、跳ね返ったボー
ルがニアのサイドネットを揺らしました。 

 「スーパープレイ炸裂」 

 前半が終了し、コベルは前回と同じように
1点リードです。追加点を取らなければまた
負けてしまいます。後半の戦いぶりは如何
に?。ジョシはまた試合に出ていないんだけ
ど・・・。 
 後半開始後もジョシには声がかからずま
た嫌な感じです。時間は過ぎても試合は膠
着状態のまま、追加点が入らずジョシも出
番が回らず。ただし、コベルのDFだけは安
定していて、マルセル君の動きも良くて追い
付かれる心配は全くありません。攻撃を受
ける回数が少ないので、GKはマルセル君じ
ゃなくても問題なさそうです。 
 コベルのCKになり、キッカーのホアン君が
ボールをエンドライン上に蹴り上げました。
ボールはGKの頭上を越えてファーサイドの
ポスト際にポトリ。そこにいたロドリゴ君がワ
ンタッチしてコベルに待望の追加点が入りま
した。 
 そして、ジョシにもアップが命じられまし
た。もっと早く出してくれれば苦しまなかった
のに。私はいつもそう思うのですが、これが
現実になりました。 
 以下にジョシのスーパープレーを活字で再
現します。 
DFのフォローで上がったマルセル君が、自
陣ゴール横の左サイドライン際からハーフラ
イン左側のジョシにグラウンダーの鋭いパ
ス。このパスを通すまいと立ちはだかる大型
DFに、ジョシはボールタッチをする前にボデ
ィチャージをしてボールの軌道を確保。その
まま前を向いてフォローに上がって来たかっ
ぱらいGKと向かい合い、まだタッチしていな
いボールにキックフェイント。キックモーショ
ンに合わせて身体を投げ出したGKの脇を
ボールが転がり、ジョシはサイドステップで
GKをかわしてボールを追いかけ、最後にこ
の一連のプレイで一度だけボールに触って
無人のゴールに蹴り込みました。 
 私は時間が止まっているのかと思いまし
た。 
 コベルの下級生達がリズム良く手を叩きな
がら大声で叫んでいます。「(チャチャチャ)ワ
ッショイ!、(チャチャチャ)ワッショイ!」。 
 これは私が最近教えた日本風の掛け声な
んです。私は学生時代に応援団をやってい
て、我が母校にあった猪木ボンバイエに合
わせて「ワッショイ!」と叫ぶ伝統的な応援
を伝授したら「ニッポン!(チャチャチャ)」み
たいにアレンジされてしまいました。初めの
頃は子供達が私を見かけるたびに「ワッショ
イ!」と言っていましたが、今日からジョシ専
用の応援です。私も「ワッショイ!」と何度も
叫びました。本当は猪木ボンバイエのリズ
ムなんですけれどね。 
 そしてさらに、ジョシはこのプレーの直後に
引っ込められてしまいました!!。 

 「あぁ〜」 

 ジョシの交代直後にコベルは追加点。今
度はポルベクラブのCKをコベルのDF陣が
弾き返し、ルーズボールを拾おうとしたかっ
ぱらいGKとポルベクラブの選手が接触し
て、抜け目なくボールを拾ったクリスチャン
君が単独で持ち込み、これまた無人のゴー
ルにシュート。 
 4対0。というかこの場合ポルベクラブ4失
点。 
 その後もコベルは攻め立てました。シュー
トが外れたボールがゴールキックとなった
時、ボールを拾いに我々の前に来たかっぱ
らいGKが溜息混じりに「あぁ〜」と言ってい
たのを下級生達が聞き逃さず、「あぁ〜だっ
て」と口々に真似していました。 
 かっぱらいだの若島津 健だのと私もずっ
と揶揄してきましたが、彼はきっとこんなに
点を取られたのは初めてなのでしょう。少し
同情してしまいました。 
 その後明らかに精彩を欠いたかっぱらい
GKは交代し、新たにグローブをはめた坊主
頭のGKも良く守りましたが、元々攻撃力が
低いポルベクラブはコベルから1点も奪い返
すことが出来ずに、そのまま試合が終わり
ました。 
 ベンチから戻った息子・ジョシをねぎらう
と、ジョシは思いがけないことを言いました。
「ハビエルがね、例え短い時間でもゴールを
挙げることが一番価値があるって言ったん
だよ」。 
 誰のせいで試合に出れないのかわかって
んのかよ!。ふざけるなハビエル!!。 
 この調子ではまだまだスタメンが遠そうで
す。 
 しかし、ジョシはその後の練習でも絶好
調。大型選手組とレギュラー組のミニゲーム
ではゴールを連発して、ついにレギュラー組
を負かしました。 
 もう試合に出られない理由はないはず。 
 ちなみに私としてはロングシュートが少な
いのが気になります。この次の試合で決め
てくれるといいのですが。 
 次回はアウェイのアルティゲンセ戦です。
首位のポルベクラブが負けたので、別会場
のアルティゲンセが勝っていればまた首位
になっていると思います。このクラブは前回
も首位の時に対決したのですが、コベル連
勝のきっかけとなった縁起のいい相手でも
あります。 
 下位のチームが上位を負かすのは気持ち
がいいですね。このまま連勝して、最後に首
位に立つのはコベルです!。  
 



ビデオHの感想をお伝えします。
  ビデオHの感想をお伝えします。 
 Moちゃんを見て思うことは、「みんなこん
なボールの扱いをしたいと思うんだろうな
…」、です。 

 サッカーは足でやるスポーツだと一般的に
は認識されています。でも、足でだけを使う
スポーツというわけではなく、本当は手を使
っちゃいけないルールなわけです。 
 ウェーブリフティングは、足以外のどこの
力を利用すれば上達の近道になるのか。そ
ういうつもりでいると素直に見ていけると思
います。 
 いきなり余談ですが、ネコ科の動物という
のは背中をしならせて走ります。逆に馬など
は背中に人間が乗るくらいなので、ネコ科
の動物のような背中の使い方をしないこと
になります。 
 もちろん地上で最も速く走る動物はネコ科
なので、四つ足ならネコ科の走り方が理想
ということです。 
 馬は大型動物で人間の言うことも聞くし、
ネコ科ほどのスピードはないものの、長距
離の移動に適しています。 
 でも、実は大レースに勝つほどのサラブレ
ッドだとネコのように背中をしならせて走る
のです。その振動は、騎手が怖がって落馬
の心配をするほどだそうです。 
 だから、競走馬の世界では背中が柔らか
い馬が才能のある馬だという見方もされて
います。 
 人間も元は四つ足。運動する時には背中
の使い方が鍵になるわけす。 
 四つ足の動物ならば前足を接地している
ので、前後左右の足が自然と背中起点にし
て動くわけですが、二本足の人間は背中の
動きが疎かになりがちです。 
 四つ足の動物も推進力は後ろ足の力で賄
っていますが、その後ろ足の力は、前足を
動かした時の背中のウェーブを後ろ足に伝
えることでより強化されているのです。だか
ら始めにネコの話を引用したわけです。 
 人間も同じこと。足だけの力に頼らずにサ
ッカーをするとどうなるのか。その姿がウェ
ーブリフティングとジンガです。 
 もう一つ別の話を引用すると、例えば人間
の反応速度は0.1秒を超えることがないとい
われていて、短距離走ではスタートの合図
から0.1秒以内に動くと全てフライングになり
ます。常人にできる反応速度の限界は、脳
が認識して身体の筋肉を動かすまでの時間
が0.3秒ほどで、通常はもっとかかるわけで
す。 
 つまり、足を動かそうと思っても、実際に
足が動くのは0.3秒以上後ということになりま
す。これがスポーツにリズム感が必要な理
由の一つというわけです。常に身体にウエ
ーブを起こして足を自然に動かす準備をし
ておけば、実際にプレイに合わせて足を動
かす時には十分な力が生み出されていると
いうことです。ケンの著書、「リフティング&ジ
ンガ バイブル」のコラムではサッカー 選手
だけではなく、マイケル・ジョーダン、タイガ
ー・ウッズ、イチローまでもがウェーブの使
い手と指摘されていますが、こう考えると納
得のいくところです。 
 前置きが長くなりましたが、プロスポーツ
選手ではない、今のところ一介のサッカー
少年であるMoちゃんの背中は見事に波打
っています。足はウェーブの力が伝わって
いるので自然に動き、意識はボールタッチ
のみです。だからこそ柔らかいタッチが生み
出せています。 
 つまり、ビデオで見せる数々の足技は、足
の動きをだけを真似して、仮にそっくりにで
きたとしても、実戦の場でもスムーズに足技
を繰り出すことは出来ないでしょう。逆に自
然なウェーブが出来てさえいれば、ボールと
戯れているだけでひょんなことから新しい技
が次々に生まれていきます。Moちゃんがあ
れだけ多彩な足技を持っているのは、単に
教わった動きを反復して身につけただけで
はなく、練習や試合の中で自然に身体が動
いてしまったものも多く含まれていることでし
ょう。 
 お伝えしたいことは、ビデオの中のMoちゃ
んの足技を闇雲に全部コピーしようとする
のは遠回りだということです。まず自然なウ
ェーブを身につけ、そのウェーブを利かせな
がらMoちゃんの足技を一つづつ試してみる
と、意外にほとんどの足技を短時間でコピ
ーできてしまうのです。 
 だから、私はあえてこのビデオで紹介され
ている足技を一つ一つ取り上げて御託を並
べることはしません。全てはウェーブの習得
によって成せる業で、一つ一つの動きはバ
リエーションに過ぎず、また、これらの足技
はその全てではないからです。 
 ビデオの終盤には矢島親子の一対一が
収められていますが、先に紹介された足技
を超えたテクニックが次々に繰り出されてい
ます。ウェーブを身につけ、ボールのコント
ロールから開放されると身体が勝手に動
き、自分でも思いもよらないプレーが飛び出
してくるそうです。 
 矢島親子の一対一は、そういったクリエイ
ティブな動きを生み出すベースなのかもしれ
ません。 
 ウェーブ習得への道は決して平坦な短い
道ではなく、Moちゃんの領域は遠いです。
それでも注目して欲しいのが、人を抜き去
るということは、テクニックよりも勝負に勝つ
ということです。 
 確かにMoちゃんの足技はスムーズでスピ
ードがあり、毎日のように手合わせしている
矢島さんには、それぞれの動きが読めてい
ても突破されてしまっています。ただし、Mo
ちゃんが突破できているのは、足を出され
ても両足で押し返したり、身体が並ぶ瞬間
に膝を畳んでねじ込んだり、肩や肘を強引
に分け入れたりしているからです。お行儀
が良くては必死に守るDFを出し抜けませ
ん。 
 このビデオに納められている華麗な足技
に目を奪われがちですが、テクニックだけで
は成立しない、勝負に勝つ身体の使い方に
も是非注目していただきたいと思います。  
 



no24 ジョシの起用で流れは?&アルゼンチン少年達の練習場所
  2006.7.29

 「冬休み突入」 

 ブエノスアイレスの冬はとても寒いと言う現
地の日系人がいました。私は少し覚悟をし
ていたのですが、結局霜が降りるほど冷え
込むことはなく、逆に先週は連日20゜を超
え、一番「暑かった」日は27゜もありました。
考えてみるとその人は高知県出身で、首都
圏に住んでいた私と比べれば冬の寒さの基
準が違ったのでしょう。アルゼンチンという
国全体でみれば所によって極寒の季節です
が、ブエノスアイレスの冬は寒いと涼しいの
中間です。 
 北半球の冬は年の変わり目ということで行
事が目白押しですが、南半球の冬は特に何
もありません。なのに息子・ジョシの学校は
二週間ほどの冬休みになり、学校だけかと
思ったら大人もこの時期にまとまった休みを
取るようです。 
 日本の学校の長期休暇は、夏が暑くて夏
休みも長く、暑さが厳しくない地域は短めの
休みです。逆に冬の寒さが厳しい地域は長
めの冬休みになります。春は年度末というこ
とでまた少し休みになります。大人は盆暮れ
正月に休暇を取り、年度末は忙しいので休
みません。 
 アルゼンチンは、夏休みに年末と年度末
と猛暑がいっぺんに来るので、惰性で長く休
むのは仕方がないのかもしれません。長い
サマーバケーションは欧米諸国にとっては
普通の習慣です。 
 その替わり、米国などの冬休みは年が明
けるとすぐに終わってしまいます。アルゼン
チンは寒くない冬に何の行事もないのに休
みを取るわけで、そういうのはあまり良くな
いと私は思うわけです。きっと北半球が休み
なので便乗しているのでしょう。 
 世間が突然休みモードになっても私には
実害がないのですが、コベルでは大問題が
起こりつつあります。家族連れでどこかに出
かけるので試合当日にメンバーが揃わない
のです。 

