アルゼンチン サッカー少年たちの今


アルゼンチンレポート その11

アルゼンチンのサッカー事情 その1
2014.6,10

 [アルゼンチンは獲れるか?]


 何年か間隔を置いて再開したこの「アルゼ
ンチン(で学んだ)サッカーレポート」ですが、
このタイトルの微変には狙いがあります。こ
の空白期間を経てからの再開にあたって、
以前のように常にジョシのサッカーに立ち会
ってリアルタイムでお伝えしていくには無理
があるので、そういう部分は縦軸として、横
軸はむしろ積極的に脱線して、アルゼンサッ
カー界の諸事情や技術、戦術論等を南米サ
ッカーの特色を踏まえて書いていこうと考え
ています。



 今回は最近事情が変わってきたアルゼン
チンのプロリーグの諸事情についてお伝え
し、加えてアルゼンチン代表の W杯展望を
レポートします。


 [立ち直ったアルゼンチンリーグ]


 アルゼンチンサッカー界は今ちょっとした
バブルで(実体経済はインフレで再破たん寸
前なのに)、ジョシがコムニカシオネスを辞
めた当時のような財政難のクラブが少なくな
っています。それは、現大統領が人気稼ぎ
のために公金をプロサッカーリーグの助成
金に大量投入しているからです。


 まず 1部リーグの試合は全試合を地上波
で完全生中継しています。私達がアルゼン
チンに来た当初は金融破たんの影響が色
濃く、視聴率が見込める 5大クラブの試合
は全てのカードで有料放送でした。政府はこ
の放映権を買い取ってスケジュールを調整
し、ほとんどの試合時間が重ならないように
して全試合生中継を達成したのです。

 この結果全てのクラブに満遍なく広告収入
が入るようになり、当時横行していた選手へ
の給与不払いが雲散霧消しました。クラブ
の収入が増えたので金融上の融通も利くよ
うになったのでしょう、身売りを模索していた
クラブも大方立ち直ったようです。

 試合の生中継は 1部のクラブだけでなく、
2部でも主要クラブの試合は生中継されて
います。これも以前は有料放送だったので、
地上波の無料放送となって 2部のクラブで
も以前より格段に多額の広告収入が見込め
るようになりました。今アルゼンチンでは週
末ならどの時間でもサッカーの試合が生中
継されているのです。


 私の前歴は広告業界専門紙誌の編集記
者で、マスコミ自体が購読料や視聴料よりも
広告費で成り立っているのをよく知っている
つもりです。この観点からいけばプロスポー
ツ界も観戦料やクラブの会費を運営基盤に
するより放映権と広告費で稼ぐ方が手っ取
り早く、実際にオリンピックや W杯がビッグ
ビジネスになったのは放映権と広告費によ
るものです。


 日本だって、日本のプロスポーツ界で最も
成功しているのは読売ジャイアンツで、かつ
ては全国ネットでナイターが観れるのはジャ
イアンツだけだったのです。その読売が Jリ
ーグでも企業名を前面に出すことを要求し、
それが叶わないためにベルディから撤退し
た結果、当時日本一のクラブだったベルディ
の弱体化を招きました。


 アルゼンチンでは、かつて貧乏人のクラブ
と呼ばれていたボカが財政面で No.1のクラ
ブに変貌し、一方ライバルで金持ちクラブと
呼ばれていたリーベルが資金繰りが苦しくな
っています。この逆転現象を招いたのはサ
ポーター数の差で、サポーター数 = 試合の
視聴率という位置づけで広告料に差がつい
たのです。


 現アルゼンチン大統領はクリスティーナ フ
ェルナンデス キルチネルという、軍事政権
下ではゲリラ活動をしていた女性で、私に悪
口を書かせればいくらでも書ける最悪の政
治家です。しかしこのスポーツクラブの救済
措置だけはなかなか見事だと思います。ま
ァ、それにしたって財源がどうなっているの
かわかったものではありませんが。


 [ビッグクラブだけが弱くなった]

 選手の年俸も財政難の頃とは異って高騰
しており、この前までヨーロッパで活躍してい
た一流選手達(トレゼゲ、カモラネージといっ
た欧州の国に帰化して W杯を獲った選手ま
で)が十分納得できる金額を払っています。
昨今はキャリアの終わりに一花咲かせよう
と、余力を十分残した状態で続々と帰ってき
ているのです。


 その高騰ぶりは驚くことに、2部リーグの
最低年俸であっても Jリーグと同等です。為
替と実態経済でいけば一般人の収入が日
本の 10分の 1なのですから、感覚的には
最低年俸が 5,000万円相当です(といっても
最低年俸の選手が新車のベンツを買えるわ
けがなく、アルゼンチンではカローラやシビ
ックが高級車なのですが…)。

 だから、今までは少し活躍すると払いの良
い国にどんどん売られていた選手達がアル
ゼンチンに留まるようになり、今まで中堅・
格下だったクラブがボカやリーベルに見劣り
しない戦力を揃え、互角以上に戦っていま
す。


