アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチントッププロの加藤 友介

no60 アルゼンチントッププロ 加藤友介とジョシスランプ

  2007,6,17


 [先輩の活躍。]
 
 南米サッカーに詳しい人はご存知の方もい
らっしゃるかもしれません。今アルゼンチン
では現地で単身武者修行をしてトッププロに
なった日本人が活躍しています。
 名前は加藤友介。18歳で日本からやって
来て22歳になった今年、現在全国リーグ2部
に所属するの名門チーム“ウラカン”のFWと
して堂々とプレイしています。今年サテライト
から昇格したばかりなのでまだスタメンには
なれていませんが、重要な試合で決勝点を
挙げたこともあり、ただのベンチウォーマー
ではなくチームの戦力として期待されている
のを贔屓目無しで窺い知れます。
 何故2部リーグ所属なのに名門と呼ぶの
かというと、それはアルゼンチンリーグにお
ける伝統的な力関係によります。
 何度かご紹介したとおり、アルゼンチンリ
ーグの主役はボカとリーベルです。この2チ
ームは強力なライバル関係で、直接対決す
る試合はスタンドが常に超満員、TV中継も
有料放送のスーパークラシック(スーペルク
ラシコ)と呼ばれます。
 スーパーじゃない普通のクラシックは他に
もあります。ボカ、リーベルのライバル関係
に順ずるライバル同士なのが、ホームスタジ
アムが道路一本を隔てて隣り合っているイン
デペンディエンテとラシンです。
 これにもう1チーム、サンロレンソを加えた
5チームがアルゼンチンリーグにおいて抜き
ん出た優勝回数を誇り、五大チームとして
“ペンタゴナル”(五角形)と呼ばれ、それぞれ
の対戦はどの組み合わせでもクラシックとし
て、リーグ戦の順位に関係なく国民的な関心
事として注目されています。もちろんTV中継
は有料です。
 ちなみに、上記5チームの優勝回数にあと
一回で並べるところまで来ているのが息子・
ジョシが目指すベレスです。特にベレスの優
勝はここ20年ほどの間に頻発していて、近
年は実力的に他のペンタゴナルを差し置い
てボカ.リーベルに並ぶ三大チームと目され
ています。
 話を戻しますが、ペンタゴナル内ではボカ・
リーベル、インデペンディエンテ・ラシンとそ
れぞれライバル関係を築いていますが、た
だ1チーム、サンロレンソだけはクラシコで
対戦するライバルが存在しません。
 そのサンロレンソのライバルが現在2部と
低迷してしまっているウラカンなのです。日
本の野球でいえば巨人に対する阪神でしょ
うか?。リーグ戦の成績に関係なく伝統的な
ライバルだということです。日本で有名なア
ルゼンチン選手のモネールはウラカンのOB
でもあります。
 本来ペンタゴナルを向こうに回して張り合
わなければいけないウラカンなので、2部に
降格しても2部リーグでは注目の的です。TV
も2部では異例ともいえる全試合中継で、1
部リーグの中堅チーム同士の試合よりも各
メディアで大きく扱われています。
 他の2部リーグのチームにとってはウラカ
ンを負かせばハクがつくのでモチベーション
が高く、そのことで実力的に抜けているはず
の2部リーグにおけるウラカンの戦いが難し
い試合ばかりになっています。今期こそは昇
格確実との噂ではありますが、上位4チーム
が自動昇格するはずなのに、ウラカンは私
達がアルゼンチンに来て以来ずっと2部の
ままでした。
 もう一つ補足があります。近年アルゼンチ
ンリーグのタイトルを独占してきたボカは、昨
年の後期リーグでは元アルゼンチン代表の
ベロン率いるエストゥディアンテス(監督は元
代表キャプテンのシメオネ)と勝ち点が並
び、優勝決定戦に敗れてタイトルを逃してい
ます。
 今年は元横浜マリノス所属でJリーグ初代
得点王のラモン・ディアスが監督のサンロレ
ンソにリーグ戦の勝ち点で独走され、二期続
けてタイトルを逃しました。
 ボカの中盤には今年スペインリーグから復
帰したリケルメがいたのに…。いい気味で
す。
 さあ俄然注目のウラカン、そして加藤選手
ですが、私達ともほんの少し繋がりがありま
す。
 
 
 [ボールを隠すのがうまい選手。]
 