 「タンゴ発祥の地の強豪クラブ」 

 アウェイのアルティゲンセ戦。コベルが首
位のポルベクラブを倒したので案の定この
クラブが首位と入れ替わっていました。この
チームは前回の対戦時も首位だったのです
が、三連敗中で後がなかったコベルとの試
合では7-4で負けてくれて、自信をつけさせ
てくれたうえに連勝のキッカケになった縁起
のいい相手です。 
 場所はコベルの地元・アルマグロから南に
2〜3kmほど行った所で、高速道路の高架
下だったポルベクラブの近くです。この辺り
はアルゼンチンタンゴ発祥の地といわれ、
閑静な住宅街です。 
 所得水準が高いのでしょう。ほとんどの家
にガレージが備えられ、外観がレンガ造り
の立派な家が多く、30階建ての高層マンショ
ンも林立しています。日本では大東建託の
賃貸物件が賃貸なのにとてもオシャレなの
ですが、それよりもオシャレでした。 
 閑静過ぎて日常生活においては多少不便
な点が、一等地のリーバープレート近郊や
それに準ずる当家の隣接地・カバシートより
も一段劣る点だと思います。試合後に家の
近所まで戻った時、とても都会なのだと実感
しました。 
 アルゼンチンの繁華街は、日本の駅前雑
居ビルのように高層階まで商業施設にはな
っておらず、どこでも居住空間が確保されて
います。国会議事堂や大統領府の向かい
の建物にも普通のサラリーマンが暮らして
いるわけです。騒音を度外視して便利な物
件を探せばとことん拘れます。ただし、金持
ちというヤツはそういう喧騒を嫌うようです
ね。 
 アルティゲンセの所在地はそんな感じでし
たが、クラブの運営状態は特別良好という
わけではなさそうです。フィールドは普通の
カーペット張りで狭く、フットサルの他にロー
ラーホッケーにも使われているようです。建
物は他のクラブと同じようにボロでした。 
 素晴らしい物を発見しました。昨年のトロ
フィー。コベルにある「No.1」のトロフィーと比
べるとかなり小ぶりでしたが、「No.3」と書い
てありました。間違いなく強豪クラブです。気
合が入ります。 
 しかし、先程も書いたように冬休み中で
す。試合に現れたのはジョシ、サル君、フェ
デリコ君、ホアン君、クリスチャン君、ガブリ
エル君。DFが足りなくてOF陣は余っていま
す。どうするんだよ。 

 「サブが一人。ジョシだった。」 

 先発メンバーは、懸念されたDFの片割れ
にホアン君が入りました。女性の腕ほどの
太さしかない華奢な足なのですが、忍者の
ように素早く動き、同じくらいの背丈の少年
が本気で体当たりしてもバランスを崩しませ
ん。この少年は、彼が望むならプロの道へ
と導く人がいるほどの実力者なわけです。
DFもハートが強く、20cmほど身長差がある
ジョシにもひるまずに堂々とボールを奪い合
います。 
 実はジョシの方が少し分が悪いんですよ
ね。遠慮している面もあるのでしょうが、ジョ
シとて他所のチームの大型DFと毎回競り合
って、しかも最近は競り勝っているのですか
ら、ホアン君が凄過ぎるわけです。ジョシは
練習中に最も小柄なサル君とも互角の競り
合いをしていて少し情けないのですが、やは
り遠慮しているのでしょうか?。 
 一説には身長差が有りすぎると懐に入り
込まれてやりにくいのだそうですが、それな
らば対外試合の大型DF相手にコベルの小
兵達がもう少し善戦しても良さそうなもので
すから、ジョシが身体で来ない相手には身
体で行かないせいなのでしょう。 
 そういう甘さも含めてジョシはなかなか信
頼を勝ち取れません。先発したOF陣は毎度
ながらサル君とフェデリコ君です。DFのもう
一人はクリスチャン君の定位置で、ガブリエ
ル君は前回欠場してもライバルがいないGK
が指定席です。 
 控えGKのトミー君が試合にも練習にも来
なくなりました。また一人脱落者が出たのか
もしれません。ジョシはただ一人の控えで
す。日本の皆さんにも期待していただいてい
るようですが、次の脱落者にならないように
何とかしたいものです。 

 「アルティゲンセは前より強いかも」 

 キックオフすると互角の試合展開。さすが
に楽な相手ではありませんが、前のコベル
ホームの試合はもっと楽だったはず。相手
も成長しているのか?、それともアタッカー
が三人も出ているコベルのバランスが悪い
のか?。どっちでもいいからジョシを試合に
出してよ。 
 私はつくづく思うのですが、GKがガブリエ
ル君だと不安です。何というか勉強の方もイ
マイチみたいで、他の子よりも一学年上な
のに英語がサッパリ話せません。ジョシが
試合に出ているとGKのスローインからカウ
ンターを仕掛られるという強味があるのです
が、ガブリエル君のスローインはシンプルす
ぎてあまり繋がりません。 
 その象徴のようなプレイが序盤のコベルを
何度となく苦しめました。ガブリエル君はボ
ールをキャッチした後周りを良く見ないで投
げてばかりいました。それを狙われ、ゴール
エリア直前でアルティゲンセの選手がボー
ルを奪い、2タッチでシュートを喰らいまし
た。もちろん今投げたばかりのガブリエル君
は体勢を整えられず、あっさりゴールを割っ
てしまいました。 
 ここで思い直せばいいのに、またもや不用
意なスローインをしたせいでコベルの選手
にボールが届かず、ミドルシュートを喰らっ
て0-2。失点はコベルが点を取ってからにし
てくれよ。 
 コベルは点が取れません。理由の一つに
フェデリコ君があります。彼は密集を嫌うの
で、中盤のフリーでボールを受けてもそのま
まパスの出し手に返したり、マークされてい
る味方に精度が高くないダイレクトパスを出
したりしています。 
 前を向いてボールを受ければ一人ぐらい
はかわす技術を持ってはいますが、フィニッ
シュにこだわっているようで、そういう時でも
自分が敵を引き付けながら味方のフリーを
作ることはせずに、最後まで自分でやろうと
します。残念ながらそういうことが出来る選
手ではないのです。 
 サル君も同じで、多少繋ぐ意識があるもの
の前線で身体を張るプレイが多く、小さい身
体ではいつも突き飛ばされています。サル
君のゴールは自分が繋いだボールが前線
から戻ってきた時のミドルが多く、ゴールエ
リアで身体を張ってもフィニッシュまでは持
ち込めていません。 
 つまり、この二人が揃ってプレイすると中
盤がスカスカになってしまうのです。かといっ
てフィジカルコンタクトが多い前線では仕事
が出来ず、いい形まで持ち込んでも決めら
れません。オーナーコーチのハビエル氏は
わかっていないのでしょうか?。 
 コベルが前線で奪われたボールをスカス
カの中盤からミドルを放たれ、前半の半ば
で3失点目。サッカーにおいて絶望的な3点
差にされてしまいました。 

「 「ジョシの起用で流れを変える」 

 3点のビハインドでフェデリコ君を引っ込め
てジョシが登場しました。いつも途中でバラ
してしまいますが、フェデリコ君はこの日もノ
ーゴールなので、これで六試合連続というこ
とになります。やっぱり昔のジョシに似てい
ます。彼の場合はミドルを磨くか中盤でもう
少しボールを持てばこの悪循環から抜け出
せそうですが、このままでは楽勝できる相手
からしか得点できそうもありません。 
 さて、ジョシの話を始めましょう。いつもそ
うなのですが、ジョシが入ると試合の流れが
変わります。この試合ではその傾向が顕著
に現れました。 
 まず、身体が大きいジョシには同じくらい
の体格の屈強なDFがマークに着くので、今
までこの大型DFにマークされていた相方の
アタッカーが比較的やりやすくなります。 
 そして、ジョシは前線で競り負けなくなった
ので、GKやDFからのロングボールが集まり
やすく、ジョシが起点となって相手ゴールの
近くでボールを動かせるようになります。以
前は神がかり的なプレイをアテにして無理
やり前を向いていましたから、4人しかいな
い相手のフィールダーが常に2〜3人集まっ
てきてパスも出せずに自滅していましたが、
今はポストプレイをするようになりました。 
 逆襲の狼煙はジョシのポストプレーから始
まりました。今日はDFをやっているホアン君
からのロングボールを大型DFと競り合いな
がらトラップしたジョシがそのままリフティン
グをして、サル君のフリーランニングを待っ
て横パス。サル君はリフティングによってジ
ョシに集まったDFを横目にミドルを放ち、コ
ベルは1点返しました。 
 次はジョシです。またしてもDF・ホアン君の
パスを今度はワントラップで振り向いて大型
DFを引き摺りながらゴールエリアへ。競りか
ける相手を押し退けて右足でシュート。この
ボールはGKの右手で弾かれ、左に流れた
ボールをシュートの勢いのまま走り込んで左
足でシュート。今度もGKの右手でセーブさ
れ、またしてもそのまま走り込んだジョシが
左足で蹴り込み、ついにゴールをこじ開けま
した。 
 この一連の動作は全てゴールエリアの中
で、ジョシの体が右から左へと流れながら
「ドカッ!、ドカッ!、ドカッ!」と絶え間なくボ
ールを蹴る音が響きました。ボクシング漫画
の「はじめの一歩」をご存知でしょうか?。主
人公の必殺技はデンプシーロールといっ
て、ダッキングしながら前進して左右のフッ
クを絶え間なく浴びせ続けるのですが、私は
そんなイメージで見ていました。 
 これはシュート後に止まらないナンバの動
きが活かされたのだと思います。もちろんボ
ールが転がった先は偶然ですが、右から逆
サイドを狙ったシュートなのでボールが左に
こぼれ、ジョシの体も左に向かったのでこぼ
れ球を拾い続けることが出来たというわけ
です。 

 「逆転、そして5連勝」 

 ジョシを起点としたコベルの猛攻は止まり
ません。その後にサル君と後ろから押し上
げたクリスチャン君が交互にミドルを放って
4得点、スコアは6-3。あれよあれよという
間に3点ビハインドを倍返しです。 
 ジョシはワンゴールだけでしたが、GKを背
中で抑えながらワンタッチで真横に放ったシ
ュートがポストを掠めたり、ヘッドでループを
放ってGKの頭上を抜いたシュートが、ゴー
ル前でポトリと落ちてラインを割る直前に掻
き出されたり、サル君のシュートでGKがファ
ンブルしたところへ詰めたもののポストに弾
かれたり、アルティゲンセ陣営に何度も冷や
汗を掻かせました。 
 全部入っていれば5ゴールにはなったでし
ょう。結果はワンゴールでしたが、とにかく存
在感は十分でした。 後半の半ばにフェデリ
コ君と入れ替わり、試合の半分ほどプレイし
てこの日の役目は終わりましたが、負けそう
だった試合を引っ繰り返したので満足感が
顔に表われていました。 その後にコベル
の追加点は生まれず、逆にアルティゲンセ
が1点返してスコアが6-4になってしまいま
したがもう時間はなく、コベルは5連勝となり
ました。この試合で上位を争うチームが全て
3敗となり、コベルは晴れて首位争いに加わ
ったのです。 
 試合後の歓喜の中に目を腫らして鼻を押
さえている選手が一人。フェデリコ君です。
最近のコベルのアタッカーは順番に泣くなァ
と思ったら、フェデリコ君はノーゴールを悔
やんでいたのではなく、試合中に肘鉄を鼻
に喰らったようです。 この姿を見て怒り出
したのがハビエルオーナーで、猛然と審判
に掴みかかりました。この試合ではサル君
とフェデリコ君に一枚づつイエローカードが
出ていて、試合中のジャッジも明らかにアル
ティゲンセ寄り、コベルは何度もボールを失
いました。 
 スタッフが少ないコベルからは審判を出せ
ないのでワンサイドジャッジはいつものこと
ですが、小さなファールでイエローを出すく
せにコベルの選手が負傷してもノーファール
なのは理不尽極まりないことです。ハビエル
氏は次の試合の時間が迫っても噛み付き
続けました。次の試合も同じ審判なので抗
議の効果は良い方に出らしく、コベルは7試
合中6試合で勝ちを収めました。 
 次週の対戦クラブはボヘミオJrです。この
クラブとは雨で試合が流れたので初顔合わ
せとなります。ジョシがライバル視する得点
ランキング2位の選手もいます。チーム成績
も3敗で並び、このチームとの力関係が最
終的な順位に影響しそうです。 
 ついに大物アタッカーに出会えそうです。
コベルにとっては正念場であり、アルゼンチ
ンサッカーに挑戦するために海を渡ったジョ
シにとっては試金石になることでしょう。楽観
すれば、コベルと対戦する前に3敗している
チームなのだから大したことがないのかも。
とにかく楽しみな一戦になりそうです。 本当
に乞うご期待。 