 変わって苦しくなったのが元々広告収入が
多かったビッグクラブです。他のクラブが豊
かになってもこちらは収入が激増したわけで
はないので、相対的には戦力ダウンしてしま
いました。


 実際毎年何らかのタイトルを獲っていたボ
カは首位争いすらできなくなり、リーベルは 
100年以上の歴史の中で初めて 2部に降格
しました。5大クラブの他にはロサリオ セン
トラルやヒムナシア ラプラタといった、5大ク
ラブに準ずるビッグクラブが次々に降格しま
した(リーベルのアルメイダ、ヒムナシアのギ
ジェルモは、出身クラブの降格を喰い止める
ために引退を返上して参戦したのですが、
それでも落ちたのです)。その他のビッグク
ラブも毎年のようどこかがリーグ下位に低迷
し、降格が危ぶまれています。


 2部では圧倒的な戦力でカムバックするは
ずのビッグクラブのなかで、1年で復帰でき
たのはリーベルだけです。そのリーベルも含
めて 2部であってもそれぞれ大苦戦して、な
かなか勝ち点が増やせません。


 今年はインデペンディエンテが 2部落ちし
(リーベルと同様に初降格)、優勝争いに絡
めずカムバックは微妙です。


 インデペンディエンテの No.10はモンテネ
グロという選手で、MFでありながら調子の良
いシーズンは得点王争いをする程攻撃セン
スに優れ、南アフリカ W杯の代表チームで
はメッシ、ベロンと並んでマラドーナがNo.10
候補に挙げていた選手です。


 同じインデペンディエンテのNo.10だったア
グエロの当時の活躍ぶりから考えれば、ア
グエロよりも上の選手といえなくもありませ
ん。その彼がいても降格を喰い止められな
かったばかりか、2部でも苦しんでいるという
のが今のアルゼンチンリーグの状況なので
す。

 このように 2部にもビッグクラブが幾つか
あるばかりでなく、そのビッグクラブに対抗で
きるクラブも 2部にウヨウヨしていて、この前
まで 1部にいたクラブが簡単に 3部まで落
ちているのです。1部から 3部に急降下する
現象は以前からあったのですが、それまで
は財政難からくる戦力低下を立て直せない
ケースばかりでした。今は生半可な戦力で
は 2部でも歯が立ちません。


 そればかりか、2部からトップ昇格したクラ
ブが毎年のように 1部で優勝争いをしてい
て、ここ数年は今まで一度も優勝したことの
ない中堅クラブが次々と優勝するという現象
が起こっています。


 こうなると戦力的にまとまっているチームな
ら、3部でもトップリーグの中堅以下のクラブ
とならあまり変わらない感じです。



アルゼンチンのサッカー事情 その2
2014.6.10

[アルゼンチンに名監督なし]

  
 群雄割拠で優勝争いの行方が分からず、
観る側には面白いリーグになってきました。
しかも、今まで出て行ったら二度と帰ってこ
なかった一流選手達がそろい踏みしてお
り、見どころのあるカードが目白押しで試合
の中継から目が離せません。ところが現地
のサッカー選手達には少し困った状況にな
りつつあります。 

 というのも、アグエロの世代までは有力選
手が次々に売り飛ばされていたので、有望
な若手がユースから飛び級でトップデビュー
する機会も多かったのですが、今は脂が乗
った選手達が国内に留まっているので、若
手の出場機会が減っているのです。 

 この結果、実戦経験と実績に乏しい若手
選手ばかりとなり、先のロンドンオリンピック
も U-20Wユースもアルゼンチンは出場権
すら獲れませんでした。今アルゼンチンの
若手で世界的に注目を浴びている選手は
ほぼ皆無で、若干の選手が欧州移籍して
はいるものの、活躍しているわけではありま
せん。 

 もちろんこの現象は人材的にコマが揃わ
ないタイミングだったり、欧州市場が縮小し
てしまったことも原因ではありますが、現実
的に将来の代表候補とか、マラドーナ二世
といわれるような活躍をしている若手がア
ルゼンリーグにいないのは確かです。 

 アルゼンチンリーグが群雄割拠というか、
グチャグチャな潰し合いをやっている理由
は他にもあり、実はこっちのほうが深刻な
問題です。 

 欧州リーグで実績のあるアルゼンチン人
監督って、皆さんは思い当たりますか?。
ほんの最近はシメオネとかバルサのマルテ
ィノとかがいるのかもしれませんが、Jリー
グでもブラジル人の名監督がいるのに、ア
ルゼンチン人はあまり思いつきませんよ
ね。それもそのはずです。アルゼンチンに
は常勝チームをつくれるような名監督がい
ないのです。 

 アルゼンチンサッカーには攻撃の形がな
く、安定した強さを発揮するチームはほとん
どありません。その証拠に私がアルゼンチ
ンに来て 8年になるのですが、2シーズン
制の中で連続優勝したクラブがないし、得
点王争いもほぼ毎年顔ぶれが違います。 