 もともと加藤選手はアルゼンチンの日系人
社会においてはちょっとした有名人でした。
昨年のオフも「日本人がウラカンのトップチ
ームに昇格した」というニュースは、日系人
同士でサッカーの話をする度に何度か耳に
挟んでおり、私達も「へー」とか、「ふーん」と
か、そういうリアクションをしていました。
 ここに来て急に話題として取り上げたのに
は理由があります。
 3月にアルヘンティノスJrs.のセレクション
を蹴って以来自己流の修練法を模索してい
たジョシは、ブエノスアイレス在住の日系人
が集まるフットサルコートを探し出し、オーナ
ーには「子供はお呼びじゃない」と断られた
ものの、従業員に取り入ってまんまと大人の
リーグ戦に飛び入りで参加をしています。
 ジョシが仲間に入れてもらっている大人の
日系人チームは、試合の時間にコートに行
っても時間にルーズで集まりが悪かったり試
合がなかなか始まらなかったりとダベッてば
かりなのですが、そのお喋りの時間にちょう
どウラカンの試合が中継されていて、加藤選
手が交代出場した瞬間に「ユウスケ・カトウ
だ!」と、試合を凝視しはじめたのです。
 前述のとおり私達も彼の存在は知っていま
した。同じ日系人同士だから応援しているの
かと思ったら、「アイツは、去年まで俺達と一
緒にここでやってたんだぜ」と言うではありま
せんか!。
 曰く、加藤選手は去年までサテライト所属
だったので週末は暇だったらしく、毎週この
日系人が集まるフットサルコートにやって来
てアマチュアのフットサルの試合にも出てい
たのだそうです。
 「俺達と一緒に試合に出ていたなんてラッ
キーやな」と言っていましたが、それが加藤
選手がラッキーなのか日系のオジサン達が
ラッキーなのかはよくわかりません。「だから
お前もラッキーだよな」というニュアンスを感
じるので、オジサン達がサッカー修行をする
若者達に幸運をもたらす存在であると言い
たげな気もします。
 この瞬間から急に身近になった加藤選
手。どんなプレイをするのかと尋ねたら「ボ
ールを隠すのがうまかったな。背は高かった
よ、ワシらよりも高かった」。
 173cmの私もオジサン達より背が高いの
で、本当はどれくらい高いのかは窺い知れ
ません。でも、ボールを隠すプレイという事
は懐が深いのでしょう。ここが重要です。
 ただ長身でリーチが長いだけではアルゼ
ンチンサッカーの肉弾戦で簡単にボールキ
ープできるわけがありません。ボールを隠
す、つまりタイトなマークをするDFの位置を
背中越しに察知してボールにチャレンジさせ
ないという事です。このプレイが得意だという
ことは腕の使い方がうまい。相手を近づけな
い、そして腕を触覚のように使って相手の動
きを捉える。そういうプレイなのだと思いま
す。
 フィジカルコンタクトでどうしても劣る日本人
選手が、技術よりもさらにフィジカルを押し出
すプレイが中心の2部リーグでプレイをする
という事を踏まえれば理に適ったことでしょ
う。
 そして何よりも、この場所からもプロの選
手が生み出された事。そういう環境でジョシ
もまた、自身のプレイをレベルアップさせる
べく修行をする機会を与えられている事。師
匠のマッシー旺史氏も「ジョシは運が強いか
ら大丈夫だ」と言ってくれていましたが、最近
は本当に引きが強いというか、サッカーに関
係があることだけは望外の運を引き寄せて
いるのを感じます。
 
 
 [調子が悪いのは何故か。]
 