 「真相究明・練習場所」 

 冬休みなのでコベルのOBが遊びに来てい
ました。昨年は英語が話せなかったロミオ
君。現在15歳で、昨年のU-13・14チームの
エースであり、ナチュラルなウェーブを体得
している強者です。弟・ジュリアン君もウェー
ブの使い手で、U-12チームでは守りの要と
して大活躍。ロミオとジュリエット。親はシェ
イクスピアのファンですね。 
 彼がチームを離れる直前の昨年の末には
ミニゲームで常にジョシとマッチアップし、ジ
ョシは彼とやり合うことでジョシは覚醒してい
きました。言葉が通じなくても最初にジョシに
話しかけてくれて、私ともとても仲良しでし
た。半年経って少しだけ英語が話せるよう
になり、以前にも増して仲良くなれたので私
の解決の糸口さえ見つからない疑問を投げ
かけてみました。 「ブエノスアイレスの子供
達はどこで練習しているの?、家の中?、ビ
ルの屋上?」。答えは・・・。 
 「練習なんかしないよ。壁に的を書いてボ
ールを蹴るなんてしたことがないし、家の中
でボールを触ることもないよ」。 
 「僕は二歳からコベルに入っていて、練習
日じゃない日も毎日コベルで遊んでいたん
だよ。ただそれだけ。弟とは休みの日に公
園でボールを奪い合っていたから、僕が攻
め役で弟は守り役になっちゃったけどね」。 
 「ジョシも練習場所に困っているのなら、コ
ベルの選手なんだからコベルに来ればいい
んじゃない?」。 
 壁の的当てもしことがないのは驚きです。
二歳からサッカーって・・・。今のジョシはコ
ベルで誰彼かまわずボールの奪い合いをし
ても大した練習にはならないので、ジョシの
練習については進展がなさそうですが、どう
りで街中でサッカーをしている少年達を見か
けないわけです。 
 ろくに的当てもした事がないのにシュート
精度が妙に高いのが疑問ですが、一対一で
は離れてゴールにシュートをし合うのが基本
的な遊びなので、結局シュート練習にはなっ
ているようです。パス精度が低いのは、やは
り遊びの範囲ではパスの精度が問われない
ためでしょう。その分パスを出すタイミング
が良い子も多く、これも遊びの中で培われ
たものだということになります。 
 ブエノスアイレスで消滅してしまったストリ
ートサッカーは、子供達がクラブチームに自
由に出入りすることで今も息づいています。
私はハートや厳しさを育てる文化的な背景
が日本とサッカー強豪国を隔てているのだ
と思っていましたが、サッカーを深く知るた
めにはサッカーをする以外にないので、い
つでも誰でもサッカーのために集まる場所・
ハード面が重要であることも改めて思い知
られました。 
 日本でも、いつか放課後の小学校の校庭
のアチコチで何組もの少年達がボールを奪
い合う日が来なければ、サッカーでの未来
はアジアの強豪国のままで終わるかもしれ
ません。 
 ところで、冬休みなので試合で選手が揃う
かどうか心配だったわけですが、欠場確定
なのはマルセル君とサル君ということで、先
週は全く練習に来なかったフェデリコ君が来
ないのならジョシはフル出場で思う存分暴れ
られそうです。しかも先週休んだロドリゴ君
が今週は練習に来ていたので、アタッカー
のパートナーは最も相性が良いホアン君で
す。 
 冬休みに入ってからジョシは学校の校庭
を特別に借りきり、雨に祟られながらもロン
グシュートとドリブルの練習をしています。課
題だったシュートへの意識は、本人も改め
て自覚するようになり、傍らで見ている私が
「打て!」と思うよりも、時には早く打ってしま
います。良い傾向です。 
 コベルで行なうミニゲームのトップスコアラ
ーの地位も取り戻しました。最後の注文は
キックフェイントですが、いづれ何かのきっ
かけで味を占めるのは時間の問題です。私
はサッカーで最も有効なフェイントは、どこ
からでも打つ選手のキックフェイントだと思
います。今のジョシはそのまま打ってばか
り・・・。これをクリアすれば、また無心のス
ーパープレーを連発してくれると思います。 
 重ねて乞うご期待。  
 



no25 ボヘミオJrとコベル ブエノスアイレスでのトップチームはどっちだ?
  2006.8.5

「ボヘミオJr」

 リーグ戦も残すところ4試合。今回のボヘ
ミオJrは一ヶ月前に対戦が組まれていまし
たが雨で中止となった相手で、真冬なのに
屋外での試合となります。いくら寒さが厳しく
ないとはいえ、朝八時に日が昇るブエノスア
イレスでは試合時間の九時半頃が放射冷
却によって一番冷え込みます。だから寒い
んです。 
 今までのチームとは違い、ボヘミオJrのホ
ームは一大フットサルパークで、十数面のコ
ートが広がっています。全てが砂交じりの人
工芝で一見するとテニス公園のようですが、
アルゼンチンではテニスよりもフットサルで
す。 
 試合の会場はアルゼンチン二部リーグに
所属する中堅クラブ・アトランタと隣接してい
ました。隣接というよりはホームスタジアム
の付帯施設で、コートの事務所はアトランタ
のグッズやクラブの会報で溢れています。ど
うやらボヘミオJrはアトランタの下部組織み
たいです。どうりで強いチームなわけです
ね。本当にこのチームとの力関係がリーグ
の優勝争い、ひいてはアルゼンチンでプロ
を目指す子供達の現在地点みたいなものを
測れる相手ということになりそうです。 
 このチームには得点ランキング2位の選
手がおり、息子・ジョシはこの選手を常に意
識してきました。どんな選手なのか・・・、こ
の試合でジョシの現在地点もわかるのでし
ょうか?。負けるなコベル。頑張れジョシ。 

 「ウエストサイドストーリー」 

 ボヘミオJrには大きな選手が二人。練習
の動きから見ればこの二人が中心選手な
のは間違いありません。背番号もNo.9とNo.
10。わかりやすいなぁ。顔もわかりやすくて、
あどけないコベルの面々と比べれば大人。
スネ毛もボーボーで明らかに年上です。特
に得点ランク2位の選手と目されるNo.9は、
映画・ウエストサイドストーリーのシャーク団
にいそうな感じです。以前も大型アタッカー
が少ないことを書きましたが、彼は間違いな
くジョシと同じタイプ。コベルとボヘミオJrの
アタッカー比べです。 
 しかしコーチはそうは思っていないようで、
いつもどおりジョシは先発メンバーから外れ
ました。この日は冬休みの真っ只中というこ
とで事前にサル君が来ないことはわかって
いたのですが、練習に全く来ないフェデリコ
君が試合の日だけは来たのでスタメンのア
タッカーはホアン君とフェデリコ君になり、後
ろは来ないと思っていたマルセル君と目下
10得点のクリスチャン君。GKはいつものガ
ブリエル君です(不安)。 
 控えGKだったトミー君はついに選手登録
から外されてしまったようです。所属選手を
全員試合に出そうとする日本の少年サッカ
ーと比べると本当にシビアです。でも、だか
らこそ試合に出られる選手には誇りと自尊
心が生まれ、真剣勝負に挑む心掛けが育
まれるのです。 

 「またも失点」 

 ボヘミオJrの攻撃はナカナカの迫力でし
た。大型選手のNo.10が後ろからしっかり組
み立てて、前線のNo.9にボールを預けると
そのまま前線に上がって攻撃参加します。
まるでベッケンバウアーみたい。しかしコベ
ルのDF陣・マルセル君とクリスチャン君はお
互いにカバーし合いながら必ず守り抜いて
います。 
 思えばこの二人が揃って突破されたところ
を見たことがありません。ジョシもミニゲーム
ではこの二人に手を焼いていますが、コベ
ルのコートは広いのでスピードに乗った時だ
けは出し抜せています。ボヘミオのコートは
狭いので、この二人を振り切ってフリーにな
るには普通のことをやっていたら無理でしょ
う。 
 しかし、コベルには時として相手チームに
隙を見せる選手がいるのです。それはGK
のガブリエル君。最近セービングは安定し
てきましたが、スローインが不用意だからた
まりません。 
 この日も敵に囲まれているゴール付近の
選手の正面に鋭いボールを投げ込み、トラ
ップが逸れたところをボヘミオJrのNo.9にか
っさわられて先制点を許してしまいました。
この試合はNo.9だけにはゴールされたくな
いのに、ミスで失点してくれるなよ。 
  
 「反撃」 

  その後もコベルは攻めきれず、ボヘミオ
JrもコベルDF陣を振り切れず、ゲームは均
衡しました。吹きさらしのコートには冷たい
風が吹きすさび、両チーム攻撃陣の動きが
萎縮しているようです。淡白な攻撃で攻守の
の入れ替えが早く、中盤が開いてきまし
た。 
 いつも上がりっぱなしのフェデリコ君は、コ
ベルのボール回しの中でフリーになり、思い
っきり蹴ったボールがゴール上隅に突き刺
さりました。 
 六試合ノーゴールだったのですが、今まで
も全くシュートを打たなかったのではなく、絶
好機でことごとく外していたのです。こんな形
でシュートを入れてくれるとは有り難い。そし
て、同点になったところでフェデリコ君が引
っ込んでジョシの出番が回ってきました。 
 ジョシは交代直後に手痛い洗礼。No.10と
ポジション取りの競り合いをしている最中、
肘鉄を胸に喰らいました。No.10はDFの選
手ですがあまりマークをせずに、攻守にわ
たって動き回っているのです。だからジョシ
と競り合ったのはこの時だけ、まるで一発喰
らわせるために近づいてきたようです。 
 いつものパターンで嫌になってしまうので
すが、前半はジョシがワンプレーして終わ
り。ハーフタイムにジョシに近づくと「あの野
郎、絶対潰す!」と息巻いていました。別に
いいんだけれど程々にね。それよりゴール
だよ。 
 そのジョシの見せ場は後半が始まってす
ぐ。コベルがコーナー付近でフリーキックを
得ると、高目の鋭いボールがゴール前を横
切り、クリスチャン君がワンタッチして逆サイ
ドのジョシへ。ジョシはジャンプしながら腹で
受けて、そのまま身体ごとゴールに飛び込
みました。 
 手強い相手だと思っていたのにこれで逆
転。先制されてから逆転して突き放すのも
いつものパターンですね。 

 「強者の勝負強さ」 

 誰もがホッとしました。いつもは抜かりなく
守るコベルのDF陣も同じです。ボールが中
央に戻り後半二度目のキックオフをした時、
コベル陣営は誰も走り出さず、ボヘミオの
No.9はノーマークで中央をゆっくり進み、ミド
ルレンジでGKのガブリエル君と向かい合う
と狙い済ましてシュート。中央で構えていた
ガブリエル君はろくに反応できず、ニアサイ
ド下側にあっさり入れられてしまいました。 
 No.9はこれで2ゴール。思えば1点目もコ
ベルのミスを突かれたもので、流れの中で
力負けして取られた点は1点もありません。
ゴールを重ねる選手というのはこういうもの
なのですね。コベルが逆転して喜んでいら
れたのはほんの数秒でした。 
 抜け目無さというか、勝負強さを見せつけ
られてしまいました。日本ではずっと控えだ
ったジョシには今のところ無いものです。ウ
ェーブの体得から実力をつけたからといっ
て、厳しい競争の中で勝ち続けた者が持つ
負けないためのメンタリティーという点では
まだまだ修行が足りないようです。 
 しかしジョシは発奮しました。狭いコートの
中で何度も抜け出してフリーになると、狭さ
故すぐ眼前に迫るGKと一対一になって何度
となくループを放ち、惜しくもゴールにならな
かったもののNo.9と比べても決して劣らない
パフォーマンスを見せたのです。 
 そうは言っても先に書いたとおりその後に
ゴールすることは無く、この日も試合時間の
半分ほどの出場で交代させられてしまいま
した。 

 「決着はホーム」 

 試合はそのまま動かずに同点で終了。そ
の後に発表された勝敗表ではコベルとボヘ
ミオJrが同率の1位になっていました。決着
は二週間後のコベルホーム戦へ持ち越しで
す。ジョシとNo.9のストライカー対決は記録
の上ではあちらの方が上ですが、実際の試
合時間は先方がフル出場なのに対してジョ
シは半分です。気持ちのうえでは負けてい
ないと思いたい。 
 それを証明するためには、戦い慣れたホ
ームでNo.9よりも多く点を取ってチームを勝
たせることです。 
 ちなみに全体成績でもコベルは1位に躍り
出ました。このままなら1位で前期リーグを
終え、正式にブエノスアイレスチャンピオン
を目指す戦いに入っていけそうです。下級
生のお陰で勝ち残ったと言われないように、
ジョシ達も勝ち続けなければいけません。 

 「特訓の日々」 
  
 ジョシは冬休みに入ってから毎日学校の
校庭を借り切って特訓しています。すっかり
影を潜めたロングシュートへの意識づけを
軸に、マッシーに指示された曲線ドリブルや
足首の根元で打つシュートを重点的にやり
ました。 
 曲線ドリブルはインサイドとアウトサイドで
一歩ごとにタッチして地球儀を回すようにボ
ールを回転させるのです。初めはアウトサイ
ドのタッチに手こずったのですが、家の中で
もゴム鞠を使った特訓をして何とかモノにし
ました。これからはスピードアップに取り組
みます。 
 アウトサイドのコツはビリヤードのマッセを
イメージすることです。ボールを弾かないよ
うに横から足を掠らせてもうまくいきませ
ん。 
 足首の根元で膝下を振らずに打つシュー
ト(名前長すぎ!、誰かカッコイイ名前をつけ
てください)は命中率120%なのだそうです。コ
ツは足首を寝かしつけてインパクト面を作り
ながらボールへ真直ぐに近づけることです。
初めはフォーム固めで浮かせずに的を狙
い、慣れたらボールを伸び上がらせるため
に上の的を狙いました。 
 シュートが左右にブレずボールが上がり過
ぎないことが絶対的な強味で、キチンとイン
パクトすれば本当に真っ直ぐにしか飛びま
せん。命中率120%の真偽はともかくとして、
実際にインサイドキックよりも精度が高い気
がします。ボールを上に伸び上がらせるた
めには、腰の捻りを大きく使うのがポイント
だと思います。 
 たった二週間でしたが、本当に実りの多い
練習になりました。私はバケーションシーズ
ンということで仕事がそっち退けでしたが、
毎日球拾いして練習の準備をして、さらにフ
ォームチェックや練習のステップを次々に考
えてとても疲れました。 
 仕事そっち退けと書きましたが、念願の日
本からの執筆依頼を受けて頑張って書きま
した。発行日は9月6日だそうです。 
 



no26 輝き始めたジョシに相手監督がとった行動とサルくんの「ジョシに集めろ」の一言。
 2006.8.13
 
[全敗チームなんだけど。] 