 だから、チームによってそれなりに攻撃の
形のある(中心選手にボールが集まる)Jリ
ーグの上位クラブの試合を観慣れると、ア
ルゼンチンリーグはパスの行方が行き当た
りばったりで(中心選手にボールが集まらな
いので凡ミスが多く、守備の薄い所を突か
ないのでパスが繋がらない)、何をしたいの
かサッパリわからずイライラします。Jリーグ
の方もボールポゼッション志向が強すぎて
展開が遅いからイライラしますけれども
ね。 

 きっと Jリーグはブラジルっぽいサッカー
をやっているのでしょう。要所要所にそれな
りのタレントがいるブラジルのビッグクラブ
だと繋いで崩す展開はアリでしょうけれど、
Jリーグだと攻撃のペースアップがあまりな
くて鋭いパスが入っていかないから崩せて
いないし、繋ぎも危うくてカッタルイ印象があ
ります。 

 Jリーグの悪口は別の機会にとっておい
て、今回はアルゼンチンです。いつも書いて
いるように攻撃の選手がパスを嫌ってドリブ
ルばかりしているのだから攻撃に形がない
のは当然なのですが、誰が監督でもそうな
るというのは戦術がない証拠です。 

 ここで一味違うのはベロンがいるエストゥ
ディアンテスです。ベロンが試合に出ている
と極端に強く、このクラブだけはベロンが欧
州リーグから復帰して以来安定して上位の
成績を残しています。 

 ベロンが出ていない時はほとんど勝てな
いので、このクラブも監督の力量や戦術で
強くなったわけではないのですが、何故か
アルゼンチンサッカー協会の中だけ、サベ
ラ監督の手腕を高く評価してしまったような
のです。 

 自国開催の南米選手権で当時の代表監
督であるバティスタがウルグアイに敗れて
引責辞任すると、サベラが代表監督の後釜
に就きました。何度も書いていますが、エス
トゥディアンテスの場合他のアルゼンチンリ
ーグのチームにはない中盤の展開力が強
さの秘密であり、それがチームコンセプトな
ら監督の指導力の賜ですが、ベロンの個人
の力なのです。 

  

[メッシにしかパスしないアホ] 

  
 就任当初はサベラ自身も自覚があったの
か、ベロンをテクニカルアドバイザーに加え
ていましたが、結局ベロンが引退を返上し
て現役復帰したので、サベラ監督の指導力
では代表チームにエストゥディアンテスのよ
うな展開力を植えつけられませんでした。 

 その象徴が代表チームのボランチに定着
したガーゴです。パスの行方の 7割以上が
メッシだというデータが示す通り、DFライン
のビルドアップにも顔を出さないし、展開力
なんか何にもなく、本当にメッシにしかパス
しない阿呆ぶりです。ガーゴを経由した攻撃
では、強力なタレントがいる両サイドがほぼ
死んでいます。 

 そればかりか時々メッシにワンツーを要
求して、メッシのドリブルコースを塞ぎながら
前に走り込んだりしています。お前はメッシ
より足が速いんか?、突破力があるん
か?。邪魔だっちゅーの!。 

 ガーゴは所属クラブのボカでさえレギュラ
ーポジションが獲れないのに、どうしてサベ
ラが珍重しているのか不思議です。 

 ネットで見てもサベラは名監督みたいに書
かれていますが、ベロンが名選手なだけで
監督としてはトンマで間抜けです。せいぜい
褒められるところは、中心選手にやりやすく
する所だけだと思います。 

 何故トンマで間抜けか?。このオッサン
は、アルゼンチン代表チームで 5バックを
試したんです。ブラジルのように強力なタレ
ントがいる両サイドバックを活かそうというコ
ンセプトならともかく、そんな選手がいない
のに何故使いきれないほどタレントがいる
中盤の選手を減らして 5バックにするの
か?。CBを三枚にしたいだけなら 3バック
で充分です。 

 アルゼンチン代表チームの場合は対戦相
手がほとんど引いてくるので(現段階のパワ
ーバランスではブラジルも引いている)、ボ
ゼッションで攻め切る戦術が必要なので
す。実際の話、現アルゼンチン代表の右サ
イドはラベッシで、左はディ マリアです。この
二人は SBとの連携なしでバンバン突破で
きているので、SBの攻撃参加は不要で
す。 

 せいぜい考えられることはタレント不足の 
CBを補うことぐらいですが、まず SBもタレ
ント不足でとても CBの守備力を補う力量は
ないし、アルゼンチンの SBは守備的なポジ
ションだという自覚がなく、最終ラインでビル
ドアップしている最中でも勝手に上がって戻
って来ないので、SBがいても守備力アップ
にはならないのです。 

 アルゼンチンではサベラ監督を名監督だ
なんて思っている人は一人もいません。本
当は南アフリカ大会の予選時のように苦戦
して更迭された方が良かったのです。 

 
 [戦術とはチャンスメイク] 

  
 南米予選はトップ通過しましたが、それぞ
れの試合を見ると楽勝した試合がほとんど
なく、W杯本大会が思いやられます。実のと
ころバチスタの南米選手権の頃まで、メッシ
の FKはあまり入りませんでした。その後本
人が発奮して FKの練習に取り組み、翌年
の W杯南米予選の頃になると蹴るたびに
入るようになったのです。練習してすぐ結果
を出すところは本当に凄いのですが、もしも
この FKのゴールがなかったら、前回同様
南米予選で相当苦しんでいたはずです。 