 肝心の大人の試合ですが、ジョシは今のと
ころ通用していません。そもそも“ハポネス
(日本人)”が“サッカーが下手な野郎”の代
名詞だったのは過去の事になりつつありま
す。それは南米に入植した日系一世達(私
達もこのまま定着すれば日系一世ですが)
や、サッカーに興味がない親達の中で育っ
た二世達のことです。
 南米各地の生活習慣に同化している日系
二世や三世達は、当地の一般的な人達と同
じようにサッカーが大好きで、技術的にも何
ら変わりがありません。そのことは、この日
系人のフットサルコートとコベルのフットサル
コートで様々な人種の大人達とプレイしてい
るジョシは肌で感じています。
 ジョシが通用していない理由はただ相手が
大人だからだというだけではありません。子
供同士の時よりレベルが高いのは当たり前
なのですが、実のところトップフォームのジョ
シはたいていの大人が相手でも互角にはで
きます。通用していないのは明らかにトップ
フォームではないからです。
 本人にも心当たりがあるといいます。それ
は、スポーツ専門校に進学できずに学力を
優先しているバイリンガルスクールに進学し
たせいでもあるとのことです。
 昨年まではこちらの学制で小学生だったた
め、休み時間も多くていつも学校でサッカー
をしていました。それが進学してみるとカリキ
ュラムがキツくてあまり外で遊べなくなりまし
た。小学校と校庭を共有しているので、狭い
校庭を使って外で遊ぶのは小学生が優先な
のだそうです。
 こういう部分はジョシに限らず、この年代の
アルゼンチンの少年達にはだいたい当ては
まることでしょう。小さい頃から夢見ていたサ
ッカー選手を本気で目指していくのか、それ
とも現実的な進路を選んでいくのか。進学と
ともに夢の形を変えていく年齢なのです。
 コベルのリーグ戦でもジョシは調子を落と
しています。最後のレポートから3試合消化
しましたが、ジョシは全試合で先発して先制
点を挙げているものの、ゴール数はいづれ
も1点のみ。先の2試合でハットトリックをし
ていたおかげで総ゴール数が10となってラン
キングは3位。コベルU-13/14は2位、クラ
ブの総合順位も2位です。全体的にはそう悪
くはないのですが、昨年よりも有利な状況で
この程度の出来では先がありません。
 こうも調子を崩している理由。ジョシは対人
プレイの減少を挙げていますが、要因として
は確かにそうであっても具体的には少し違
います。本人は今の自分を評して「これじゃ
あデカくて鈍い普通の奴と一緒だ」と言って
います。瞬発力に欠け、ボールが足につか
ないのです。
 不調の原因は、ずっとジョシのプレイを見
続けていた私にはハッキリわかりますし、家
や公園でやっている毎日の練習でも兆しを
感じていました。原因は腰高、重心位置が
高いのです。
 ジョシはサッカーをはじめた頃から腰高
で、何度注意しても意識が散漫で歩幅を広
げて重心を落とす姿勢が維持できませんで
した。二軸動作やジンガを覚えていく過程
で、集中力が高まる勝負どころでは相撲取
りのように自然に腰を落として踏ん張るので
すが、やはり独りで練習する時は散漫でた
だこなすだけになっています。勝負どころで
自然に重心が落ちるのだからと黙認してい
ましたが、普段の練習の手抜きがこういう形
で出てしまうのです。
 結局このレポートで動画を撮影したのが役
に立ちました。私のイメージの中にしか存在
していなかったトップフォームのジョシは、沢
山の映像としてパソコンに残っているので
す。百聞は一見に如かず。さすがにあまりい
うことを聞かないジョシも今回はハッキリ自
覚できたようです。
 来週からはトップフォームのジョシが、手強
い南米育ちの大人達と互角にやりあう姿を
動画とともにレポートできると思います。 



no72  ジョシのセレクション。と 加藤 友介 選手(所属チームのウラカン)

 2007,12

 〔アルゼンチントッププロの実力。]  