 前期リーグ全14節中12節目、相手はビベ
ンシア。コベルのホームで対戦した時は13対
1でした。このチームはリーグ戦開幕以来11
連敗中で、勝ちも引き分けも唯の一度もあり
ません。きっと今回もコベルのお祭りになる
でしょう。ジョシは何点取るのか。もう私の興
味はそれだけです。 
 そもそも何でこんなに弱いチームがリーグ
に参加しているのか疑問なのですが、全体
成績だと4位で他の学年はU−14・13チーム
ほど弱くはないのです。ついでにこのリーグ
の組み分けはどうやっているのか確認したと
ころ、全72チームを昨年の成績を基に上位
から順に七つのゾーンに分けているのだそう
で、コベルが参加しているゾーン1の8チー
ムは、文字通りブエノスアイレスのベスト8な
のです。 
 ゾーン1の上位4チームがプレイオフに進
出して最終的なチャンピオンを決めるという
方式を取っていて、そのプレイオフは12月に
開催されます。 だからゾーン1でプレイオフ
に進出できなかった下位チームとゾーン2の
上位チームは入れ替えで、こういう厳密な実
力主義でリーグを運営しているということが
わかりました。 
 ちなみに先の交流戦の二試合でコベルに
ボロ負けしたラ・カルピタの10はゾーン2の
得点王で、アテネロ・サグラダ・ファミリアは2
位です。来年はゾーン1に昇格しそうです
が、下位チームと上位チームの実力差は歴
然です。 
 たまたま入ったチームとはいえここまでの
強豪だったとは・・・。それにしても、楽しみに
していたビッグクラブへの遠征は不可能なん
ですね。だってラシンとインデペンディエンテ
はゾーン3で9位(ラシン)と11位(インデペン
ディエンテ)なのですから。 
 それから、後期リーグでは新たに18チーム
が加わって3つのリーグが始まります。これ
は「補欠リーグ」なのだそうで、このリーグで
勝ち上がると来春から正式なリーグに参加
できるのだそうです。だから人数が多いクラ
ブは2チーム編成をしています。コベルも補
欠リーグに参加しますが、学年で人数が揃え
られないカテゴリーはチームを作れずに全て
不戦敗になるそうで、コベルのU-14・13は参
加しません。 
 この仕組みを良く知らなかった息子・ジョシ
は「補欠リーグでもいいから試合に出たい」。
とコーチに直訴しましたが、試合の日程が同
じなので同じ選手が二つのリーグに参加する
のは不可能でした。 
  
 [金持ちチーム。] 

 さて、話を対戦相手のビベンシアに戻しま
す。このチームのホームはコベルから近く、
リパブリック・メキシコ(現在総合2位、ホーム
の時だけトコトン偏ったジャッジをして大勝す
る頭がおかしいチーム)と同じカバシート地
区です。この地区は金持ちで有名なプロクラ
ブ・リバープレート近郊と並ぶ金持ち地域で、
本当に閑静な住宅街です。 
 ブエノスアイレス市内のほとんどの地域で
は一階の窓に鉄格子が付いているのです
が、金持ち地域だと稀に鉄格子がありませ
ん。カバシートは鉄格子があまりない地域で
す。また、少し貧しい地域だとその鉄格子が
曲がっています。防犯上役に立ったというこ
とです。 
 ビベンシアの施設も素晴らしいものでした。
今までコベルより施設が整ったチームはお
目にかからなかったのですが、ビベンシアの
コートはコベルとほとんど同じ広さの人工芝
が四面もあり、しかも完全な屋内コートです。
これだけ設備が整っていてなんで弱いの
か?。でも全体で4位なんですよね。フットサ
ル専門のクラブで、コベルと同じように選手
の出入りが頻繁にありそうです。だけど、U-
14・13は全然強くありません。 
 ジョシの見立てでは全敗チームとはいえビ
ベンシアの選手個々の力は、神奈川県西部
にある某市のトレセン選出選手と遜色がな
いそうです。アルゼンチンの日系バイリンガ
ルスクールに通う普通の男の子よりは「マ
シ」と言っています。何だか最近ナマイキだな
ァ。 
 そのナマイキに輪をかけて、「もしも全試合
でフル出場できていればあと1点づつゴール
をあげてみせる」。と豪語しています。それだ
と現在15ゴールでランキング3位なわけです
が、11試合分で11点加えると26点となって、
トップの24ゴールを抜いてジョシが得点王に
なってしまいます。自己陶酔の材料としては
申し分ないのでしょうが、それよりもスタメン
争いを何とかせいよ。 

 [先発、先制。] 

 そのスタメン争いなのですが、ジョシはつい
にスタメンで試合に出ました。でも、試合に来
たアタッカーがフェデリコ君とジョシの二人だ
けなので当然です。サル君が来ていない。で
も一番相性がいいホアン君もいない。冬休
み最後の週末を家族と過ごす二人なのでし
た。でもチャンスはチャンス。鬼の居ぬ間に
洗濯にして乾燥機とアイロンかけて、パリッと
糊でも効かせよう。 
 キックオフするとビベンシアは全員守備で
す。コートが広いのにプレイエリアが狭い。相
方のフェデリコ君はボールを持ちたがらない
のでジョシはゴールに迫れません。消えて現
れるタイプのフェデリコ君は、一旦ボールを
離すとそのまま走り込んで居なくなってしまい
ます。ジョシはポストプレーをするので、フェ
デリコ君から早目にボールを渡されると持ち
味が消えてしまいます。だからこの二人は相
性が悪いのです。 
 序盤はコレといった見せ場がなく、なんとな
く嫌な雰囲気。そこへサル君が会場に走り込
んできました。休みかと思ったらただの遅刻
です。なんというか許せないですね。レギュラ
ーでポジション安泰だと思っているのでしょう
か?。これでジョシのフル出場はなくなりまし
た。 
 点を取らなければ交代させられてしまう。ジ
ョシがそう思ったかどうか私は聞きませんで
したが、途端にジョシは突破を止めてプレイ
を切り替えました。ゴール前に密集するDF
の隙間を縫うようにミドルシュート。そのシュ
ートは結局DFに掠りましたが、コースが変わ
っても威力が衰えずにGKの逆に飛んでゴー
ル。ジョシは初スタメンで先制点です。 
 お次の見せ場はマルセル君のロングパス
から生まれました。ゴール近くのサイドライン
際でボールを受けたマルセル君は、そのま
ま中盤の同じサイド際にいるジョシにロング
パス。エンドラインまで走り込んでボールを受
けたジョシは、そのまま振り向いてゴール横
からGKとポストの間を狙ってシュート。この
シュートが反対側のサイドネットを揺らして2
点目です。 
 ジョシのスピードを活かすパスはマルセル
君ならではのプレイです。一番ジョシを認め
てくれています。 
 2点取って交代の心配がなくなり、案の定
引っ込められたのはノーゴールのフェデリコ
君でした。前回はビベンシアから5点も取っ
たフェデリコ君ですが、この日は結局またノ
ーゴールで終わることになります。 

 [サルが言った「ジョシに集めろ」。] 

 この交代を機にビベンシアはタイムアウト
を取りました。フットサルってタイムがあった
んでしたっけ?。 
 交代したサル君ですが、彼の場合は自分
で持ち込むのでジョシは少し楽です。ただし
DFに囲まれてから苦し紛れのパスが多いの
で精度がイマイチなのです。でも今回は違い
ました。自分で持込み、シュートが無理と悟
ると必ず一緒に走り込んでいるジョシに横パ
スを出してきます。彼もまたジョシを認め始
めているようです。 
 そしてもう一人ジョシを認めた人物が居まし
た。ビベンシアのコーチです。タイムアウトの
時の指示でジョシのマークを二枚に修正した
ようです。おかげでサル君の絶好の横パス
は遮られてしまいました。 
 ハーフタイムになってサル君が改めてジョ
シに近づき何やら話しています。試合の後に
聞いたのですが、やはりサル君は「お前に集
めるから前にいろ」とみんなの前で話してい
たようです。 
 後半が始まって、サル君は何やら怒ってい
ました。「ジョシに集めろよ!」。しかし味方は
ジョシに出しません。何故ならばビベンシア
は引き続きジョシに二枚つけているので、マ
ークが喰らい付くジョシよりもフリーのサル君
にパスを出すわけです。これは当然なのです
が、サル君は気付いていなかったようです。
折角認めてくれたわけですが、まだ13歳では
考えることに隙がありますね。 
 でも言い出しっぺのサル君はジョシにボー
ルを集めます。コベルの3点目は持ち込んだ
サル君からゴール前のジョシにパスが出て、
囲まれながら放ったシュートをGKが弾き、そ
のボールをサル君が押し込みました。 
 次はクリスチャン君がサイド際をドリブルで
駆け上がり、ニアサイドのジョシへ斜めのグ
ラウンダー。これに合わせようと足を伸ばし
たジョシよりも一歩早くをマークしていたビベ
ンシアのDFが触ってオウンゴールになりまし
た。これで4-0。ビベンシアも完全に意気消
沈しました。 

 [味方につられて] 

 その後もサル君が持ち込んでジョシに横パ
スを出すシーンが何度もありましたが、囲ま
れているジョシはポジションの修正が利かず
に繋がりません。そして、ジョシも自分で持ち
込んでからゴール前で横パス。お前は打て
よ。 
 まるでお互いが譲り合うように横パスを繰
り返し、コベルは敵も味方もヤキモキさせて
います。まるで東アジアの強豪ナショナルチ
ームみたいです。 
 結局お祭りのように点が入るはずのビベン
シア戦は4点止まり。コベルベンチはシュート
を打たなくなったジョシを引っ込めてしまいま
した。 
 さっきも書いたようにフェデリコ君はノーゴ
ールで、この日はアシストに専念し過ぎたサ
ル君もその後点を奪えませんでした。 
 試合後に「お前つられたな」とジョシに聞い
たら、「だって、モーノ(サル君の本当のアダ
名で猿の意、本名はマクシミリアン君)があ
んまりパスくれるから自分も返さなきゃと思っ
て」。 
 この試合の収穫は、ジョシがミドルを打った
こと。味方が認めてくれたこと。フェデリコ君
とジョシの交代の順番が入れ替わったこと。
そして、ジョシも日本人だって改めて気付か
されたことです。 
 その後のミニゲームではフェデリコ君さえも
下がってジョシに集めるようになり、ジョシは
レギュラーのDF相手でもゴールを挙げ続け
ています。冬休みが終わって再開した学校で
はGK専門になり、一週間でズボンをビリビリ
にしてしまいました。学校には膝当てを持っ
て行っていましたが、ズボンの下に当ててい
たのだそうです。馬鹿なんですよね。 
 次はまたまたボヘミオJr、ホームです。こ
のチームとは引き分けているので決着をつ
けます。  
 



no27 攻撃陣のスタメン争い
 2006,8,20

[攻撃陣のスタメン争い] 

 二週間前に試合をしたボヘミオJr。このチ
ームはプロチーム・アトランタの下部組織で
得点ランク2位の選手がいます。背番号は
No.9。この選手は背が高くて大人じみた顔
立ち、察するに92年生まれの選手で一学年
上なのでしょう。スネ毛の濃さが物語ってい
ます。他にも大きな選手が二人いて、攻守
に隙がありません。現在の順位もコベルと
同率で1位、前回の対戦時は2対2の引き
分け。この試合の勝者が92/93年生まれの
カテゴリーでの前期リーグチャンピオンにな
ることでしょう。 
 ちなみに一試合少ないチームの中で4位
のアルティゲンセが今後全勝すると勝ち点
差1で引っ繰り返される可能性があります
が、このチームとの対戦では二戦二勝して
いるので、もしも勝ち点で上回れてしまって
も力の差が歴然ということで気にしないこと
にします。クラブの全カテゴリーの勝ち点を
合わせた全体成績でもコベルが1位なの
で、結局クラブ全体での成績がカウントされ
るわけです。 
 話を戻して対ボヘミオJr戦ですが、コベル
はホームということもあって全員集まってベ
ストメンバーです。私の中のベストメンバー
は天才・ホアン君と息子・ジョシが前線で、
守備陣はいつもと変わりなくマルセル君とク
リスチャン君なのですが、今までの流れだと
小さい頃からクラブに在籍しているサル君と
フェデリコ君がスタメンで、ホアン君とジョシ
は万年控えです。 
 この流れはリーグ戦が進むうちに少しづつ
変化し始め、全試合フル出場を続けたサル
君のプレイ時間が徐々に減り、フェデリコ君
もあまり点が取れずに交代のタイミングが
早くなってきました。前回の試合では常にジ
ョシよりも長くフィールドに立っていたフェデ
リコ君がジョシよりも早く交代させられ、チー
ムメイトもジョシにボールを集めようとする意
識が芽生え始めています。 
 さて、コベルの攻撃陣の順位付けがどうな
っていくのか。試合の勝ち負け以前にジョシ
にはこういった試練もあるのです。 
 この試合では攻撃陣のスタメン争いに始
めて変化が生まれました。サル君がスタメン
を飾るのはいつものこととして、相方はフェ
デリコ君ではなくてホアン君です。実はホア
ン君は攻撃陣で一番得点が少なくてランキ
ングにも入っていませんが、コベルが敵を
崩して点を取る時は半分ぐらいがホアン君
のお膳立てで、貢献度は非常に高いので
す。守備陣には全く変化がなく、大型選手の
ロドリゴ君は万年控えです。守備陣の方は
実力に開きがありすぎて今後もスタメン争い
はないでしょうね。 

 [決戦、ボヘミオJr] 