 アルゼンチンが今回の南米予選で唯一大
勝したのは、イグアインがポストに入ってメ
ッシとワンツーを決めまくった試合だけで
す。サベラはこのプレイに気付かなかった
のか、以後二度と再現されず一点差の辛
勝を繰り返していました。もしもこのゴール
前のパス交換を W杯の決勝トーナメントま
で封印しているのだとしたら、サベラは大し
た名監督です。そんなことはないと思います
けれどね。 

 FWにゴール前でパス交換させる戦術を積
極に取り入れているクラブはアルゼンチン
リーグにもあり、それが今や 5大クラブ以
上だといわれているベレス サルスフィエル
ドです。先述したベロン加入後のエストゥデ
ィアンテスと、このFWの使い方が上手いベ
レスだけは安定して上位にいます。毎年優
勝するクラブが変わる中でもボカやリーベ
ル以上に優勝頻度が高く、常に優勝争いに
顔を出しているのです。 

 要するにちゃんと FWにパスを出していれ
ば勝てるのだし、それをどうやってチャンス
メイクしていくかが戦術なのです。 

 このベレスだけが採っているゴール前の
パス交換が最もハマった 2トップが、連続
得点王になったウルグアイ人のシルバと、
シルバによって才能が開花して代表にまで
駆け上がったマルティネスです。以前にお
伝えしたように、この二人で得点王争いした
シーズンはブッチギリで優勝してしまいまし
た。 

 私はシルバがどうしてウルグアイ代表に
選ばれないのか不思議でなりません。でも
ウルグアイサッカー協会というのは国を挙
げてサッカー選手を売りだそうとしているフ
シがあり、少し活躍する若手がいるとすぐに
代表に選出し、代表経験があるという触れ
込みで年俸を釣り上げて欧州のクラブに売
込むというのを常套手段にしていると聞きま
す。 

 シルバはもう 30過ぎで若くはないし、現代
表チームにはカバーニとスアレスがいるの
で使いどころがないのかもしれません。私
はスアレスは下手糞だけど身体の使い方
が巧いところや瞬間的なシュートの選択が
魅力だと思いますが、カバーニには別段見
どころを感じませんし、ウルグアイチームに
いる同じポジションのスアレスとフォルラン
に比べれば本当に魅力がなくて、実際によ
く足を引っ張っています。 

 要はこの二人が若いからシルバに出番が
ないのであって、これはウルグアイサッカー
協会の都合なのだと理解しています。 

 そのシルバですが、実は得点王になった
シーズンでも 2ゴール挙げる試合があまり
なくて、だいたい毎試合コンスタントに点を
獲っているのです。つまりそれは彼がポスト
をして味方にも点を獲らせているからで、彼
が得点王になったシーズンは二回ともチー
ムが優勝しています。 

 得点王のいるチームは優勝できないとい
われることがあるようで、アルゼンチンの場
合はだいたいその通りです。ボールが集ま
る選手を抑えれば簡単には負けないのです
から、シーズンの終盤の勝負どころになると
勝ち点が延ばせなくなるわけです。 

 自分も点を獲ってチームも勝たせるシル
バは、今南米にいる FWのなかで最も活躍
している選手です。ベレスは選手を買い集
めるクラブではなく育てて売るクラブなの
で、シルバもマルティネスも惜しみなく次々
に売って、その後は別の背の高い FWを組
み合わせてツインタワーを仕立てました。 

 このツインタワーもハマったのですが、形
ができたのがシーズン中盤で優勝争いには
届かず、来年が勝負だと思ったらこれも売
ってしまい、今は後釜がいなくて少し低迷し
ています。 

 そして、シルバとマルティネスは移籍先の
ボカで再びチームメイトになりました。しかし
名将の誉れ高く、近年優勝から遠ざかって
いるボカを再生する切り札として鳴り物入り
で就任したビアンチ監督は、実は名将でも
なんでもなくてこの二人に 2トップを組ませ
ることなく、二人とも腐らせてしまいました。 

 ボールが来ない状況にシルバは嫌気がさ
して自ら移籍を申し出、「ボカには攻撃の形
がない」との捨て台詞を残して、ボールを集
めてくれそうなラヌースに去っていきまし
た。 

 私としては、「ほらね」といった感じです。 

 一方ベロンによって強豪クラブの面目を
保ってきたエストゥディアンテスは、「周りが
動かなくて馬鹿馬鹿しい」と、ベロンも今季
限りの引退を表明しました。ほらね。 

  
アルゼンチンのサッカー事情 その3
2014.6.10

 [選手がいうことを聞くか]

 今アルゼンチンの監督で少し見どころが
あるのはヒムナシア ラプラタを率いるトログ
リオです。現役時代はアビスパ福岡にいた
のを覚えている人はあまり多くないかもしれ
ませんね。


 この人はヒムナシアにいる時だけは結構
調子が良くて、私達がアルゼンチンに来た
年も優勝争いをしていました。2部落ちして
いた昨年はチームを立て直して 1部に返り
咲き、復帰直後の今年は堂々と優勝争いを
しています。