 息子・ジョシがべレス サルスフィエルドの
セレクションを受けるまであと一週間。大き
な懸念項目の一つである天気も、アテにな
らないけれど予報は晴れ。体調も今のとこ
ろ万全。 サッカーもこれまで大人相手の
試合では連戦連敗で、点を取っても1点止
まりで取ったり取れなかったりしていたのが
先日の試合では遂にハットトリックと1アシ
ストでチームも6対1の大勝。
 今や大人相手でも互角以上にやれる実
力が備わっています。 ユースのセレクショ
ンには一度受かっているとはいえ、あの時
はユース立ち上げのタイミングで受験者の
レベルも玉石混交。
 今度のセレクションはビッグクラブなうえ
に既に合格している選手を引き摺り下ろさ
ないと受からないのですから、レギュラー選
手と互角以上の力が求められるわけです。
  ではそのユース選手の実力とは?。
 ユースをクビになった選手ならコベルにも
流れて来るのでだいたい把握できています
が、生き残り続ける選手の実力は知れませ
ん。でも考えてみたらその辺りを良く知って
いる人が身近にいるんです。
 それは大人の日系人チーム“キャピタル”
のオジサン達。 彼等は日本代表の高原に
続く史上二人目のアルゼンチントッププロ・
加藤友介選手(所属チームのウラカンはア
ルゼンチンリーグにおける主要クラブの一
つ。特にビッグ5のサンロレンソとはライバ
ル関係にあり、本来は一部リーグの上位に
名を連ねてもおかしくないのですが、ここ三
年ほど二部リーグで苦戦を続け、今年やっ
と一部に返り咲いた)のチームメイトでもあ
ったのですから、プロになる選手の実力は
よく知っているはずです。
 早速加藤選手がどれほどの実力だった
のか改めて詳しく尋ねてみました。 
 答えてくれたのは先週の動画でも紹介し
たカンバラさんです。 
 「加藤君はウラカンのユース選手達とチー
ムをつくって日系人リーグに参戦していたん
だ。俺達のキャピタルは欠員が多くていつ
も他所のチームから助っ人を呼ぶんだけ
ど、スケジュールが重ならなければいつも
加藤君に頼んでいた」。 
 「加藤君のチームには加藤君よりも巧くて
背が低い選手がいたんだ。でも彼はボール
を獲られても追わないから、もっとパワーが
あって負けん気が強い加藤君の方が良か
った」。 
 「その背が低い選手は巧いといっても俺
達大人の中では信じられないほどのことで
はなかった。アルゼンチンなら何所のコート
に行っても何人かいる実力者と同程度。加
藤君は技術ではそういう連中には敵わなか
ったから、今年になって一軍に登録された
時は本当にびっくりしたんだ」。 
 「サッカーはフットサルよりスペースがあっ
て守り方も違うし足元の技術だけじゃない
からね。それと加藤君は負けん気とボール
を隠す(相手選手の間にに身体を入れる技
術)のは上手かった」。  
 
  [加藤選手の歩んだ道。]  
 加藤選手が出ている試合は私も何度か
見ました。身長は公称で 176cmとあります
が、確かもう少し低くて 170前半だったと思
います。私の見た試合では途中出場でコレ
といった 見せ場もなく、ボールを隠す技術
も腕の使い方がまだまたでした。実際チー
ムが一部に昇格した時の初戦で交代出場
して以来ベンチに入ることもなく、一軍で練
習しながらサテライトの試合に出ている状
況です。 トップ昇格に合わせてFWを補強
した影響も大きく現在は6〜7番手の選手
ですが、去年二部でデビューしたばかりの
選手ですからいきなりトップでやっていくの
は無理があります。彼のためにはもう一年
二部でやってから昇格した方が良かったの
かもしれません。 それとチームが一部昇
格した直後のオフで帰国した際にJリーグ
からオファーがあったらしく、交渉は金銭面
で折り合わずに流れたものの、その間にメ
キシコ・カンクーンで行われた強化合宿に
合流できなかったために構想外になってし
まったとの噂も現地で囁かれています。 
 それでもチームは今年彼と二年契約を結
んだので、頑張りと上達次第ではもちろん
これからも可能性はあります。 
 加藤選手のコメントです。
  「僕は裏にボールが抜けてきたらある程
度はできるんですけど、今はまだまだ下っ
端です。やっぱり今の段階でレギュラーに
行くのは難しいと思うので、途中出場した時
に何かできるようにならないといけないで
す。厳しい状況ですけど、それはどこに行っ
ても当たり前なので、僕はもっとうまくなれる
ように努力していくだけです」。 
 さてこの加藤選手、初めてアルゼンチン
に来たのは 14歳で中二の春休みのだった
そうです。ウラカンのU-14の練習に二ヶ月
参加してすっかりアルゼンチンサッカーに
魅了され、帰国の途に着く時には既に高校
を卒業したら再びアルゼンチンの地を踏む
決意を固めていたといいます。 
 2004年の4月、18歳で再びウラカンの門
を叩いた彼はU-18の練習生からスタート。
 一年後にU-20の選手として登録され、昨
年の 10月にU-20の紅白戦でハットトリック
したのをキッカケに 一軍昇格を果たしたの
でした。 彼が今ジョシが参戦している日系
人リーグに参加していたのもちょうどこの年
のオフだったようです。  
  