 相手のボヘミオJrは前回と比べて特に変
化がありません。何年も一緒にプレイしてい
るのでしょうから、普通のチームはこうなの
でしょうね。 
 キックオフするとコベルは優勢です。前回
は寒空の下アウェイの狭い屋外コートで縮
こまっていましたが、今回は屋内の広いホ
ームコートで活き活きとしています。守備陣
もガッチリ守り、要注意のNo.9にはボール
を渡しません。強敵だったボヘミオJrが普通
の相手に見えます。 
 先制点はコベルが誇る天才児・ホアン君。
ゴール前でサル君とワンツーを決めてGKの
背後にシュート。ホアン君と正対するボヘミ
オJrのDFは少し力が劣るようです。2点目も
ホアン君で、やはり正対するDFを振り切っ
てフリーで右サイドに持ち込み、角度のない
ところから楽々決めてしまいました。次もコ
ベルで、またもやホアン君が正対するDFを
かわして持ち込み、GKと向き合ったところで
横パスをして、サル君が合わせてゴールを
決めました。オーナーコーチのハビエル氏
は笑い出しました。「また同じパターンだ
な!」。 
 なんとジョシが試合に出る前に大勢が決ま
ってしまいました。それにしても波に乗った
時のホアン君は手がつけられません。相手
のDFは前回ジョシをマークしてハイボールを
競り合う時に頬に肘鉄をかました選手です。
この時は別の選手にもミゾオチに肘鉄を喰
らっていきり立っていたので、ジョシは試合
の終盤にショルダーチャージでぶっ飛ばして
仕返しをしています。このプレイはノーファー
ルでしたが治療で試合が止まりました。ホア
ン君の相手としては力が劣るとはいえしつこ
いマークをする選手でした。しかしこの日は
同じパターンで3点取られて交代です。 
 コベルも交代です。今点を取ったばかりの
サル君が下がり、変わりに入ったのはジョシ
です。これは私にとって驚くべきことです。チ
ームのエースは正式にホアン君ということ
で、今まで最も重用されたサル君は二番手
に。控えの二番手だったジョシは一つ繰り上
がって控えの一番手になったのです。 

 [ホアン負傷] 
  
 そのジョシが入り、交替した選手はジョシ
のマークです。この選手は前回の対戦時に
いなかったのですが、大柄でハードマーク。
スネ毛はボーボーです。ポストプレイをする
ジョシに後ろから抱きつくように身体を寄せ
てきます。 
 上手く動けないジョシの足元を突っついて
ボールを逸らし、GK経由で素早く逆サイドに
展開されました。いつもジョシのポストプレイ
で前線にボールが収まるコベルは全員上が
り気味で、スカスカの逆サイドで待っていた
目立たない選手がフリーでシュートをし、コ
ベルは1点返されてしまいました。 
 スコアは3-1の2点差でまだ油断は出来
ません。でもホアン君とジョシははこれから
やってくれそうです。この二人はお互いがマ
ークを引きつけることで相方を自由にプレイ
させるので、大量点だって望めます。  
 ホアン君が少し下がってボールを持ち、ま
たしてもDFを引き連れて右サイドへ。ジョシ
はマークの裏を取りながらゴール前に進出
し、ホアン君のパスにタイミングを合わせよ
うとしています。しかし、さんざんやられたホ
アン君を止めようとボヘミオJrの選手が群
がりホアン君が転倒。ファールで試合が止
まっても起き上がらないホアン君はそのまま
下がり、控え2番手になったフェデリコ君と
交代しました。 
 前回の対戦でもホアン君にDFが群がって
負傷退場させられています。プロの下部組
織でもプレイはテクニックよりも荒っぽさが
売りのチームなのかもしれません。 

 [羽交い絞め] 

前半はこのまま終了。期待していたホアン
君とのプレイはフイにされ、ジョシはゴール
できるのか不安です。もちろん独力のゴー
ルをしてもらいたいのですが、フェデリコ君
は消えるのでジョシの負担が増えそうで
す。 
 後半は案の定ジョシにマークが集まって攻
撃時間が短くなってきました。ジョシのマーク
をするDFは背後からあからさまに羽交い絞
めするのでジョシは動けません。こうなって
しまってはノーゴールも仕方なし。私はそん
な覚悟をしていました。 
 もう交代時間が迫った時、ジョシは前線で
身体を張るのを止めてハーフラインまで戻り
ました。代わりに上がり気味になったフェデ
リコ君はDFが群がる前にジョシに横パスを
出して消えていきます。しかしジョシはフリー
でボールを持てたので、今までマークしてい
たDFが戻る前にドリブルのスピードを上げ、
サイドラインで少し競り合いながら振り切っ
てミドルシュート。このシュートをGKがファン
ブルし、そのまま走り込んだジョシがスライ
ディングで跳びついてゴールに押し込みまし
た。 
 一旦攻撃の火が消えかけたコベルはこの
追加点で息を吹き返し、続けてCKを得まし
た。このCKのボールの行き先はジョシの頭
です。大型選手と競り合ってボールがゴー
ル前にこぼれ、フェデリコ君が群がるDFより
も一歩早く触ってゴール。スコアは5-1とな
り試合はほぼ決まりました。 

 [骨折] 

 一仕事終えてジョシは交代しました。全体
としてはあまりいいところがなかったのです
が、ゴールという結果は出せました。先程倒
れたホアン君はハーフタイムでは既にケロ
ッとしていて、ジョシが交代した後も順番に
出場して何事もなかったようにプレイを続け
ました。アルゼンチンの子供達は怪我に強
いというか、接触や転倒が多い割にはあま
り怪我をしないのです。コベル全体でも、試
合で怪我をして練習が出来ないような事態
は見たことがありません。 
 しかしその事態は訪れました。すっかり沈
黙していた得点ランク2位の選手が先程の
ジョシと似た形で猛シュートを放ち、やはりフ
ァンブルしたコベルGKのガブリエル君に詰
めて接触しました。ガブリエル君はゴールエ
リアで倒れ込んだのですがプレイは止まら
ず、横に逸れたボールをまたしても目立た
ない(顔も背番号も記憶にないほど全くプレ
イに関与していない)選手が押し込んでゴー
ル。 
 ボヘミオJr陣営は大喜びですが、コベル
のスタッフは倒れたままのガブリエル君に駆
け寄って騒然としています。腕を押さえたま
まうずくまる太っちょのガブリエル君を大人
三人で担ぎ上げ、代役のGKはマルセル君
になりました。キックオフしようとするレフリ
ーにハビエルコーチが抗議しましたが判定
は変わらず、スコアが5-2になってしまいま
した。 
 試合はその後大した動きがなくコベルの
勝利で終わりましたが、ガブリエル君は右
手を骨折してしばらく試合に出られなくなり
ました。ガブリエル君のGKが頼りないとはい
え、代わりにGKをやる.マルセル君がフィー
ルドから外れると攻撃手段が一つ減ってし
まいます。 

 [得点王との最終戦] 
  
 次は前期リーグ最終戦で相手は前回アウ
ェイで引き分けたロス・アミーゴス。ブエノス
アイレスのトップリーグでぶっちぎりの得点
王がいるチームです。 
 ジョシは少し風邪をひいてしまいましたが、
プレイはどんどん調子を上げていて、ずっと
出なかったキックフェイントも使い始めまし
た。半身でボールを受けてワンタッチで前を
向くプレイも今週になってからは徹底できて
きて、無心のプレイを試す前の姿にほとん
ど戻れています。 
 一応私としては言う事がないのですが、本
人は風邪でスタミナが持たないことを嘆いて
います。とはいえフットサルは時間が短いの
で心配はないでしょう。今度は無心のスーパ
ープレイが出るのでしょうか?。そして得点
王とはどんな選手なのか?。最終戦でラスト
ボスなんてゲームみたいですね。  
 



no28 最終戦。勝てば優勝。 それと、やはり最多得点王はジンガの使い手。
 2006年 8月27日
 [最終戦。勝てば優勝。]

 ブエノスアイレスの公式フットサルリーグ、
前期リーグ全16戦は8月19日で終わりまし
た。

この後間隔を置かずに後期リーグが始まる
のであまり区切りを感じませんが、一応一
山越えた感覚はあります。コベルは全カテ
ゴリーでの総合成績で優勝が決まってい
て、この全体成績を争う形式のリーグなの
で、息子・ジョシ達は最終戦を待たずにチャ
ンピオンになりました。

実際に試合に出る92/93生まれのカテゴリ
ーでも既に首位に立っており、逆転の可能
性があった一試合少ないアルティゲンセも
期待通りにリオ・コロラド戦でコケたのでもう
心配ありません。最終戦のロス・アミーゴス
戦に勝てば優勝です。
 私としてはこのロス・アミーゴス戦が山場
だと思っていました。前回ジョシが風邪ひい
て休んだ試合は5-5の引き分け。ロス・アミ
ーゴスのチーム自体は成績が振るわず5勝
5敗3分で4位、クラブも6位で全体として取
るに足らない相手だと思いきや、92/93カテ
ゴリーでブッチギリの得点王がいるのです。
 このチームで得点ランクに入っているのは
一人だけなので、相方のアタッカーがヘタレ
なせいであまり勝てないのでしょう。コベル
は18ゴールのジョシを筆頭にアタッカー陣が
全員ランクインしていて、ランク内4人のゴ
ール数を合わせて58得点です。ですが得点
王はこの半数近い26ゴールを一人で挙げて
います。きっと凄い選手なのです。
 

 [チーム力の比較。]
 
 得点ランクを考察してみると、ランキング2
位が二人いて、ボヘミオJr(チームは3位)の
エースとアルティゲンセ(チームは2位)の選
手が21得点で同率。このアルティゲンセの
選手は心当たりがありません。ボヘミオJr
の選手は長身で大人びた風貌だったので
たぶん年上だったのでしょう。確かに勝負
強い選手でしたが、技術的に将来性を感じ
たわけではありませんでした。
 あんな感じなら何歳か年上なら日本にも
いそうで、早熟な分力強いのだと思います。
つまり、子供が大人と対等に渡り合うような
驚きや才能を感じられなかったのです。そう
考えると、20ゴールくらいなら特別な天分を
持ち合わせていなくても、フル出場さえして
いれば可能性があるのかもしれません。コ
ベルが毎回お客さんにしているアルティゲン
セの選手が2位だということが物語っていま
す。
 4位はジョシの18ゴールですが、先程も書
いたようにアルティゲンセの選手に抜かれ
たことで興醒めしてしまいました。エクスキュ
ーズとしては、ブエノスアイレスの子供達が
何年も戦い続けているリーグにいきなり参
戦して、フル出場無しでこの成績なのだから
伸び代がありそうです。だけど最近はワンゴ
ールづつしか挙げられていないので、計算
できる戦力とは言い難い面もあります。実
力上位ではあるものの抜けた存在ではない
といったところでしょうか。
 5位はリオ・コロラドの選手で17ゴールで
す。一体どんな選手だか記憶にありませ
ん。そんな程度でも17ゴールできてしまうわ
けです。

6位はコベルのサル君、16ゴール。7位リパ
ブリック・メキシコの選手が15ゴール。ここま
でが毎試合1点以上のペースです。
 8位は12ゴールでコベルのホアン君とフェ
デリコ君、他にリパブリック・メキシコとボヘ
ミオJrの四選手が並んでいます。12位にア
ルティゲンセの11ゴール、13位に9ゴールで
リパブリック・メキシコとリオ・コロラド。公表
されているランキングはここまでです。

  チームごとに並べなおすと面白くなりま
す。先程も書いたようにコベルはランクイン
が四人で合計58得点。次点がリパブリック・
メキシコでランクイン三人の36点。ボヘミオ
Jrが二人で33点。アルティゲンセが二人で
32点。リオ・コロラドも二人で26点。ロス・ア
ミーゴスが一人で26点。ポルベクラブとビベ
ンシアはランクイン無しでした。

 コベルは結局フル出場者がいない計算に
なり、サル君を除けばもっと得点できた可能
性があります。

こうしてみるとコベルは本当に強い。例えフ
ル出場が適わないチームだとしても、日々
ポジション争いしながら切磋琢磨することが
ジョシを鍛えてくれるのです。週一回の試合
の結果に一喜一憂することもないと、改め
て思い知らされました。


  [どっちが得点王?]
 ロス・アミーゴスのアタッカーは長身でヒョ
ロイ選手と中背で肩幅が広い金髪選手の
凸凹コンビです。長身選手はリーグ全体で
も少ないので、アタッカーなら目立ちます。

チームとしてはハイボールをヒョロイ選手の
頭に当てて金髪選手が拾う感じで、ジョシが
入った時のコベルに少し似ています。しか
し、コベルDF陣がセカンドボールを拾いまく
るので、ロス・アミーゴスの攻撃は続きませ
ん。

 この日はクリスチャン君とロドリゴ君が先
発のDF陣です。先週GKのガブリエル君が
接触で右腕を骨折したので、この試合はマ
ルセル君がGKでした。アタッカーの先発は
ホアン君とサル君です。控えはいつもどおり
ジョシとフェデリコ君です。

 この日もホアン君絶好調。あまり厳しさを
感じられないロス・アミーゴスDFを手玉にと
ってゴールに迫りまくります。先制点はホア
ン君が自分で持ち込んでフリーでGKと向か
い合い、打ち急がずに一瞬間をおき、狙い
すまして股抜きゴール。この子はいい子な
んですが、嫌な点の取り方をするものです。
でもコベルは先制です。

 続けてまたホアン君。DF陣を翻弄しながら
敵陣でドリブルキープをし、切り返してDFの
マークがズレた瞬間にミドルをドカン。はい
2点目といった感じ。

3点目もホアン君からなのですが、その前
にロス・アミーゴスのCKでヒョロイ選手がニ
アでボールを受け、少しゴチャゴチャしてこ
ぼれた所を拾ってループシュート。GKマル
セル君が反応して伸ばした手でワンタッチ
するも、このワンタッチのせいでボールの軌
道が修正されてちょうどゴール上隅にボー
ルが吸い込まれてしまいました。

 でもそれもなんのその。ホアン君がとにか
く凄くて、今度はDFを抜かずにスルーパス
をサル君へ、サル君はGKと接触したもの
の、ボールはゴールの中。3対1になったわ
けです。

 期待のロス・アミーゴスのアタッカーは全く
振るわず、ヒョロイ選手をロドリゴ君が、金
髪の選手をクリスチャン君が完全に抑えて
います。 この二人のうちどちらかが得点王
でどちらかがヘタレなわけですが、今のとこ
ろどっちがどっちなのかさっぱりわかリませ
ん。