 こうやって監督として実績を残したシーズ
ンの翌年はビッグクラブの監督に就任して
いるのですが、だいたいうまくいきません。
きっと選手が言うことを聞かないんでしょう
ね。


 今どきプレイステーションのサッカーゲー
ムでもやり込めば、小学生でもサッカーの戦
術に精通してしまうのですから、いくらアル
ゼンチンの監督がアホばかりとはいえ、そ
んなに戦術に疎いはずがありません。原 博
実氏がリーガエスパニョーラの監督につい
て「あっちの監督は乗せ上手」だと言ってい
ました。やっぱりそういうところなのでしょう
ね。サベラについてベロンは「選手にやりや
すくしてくれる」という感じで評していました
し。


 マラドーナの代表チームは、南米予選から
本大会直前までは素晴らしいチームでし
た。考えてみたらマラドーナの現役時代は
監督がマラドーナの顔色を伺っていたくらい
で、代表チームの人選でもマラドーナの意
向が反映されていたと聞きます。実のところ
監督は不要だったのでしょう。


 あの時代はアルゼンチンだけでなくて、世
界のサッカーがマラドーナを中心にして周っ
ていましたから。


 そのマラドーナが監督で、今の現役選手
達はみんなマラドーナに憧れてサッカーを続
けてきたのだから、選手達はよく言うことを
聞いていたのでしょうね。マラドーナに認め
られたら自信がつくし、褒められたらうれし
いもの。

 
 前回の W杯の時にマラドーナがわざと負
けたことについて、当時マスコミでは何も触
れませんでしたが、最近になって、実は長ら
くアルゼンチンサッカー協会を牛耳っている
グロンドーナ会長を下すためだったといわ
れはじめています。


 日本でどこまで報じられたのかはわかりま
せんが、グロンドーナはベスト 8で負けて帰
ってきたマラドーナに続投を勧めたのはとも
かくとして、アルゼンチン代表の永世監督を
用意したのです。この永世監督というのは
日本ではジャイアンツの長嶋 茂雄がそれ
で、監督になりたい時にいつでもいつまでも
やれるという権限です。そして、マラドーナは
代表監督の続投だけでなく、永世監督も袖
にしました。


 とにかくマラドーナがあの時わざと勝てな
い布陣を敷いたのは、今やアルゼンチンで
は定説です。そしてさすがはマラドーナ。勝
てない布陣でもハデに攻めて点が入らない
展開を演出し、見事に負けました。



 [アルゼンチン選手達のシュート力]

 自身が真のファンタジスタであったために
ファンタジスタ・メッシの生殺しの仕方を熟知
して、2トップの人選ひとつでゴール前にスペ
ースを与えず、またもう一人のキーマンであ
るベロンにも、中盤の布陣と人選で活躍の
機会を与えませんでした。


 ベロンのアダ名は小さな魔法使いという意
味のブルヒートで、どうして小さいと付くのか
というと、ベロンの父君も元サッカー選手で
あり、魔法使いという意味のブルホという異
名をとるほどの選手でした。なのでその父君
のサッカーを見る力は常人を遥かに超えて
いて、試合前にマラドーナの布陣を見た直
後に「これでは息子は活かされない」とコメ
ントしていました。そしてそれはその通りでし
たし、マラドーナが本大会中に布陣を見直し
て微調整することもありませんでした。


 メッシがスペースがなくて生殺しにされた
理由の一つにシュート力があます。実は本
大会中でもアルゼンチンのメディアではメッ
シとマラドーナを比較して、ゴール正面のペ
ナルティエリア直前で囲まれてスペースがな
いという、あの時のメッシが何度も置かれて
いたのとほとんど同じ状況でも、マラドーナ
だったらシュートを打っていたという指摘を
映像で何度も流していました。


 私の分析ですが、メッシのドリブルフォー
ムではナンバでシュートが打った時に体重
が乗りにくく、彼のシュート力自体は大したこ
とがないようにみえます。ゴールが多いのは
ドリブルで GKの目の前まで切り込んでいる
のと、ブラインドを利用したシュートが多いか
らです。ブラインドを狙うというのは私もメッ
シによって気づかされました。FWをやりたい
人はよく参考にしてください。


 逆にシュート力が物凄いのはテべスで、か
つてのバティステュータのようにほとんどの
シュートをナンバで蹴っています。本来テベ
スに嘱望されていたポジションにはメッシが
いるし、FWとしての適性を活かそうにもサイ
ズがないのでイグアインのポジションも奪え
ません。サベラはユベントスで何点獲ろうが
テベスを代表で使うつもりはないと公言して
います。


 しかしイグアインは少しサイズがあるだけ
でスピードも高さも大したことがなく、バティ
やクレスポみたいに凄い武器もなくて普通で
す。その証拠に今までの代表戦では、イグ
アインだから獲れたゴールはありません。