 [プロにならないテクニシャン達。]  
 加藤選手のエピソードや現状を踏まえる
と、どうやらアルゼンチンでプロになれるか
どうかの物差しは、市井のアルゼンチン人
達とのプレイにもあるようです。
  トッププロになった加藤選手以上の技術
を持つ人間はプロでなくても存在し、しかも
私の知る限りでもその域に達しているアマ
チュア選手は多くはないものの何所にでも
います。これは多いという意味でも捉えられ
ますが、皆ではないし普通でもありません。
 要するにプロ顔負けのテクニシャンとやり
合うチャンスはプロサッカーではなくても存
在しますし、その域に至らないまでも日々プ
ロの試合に近いレベルでプレイしている人
間が大勢いるのがアルゼンチンなのです。
 また別の視点から、プロ顔負けの技術を
持つ彼等はどうしてプロにならないのか。
 ウラカンユースにいた加藤選手のチーム
メイトも、加藤選手以上の技術がありながら
二部リーグの試合にすら出れなかったので
すから、技術だけの要素ではアルゼンチン
代表クラスでもない限りサッカーで活かしき
れるものではないのでしょう。 
 二部以下の地方リーグ辺りまでステージ
を落としていけばテクニシャンとしてやって
いけるのかもしれませんが、トッププロの加
藤選手ですら給料は日本でフリーターをや
る程度だということですから、とても生活を
かけるわけにはいきません。
 そうなると現実的な路線として趣味の範囲
でプレイして小遣いが貰えるコートのオフィ
シャルチームの方が楽なのだと思います。
  人数は多くないにしても珍しくない程度
には何所にでもテクニシャンがいるのです
から、プロとしてそのテクニックを売り物に
するにしてもやはりハードルは依然として高
いのです。
 またそういう選手がアマチュアとしてレクレ
ーションプレイヤーとやり合うのだから一般
プレイヤーの底上げも顕著となり、その環
境で少年サッカーを卒業した十代のプレイ
ヤーも育っていくのです(ジョシは 13の時か
ら大 人に混ざっており、これは異例のこと
です。大人のカテゴリーにも年齢制限があ
って、一般的には 18歳以上でないと参加で
きません)。 

  [ジンガが必須。]  

 ある意味私は少し安心しました。ジョシと
一緒に練習しているコベルのオフィシャル
チーム“ラ エストレジャ”にも五・六人ほど手
のつけられないアマチュア選手がおり、 ア
ルゼンチンではそのレベルを超えないとユ
ースとはいえプロの端くれにもなれないので
はと思っていたのです。
 そしてまた、彼等のスーパープレイをビデ
オに捉えようと構える私に決定的な瞬間を
撮らせない強力なDFも存在し、どうすれば
それらの全てを凌駕できるのか暗中模索し
ていました。
  プロになるための技術的な下限がハッ
キリ見えてきましたし、足元の技術以外でも
サッカーで活躍できる要素は数多くあり、そ
こを売り物にする方法もあるのだと。
 さらにいえば、例えば加藤選手はトッププ
ロになったとはいえ技術的に上達する余地
が多分にあり、そこを高められれば更なる
飛躍もあることでしょう。 
 これはジョシにも、また先週から募集を始
めた当家に下宿する人にもいえます。
 アルゼンチンサッカーは技術だけで敵うも
のではありません。だから他の要素、つまり
は際立った特長も必要です。
 そしてまたアルゼンチンでやっていくには
水準以上の技術もやはり必要なのです。
 私はその水準以上の技術をウェーブとジ
ンガに求めています。
 何故なら、これまで私が出会ったテクニシ
ャン達は概ね天然のジンガを持つ者ばかり
です。  



no81 アルゼンチントッププロの加藤 友介さんのインタビュー

 2008、2、23

[遂にトッププロと。]
 