 [牙を剥く得点王。] 

 絶好調のコベル攻撃陣は選手交代せずに
前半終了。スコアは3-1ですが、点差以上
の試合内容でもう楽勝ムード。ジョシの交代
がまだなのは気になりますが、前回引き分
けた相手でも登り調子のコベルの優勝には
待ったをかけられないようです。 後半もこ
のままキックオフ。またジョシは半分も試合
に出られない・・・。

 後半はロス・アミーゴスが変わりました。ヒ
ョロイ選手にロングボールを当ててもロドリ
ゴ君に競り勝てず、こぼれたボールを金髪
選手が拾っても、トラップの間際にクリスチ
ャン君が足を出すので前半はいいところが
なかったのですが、このロングボールがなく
なりました。金髪選手がハーフまで下がって
ボールを持ち込み始めたのです。

 この時やっとどっちがヘタレでどっちが得
点王なのかわかりました。得点王はループ
で1点取ったヒョロイ選手ではなく、セカンド
ボールを拾い損なってばかりいる金髪選手
に間違いありません。ひとたび足元に収ま
るとボールが離れず、質量がありそうな身
体を活かして突き進んできます。この動き
は何度も見たことがあります。ジンガステッ
プです。

 肩が左右に揺れ、ボールが右足と左足の
間を細かく行ったり来たり。迂闊に足を出せ
ないクリスチャン君はシュートコースを身体
で消しながら離さないようについて行きます
が、金髪選手はゴールエリアの右から左へ
ボールを失わずに横切っていきます。

 ショルダーチャージも難なくいなされ、まる
で登山鉄道のスイッチバックのように切り替
えしながらじわじわとゴールに近づいてきま
す。前回アウェイで5点取られたのはこのプ
レイに間違いありません。

 このドリブルはGKのマルセル君が飛び出
して何とか止めましたが、GKがガブリエル
君なら飛び出せずにやられていたでしょう。

 ジンガの使い手はコベルのサル君もそう
なのですが、彼は身体がなくてキープし続け
られないのでジンガをキッカケに突破するこ
とが出来ていません。彼のジンガはDFを背
負った時にボールを動かして、背中越しに
DFを誘ってかわすやり方です。

 ジョシもジンガを使えるはずなのですが、
よくやるのはDFと向かい合った時にボール
を軸足の裏に通して横に振り切るステップ
で、せっかちなジンガCステップといった感じ
です。とにかくすぐに抜きたがるので、相手
を誘うところまではやりません。

 実戦でこれほどまでにジンガを活かす選
手は初めて見ました。彼はジンガで得点王
になったようです。


  [ジンガを止めろ、突き放せ!]

 一瞬ヒヤリとさせられたコベル陣営です
が、ゲームを支配しているのはコベルのま
まです。相手が得点王だろうとボールが渡
らなければゴールできません。意外に頑張
っているのがロドリゴ君で、ヒョロイ選手を完
封して得点王を孤立させています。彼も万
年控えなので、滅多にない先発出場で発奮
しています。

 少し引き気味になったDF陣に合わせてホ
アン君がスペースを埋め始めました。こうい
った献身的な動きもホアン君の強味です。
攻めて良し、守っても良し。これで身体が大
きくなれば物凄い選手になるでしょう。

 ホアン君の縦パスを前線のサル君が受け
た時、サル君がトラップミスしてマーカーと少
しもつれました。サル君を起点にするため
に裏に走り込もうとしたホアン君は、それを
見て方向を変えたようでした。サル君を二
人がかりで囲んでボールを逸らしたDFが、
こぼれ球を突っついてGKに戻そうとした
時、突然三人を跳び越えてホアン君が現
れ、、捕球体勢に入ったGKの目の前でコー
スを変えて追加点を挙げました。

 「今飛んだね」コベルの下級生達が口々
につぶやいています。私達はトップフォーム
のホアン君にド肝を抜かれてしまいました。

 これで4-1。ホアン君は全得点に絡みハ
ットトリックとワンアシスト。これで勝負ありで
す。コベル陣営がやっと動いて、サル君が
下がり代わりにジョシが登場しました。

 ベンチでずっと試合を見ていたジョシは得
点王に触発されたのでしょう、サイドで囲ま
れると自分もジンガを繰り出しました。ジン
ガAですね、Bもやってますね。

なかなかボールを離しませんが、身体を寄
せられてラインを割ってしまいました。考え
てみればロス・アミーゴスには得点王になる
ほどのジンガの使い手がいるのでチームメ
イトは慣れているのでしょう。簡単には足を
出して来ず、人数をかけて競り出された格
好になりました。

今回はジョシの経験不足。これからドンドン
試してモノにしてほしいものです。

本家本元、天然のジンガ使いの得点王は
時折ボールキープしコベルのゴールに迫り
ますが、クリスチャン君とマルセル君が挟み
撃ちしてシュートまでは行かせません。ジン
ガは人数をかけないと止められないようで
すが、何年もコンビを組んでいるクリスチャ
ン君とマルセル君なら対応できてしまうよう
です。

それにしてもクリスチャン君のDFは素晴らし
い。間合いを詰めるのがうまく、足を一気に
動かさないで、膝と膝下を時間差で振りな
がら相手の対応に合わせてボールを突っつ
いているのです。こんな選手をずっと相手に
していれば大概の選手は上達するでしょう。
 良いDFがいれば攻撃も伸びるということで
す。

 [勝手に身体が動いた。]

 後半の半ばで出場機会を得たジョシです
が、ロス・アミーゴスも得点王が下がり目か
らジンガで切り込むことで攻撃の機会を増
やし、なかなかボールが回ってきません。こ
の日大活躍しているホアン君は得点王が切
り込んでいる間にDF陣の上がりをマークし
ているため、孤立してキープし続ける得点
王が最後に二人がかりで潰されるという展
開が続きます。

先発出場していたロドリゴ君がベンチに下
がり、代わりにホアン君がDFに入って空席
になったアタッカーの片割れにフェデリコ君
が入りました。ジョシと一番相性が悪いフェ
デリコ君、今後の展開が心配です。

ロス・アミーゴスのDFはそれほど強くはない
ので、この日のフェデリコ君はドリブラーに
変身しました。一人でどんどん切り込んで、
パスを出さずに最後は潰れます。たまに苦
しくなると適当に横パスを出し、そのボール
を慌てて拾うのがジョシでした。もっと前に
出してくれればジョシも前を向けるのです
が、フェデリコ君のパスはいつもジョシを止
めてしまいます。

というか、そういう適当なパスはほとんどカッ
トされてしまうので、ジョシはパスを拾うとい
うよりも敵のカウンターを潰す役割の方が
多くなってしまいました。

こんなプレイではフェデリコ君の出場機会は
減る一方でしょう。今月は全然練習に来なく
て、試合の日にコベルのスタッフに捕まって
溜まった月謝を請求されていました。試合
だけだと月謝のことは忘れてしまいますよ
ね。

月謝の話はともかくとして、ボールを持つの
はフェデリコ君ばかり。やっぱりこういうプレ
イスタイルを好む選手は、チームよりも自分
という性格なのでしょうね。

何度となくゴール前でボールを失うフェデリ
コ君でしたが、そのこぼれ球に無理やり跳
びついて逆サイドのジョシにボールを送りま
した。ボールを受けるジョシにも当然マーク
がいて少しもつれましたが、ジンガを繰り出
して軸足の裏でボールのコースを変えてか
わしました。

しかし、抜いたはずのDFの足がジョシの足
にかかり、ジョシはゴールを背にしてよろけ
ましたがワンステップで体勢を整え、身体を
少し横に向けて振り向きながらシュート。ジ
ョシがゴールに背を向けて競っていたので
GKは体勢を整えておらず、逆サイドのネット
めがけて飛んでいったボールに反応できず
にそのままゴールになりました。

このシュート、半身の姿勢から身体の前を
払うように蹴り足を振りました。膝下を振ら
ずに身体を捻る。マッシーさんが度々紹介
している足首の根元で蹴るシュートなので
す。冬休みに入ってから取り組み始めた新
しいシュートです。ジョシは練習で何をやっ
てもボールを持つとあまり考えないので、身
体に染み込ませないとやりません。非常に
世話が焼ける奴です。

試合後にシュートのことを聞くと、「勝手に身
体が動いた」と言っていました。次に勝手に
動くまでやらないかもしれませんね。

 [もうライバルじゃないから。]

  試合は5-1。だけどもっとジョシのゴール
が欲しい。もっとボールが欲しい。
そのボールがジョシに渡ったのはCKの時で
した。そうじゃなくて流れの中でボールが欲
しいんですよ、何でCKのキッカーやってるん
だよ。
 ジョシはボールを置き、インサイドキックを
小さい振りでビシッとゴールエリアの中央
へ。密集の中を縫うようにボールが伸び、そ
の先にいたフェデリコ君にピタリ。フェデリコ
君は足を合わせてアッサリゴールです。
 試合の後にジョシが言っていました、「本
当はフェデにアシストするのは嫌なんだけ
ど、今日はあいつノーゴールだし、もうライ
バルじゃないし」。
 良いのか悪いのか。アシストしたんだから
フェデリコ君にとっては良かったんでしょう
ね。
 得点王のジンガは時折ゴールを襲い続
け、終盤には遂にシュートを打たれました。
しかしマルセル君が至近距離で反応してこ
ぼれ球に、このボールを得点王が押し込ん
でついにスコアを伸ばされてしまいました。
通算27ゴール目ということです。試合に負け
ても彼の実力は本物です。
 スコアは6-2。そのまま試合が終わり、コ
ベルはジョシのチームでもブエノスアイレス
のチャンピオンになりました。
 腕をギプスで固めたガブリエル君も駆けつ
けています。ロス・アミーゴスの選手がコート
から出た後、コベルの選手は全員で肩を組
んでウイニングラン。コートの端まで走って、
また戻ってきて最後に客席の前でヘッドスラ
イディング。
 選手達が立ち上がると、一人泣きながらう
ずくまっています。サル君です。感極まって
の嬉し涙でしょうか?。だけど腕を押さえて
痛がっているようにも見えます。

実はギプスで腕組できなかったガブリエル
君はみんなの後ろを走っていて、ヘッドスラ
イディングの時に70kg以上ありそうな身体で
サル君を押し潰したのでした。サル君には
怪我がなかったようで、結局タイミングがい
いオチになりました。

試合を終えた選手達はコートのサロンで歓
喜の合唱を続けました。ジョシは歌詞がわ
からないのですが口パクで歌っています。

その後も次々に下級生達の試合が終わり、
優勝が決まった試合の後は上級生も一緒
に毎回ウイニングランです。コベルは七つ
のカテゴリーで五つ優勝し、合計五回やっ
たウイニングランはどんどん人数が増えて
いきました。

ジョシは昼過ぎに声を枯らして帰宅し、「ア
ルゼンチンで優勝すると楽しいね。日本の
市の大会で優勝した時はこんなに楽しくな
かったよ」。とニコニコしていました。   
 



no29 アルゼンチンのサッカーはつまらない?とジョシが活躍できない理由は同じ!?
 2006,8,30

 [お母さんは応援していなかった。] 


 最近妻は息子のリーグ戦を見に来ます。
これは我が家にとっては革命的な出来事で
す。日本で私達が住んでいた地域では「サッ
カーは中学になってから」と言うお母さんが
沢山いました。他の習い事に比べてスポー
ツ少年団は煩わしいからです。 
 うっかりお父さんがコーチなんか引き受け
ると家族の一週間はサッカー漬けです。特
に興味がないお母さんにはたまりません。日
本だけではなく、諸外国でもW杯中は妻君が
ストレスを貯めるという話をよく聞きます。私
の家もそうだったりして。 
 なので、妻は本当は息子・ジョシがサッカ
ーをするのをはじめは反対で、実際に習い
始めても何度も辞めさせようとしました。試
合に随行するのも大ッ嫌いで、子供の試合
はイライラするしそもそもサッカーがわから
ない。当番じゃなくても手伝わないと居辛い
し、当番も不効率で要領がわからない。 
 妻の言いたいことは一々尤もで、何処まで
我慢して付き合うかという程度の差でしかあ
りませんでした。私も少年団の運営には不
満があったので、子供のサッカーとの付き合
い方の話になるとマイナス材料しか上がって
来ず、真剣に話せば話すほど「辞めた方が
いい」という結論に向かい、ジョシが諦める
のを待っている状態が続きました。 
 ジョシのプレイもヘタレ丸出しで、恥をかき
にサッカーをしているようなものでした。逆に
いえば、それだから「せめて恥ずかしくない
程度に」というモチベーションも私達の間に
あり、結局上達させる方向に向かったので
今も続けているわけです。 
 妻はジョシの試合を期待を持って見る事が
ありませんでした。そんな妻にフォローを入
れるために私は僅かなジョシの見所をワン
プレイごとに褒め、結局それがジョシにとっ
ては良かったのかもしれません。 
 ジョシが活躍しないので、妻はジョシの試
合に行きたがりませんでした。練習も見ませ
んでした。見ると辞めさせたくなるからです。
ジョシ本人も認めていますが、当時は真剣
にやっていなかったので妻の気持ちは責め
られません。 
 私自身も自分がプレイしていた頃は下手
なことを補うために攻守に走り回っていたの
で、ジョシが手抜きしていたことは初めから
見抜いていました。それでも少しづつ上達で
きるように課していた日々の練習を続ける
意思があったので、見捨てないでサポートに
勤めたわけです。 
 妻はアルゼンチンに来てから一度コベル
の練習を見ましたが、当時ジョシはまだ順応
できていなかったのでヘタレのままでした。 
 実はJのサッカースクールに通っていた
頃、プロの公式戦の前座でスクール生対抗
試合に出場して先制ゴールをぶち込んだこ
ともあったのですが、頻繁に交代する試合
だったのであまり印象になかったのでしょ
う。妻にとってジョシはヘタレのまま、ジョシ
の試合はつまらない。ずっとそうでした。 