 もう一人メッシとポジションが被っているア
グエロも、素晴らしい FW適性を持っていま
す。テベスがバティならアグエロはクレスポ
で、ボレーシュートの巧さはメッシにもテベス
にもないものです。この人にもサイズがなく
て、イグアインともポジション争いをすること
ができません。


 ちなみにウェーブリフティングをやり込むと
浮き球のトラップだけでなくボレーキックも巧
くなるようで、ジョシは「ボレーはボールが浮
いているから軽くて足元にある時より楽だ」
と言っています。


 しかしこうやって考えてみると残念なのは
日韓共催の W杯です。バティとクレスポに
ポジション争いをさせて、結局どちらかを取
るような形になってしまいました。良い選手
がいるのに使えないのはもったいない話で
す。

 クレスポの武器がポストやボレーのダイレ
クトプレイにあることがわかっていたのだか
ら、少し引かせて繋ぎをやらせればバティの
負担が軽くなったことでしょう。同じ時期のオ
ランダ代表も、クライファートが少し下がって
ベルカンプの抜けた場所に入り、ファン ニス
トルローイと縦に並んだという例もありまし
た。


 あの大会はバティの不振で敗退したような
ものですが、結局クレスポの全盛期もこの
時に逃したのです。この二人にはサイズが
あったので横並びでも縦並びでもイケたの
ですが、今のテベスとアグエロだとちっちゃ
過ぎて並べられません。


 プロ選手になるには何か飛び抜けたもの
が必要であると日本でもよくいわれているの
ですが、ファンタジスタやドリブラーが好きな
日本のマスコミは、ドリブルに特徴のある選
手ばかりを取り上げています。それが一番
わかりやすいのだから仕方がないのかもし
れませんが、こうやってシュート一つとってみ
てもブラインド、ナンバ、ボレーと、自らを特
徴づける手段はあるのです。しかもそれを
全部身につけたら凄いですよね。私は身に
つけられると思いますけれど。


[誤ったチームでは負ける]

 さて、私の W杯展望アルゼンチン編は、
今回アルゼンチンは少し難しいと感じていま
す。前回の W杯は中心選手達が若過ぎた
ことも敗因で、だからこそ次回、地元の南米
開催が楽しみでもありました。しかしそれは
監督マラドーナへの期待もあり、マラドーナ
以外の監督の力量がこの程度なら、再び誤
ったチームで力を出し切れないのではない
かと心配でなりません。マラドーナもワザと
誤ったチームづくりをして敗退したので、現
実的にアルゼンチンの優勝を阻むのはコレ
なのです。


 アルゼンチンの攻撃力は当代一で、仮に
メッシを欠いてもそれほど見劣りしません。
中盤の守備はマスチェラーノが元気な今大
会までなら一応大丈夫でしょう。不安ですが
前回と変わりはありません。DFは心配です
が、アルゼンチンの場合は引いて 1点を守
り切るよりも、そこからのリアクションでカウ
ンターを決める方が取り組みやすい課題
で、そういう意味なら対策しようがあると思い
ます。


 これは監督の手腕次第です。サベラが名
監督なのか凡庸なのか。今まで以上に監督
の力量が問われる気がします。


 今南米で一番強いのはアルゼンチンかウ
ルグアイです。この 2チームが 10回戦え
ば、引き分けが 5回でアルゼンチンが 3回
勝って 2回負ける感じでしょう。もし今からで
も監督がマラドーナに交代したら、5回勝っ
て 3回引き分けるかもしれません。


 アルゼンチン対ブラジルなら、監督がサベ
ラのままでも 5回勝って 3回引き分けるぐら
いだと思います。

「ジョシ君、南米に立つ(前編)」


「AD/HDのジョシ」

  この物語は、15年前に「アルゼンチンレポート」としてお送りした、アルゼンチンの少年サッカーを体験しながらユースへと駆け上がったジョシ君の体験談を踏まえたうえで、新たな展開を見据え、筆を改めていくものです。レポートで書いた内容をなぞる部分もありますが、当時内緒にしていた部分を加えながら、新たに書き進んでいきます。
  さて、12歳、中学一年生だったジョシ君が、その年の秋にアルゼンチンに渡航した訳は、AD/HDだったからです。これは小学校の四年生の時に、お母さんが精神病院に連れていってわかりました。
  知能検査の結果は IQ 110で普通よりも少し良いくらいなのですが、これは平均値なので、実際は上が 140であっても下が 70で、これでは振れ幅が大きすぎて(特に問題なのが下の 70)、実生活で大変問題が出てくるだろうということでした。
  ただ精神科医の言うところによれば、 「AD/HDと診断される人の中には天才的な活躍をする人も珍しくなく、有名なところでは本田宗一郎、石原慎太郎、長嶋茂雄、ビートたけし等があり、その人の才能を伸ばすことさえできれば、素晴らしい人生を送れる」とのことだそうです。
  ただしこれは大学病院の児童精神科医の話であり、町医者の精神科医には「今後にはあまり期待しないで、この子なりの人生を考えてあげてください」と言われました。一般的には町医者の発言が普通です。それは本田宗一郎氏の実生活を想えば当然です。
  ともあれ私達は、普通なら成長にともなって選択することを、より早く決断しなければならなくなりました。それは、日本ではとにもかくにも受験です。
  私も附属高校からほぼエスカレーターで大学に進学した身で、やりようによっては、やはり大変に楽だったという印象がありました。私の場合は進学先がどうしても気に入らなくて米国に留学したのですが、何かしっかりした目的を持っていたら話は別でした。だからジョシの場合、中学から入れてしまおうということです。つまりその方が受験が楽だからです。