 アルゼンチンプロサッカートップリーグの
日本人第一号選手は言わずと知れた高原
選手でした。
 彼の場合年代別代表の中心選手として注
目を集め続けていたので、あの当時ならど
この国だろうと望めばトップリーグの選手に
なれていたでしょうから歴史的な快挙という
わけではありません。
 ですがユースから下積みを重ねてトップに
昇格した例となると、アルゼンチンに限らず
日本人全体でも大変珍しいことです。アル
ゼンチンリーグでこの快挙を最初に成し遂
げたのが御存知ウラカン所属の加藤 友介
選手です。
 私達は日系人フットサルリーグで加藤選
手の足跡に触れて以来、やはり同胞の成功
者という意味でも身近な目標として意識する
ようになっていました。
 その加藤選手との繋がりは意外にも私達
が思っていた以上に身近であり、実は当人
同士会ったことがないだけで共通の知り合
いばかりなのです。
 その一人が毎月家賃を納めている不動産
屋のオヤジさんでした。特にこの不動産屋
は家賃の納入日が重なるので「さっき加藤
君も家賃を払いに来ていたよ」というぐら
い、まるで「足長おじさん」のようにニアミス
が頻発していたのです。ちなみにこの不動
産屋さんは高原選手にも物件を紹介したと
のことです(物凄い高級物件ですが)。
 さて、我々は先日遂に加藤選手の電話番
号を入手し、息子のチーム選びの相談やア
ルゼンチンサッカーについて三十分ほどお
話しすることができました。今回はその模様
を中心にレポートします。
 今のこの時期はアルゼンチンが国ぐるみ
で満喫しているバケーションシーズンであ
り、またプロサッカー選手を目指す青少年
達にはセレクションシーズンでもあります。 
 私達は連日プロクラブに電話をかけて情
報収集をしたり、僅かな知人を頼りにコネを
手繰る活動を繰り広げています。
 実のところセレクションのシーズンであって
もクラブもまたバケーションシーズンであり、
電話をかけてもほとんど担当者不在か電話
すら取ってもらえない始末で、自分で情報収
集しようとしてもそれほど捗らないのです。
 加藤選手が所属しているウラカンも電話
に出てくれないクラブの一つでした。そこで
思いついたのが顔の広い不動産屋さんで
す。知り合った頃からボカやウラカンに知り
合いがいると言っていたので「セレクション
の情報集めに協力してほしい」と申し出る
と、「ウラカンのことなら加藤君に聞いてみ
たら?」といきなり電話番号を教えてくれまし
た。
 そんなの勝手に教えて良いのかよとも思
いましたが、加藤選手も私達と同じように日
系人社会に支えられながらやってきている
のだと想えば、縁者の紹介で突然電話がか
かってきても嫌な顔をすることもないのでし
ょう。
 私にも時々そういった電話がかかってきた
り、また日本からもメールが届くことがありま
すが、要するに当事者の態度が一番重要な
ので紹介した縁者を恨むようなことはありま
せん。願わくば紹介者の顔を潰さないように
振舞ううえで人の輪が広がっていくのが最も
喜ばしいことなのです。
 
 
 [14歳でもエージェント。]
 
 加藤選手への気まずい第一声は「不動産
屋さんに御紹介いただきました」。
 「ああ、そうでしたか。どんな御用事でしょ
うか?」。インターネットのインタビューでも
大変気さくな青年だと書いてありましたが、
まさしくそのとおりの感じです。
 「実はこちらに連れて来ている 14歳の息
子にウラカンのセレクションを受けさせたい
のですが、この時期はどこのクラブも同じで
ウラカンの事務所も全く電話が繋がらない
んです。どうにかして連絡をとる方法を教え
ていただけないでしょうか?」。
 要するに私の一番の用事はコレですか
ら、他の話もしたいけれど、まずは“どうして
電話をかけてきたのか”という自然な理由が
伝わらないと迷惑な話でしかありません。
 「それでしたらユースの総監督の連絡先を
お教えします。僕もずっとお世話になってい
て今でも毎日会いますから、一応僕からも
話を通しておきます」。
 二つ返事とはかえって拍子抜けです。どう
やら噂に違わぬ好青年のようです。そして
更に親身なアドバイスをしてくれました。
 「でもですねェ、セレクションでチームに入
るのはあんまり現実的ではありませんよ。セ
レクションはとにかく人数が多いから相当目
立たなきゃ無理です。ウラカンは去年まで二
部リーグだったからそうでもなかったんです
けれど、一部になった今年は今までの何倍
もセレクションに集まっています。結局今い
る選手の誰かがクビにならなきゃ新しい選
手が入れないし、その誰かも以前セレクショ
ンに受かっている実力なんですから」。
 「僕の時は一年間未登録のまま練習生と
して正規の選手達と練習させてもらいまし
た。一年もかかったのは選手登録の時期を
逃したからですが、練習に参加するだけで
もかなり上達できましたよ。マラドーナじゃな
いんだから、やっぱり周りの選手も良くない
と良いプレイが出来ないじゃないですか。そ
ういう意味でも練習生から登録されるのを
目指す方が良いと思います」。
 「それと、今はエージェントが必要です。僕
がこうしてウラカンに居られるのはエージェ
ントの力が占めている部分も大きいんです。
実際に僕の周りにもエージェントのおかげで
プロになれたって言う選手もいます。14歳で
まだユースに入っていない段階でも、そのユ
ースに入るためにもエージェントが必要なん
です」。
 これは意外。サッカービジネスがそこまで
進んでいるとは。加藤選手の場合は練習生
になる時もエージェントの働きがあったとい
います。元プロ選手のセバスチャンの話で
も金とコネが占める割合が大きいと聞いて
いましたが、今はその窓口がエージェントと
いうことなのでしょう。
 この話は後日知人の日系実業家にも相談
しましたが、「金は重要だけれども、いきなり
金の話をすると足元を見られてしまう。好意
で動いてくれる人間がいるならなるべく金を
絡ませない方が良い」と言われました。
 要するに金よりもコネが優先であるわけで
す。人の繋がりで事を成せば無償で動いた
人間にも必ず見返りがあり、それが人の輪
を広げる結果になるのだと。金で動く人間は
金だけの繋がりで、その人間によって広が
る輪も金が目当てだということです。
 想えばこちらで私達に手を貸してくれた人
は皆無償で動いてくれました。金で人を動か
すのは手っ取り早いのですが、金で動く人
間にはあまり感謝の気持ちも湧かないわけ
で、それでは親密な関係は築けません。何
をするにしても金がかかれば相応の金額を
払うのは当然だとしても、それは金で人が
動くかどうかとは別のことです。
 この見分けは文化や習慣が違う外国では
大変難しいのですが、ここを見紛うと一度崩
れた信頼関係はなかなか回復できません。
だからこそ当地ではコネが最優先であり、
信頼できる人間の繋がりなら相手を疑わな
いというのも流儀なのです。日本には“買い
手良し、世間良し、売り手良し”の「三方良し
の習慣」があるのですが海外ではそうなって
いない面も多いので、今後このエージェント
探しの問題が浮上する時には新たな悩みと
なることでしょう。
 