[つまらないアルゼンチンサッカー。] 

 ウェーブリフティングがモノになってきた
頃、ジョシは今まで抜けなかった相手を抜き
去るようになり、パスをしないアルゼンチン
の子供達もジョシにボールを集めるようにな
りました。これが渡航後三ヶ月ほど経った昨
年の年末で、ちょうどその頃コベルがチャン
ピオンになったのでした。 
 選手登録の話を聞いた時は驚きました。
ジョシがコーチに認められたのは日本のチ
ームも含めて初めてだったのです。練習のミ
ニゲームではやりたい放題。ボールを持っ
たらシュートを打つまで離さず、どっちがア
ルゼンチンの子供なのか、アベコベになって
いました。 
 ところが公式戦が始まると一転、チームは
三連敗でチャンピオンの貫禄など微塵も感
じられません。「ジョシが活躍できるくらいの
チームなのだからこの程度か」と、私もだい
ぶ肩を落としていました。これでは得点王も
チャンピオンもセレクションも見込みがない
な・・・。妻も言いました「アナタ嘘ついていた
でしょう」。 
 しかし三連敗後は連戦連勝、結局以後負
け無しでどんどん順位が上がっていき、さら
にジョシが得点ランクに入りチーム一のゴー
ル数になってくると妻も事の真偽を確かめた
くなり、ついに試合に足を運び始めたので
す。 
 ちなみに毎週土曜の試合と同じ時間に
NHKの衛星放送では連続ドラマをやってい
て、放送クールでそのドラマが終了したタイ
ミングでもあったのです。私も「純情きらり」と
「功名が辻」は楽しみにしています。妻はこ
の他に「木曜時代劇 次郎長背負い富士」と
土曜日のドラマを見ていたのです。前のクー
ルでは「風のハルカ」、「柳生十平十番勝負
 島原の乱」も見ていましたね。問題の試合
とかち合う土曜日のドラマは樋口可奈子主
演の「デゥロン・運命の犬」でした。要するに
ジョシの試合よりもこちらを優先していたわ
けです。 
 妻が試合に来るようになると、ジョシは毎
試合点をとるようになりました。偶然だとは
思いますが。 
 「点が取れるようになったんだね」と初めは
感心していましたが、そのうち「アルゼンチン
のサッカーってもっと凄いと思っていた」、
「案外大したことないし、つまらないんだね」
などと言い出したわけです。 
 確かに私もアルゼンチンのサッカーはプロ
でも子供でもつまらないと感じます。その理
由はDFが激しすぎるからです。リバープレー
トには今期から稀代のドリブラー・オルテガ
が加入したのですが、そのオルテガをもって
してもドリブルで独り舞台を演じ切ることが
出来ず、昨年のエース・ガジャルド同様潰さ
れまくっています。 
 相変わらずワンサイドゲームが滅多にな
く、また、大量点差がつくゲームでもボール
支配率で圧倒することはありません。子供
のゲームも同じで、狭いフットサルコートでは
プロの試合以上に素早く間合いが詰まるの
で、特に前線の選手はボールが回ってくる
度にDFと接触しています。 
 この話で私と妻はもめました。サッカーの
話をするようになったのはいいのですが、
「大したことない」と言われては息子の立つ
瀬がありません。幸い息子は県トレの選手
を何人も知っているので話が早いです。「県
トレのFWだったアイツとコベルのサル君は
どっちが上手い?」。答えは即答でサル君で
す。 
 どんなテクニシャンでもDFのレベルが高け
れば相対的に輝きを発揮できなくなるもので
す。逆にいえばそういうDFがいるからこそハ
イレベルなテクニシャンが育つわけです。で
もアルゼンチンのプロリーグは試合がつまら
ない。 


 [後期リーグ開幕。] 

 その一見つまらないフットサルの後期リー
グが始まりました。以前お伝えしたように、
対戦相手の変更はありません。お伝えして
いなかったかもしれないのでもう一度。後期
リーグの参加チーム数は90チームほどで
す。ですがリーグの運営自体は前年度の成
績が完全に反映されていて、11のゾーンに
分かれています。最高峰はコベルが戦うゾ
ーン1で、仮に新しいチームを立ち上げて順
調にステップアップしていくとゾーン1に昇格
するまでに10年かかることになります。 
 8チームで戦うゾーン1で上位4チームに
入るとプレイオフになり、プレイオフを制した
チームが掛け値なしのチャンピオンになりま
す。プレイオフに進出できなかった半分のチ
ームがそのまま降格して4チームが新たに
這い上がるわけですが、下部リーグとの実
力差は歴然なので上位定着は至難の業で
す。つまり、ゾーン1で何年も戦い続けること
がブエノスアイレスでプレイする子供達のス
テイタスそのものになります。 
 上記の理由で後期リーグも同じチームで
戦い、プレイオフ進出組と降格組が最後ま
で激しく争うことになります。前期リーグを優
勝したコベルには余裕がありますが、降格
圏のリオ・コロラド、ボヘミオJr、ロス・アミー
ゴス、ビベンシアはさながら手負いの獣です
ね。こういう流れになると後期リーグも見応
えがありそうです。 
 最終戦の結果で92/93カテゴリーの得点王
が入れ替わってしまいました。コベルと対戦
したロス・アミーゴスのエースは2位に5ゴー
ル差をつけて得点王確定だと思っていたの
ですが、2位だったボヘミオJrのエースが最
終戦で全敗チームのビベンシアから10ゴー
ルして逆転してしまいました。ジョシの頭の
上でやっていることでジョシには関係ないの
ですが、この爆発力は凄い。弱い相手は徹
底的に叩く。得点王になるにはこういう厳し
さも必要ですね。 
 後期リーグで前期リーグの成績を加算す
るかどうかはわかりません。このレポートで
はジョシの成長をを測るために後期リーグ
だけでカウントしていきます。考えてみると得
点王のゴール数は一試合で2ゴール程度。
とにかく毎試合一点づつ取れば、後は固め
打ちできた時に稼げるだけ稼げば張り合え
ます。ジョシはアタッカーなのでゴール数に
は拘らせます。 
 後期リーグの初戦はアウェイのリパブリッ
ク・メキシコです。クラブ総合順位2位、しか
し92/93カテゴリーは六勝七敗一分のブービ
ー。ブービーとはいえ4位以下は揃って六勝
で、順位を分けているのは引き分けの数で
す。全敗のビベンシア以外は気の抜ける相
手ではありません。特にリパブリック・メキシ
コは前期リーグでも開幕戦で当たり、自前の
審判が贔屓を引き倒してコベル連敗のきっ
かけを作りました。血祭りにあげてやらない
と気が済みません(私の)。 


[フェデリコ。]  

 試合にはエース・ホアン君が現れず、サル
君フェデリコ君とジョシでアタッカーは三人で
す。後期開幕戦は験良くスタメンを飾れそ
う。思えば四ヶ月前はチームも負けましたが
ジョシもノーゴールでした。本当になんとかし
たい。 
 ウォーミングアップを終えて期待のスタメン
としてフィールドに残ったのは・・・。GKマル
セル君(ガブリエル君骨折のため)、DFクリス
チャン君、ロドリゴ君、アタッカーサル君、フ
ェデリコ君、控えジョシでした。何でまたジョ
シが控えなの?。 
 思い当たることが一つ。最近フェデリコ君
ゴールしてるし、ジョシもゴールしてるけどワ
ンゴールで出来栄えには差がないんですよ
ね。「こんなことなら前の試合でアシストしな
きゃ良かった。CKならキッカーやらないで俺
もゴールしたかったのに」とジョシは後で話し
ていました。 
 さらに悪いことが続き、フェデリコ君は前半
に先制点を挙げました。チームメイトがゴー
ルして悪いこともないのですが、折角差をつ
けて起用の順番が変わったのに、今更活躍
されては困ります。 
 活躍といってもフェデリコ君は味方のボー
ルをかっさらうのです。サル君が少しもたつ
くとすぐに寄って来てボールを持っていってし
まいます。それでゴールするのなら仕方ない
のですが、そういうプレイの後は攻め急いで
いつもボールを失います。フェイントや切り
返しでボールが大きく動いた時もなぜかボー
ルの行き先にフェデリコ君がいて、味方のボ
ールを奪います。 
 パスしたわけでもルーズボールになったわ
けでもないのにこんなことばかりするので
す。そのくせパスを受けると囲まれる遥か前
にボールを適当に捌いて、そのボールは相
手に拾われます。フェデリコ君がいると他の
選手がシュートを打てないのです。練習にも
来ないし、残念ながら一番応援したくない選
手です。 
 前半はジョシの出場無し。1-0で折り返し
になりました。書き忘れましたが、この試合
の審判はとてもフェアでした。少しスローイン
にうるさい面がありますが、基本的にプレイ
を流す標準的なアルゼンチンのレフリーで
す。前の審判はクレームでも出たんでしょう
ね。これでリパブリック・メキシコの後期リー
グは険しくなることでしょう。 
 後半開始直後も交代がありません。前期
リーグで築いた実績はどうなっているの
か・・・。 


[キャノンシュート。] 

 ジョシはいつ試合に出れるのか。そう思っ
ていたら、この日やたらとボールを持つフェ
デリコ君が相手DFのショルダーチャージを
顔に受けて負傷。結局後半開始直後に引っ
込みました。さあジョシ登場です。 
 フェデリコ君が倒れた場所からのFK。サル
君がボールを戻し、後ろで組み立ててから
中央のジョシへ。ジョシは背中でマーカーを
押し飛ばしてから半身でワンタッチしてボー
ルを止めずに右サイドへ、GKともう一人の
DFを引き付けて左を走るサル君に横パス。
サル君が半分空っぽのゴールへ悠々流し込
んで2-0になりました。最近はサル君との呼
吸が合ってきたようです。 
 次のプレイはお待ちかねジョシのゴールで
す。中盤右サイドで後ろから対角線に走る
速いパスを半身で受け、パスカットを狙って
足を出したマーカーをいなしながらボールの
勢いに合わせてダッシュ。一テンポ早く抜け
出して躊躇せずにトップスピードからシュー
ト。 
 ズドンと、ゴールネットを突き破らんばかり
のボールがGK背後の壁で音を立てました。
コースは逆サイド高め。GKが咄嗟に手を伸
ばしたものの、ボールのコースとは関係ない
場所でした。 
 学校でロングシュートを打てなくなってから
ずっと影を潜めていたキャノンシュートです。
何よりもトラップからシュートを打つまでの時
間の短さがいい。たぶんゴールを見ないで
打ったのでしょう。感覚でゴールの位置を捉
え、踏み込まず、バックスウィングを取らず
にボールの芯を打ち抜いたナンバのシュー
トです。 
 豪快なシュートにコベル応援席が沸きまし
た。お父さん達はみんな私の方を見て親指
を立ててウィンク。誇らしい。妻も喜んでいま
す。 
 途中出場してから瞬く間にワンゴールワン
アシスト。気がつくとマンマークがさらにタイト
になって遠巻きにもう一人。ボールが来る度
にいつも以上に激しい接触が始まりました。
試合後にジョシが言っていました。「ゴールし
たら凄く荒くなってボールも足も関係なく蹴ら
れた。特に腰骨を蹴られて、それから痛くて
プレイが悪くなっちゃった」。 
 試合が動かなくなり、サル君とフェデリコ君
が交代しました。相変わらずボールを持つ
味方に寄って来るフェデリコ君。 
 ジョシがタイトマークをいなしている間にボ
ールを奪っていくので、折角競り合いに勝っ
てもボールがなくなってしまうのです。そりゃ
ないだろフェデリコ。日本ではそういうのを漁
夫の理って言うんだぞ。アルゼンチン人が
大嫌いなイギリス人がやったんだぞ。 
 しかしジョシは一連の動きで何かを掴みか
けていたようです。この日はボールが来る前
に競り合いを始め、相手をいなしてからプレ
イするケースが多かったのです。 
 でもフェデリコ君が入ってからチャンスボー
ルが来ない。競り合いやマークされるのが
大ッ嫌いで、絶対後ろ向きでプレイしようとし
ないのです。長短のパスでリズムを変えて攻
めていたのが、リスキーで単調なロングパス
ばかりになってしまいました。 
 ジョシに千載一遇のチャンスがやってきま
した。コベルDFのクリアボールが左サイド
へ、このボールをタイトマークするDFと競り
合いながら追い、相手を競り飛ばしてからボ
ールにタッチして遠目からフリーでシュート。
先程のゴールと同じキャノンシュートがゴー
ルニヤサイドの下隅に。またも壁に当たって
ズドンと音を立てたボールは、ポストの外側
から勢い良く戻ってきました。 
 このシュートが外れたのはもちろん狙いす
ぎ。本人の談では腰が痛くて力んだそうで
す。でもニヤじゃなければ入っていたことで
しょう。今回もGKは反応していませんでし
た。 


 [ハットトリック。] 

 ジョシのマークがさらにきつく。今度は完全
に二枚ついています。そうなるとフェデリコ君
は楽で、自分で切り込んで2点取ってしまい
ました。この子の場合はプレイそのものはワ
ガママで苦手なことを一切やらないのです
が、アタッキングエリアでボールを持ってか
らの強引さは見るべきものがあります。とに
かくシュートを打って終わりますし、ゴール前
でボールがこぼれた時は体を投げ出してモ
ノにします。 
 彼もまた短い出場時間でランキングに顔を
出すトップレベルのアタッカーだということで
す。この日はハットトリック。チームメイトとは
いえ侮れない存在なのは間違いありませ
ん。 
 試合は5-0で終わりました。一度は負けた
相手だったのですが完封で完勝です。ジョシ
はワンゴールでしたが素晴らしい兆しがあり
ました。やはり本人も「相手を飛ばしてから
プレイするコツが掴めたかも」と言っていまし
た。ただし腰を痛めて、地下鉄で帰る予定
がタクシーになってしまいました。 
   