 「スポーツ少年団を辞めたわけ」

  当時ジョシはスポーツ少年団で始めたサッカーを辞めて、クラブチームに入り直して半年ほど経っていました。そもそも私が草サッカーに明け暮れていた渡米時代、やはり芝の上だと何もかも違うことを実感していたので、息子にサッカーをやらせるなら芝に限ると、私は芝のグラウンドを使っているクラブチームに目を付けていたのでした。ところが妻が仲の良いお母さんに誘われるままにスポーツ少年団に入れてしまい、いきなり梯子を外された感じでした。
  ただこの少年団はほとんど試合に勝ったことがないような弱小で、加えて威張り散らすガキ大将がいるは、団の運営はデタラメだはと、どうしようもない集団でした。結局夏の合宿にジョシを参加させなかったのに金を取られ、その会計報告を手渡された時に、コーチの飲み代が不参加者から徴収した金額より多かったのに腹を立てて辞めたのでした。
  本当はこの件は脱線なので掘り下げる必要はないのですが、何年経っても腹が立つので脱線したままにします。そもそもこの合宿、「三日間もサッカーやるのはしんどいから、誰かテニスでも教えてくれないかな」なんて言われていたんです。私はテニスなら教えられるけど、当然黙っていました。
  何故って、まず泊まる場所とサッカーのグラウンドが離れすぎていて、車で 30分くらいかかるんです。宿泊施設は知り合いだか何だかで、そもそもそこに泊まる必要があるのかという感じです。
  この少年団は冬用に全然色が違う長袖のユニフォームを勝手に注文しようとしたり(コーチはチームカラーと違うオレンジではダメだと反対、だけど半年後にオレンジで採用)、何をやっても商売に利用しようとしている感が強く、不信感がプンプンするのです。この合宿にしても、親は各自最低一泊の強制参加。どう考えて嫌だと思います。このうえコーチにペコペコして(そういうチームカラー)テニスを教えるなんて…。もういいですよね。
  辞める時も、コーチの飲み代じゃなくて別のことに使ったんですって。堂々と飲み代(つまみ代)と書いておいてそれはないでしょう。普通は、別の会計報告をしてつまみ代に回すんですけどね。


 「神奈川ベスト 4」

  まあとにかく、これで妻も納得のうえで、当初から念頭にあったクラブチームへの加入が決まったのでした。加入後すぐに言われたのが「家でもやらないと追いつけませんよ」でした。まだ小学校の 3年でそれはないだろうと思ったけれど、実はこのクラブ、神奈川県西部ではブッチギリの最強だったのです。
  後で知ったのですが、市内のスポーツ少年団からはマークされていて、市主催の公式戦には一切出場できないのです。だけど県内のあらゆる招待試合を毎週練り歩き、そのほとんどで優勝といった具合で、何だか凄いクラブでした。私が実際に見た試合でも、横浜マリノスとスコアレスドローとなって、PKで負けて神奈川で 4位になったのでした。
  スポーツ少年団ではないので、集まっている子供達は皆有志です。なかには試合をした時に大敗して、悔しくて入ってきた子もいました(この子は後に静岡に越境し、小野伸二のチームメイトになりました)。各学年の人数も 1チーム組める学年はなく、特に前出の神奈川 4位のチームなどは 6年生が 3人しかおらず、ほとんど 5年生のチームです。