 
 [南米のプロから見た日本サッカー。]
 
 せっかく加藤選手とお話をする機会を得た
ことですし、少し前振りして別の話題にも乗
ってほしいところです。
 「実は息子は日系人のフットサルリーグに
も混ぜてもらっているのですが、この間そこ
でちょうどウラカンの(一部リーグと二部リー
グの)入れ替え戦を TVで観ている時に、日
系のオジサン達が“ユースケ カトウが出て
るぞ!”って言い始めたんです。やけに熱心
なので知り合いなのかと尋ねると、加藤選
手はこのオジサン達の助っ人として何度も
一緒にプレイしていたと聞かされました」。
 「ああ、はい。あの頃仲間を集めて日系人
のリーグ戦に出ていたんですよ」。
 「そこで少し教えて欲しいのですが、オジ
サン達は加藤選手が“ボールを隠すのが上
手かった”と言っていました。やっぱり身体
を入れたり手を使ったりしていたんです
か?」。
 「あの頃は自分に足りないものが何かと考
えていて、特に激しい当りの中でボールを取
られないようにする工夫に取り組んでいたん
です。ボールを隠すっていうのはドリブルの
時じゃなくてトラップの時にやっていました。
身体でボールを隠すのもそうなんですが、ど
うしてもボールに集中すると視野が狭くなる
ので腕はセンサーのつもりで使っていました
し、もちろんそのまま腕で押したりもしていま
した。とにかく腕は重要ですよね」。
 さすがにアルゼンチンのトップリーグにま
で這い上がってきただけあって、自分で問
題点を見据えて答えを模索する作業を繰り
返してきたようです。
 「アルゼンチンでは普通のオジサンでもブ
チかましてきますからね。そんなアルゼンチ
ンリーグを経験した今の加藤選手の感覚か
らすると、日本のサッカーに対する見方は
変わりましたか?」。
 「それは勿論変わりました。僕はここでも 
Jリーグや日本代表の試合を時々観ていま
すが、もう全然違いますよね」。
 「例えばこの間のクラブ W杯で三位になっ
た浦和レッズなんかは、アルゼンチンリーグ
に参戦したらどの程度やれると思います
か?」。
 「たぶん試合には勝てないでしょうね。攻
めの怖さも守りの間合いや厳しさも全然足
りませんから。それと僕が一番気になるの
は 5番(アルゼンチンサッカーにおけるボラ
ンチ)の動きです。」
 「え?、今日本のサッカーはボランチに一
番タレントが集中していてポジション争いが
激しいんですが、それでもボランチは物足り
ませんか?」。
 「代表に選ばれている選手でもボールの
貰い方とかが悪くて、そのせいで後ろからの
組み立ても上手くいかないんです。TVゲー
ムのように決められたポジションに立ってい
るだけで、DFラインから早くボールが入るよ
うに動いていない。やっぱり 5番の出来は
重要ですよ」。
 私も DFラインからの組み立てのマズさが
気になっていましたが、その責任が当の DF
達ではなくてボランチのポジショニングにも
あるというのは新しい角度の見方です。
 そういえば“サッカーは“思いやりのスポー
ツである”という言葉をどこかで聞いたのを
思い出しました。息子・ジョシにはこれまでゴ
ール数に拘らせてゴールに直結するポジシ
ョニングばかり考えていました。それはそれ
で成立するとしても、ある意味チームのため
という感覚が欠けていたような気もします。
つまりゴールに直結するポジショニングとい
うのもまた TVゲーム的なのです。
 これまではその TVゲーム的なポジショニ
ングを成立させるためにトラップの精度を上
げたりマークの外し方を工夫してきました
が、肝心のパスが来なければセレクションで
も試合でもアピールのしようがありません。
セレクション対策のためにジョシにはセカン
ドトップ調にプレイするように指示しているの
ですが、これからはもう少し突っ込んだ「思
いやりのあるポジショニング」という部分を
考えてみようと思います。
 