 



no30 ジョシが日本の雑誌にとジンガがは世界で通用する。
 2006,9,6

 [ジョシが雑誌に。] 

 何度かお知らせした雑誌掲載の件。遂に
9月6日に発売されました。ご存知だとは思
いますが、雑誌名は「ジュニアサッカーを応
援しよう!vol.2 秋号」です。私は「いずみ た
けし」という偽名で載 せています。本屋に行
ったら立ち読みしてみてください。ケンの
DVDも付いているのでご購入も検討されて
は如何でしょうか?。 
 私はまだ本を手に入れていませんが、見
開き四ページに写真が三枚レイアウトされて
いるそうです。一ページ目の写真左端の背
が高い子がジョシです。 
 試合終了直後だというのに一人だけユニ
フォームを着ていません。このレポートでも
何度かジョシが早々にユニフォームを脱ぐと
ころを書きましたが、この日は写真を撮ると
いうのにまたしてもユニフォームを脱いでし
まいました。写真を撮ったのは私なので、私
は写っていません。 
 掲載した話の内容はこのレポートの内容と
大きく変わることはありませんが、私達がア
ルゼンチン渡航を決断した話や、コベルに
入るまでの話を少し載せています。掲載の
依頼内容がソコだったので改めて書いてみ
ました。私達のケースを参考にする人はい
ないと思いますが、実話ですので読み物とし
て目を通してみてください。 
 ところで、出版社の意向でジンガやウェー
ブリフティングの話はあえてしていません。カ
ンゼン社はケンのDVD付きバイブルシリー
ズの発行元なので、そういった話は宣伝臭く
て白けてしまうのだそうです。 
 私としてはジョシの上達はケンとマッシー
の技術論のお陰だと確信しているので、ま
だまだ書き足りません。このhpのレポートの
存在意義自体が、ケンとマッシーの技術論
をアルゼンチンで実践しようとしているジョシ
の姿そのものなので、彼等の技術が日本を
飛び出してどこまで通用するかという事が私
自身の関心事でもあります。もちろん私とし
てはどこまでも通用し、世界中のトッププレイ
ヤーを凌駕できることを期待しています。 
 大した才能の無いジョシがどこまでその高
みを極められるか不安ではありますが、二
人の技術を如何にしてジョシに身につけさせ
るかというのも私の役割だと思っています。
今後はそういった話でまた執筆依頼を受け
たいと強く願います。以上の事を、あえてこ
の場を借りて売り込みさせていただきます。 
 それはさて置き、執筆の機会をつくってくだ
さった管理人の矢島さん、原稿を依頼して下
さったカンゼン編集部の皆さんには重ねて
感謝いたします。ありがとうございました。 


 [守りのチーム。] 

 前期リーグ終了直後に始まった後期リー
グは二戦目です。相手はポルベクラブ。前
期リーグの成績を加味して対戦相手が組ま
れているようで、序盤は強いチームとの対戦
が続きます。前期はこの序盤戦で勝てなくて
ヒヤヒヤしましたが、みんなの調子が上がっ
ている後期リーグは危なげなく勝ち続けてく
れることでしょう。 
 ポルベクラブは、実は名前が変わって「ア
ミスクラブ」になりました。みんなに聞いても
理由がわからず、本当にコベルのホームゲ
ームに旧ポルベクラブの面々が現れるのか
疑問でした。しかし、確かに旧ポルベクラブ
の選手達です。リーグ最高と目されるGKも
います。選手が同じなのに名前だけ変わる
とは不思議なチームです。 
 このチームは確実に点を取る選手がおら
ず、GKの力で守り勝って前期リーグは4位
でした。勝つためには点を取らなければい
けません。逆にいえば、このGKから点を取
れればブエノスアイレスの同世代には攻略
できないGKがいないといえます。なんともや
り甲斐のある相手じゃないですか。 
 先発メンバーを紹介します。もう嫌になって
しまうのですが、ジョシは控えです。「俺はス
ーパーサブみたいだね」とジョシ。アホかって
言うんだ。実力順に並べて控えになってるん
だよ!。安易に現状を受け入れずに発奮し
やがれ。 
 というわけで、スタメンはもうすっかりエー
スになったホアン君。まだまだ中心選手の
サル君。GKが骨折していたはずのガブリエ
ル君が包帯を巻いて登場。やけに怪我の治
りが早い。DF陣は守りの要クリスチャン君と
マルセル君。ロドリゴ君は控えに戻りまし
た。 
 ロドリゴ君はフィジカルならどこを相手にし
ても通用するのですが、それが自信になっ
て敵をナメているようでマークが緩む傾向が
あります。それに輪をかけて不安定な攻撃
参加をするので、全体としてはまだまだアテ
に出来ません。決して能力が低いわけでは
ないのですが、守り切るハートが足りません
ね。 
 それよりジョシは前回ハットトリックのフェ
デリコ君よりも先に試合に出れるのでしょう
か?。痛めた腰は二日ほどで完治し、万全
で試合に臨んでいます。最近は朝練を初
め、一日毎の調子に左右されなくなってきま
した。今度こそ期待通りの結果を出して欲し
い。 
 さて試合ですが、天才ホアン君がこの日も
大活躍で点を取りまくる。サル君とのコンビ
プレーが冴えわたり、特にゴール前ではワン
ツーパスを繰り返してあっという間に4得点。
サル君もホアン君とのワンツーでワンゴー
ル。さらにオーバーラップしたマルセル君の
センタリングを飛び込んだアミスクラブのDF
が押し込んでオウンゴール(記録はマルセル
君のゴール。たぶん触らなくても入ってい
た)。 
 前半で既に6-0。さあサル君が交代しま
す。相手はジョシか。フェデリコ君か。 


 [あっさりゴール。] 

 ジョシでした。良かったー。ハットトリックし
ても味方の邪魔したらダメってことですな、フ
ェデリコ君。三番手と四番手では試合に出る
時間が全然違うので、この交代順位は非常
に大事です。控えでもオーナーコーチの期
待はジョシの方が上って事です。 
 だけど、試合に出るからには点を取らなけ
ればいけません。ホアン君の活躍で試合の
大勢が決まっているとはいえ、一筋縄では
いかない相手なのは確かなこと。ジョシはこ
のGKからゴールできるのか?。 
 前半残り時間が少ないところで交代出場し
たジョシは、スローインのボールを受ける前
に相手DFを弾き、そのままゴールエリア右
隅に進出。リスタートからなのでアミスクラブ
は戻りきっていて、ゴール前にはシュートコ
ースがありませんでした。 
 ジョシはこの時「シュートコースがないしゴ
ール前は密集していてドリブルインできない
し、どうしようかなー」と思いながらジンガス
テップをやったそうです。そうしたら目の前で
シュートコースを防いでいたDFが勝手にどい
て、ゴールのニヤサイドがポッカリ空きまし
た。 
 ジョシは「ラッキー」と思いました。スカスカ
のニアサイドにノーステップで軽くシュート。
シュート音も出さずにボールが飛んで、ネッ
トに当たってボールが転がりました。 
 なんともあっさり点を取り、ゴールの度にお
祭り騒ぎをするコベル応援席もあっけに取ら
れました。だけど審判は笛を吹き、ボールが
センターラインに戻ってキックオフ。 
 最後にボールに触れたのはジョシなので、
やっぱりジョシが点を取ったようです。シュー
トしたジョシも唖然。周りの状況を見て、喜ぶ
間もなくキックオフなので何だかわからない
様子。すぐに前半が時間切れとなってハー
フタイムになりました。 
 私も何だかわからなくてスコアラーの所に
行くとやっぱり記録はジョシワンゴール。ベン
チから水を飲みに客席に来たジョシは「今の
ゴールだよね?、何でみんな黙ってるの?」
と詰め寄ります。確かにゴールが記録されて
いることを告げると、一応納得してコートに
戻って行きました。 
 たぶんこれがジンガの本領なのでしょう。
ボールキープしているうちに勝手にDFがつ
られて動いてしまうのです。ジョシにとっては
初めての経験です。私もそういうものだと頭
ではわかっていたつもりですが、本当に相手
が勝手に動いてしまうのを見たのは初めて
です。ジンガはスゴイとしか言いようがありま
せん。 
 遅ればせながらポルベクラブがアミスクラ
ブに変わった理由が試合を通してわかりま
した。監督が代わったのです。新しい監督は
試合が始まってからずっとガナっていたの
で、今までの試合と様子が違うことがすぐに
わかりました。しかしアミスクラブのDFがボ
ールを押し込んだ時点でもうガナるのを止
め、試合は静寂を取り戻していました。その
静寂はジョシのゴール後も続いたわけで
す。 


 [もう一点。] 

 後半のキックオフ。もう勝負がついている
ので後はジョシが何点取るのか?。こんなス
コアになってしまいましたがアミスクラブは本
当に守りが強く、先週の試合も勝っているの
です。ロス・アミーゴスのジンガ使いもノーゴ
ールで抑えています。 
 妻には「アイツ凄いGKなんだよ」と言って
いたのですが、ハーフタイムでは「全然凄く
ないじゃん。アナタ嘘ばっかり」と言われてし
まいました。彼に頑張ってもらっても困るの
ですが、何というか、いつもの調子を少しだ
け出してもらえると私も助かるのですが。 
 コベル優勢で進む後半。ジョシはいつもの
ようにワントップ気味でポストプレイ。しかし
もう反撃を諦めて失点を増やさない方向へ
シフトしたアミスクラブは全員守備で、ジョシ
とホアン君を止めようと必死です。相手コー
ト側でゴチャゴチャする展開になってきまし
た。最近はこんな試合が多く、こうなるとあま
りゴールが生まれません。 
 後半になってペースが落ちたホアン君が
交代し、フェデリコ君登場。アシスト役がいな
くなって益々ゴールが遠のいていきます。フ
ェデリコ君もスペースがないうえに密着され
て消えることが出来ず、両チームともシュー
トがありません。また一点止まりなのでしょう
か?。 
 コベルはエンドライン近くでスローインを得
てセットプレイになりました。セットプレイとい
ってもフォーメーションがあるわけではない
ので、ボールが上手く味方に届くかどうかの
ことなのですが、この際こういう時でしかシュ
ートチャンスが生まれないでしょう。 
 クリスチャン君のスローインがニヤポスト
際のジョシへ。GKを背中で押さえながらジョ
シがゴールに背を向けて足を伸ばし、胸の
高さのボールを爪先でワンタッチ。コースが
変わったボールは逆サイドのサイドネットに
音もなく包まれ、ボールが力なくゴールマウ
スの中で転がりました。 
 ジョシ2点目、アミスクラブは8失点。そして
会場はまたしてもシーン。ジョシは周りをキョ
ロキョロ。でもボールはセンターラインに戻っ
て試合再開です。私はもう一度スコアラーの
所で確認しましたが、やっぱりジョシは2ゴー
ルです。 
 要するに試合でのジョシを見慣れたコベル
の応援席は、ジョシにキャノンシュートを期
待しているのでしょう。.だからシュートが外れ
ても観客が沸くのに、音もなくゴールしても
「アレ」という感じなんですね。でもゴールは
ゴール。シュートスピードなんてどうでもいい
んです。 
 後半の半ばでお役御免となったジョシはサ
ル君と交代しました。その後も相手陣内での
密集が続きましたが、CKのこぼれ球をフェ
デリコ君が倒れながら押し込んでもう一点追
加。試合は9-0の大勝で終わりました。 


 [ゴールに賞金。] 

 ジョシは2ゴールでお小遣いゲットです。ジ
ョシは当家内で既にプロ契約を結んでいて、
お小遣いは試合のゴール数で決めていま
す。ワンゴールだと5ペソ(\150程度)、2ゴー
ルだと15ペソ(\500程度)、3ゴールだと30ペ
ソ(\1,000程度)で、以後はワンゴールにつき
10ペソづつ加算していきます。 
 あまり点を取るとお小遣いのあげ過ぎにな
りますが、全く点が取れないと当然ゼロで
す。試合がなくてもゼロなので、取れる時に
取らないとあまり儲からない仕組みになって
います。 
 これは日本にいた時でもそうだったのです
が、ジョシは全く点が取れなかったので、途
中から練習した日にジュース代の\150を渡
していました。ジュースを我慢すればお小遣
いを毎日少しづつ貯められる訳です。奴は
自分で水筒を用意して貯金していました。た
まにアイスを買っていましたが。 
 お陰で毎日練習する癖と貯金をする癖が
つきました。毎日練習するとお金を使う暇が
ないのでドンドン貯まっていくのです。こうし
て貯まったお金は、高額のスパイクやレプリ
カユニフォームをおネダリする時に何割か
負担するという交渉材料に使っています。決
して全額自分で出さないのですが、親がケ
チろうとする予算に加算することで欲しい物
を手に入れています。何かと出費がかさむ
サッカー少年のご父兄はお試しアレ。 
 一番点が取れそうもない試合で2ゴールで
きたことは大きな自信になりそうです。この
試合はホアン君の活躍で大勝しましたが、
ジョシのゴールはホアン君抜きなので評価で
きると思います。 
 次はまたボヘミオJrです。強い相手が続き
ます。今度こそ相手のエースストライカーと
の力比べに勝ってもらいたいものです。  
 





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こうやってプロを目指していく