 「私のサッカー経験」

  ジョシの学年も 6人ですが、ビリッ欠は当然ジョシで、飛び級で一緒に練習している 2年生に「ジョシ君サッカーはじめてどれくらいなの ?、あんなにボールばっかり追っかけて、あれじゃあ赤ちゃんのサッカーだよ」と言われてしまいました。というわけで、ジョシは家でもサッカーということになりました。
  家での練習では私も一緒にボールを蹴りました。私の学生時代はテニスに明け暮れていて、留学中もテニスコートがタダだったので、友達と朝までテニスをしていました。しかしメキシコ人のルームメイトと意気投合するうちに彼等とツルムことが多くなり、サッカーの試合になると、相手が日本人でもメキシコチームに入っていました。
  私はそもそもサッカーそのものは嫌いではなく、実をいえば、新築の母校にはキャプテン翼の連載前からサッカークラブがありました。入団したい気持ちもありましたが、クラブの主催者が有名な暴力教師だったので、敬遠していたのです。しかしせっかく敬遠していたのに 5・6年の担任がこの暴力教師になってしまい、以後体育以外でもことあるごとにサッカーをやるようになりなした。
  私は引っ込み思案なところもあって、当初のポジションは SWでした。これは実力がどうのではなくて、クラブの正 GKが幼馴染みだったので、彼の言うとうりに動いていれば良かったからです。
  当時彼から言われた言葉は、まさに目から鱗が落ちるようなことでした。まず「正面のシュートは蹴らせても良いからファーには蹴らせるな」、「ボールは無理に獲ろうとしてもかわされちゃうから邪魔するだけで良い」、「邪魔するだけで下手な奴は勝手にミスるから、そうしたら獲れば良い」、「抜き去られると困るから、内側を並んで走れ」。
  これでグラウンドを走り回るのが面白くなり、いつの間にか DH をやるようになりました。また DH の面白いこと。頑張って走っていると、守る時も攻める時も、いつもボールのそばにいられるのです。
  留学先がでも DH です。でもある時メキシコチームが一杯で日本人チームに入った時に、「Moses は走り回り過ぎる。パスカットを狙った方が楽なのに」とハーフタイムに言われたのがのですが、言われたとおりやってみると、ボールを追う奴がすぐに諦めるので敵がいつまでもドリブルしている。パスが出ないのにパスカットを狙っても仕方がないですよね…。だからすぐにやめて、いつもどおりしつこくチェイシングしました。味方は邪魔だから、「俺が追うからパスカットは他の奴がやれ」と言ったわけです。
  いやあ、あの頃は楽しかった。時期的にルームメイトが帰郷して、英語習得の恩人だった韓国人が同胞の密告で強制送還されたりして精神的に参っていたのですが、フィールドにいると余計なことを考えずに走り回れたので、素晴らしい気分転換になったのです。サッカーて楽しいなって本気で思ったし、学生時代に、いや小学校時代に、きちんとサッカーに出会っていたら人生変わっていたかもしれないと、何だか少し後悔していました。
  そういうことがあったから、ジョシが体育のキックベースで「ホームランを打ちたい」と言い出したのをキッカケに、サッカーに誘導したわけです。しかしせっかく入ったスポーツ少年団では、入団後半年経ってもインサイドキックすらまともに蹴れないのです。これは何もジョシだけの話ではなく、一年生から二年以上はやっている、サッカー経験者であるコーチの息子ですら、GKのいない無人のゴールに蹴り混むミニゲームのなんちゃって PKを外しているのですから、お話しになりません。


 「インサイドキックの秘訣」
    
  ジョシの特訓は、何よりもまずインサイドキックです。マジで、これができないと試合も何もありません。ジョシは少年団の試合で、途中交代で出たのに 5分も経たずに年下の子と交代させられたことがあったのですが、はっきり言って、パスの一本もまともに蹴れない奴を試合に出すのもどうかしています。ただ先に書いたように、2年以上やっているはずのコーチの息子も、パスに関しては大差がないのですから、ではいったい、不動のレギュラーの彼とウチのジョシの間にどれほどの差があるのか、というのも少し気になります。このチームは、他のクラブでもキャプテンをやっている態度のデカイガキ大将と、ジーコ主催のフットサルクラブに通っている年下の子以外は、リフティング 20回できる子がいないのです。
  一般的にはインサイドキックはゴルフのパターのように蹴るものだと思われているのでしょうが、私の実感としては、そういう風に蹴っても欧米の洋芝の上では遠くまで蹴れません。ちなみに芝は大まかに洋芝と高麗芝があって、日本では蔦が伸びるように繁っていく高麗芝が一般的ですが、この柴は暑さに強くても冬に枯れてしまいます。私が知っている限り国立競技場や横浜の日産スタジアムはこれだし、たぶん国内のほとんどの競技場は高麗芝です。
  昔は冬に枯れてしまうので緑に塗ったこともあったのですが、ラモスが「なんじゃこの芝は!」と怒ったのでやめたようです。競馬でも日本は高麗芝で、ジャパンカップに来た外人騎手に「競技場で使う本物の芝はどこにありますか?」と聞かれて困ったそうです。
  欧米は洋芝で、根が葉よりも密集しているので、踏むと沈み込みます。ただこの芝は冬に枯れない代わりに暑さに弱く、何も手入れしないと日本の夏には枯れてしまうのです。アメリカの庭先で、スプリングクラーが一日に何度も自動で水を撒くのはこのためです。今はどうだか知りませんが、日本のサッカー場で洋芝を植えていたのは、以前はジーコのこだわりでスタジアムを造った鹿島スタジアムだけでした。
  そういえばオランダに行っていた盧 廷潤が、ヨーロッパサッカーと日本サッカーの違いはパススピードだと言っていましたが、根本的な理由は芝にあると思います。
  それともう一つ、少年サッカーではボールの空気圧が低すぎます。単純にボールの蹴り方がおかしいからそうなっているのでしょう。アルゼンチンでは低反発のフットサル用のボールから蹴りはじめるので、蹴り方がおかしいと全く飛ばないのです。
  この空気圧が重要なのです。これはテニスも同じで、実はボールはラケットのしなりで飛ぶのではなく、潰れたボールの復元力で飛ぶのです。もちろんサッカーも同じで、ボールを潰して蹴らない限り、ちゃんとボールを蹴ったことにはなりません。
  ジョシの特訓は、こういったことから始まったのでした。


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