 
 [ジンガへの誘い。]
 
 ところで私が加藤選手と話たかったことは
他にもあります。それはジンガです。彼のプ
レイを見たところどうやらこの技術に関する
認識がないようで、私としてはある意味彼の
プレイを広げるためにも必要なのではない
かと感じていました。
 当地ではジンガステップは上級者ならかな
りの割合で身につけており、この技術の有
無はキープ力で格段の違いを生みます。そ
してジンガは天然物と捉えられているので、
あえて身につけようとするプレイヤーもいな
いのです。
 トッププレイヤーに技術の話をするのは気
が引けるのですが、何とか当たり障りのな
い形で切り出したいものです。
 「加藤選手はパソコンを持っています
か?」。
 「あー、パソコンは持っているけど通信速
度が遅くて動画はほとんど見られないんで
すよ」。
 「じゃあ日本でリフティング王と呼ばれてい
て、TVやDVDでジンガを広める活動をして
いる土屋健二という人はご存じないです
か?」。
 「知らないですね。ジンガって何です
か?」。
 「南米の選手がボールキープしながらチョ
コチョコボールを動かす技術です」。
 「ああ、アレですね」。
 「実は息子は日本にいた頃普通のチーム
で補欠にしかなれなかったんです。それが
ジンガを覚えたらアルゼンチンの同年代の
子供達とも互角にやれるようになりました。
私は土屋さんの hpでサッカーをやっている
アルゼンチンの子供達のプレイや環境を紹
介するレポートを書いていて、加藤選手のこ
とも日系人のオジサン達の繋がりで書いた
ことがあるんです。差し出がましいようで恐
縮ですが、その土屋さんの DVDを是非加藤
選手にも見てもらいたいと思っています」。
 「是非。僕もどんなものか見てみたいで
す」。
 いや、本当に気さくな青年です。こういった
展開で、後日加藤選手にはリフティング王
の DVDを見てもらうことになりました。
 願わくば私達と同じようにリフティング王の
技術に魅せられて、その技術の習得に取り
組んで欲しい。加藤選手の現状からするとト
ップリーグ所属とはいえベンチ入りも叶わな
い状況なので、このままではろくにチャンス
も得られないまま埋もれてしまうかもしれま
せん。
 そういえば昨期のウラカンの監督はアル
ディレスでした。Jリーグを経験した監督だけ
に日本人選手には目をかけてくれそうなも
のですが、そこのところを聞いてみると「ア
ルディレスは日本人嫌いかもしれませんね」
と言われました。
 「Jリーグの監督をやれば日本人選手がど
んなものかわかっているんでしょう。“日本
人なんかに出来るわけない”って思われて
いる感じでした。もちろん日本に行っていた
から日本人として普通に話をしてくれました
が、目をかけてもらえる感じではなかったで
す。でも今期はもうアルディレスじゃないんで
すよ」。 
 加藤選手は今シーズン開幕以来2試合で
ベンチ入り無しではありますが、プレシーズ
ンマッチではゴールを挙げています。何もか
もが通用しないわけではないのです。更なる
レベルアップとチャンスを掴むために、頑張
れ加藤選手!。





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こうやってプロを目指していく